問い合わせ対応  クレーム対応とは(その15)

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  クレーム対応
 

3. 私か体験した素敵な事例-クレーム顧客を感動に導く

  前回のその14に続いて解説します。
 
 ここでは、私か体験した素敵な事例を紹介します。トラブルが起こったそのとき、最高の顧客満足を提供し、素晴らしいサービス精神を体現している企業がありました。最高の顧客満足を実感したカスタマーは私であり、クレーム顧客をファンにしてしまうほどのサービス精神を発揮する企業は、ハミガキなどの商品で知られるサンスターです。
 
 事の発端となったトラブルは、私の出張先で起きました。
 
 出張先のホテルで歯を磨こうとチューブから(ミガキを押し出したら、中から金属片のような平たい異物が飛び出してきました。緑色だったので、咄嵯に「これは金属の緑青だな」と思い込んでしまった。商品に書いてあったお客さま相談室へ電話(フリーダイヤル)を入れることにしました。
 
 どんな対応をするのかと思って電話をすると、最初に出た女性の声が明るく爽やかなので、ほっと一安心しました。最近は、お客さま相談室の機能を外部にアウトソーシングしている企業が少なくないので、「あっ、この会社は外注しているのかな。そうであるならば、相当優秀なスタッフを抱えているアウトソーサーだな」と直感しました。
 
 ところが、サンスターの場合はアウトソーシングではなく、自社のスタッフがきちんと対応していることが、後に判明しました。
 
 私は、昨日の顛末を詳細に説明しました。
 
 「実は、歯を磨こうとして「ミガキを押し出したら、中から金属片のような平らな異物が出てきたんですよ……」すると、女性スタッフは即答した。「大変申し訳ありません。すぐにお伺いいたします」
 
 その言葉を聞いて、私は感心しました。この会社の本社は大阪にあるので、私の事務所にすぐに来るといっても時間と労力がかかってしまう。「すぐに来てもらう必要はありません。東京のスタッフがおいでになるといっても、私は出張が多いので、ゆっくりお待ちすることも難しい。どうしても取りに見えるなら、家族に渡しておいてもいいですが、家族の話では事実は伝わりにくいので、あまり意味はないでしょう」そのように返答すると、女性スタッフは次のように応対しました。
 
 「そうですか。本来ですと、すぐにお伺いしてお話をお聞きすべきなのですが、そうしたご事情でしたら、弊社より封筒を送らせていただきますので、大変お手数ですがお手元の商品を同封してご返送願えませんでしょうか」
 
 「はい、わかりました。封筒が着き次第、送ります」これで話は一件落着しました。ところが、しばらくしてまた電話がかかってきました。
 
 「ただいま、封筒を発送いたしました。明日の午前中にはお手元に届くと思いますので、よろしくお願いいたします」翌日。私のところへ封筒が届く前に、再び電話がかかってきました。
 
 「昨日、お送りした封筒はお手元に届きましたでしょうか」その時点では未着だったので、事実をそのまま告げると、「もうすぐお届けできると思いますので、お受け取りください」と言って、電話は切れた。
 
 トラブル発生を連絡したときの見事な初期対応に感心した私は、その後のきめ細やかな配慮に対しても、好感を持ちました。時間経過を見計らって、また連絡がありました。
 
 「いかがですか、封筒はお手元に届きましたでしょうか」
 
 私は、その時点では受け取っていたので、その旨を告げると、女性スタッフは「では、大変恐縮ですが、その中に商品をお入れいただいてご返送願えますでしょうか」と、商品の返送を丁寧に依頼したのでした。
 
 「わかりました」私は指定された封筒に商品と異物を詰め込んで、ポストヘ投函しました。すると、また電話がかかってきました。「たびたびで申し訳ありませんが、商品を入れていただいた封筒は、お送りいただけましたでしょうか」投函を済ませた旨を告げると、「ありがとうざいます」と言って、手間を取らせたことを謝罪しながら、電話は切れました。
 
 翌日、「確かに、封筒を受け取らせていただきました。本当にありがとうございます。本来ですと私どもで徹底的に分析させていただくべき問題ですが、弊社の内部で分析をしますと、客観性に問題があるとご心配されるかもしれませんので、第三者機関の分析を受けたいと思います。通常ですと、原因究明までに最低1か月ほどかかるのですが、今回のケースが正確にどれくらいの期間を要するのか、現在ではわかりません」
 
 ここまでの的確でミスのない対応によって、私の中の企業イメージはかなり向上していました。ここはどのような企業理念を持つ企業で、どのような社員教育、サービス教育をしているのだろうか。外部の研究機関に分析を依頼すると言われて少し経った頃、再び連絡が入りました。「やはり、原因究明には1か月ほどお時間をいただくことになりましたので、ご了承ください」その後、何回か分析の途中経過が報告された後、いよいよ分析の最終結果が出ることになりました。
 
 「お待たせしまして大変申し訳ありませんでした。ようやく分析結果が報告されました。結論から申し上げますと、混入されていた異物は金属片ではなく木片でした。したがって緑青ではありませんので、お身体に影響を及ぼす可能性はほとんどないと思われます。では、どうして緑青のような色が付着していたのかと申しますと、これは弊社で製品を運ぶときに使用している木製のパレット片でした。木製パレットにマジックで書かれた文字か数字の一部が、製造過程のどこかで細かく破砕してしまい、その木片が何かの原因で製品に混入してしまったと考えられます」
 
 原因解明の結果を詳細に説明した女性スタッフは、続けて自社の対応策を告げました。「弊社としましては、今後、こうした事態が起こらないように、すべての木製パレットを破棄いたしました。木製パレットに替えて、新たに樹脂製パレットを導入し、事故の再発を防止したいと思っております」
 
 たった一人の顧客に起こった異物混入問題を会社全体の問題と認識して、スピーディーな再発防止策を実践する姿勢は、企業のクレーム対応として極めて優秀といえるでしょう。原因究明の結果を正確に公開して、自社の過ちを率直に認め、分析結果の報告書を「すぐにお送りさせていただきます」と確約するパフォーマンスは、ある意味で理想的なクレーム対応と評しても過言ではないでしょう。
 
 約束どおり、報告書はすぐに届けられました。内容は、電話で報告を受けたとおりでした。再び、連絡がありました。「報告書は、お手元に届きましたでしょうか。その後、お身体のほうはいかがでしょうか」「確かに受け取りました。身体は別に異常ありません」「では、お読みいただきまして、何かご不明な点やご不信な点がおありでしょうか」「いや、とくにありません。分析していただいた結果は、すべて納得できました」
 
 不明な点などあるはずがありません。すべての経緯を完璧に報告しながら着実に対応を進め、一つひとつのステップで必ず私の意思を確認したう...
 
  クレーム対応
 

3. 私か体験した素敵な事例-クレーム顧客を感動に導く

  前回のその14に続いて解説します。
 
 ここでは、私か体験した素敵な事例を紹介します。トラブルが起こったそのとき、最高の顧客満足を提供し、素晴らしいサービス精神を体現している企業がありました。最高の顧客満足を実感したカスタマーは私であり、クレーム顧客をファンにしてしまうほどのサービス精神を発揮する企業は、ハミガキなどの商品で知られるサンスターです。
 
 事の発端となったトラブルは、私の出張先で起きました。
 
 出張先のホテルで歯を磨こうとチューブから(ミガキを押し出したら、中から金属片のような平たい異物が飛び出してきました。緑色だったので、咄嵯に「これは金属の緑青だな」と思い込んでしまった。商品に書いてあったお客さま相談室へ電話(フリーダイヤル)を入れることにしました。
 
 どんな対応をするのかと思って電話をすると、最初に出た女性の声が明るく爽やかなので、ほっと一安心しました。最近は、お客さま相談室の機能を外部にアウトソーシングしている企業が少なくないので、「あっ、この会社は外注しているのかな。そうであるならば、相当優秀なスタッフを抱えているアウトソーサーだな」と直感しました。
 
 ところが、サンスターの場合はアウトソーシングではなく、自社のスタッフがきちんと対応していることが、後に判明しました。
 
 私は、昨日の顛末を詳細に説明しました。
 
 「実は、歯を磨こうとして「ミガキを押し出したら、中から金属片のような平らな異物が出てきたんですよ……」すると、女性スタッフは即答した。「大変申し訳ありません。すぐにお伺いいたします」
 
 その言葉を聞いて、私は感心しました。この会社の本社は大阪にあるので、私の事務所にすぐに来るといっても時間と労力がかかってしまう。「すぐに来てもらう必要はありません。東京のスタッフがおいでになるといっても、私は出張が多いので、ゆっくりお待ちすることも難しい。どうしても取りに見えるなら、家族に渡しておいてもいいですが、家族の話では事実は伝わりにくいので、あまり意味はないでしょう」そのように返答すると、女性スタッフは次のように応対しました。
 
 「そうですか。本来ですと、すぐにお伺いしてお話をお聞きすべきなのですが、そうしたご事情でしたら、弊社より封筒を送らせていただきますので、大変お手数ですがお手元の商品を同封してご返送願えませんでしょうか」
 
 「はい、わかりました。封筒が着き次第、送ります」これで話は一件落着しました。ところが、しばらくしてまた電話がかかってきました。
 
 「ただいま、封筒を発送いたしました。明日の午前中にはお手元に届くと思いますので、よろしくお願いいたします」翌日。私のところへ封筒が届く前に、再び電話がかかってきました。
 
 「昨日、お送りした封筒はお手元に届きましたでしょうか」その時点では未着だったので、事実をそのまま告げると、「もうすぐお届けできると思いますので、お受け取りください」と言って、電話は切れた。
 
 トラブル発生を連絡したときの見事な初期対応に感心した私は、その後のきめ細やかな配慮に対しても、好感を持ちました。時間経過を見計らって、また連絡がありました。
 
 「いかがですか、封筒はお手元に届きましたでしょうか」
 
 私は、その時点では受け取っていたので、その旨を告げると、女性スタッフは「では、大変恐縮ですが、その中に商品をお入れいただいてご返送願えますでしょうか」と、商品の返送を丁寧に依頼したのでした。
 
 「わかりました」私は指定された封筒に商品と異物を詰め込んで、ポストヘ投函しました。すると、また電話がかかってきました。「たびたびで申し訳ありませんが、商品を入れていただいた封筒は、お送りいただけましたでしょうか」投函を済ませた旨を告げると、「ありがとうざいます」と言って、手間を取らせたことを謝罪しながら、電話は切れました。
 
 翌日、「確かに、封筒を受け取らせていただきました。本当にありがとうございます。本来ですと私どもで徹底的に分析させていただくべき問題ですが、弊社の内部で分析をしますと、客観性に問題があるとご心配されるかもしれませんので、第三者機関の分析を受けたいと思います。通常ですと、原因究明までに最低1か月ほどかかるのですが、今回のケースが正確にどれくらいの期間を要するのか、現在ではわかりません」
 
 ここまでの的確でミスのない対応によって、私の中の企業イメージはかなり向上していました。ここはどのような企業理念を持つ企業で、どのような社員教育、サービス教育をしているのだろうか。外部の研究機関に分析を依頼すると言われて少し経った頃、再び連絡が入りました。「やはり、原因究明には1か月ほどお時間をいただくことになりましたので、ご了承ください」その後、何回か分析の途中経過が報告された後、いよいよ分析の最終結果が出ることになりました。
 
 「お待たせしまして大変申し訳ありませんでした。ようやく分析結果が報告されました。結論から申し上げますと、混入されていた異物は金属片ではなく木片でした。したがって緑青ではありませんので、お身体に影響を及ぼす可能性はほとんどないと思われます。では、どうして緑青のような色が付着していたのかと申しますと、これは弊社で製品を運ぶときに使用している木製のパレット片でした。木製パレットにマジックで書かれた文字か数字の一部が、製造過程のどこかで細かく破砕してしまい、その木片が何かの原因で製品に混入してしまったと考えられます」
 
 原因解明の結果を詳細に説明した女性スタッフは、続けて自社の対応策を告げました。「弊社としましては、今後、こうした事態が起こらないように、すべての木製パレットを破棄いたしました。木製パレットに替えて、新たに樹脂製パレットを導入し、事故の再発を防止したいと思っております」
 
 たった一人の顧客に起こった異物混入問題を会社全体の問題と認識して、スピーディーな再発防止策を実践する姿勢は、企業のクレーム対応として極めて優秀といえるでしょう。原因究明の結果を正確に公開して、自社の過ちを率直に認め、分析結果の報告書を「すぐにお送りさせていただきます」と確約するパフォーマンスは、ある意味で理想的なクレーム対応と評しても過言ではないでしょう。
 
 約束どおり、報告書はすぐに届けられました。内容は、電話で報告を受けたとおりでした。再び、連絡がありました。「報告書は、お手元に届きましたでしょうか。その後、お身体のほうはいかがでしょうか」「確かに受け取りました。身体は別に異常ありません」「では、お読みいただきまして、何かご不明な点やご不信な点がおありでしょうか」「いや、とくにありません。分析していただいた結果は、すべて納得できました」
 
 不明な点などあるはずがありません。すべての経緯を完璧に報告しながら着実に対応を進め、一つひとつのステップで必ず私の意思を確認したうえで、物事を進行させていく見事な業務対応に私は感心していました。「どうも、ありがとうございます。それではこれをもちまして、お客さまにご了解いただいたと理解してよろしいでしょうか」「はい、結構です」私にはそれ以上の要望は、何一つ存在しませんでした。
 
 ただ一言、「最近はこうしたメーカーの事故が少なくありませんので、今後はしっかり気をつけてください」とつけ加えておきました。異物が見つかってから原因究明、結果報告に至るすべての対応が終了すると、メーカーから製品の詰まった段ボールが一箱届きました。また電話がかかり、それまですべて一人で対応してきた女性スタッフが言いました。
 
 「お客さまは、お送りさせていただいた製品を見るのもイヤというお気持ちかもしれません。このたびのことは、本当に申し訳ありませんでしたが、よろしかったらご家族の皆様か他の方にお使いいただけますようよろしくお願い申し上げます」これが、私の体験した偽りのない事の顛末です。
 
 経過を一通り読んでいただいて、皆さんのご感想はいかがでしょうか。
 
 誰でも、このように誠意をもって、常に顧客の立場に立ったサービスマインドを発揮されれば、このメーカーとの間には「信頼関係」が構築されるに違いないのです。クレーム対応は「自社のファンを獲得するチャンス」と言われますが、私自身が、その貴重な実体験をさせていただいたことになります。この理想的ともいえるサンスターのクレーム対応を頭にしっかりインプットしながら、次章の考察と実践に進んでいきましょう。
 
 次回に続きます。
 
 【出典】武田哲男 著 クレーム対応、ここがポイント  ダイヤモンド社発行
            筆者のご承諾により、抜粋を連載
 

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この記事の著者

武田 哲男

常に顧客を中核とする課題取組みにより「業績=顧客の“継続”支持率達成!」 「顧客との良質で永いご縁の創造」に取組んできた。モノづくりとサービスの融合に注力。

常に顧客を中核とする課題取組みにより「業績=顧客の“継続”支持率達成!」 「顧客との良質で永いご縁の創造」に取組んできた。モノづくりとサービスの融合に注力。


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