ラガード 研究テーマの多様な情報源(その9)

更新日

投稿日

 

ラガードの利用

 ラガード(英語ではlaggard:遅れる人という意味)とは、新製品が上市された後で一番最後に購入する層の呼称です。今回はラガードから情報・知識を集める活動ついて議論します。

 

1.ラガードの特徴

 ラガードは、市場で多くの顧客がその有用性を認め新製品を購入するようになっても、その流れに抗し、かたくなにその購入を拒否する層ですから、何等かの拒否理由を持っているはずです。そして拒否理由を持つ顧客ですので、中にはある種の信念や考えを持ち、それを強く主張する顧客が存在するということになります。拒否理由について、それが他のラガードと共通なものがあれば、ラガード向けの製品を企画・開発することも有望ですし、その拒否理由がマジョリティの顧客も持つようなものであれば、マジョリティの顧客にもアピールし、大きな市場を対象とすることができます。

 また信念を持つという点では、購入時期において正反対の位置を占めるイノベーターと共通しています。両者の違いは、イノベーターが新しもの好きであるのに対し、ラガードは新しもの嫌いであるという点です。したがって、ラガードの顧客にインタビューすれば、際立った意見や、その中に興味深い発見の可能性を秘めています。

 市場の大半を占めるマジョリティは、自分達のニーズについて明確な答えを持っていない可能性が高く、むしろこのラガードの方が潜在的にマジョリティを代表する意見や情報を集める目的に有用です。

2.ラガードの活用例

 東急グループのケーブルテレビ・インターネットプロバイダーに、イッツコムという会社があります。イッツコムは東京・神奈川地区の東急線沿線を中心にケーブルテレビネットワークを保有している企業ですが、そのインフラを利用して様々なインターネットに関連するサービスを提供しています。そのサービスの中に、「インターネットとことんサポート」があります。このサービスは月500円で、パソコン、メール、無線LAN、プリンターなどの設定に関し、顧客画面を共有しながらの遠隔サポートや、実際の顧客を訪問してのサポート(無料)も行っています。お年寄りや、会社や事務所でパソコンの利用経験のない主婦などにとっては、パソコン回りの設定は大変面倒なもので、これらのラガードの顧客にとっては、この面倒がPCやインターネットの妨げになっていました。

 しかし、これらのパソコン回りの設定は、ある程度のITリテラシーのあるマジョリティの顧客にとって、時間を掛ければなんとか苦労しながらもできてしまうものでしたが、実は彼ら彼女らにとってもフラストレーションの溜まる作業で...

 

ラガードの利用

 ラガード(英語ではlaggard:遅れる人という意味)とは、新製品が上市された後で一番最後に購入する層の呼称です。今回はラガードから情報・知識を集める活動ついて議論します。

 

1.ラガードの特徴

 ラガードは、市場で多くの顧客がその有用性を認め新製品を購入するようになっても、その流れに抗し、かたくなにその購入を拒否する層ですから、何等かの拒否理由を持っているはずです。そして拒否理由を持つ顧客ですので、中にはある種の信念や考えを持ち、それを強く主張する顧客が存在するということになります。拒否理由について、それが他のラガードと共通なものがあれば、ラガード向けの製品を企画・開発することも有望ですし、その拒否理由がマジョリティの顧客も持つようなものであれば、マジョリティの顧客にもアピールし、大きな市場を対象とすることができます。

 また信念を持つという点では、購入時期において正反対の位置を占めるイノベーターと共通しています。両者の違いは、イノベーターが新しもの好きであるのに対し、ラガードは新しもの嫌いであるという点です。したがって、ラガードの顧客にインタビューすれば、際立った意見や、その中に興味深い発見の可能性を秘めています。

 市場の大半を占めるマジョリティは、自分達のニーズについて明確な答えを持っていない可能性が高く、むしろこのラガードの方が潜在的にマジョリティを代表する意見や情報を集める目的に有用です。

2.ラガードの活用例

 東急グループのケーブルテレビ・インターネットプロバイダーに、イッツコムという会社があります。イッツコムは東京・神奈川地区の東急線沿線を中心にケーブルテレビネットワークを保有している企業ですが、そのインフラを利用して様々なインターネットに関連するサービスを提供しています。そのサービスの中に、「インターネットとことんサポート」があります。このサービスは月500円で、パソコン、メール、無線LAN、プリンターなどの設定に関し、顧客画面を共有しながらの遠隔サポートや、実際の顧客を訪問してのサポート(無料)も行っています。お年寄りや、会社や事務所でパソコンの利用経験のない主婦などにとっては、パソコン回りの設定は大変面倒なもので、これらのラガードの顧客にとっては、この面倒がPCやインターネットの妨げになっていました。

 しかし、これらのパソコン回りの設定は、ある程度のITリテラシーのあるマジョリティの顧客にとって、時間を掛ければなんとか苦労しながらもできてしまうものでしたが、実は彼ら彼女らにとってもフラストレーションの溜まる作業でした。

 つまり、イッツコムのパソコン等のサポートサービスは、ラガードにとっては顕在化したニーズであったわけですが、マジョリティにとっても潜在化していたニーズでした。まさにイッツコムは、このラガードの顧客で顕在化していたニーズを捉えました。筆者の想像ですが、イッツコムがこのラガードの顕在ニーズを見つけたのは、従来お客様窓口での相談に、お年寄りや主婦からの同じようなニーズを示す問合せが多かったということではないかと思います。イッツコムは、そのラガードでとらえたニーズに基づき、ラガードだけでなくマジョリティに対象を広げたサービスを展開した訳です。

   続きを読むには・・・


この記事の著者

浪江 一公

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。


「ステージゲート法」の他のキーワード解説記事

もっと見る
ステージゲート法、ゲートキーパーが判断を誤る場合も想定に入れておく必要とは

 テーマの評価に当って、プロジェクトチームメンバーの熱意を重要な評価項目としている企業が少なからずありますが、私はあまり賛成していません。  以下、ゲー...

 テーマの評価に当って、プロジェクトチームメンバーの熱意を重要な評価項目としている企業が少なからずありますが、私はあまり賛成していません。  以下、ゲー...


市場を広く捉えて革新的テーマを手に入れる

1.「お客様第一主義」症候群  現在の顧客は企業にとって大変重要です。とにかく、直近の売上を上げるための拠り所だからです。また、中には次の製品について直...

1.「お客様第一主義」症候群  現在の顧客は企業にとって大変重要です。とにかく、直近の売上を上げるための拠り所だからです。また、中には次の製品について直...


ステージゲートプロセスの活用(その1)

1.ステージゲートプロセスの目的    ステージゲートプロセスは、日本では研究開発テーマを管理する手法と理解されていますが、その理解は正しく...

1.ステージゲートプロセスの目的    ステージゲートプロセスは、日本では研究開発テーマを管理する手法と理解されていますが、その理解は正しく...


「ステージゲート法」の活用事例

もっと見る
オープンイノベーションにおけるライトハウスカスタマーの事例2件

 情報・知識を多様化するコンセプトとして、オープンイノベーションが注目されています。今回は、そのための情報発信先としてのライトハウスカスタマーについて、B...

 情報・知識を多様化するコンセプトとして、オープンイノベーションが注目されています。今回は、そのための情報発信先としてのライトハウスカスタマーについて、B...


積極的情報発信の事例

  「情報の収集のための積極的情報発信」の必要性については、りんご(情報)を収穫するのに、一つ一つのりんごをりんごの木からもぎ取るのではなく、りんごの木の...

  「情報の収集のための積極的情報発信」の必要性については、りんご(情報)を収穫するのに、一つ一つのりんごをりんごの木からもぎ取るのではなく、りんごの木の...


3Mにおける組織内の知識・情報活用の事例

 研究テーマの設定、推進にあたって、組織内の知識・情報(特に技術に関する)の活用は極めて有用ですが、それを徹底しているのがイノベーションで有名な3Mです。...

 研究テーマの設定、推進にあたって、組織内の知識・情報(特に技術に関する)の活用は極めて有用ですが、それを徹底しているのがイノベーションで有名な3Mです。...