技術戦略 研究テーマの多様な情報源(その38)

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 前回は、アイデアを創出する活動として隣接可能性とMECEを説明しました。良いアイデアを創出するための大きな枠組みには『発散』と『収束』を繰り返すがありますが、この2つは発散系の考え方です。もう一つの収束系考え方に、『本質の追求』があります。今回はこの『本質の追求』について解説します。
 
 

1.『収束』のイノベーションにおける意味: 思考のエネルギーを集中する対象への絞り込み

 
 発散系で創出したアイデアは、多様であり、数が多いものです。しかし、人間の頭脳は同時に数多くのものを捉え、記憶したり、さらにそこから連想することはできません。そのため、発散系の活動で創出したアイデアを、思考のエネルギーの集中の対象としての数少い重要なもの、つまり『本質』に収束させる、すなわち「本質の追求」が必要とされます。
 

2.追求すべき研究開発テーマアイデアの『本質』とは何か?:収益の多寡を規定する顧客価値

 
 研究開発テーマアイデアの『本質』とは何でしょうか?企業は製品という媒体を用いて、価値を顧客に提供し、その対価として収益を得ています。したがって、企業の研究開発テーマアイデアの『本質』は、顧客価値と定義することができると思います。
 

3.顧客価値を考える上での混乱要因: コトラーの「中核的ベネフィット」と「付随的ベネフィット」

 
 マーケティングの大家であるコトラは、顧客価値を「中核的ベネフィット」と「付随的ベネフィット」に分類しています(コトラーは『価値』ではなく『ベネフィット(便益)』という言葉を使っていますが、ここでは両者は同義と考えてください)。「中核的ベネフィット」は、ドリルという製品を例にとると『穴』です。そもそもドリルが実現・提供している価値は、穴が欲しいという顧客ニーズに対する『穴』なのです。
 
 「付随的ベネフィット」とは、ドリル言えば、寸法精度の高い穴や限られた時間内でできるだけ多くの穴をあけるということになります。しかし、研究開発テーマのアイデアにおける『本質』は、必ずしもコトラーの言う「中核的ベネフィット」、つまり『穴』だけではありません。
 
 ドリルの例で言うと、従来の製品では到底実現できない高い精度の穴を顧客が必要としていて、それがあれば顧客が大きな価値を享受でき、そしてそれを満たすことのできるアイデアであれば、それはコトラーの言う「付随的ベネフィット」であっても、そのアイデアの『本質』は、「従来の製品では到底実現できない高い精度の穴を実現できること」になります。
 
 つまり、ここで注意しなければならないのは、「中核的ベネフィット」には「中核的」という名前がついていますが、必ずしも「中核的ベネフィット」=研究開発テーマアイデアの『本質』ではないということです。
 

4.発散系で出された様々な研究開発テーマアイデアの中での『本質』のありか

 
 発散系で発想した多様なアイデアのどこに『本質』が存在しているのでしょうか?
 
(1)大きな顧客価値を生む・生みそうなアイデア
 
 まず1つ目に、発散系で発想したアイデアには、当然大きな顧客価値を生むものとそうでないものがあります。そのために、それらを峻別し、大きな顧客価値を生むアイデアを選ぶことが必要となります。
 
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 前回は、アイデアを創出する活動として隣接可能性とMECEを説明しました。良いアイデアを創出するための大きな枠組みには『発散』と『収束』を繰り返すがありますが、この2つは発散系の考え方です。もう一つの収束系考え方に、『本質の追求』があります。今回はこの『本質の追求』について解説します。
 
 

1.『収束』のイノベーションにおける意味: 思考のエネルギーを集中する対象への絞り込み

 
 発散系で創出したアイデアは、多様であり、数が多いものです。しかし、人間の頭脳は同時に数多くのものを捉え、記憶したり、さらにそこから連想することはできません。そのため、発散系の活動で創出したアイデアを、思考のエネルギーの集中の対象としての数少い重要なもの、つまり『本質』に収束させる、すなわち「本質の追求」が必要とされます。
 

2.追求すべき研究開発テーマアイデアの『本質』とは何か?:収益の多寡を規定する顧客価値

 
 研究開発テーマアイデアの『本質』とは何でしょうか?企業は製品という媒体を用いて、価値を顧客に提供し、その対価として収益を得ています。したがって、企業の研究開発テーマアイデアの『本質』は、顧客価値と定義することができると思います。
 

3.顧客価値を考える上での混乱要因: コトラーの「中核的ベネフィット」と「付随的ベネフィット」

 
 マーケティングの大家であるコトラは、顧客価値を「中核的ベネフィット」と「付随的ベネフィット」に分類しています(コトラーは『価値』ではなく『ベネフィット(便益)』という言葉を使っていますが、ここでは両者は同義と考えてください)。「中核的ベネフィット」は、ドリルという製品を例にとると『穴』です。そもそもドリルが実現・提供している価値は、穴が欲しいという顧客ニーズに対する『穴』なのです。
 
 「付随的ベネフィット」とは、ドリル言えば、寸法精度の高い穴や限られた時間内でできるだけ多くの穴をあけるということになります。しかし、研究開発テーマのアイデアにおける『本質』は、必ずしもコトラーの言う「中核的ベネフィット」、つまり『穴』だけではありません。
 
 ドリルの例で言うと、従来の製品では到底実現できない高い精度の穴を顧客が必要としていて、それがあれば顧客が大きな価値を享受でき、そしてそれを満たすことのできるアイデアであれば、それはコトラーの言う「付随的ベネフィット」であっても、そのアイデアの『本質』は、「従来の製品では到底実現できない高い精度の穴を実現できること」になります。
 
 つまり、ここで注意しなければならないのは、「中核的ベネフィット」には「中核的」という名前がついていますが、必ずしも「中核的ベネフィット」=研究開発テーマアイデアの『本質』ではないということです。
 

4.発散系で出された様々な研究開発テーマアイデアの中での『本質』のありか

 
 発散系で発想した多様なアイデアのどこに『本質』が存在しているのでしょうか?
 
(1)大きな顧客価値を生む・生みそうなアイデア
 
 まず1つ目に、発散系で発想したアイデアには、当然大きな顧客価値を生むものとそうでないものがあります。そのために、それらを峻別し、大きな顧客価値を生むアイデアを選ぶことが必要となります。
 
(2)重要なアイデアの中の『本質』を見つける
 
 発散系で発想したアイデア1つ1つも、実際には様々な要素(すなわち顧客価値)から構成されていることが多いものです。それら要素の中にも大きな顧客価値を実現する、しそうなものとそうでないものがあり、それらを見極め、『本質』のみを見極める作業が必要となります。
 
 以上のような作業を通して、発散系で創出したアイデアを数少ない『本質』に収束させる、すなわち「本質の追求」の作業が、更なるより良いアイデアを創出するために必要となってきます。
 
 

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この記事の著者

浪江 一公

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。

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