技術戦略 研究テーマの多様な情報源(その39)

更新日

投稿日

 
技術戦略
 
良いアイデアを創出するための大きな枠組みには『発散』と『収束』を繰り返すがあります。前回は収束思考の解説をしました。今回は、また戻ってしまいますが、『発散思考』の解説をしたいと思います。
 

1.「多くの日本企業は、・・拡散的に思考するという点を特に苦手としている。」

 
 この言葉は2名は米国の大学の教授が著した「企業創造力」(アラン・G・ロビンソン/サム・スターン著、英治出版)の中に出てくるものです。この二人の著者は日本企業の創造性の研究を幅広く行い、その内の一人のサム・スターンは東工大でも教鞭をとった経験を持つ、日本を良く知った学者です。日本企業のことを良く知らない外国人が言っている、海外で見られる一般的な意見とは異なります。
 

2.本当に、日本企業は発散思考が苦手か

 
 本当に彼らが言うように、日本企業は発散思考が苦手なのでしょうか、この議論は、日本人の間でもなされてきた議論です。通常は、「そんなことはない。ウォークマンを見ろ。任天堂のファミコンは世界中で受け入れられてきた。」という意見が出され、悲観論を敢えて避け、またどうにも釈然としないながらも期待を込めて「日本人も創造的である(発散思考ができる)」という結論に至るのが常です。
 

3.やはり日本企業は発散思考が苦手

 
 私は、日本企業は上の2人の米国の学者が言っている通り、明確に「発散思考は苦手」と考えています。もちろん、ウォークマンやファミコンの他にも日本企業が発散思考で革新的な製品を世に出した例はあります。しかし、それはこれまで膨大な製品を創出してきた日本企業ですから、その中にはそのような例はあるのは当然でしょう。一方で、その数は、例えば米国の企業などに比べ遥かに少ないのは事実ではないかと思います。
 

4.日本企業の収束思考重視の歴史的な背景

 
 日本企業が発散思考を苦手としている、言い換えると発散思考の反対である。収束思考を得意としている点については、明確な歴史的な背景があるように思えます。明治維新後現在まで150年もの長い間、言い古されたことではありますが、日本企業は、欧米社会や欧米企業のキャッチアップを主要な戦略としてきました。それは今でも続いていることです。
 
 この戦略では、発散思考は必要ありません。ひたすら、欧米企業もしくはその製品の実現、後半ではそれを品質において凌駕することを、収束思考で脇目を振らずに邁進してきました。そして、直近20年ぐらいは別にして、大きな成功を挙げてきたと言えます。ですので、日本企業の現在の経営陣は、この成功体験で会社の出世階段を登ってきた人達です。またこれらの人達は、先代からも収束思考の重要性を叩き込まれてきました。ですので、極論すると、収束思考が骨肉化していると言っても言いかもしれません。そ...
 
技術戦略
 
良いアイデアを創出するための大きな枠組みには『発散』と『収束』を繰り返すがあります。前回は収束思考の解説をしました。今回は、また戻ってしまいますが、『発散思考』の解説をしたいと思います。
 

1.「多くの日本企業は、・・拡散的に思考するという点を特に苦手としている。」

 
 この言葉は2名は米国の大学の教授が著した「企業創造力」(アラン・G・ロビンソン/サム・スターン著、英治出版)の中に出てくるものです。この二人の著者は日本企業の創造性の研究を幅広く行い、その内の一人のサム・スターンは東工大でも教鞭をとった経験を持つ、日本を良く知った学者です。日本企業のことを良く知らない外国人が言っている、海外で見られる一般的な意見とは異なります。
 

2.本当に、日本企業は発散思考が苦手か

 
 本当に彼らが言うように、日本企業は発散思考が苦手なのでしょうか、この議論は、日本人の間でもなされてきた議論です。通常は、「そんなことはない。ウォークマンを見ろ。任天堂のファミコンは世界中で受け入れられてきた。」という意見が出され、悲観論を敢えて避け、またどうにも釈然としないながらも期待を込めて「日本人も創造的である(発散思考ができる)」という結論に至るのが常です。
 

3.やはり日本企業は発散思考が苦手

 
 私は、日本企業は上の2人の米国の学者が言っている通り、明確に「発散思考は苦手」と考えています。もちろん、ウォークマンやファミコンの他にも日本企業が発散思考で革新的な製品を世に出した例はあります。しかし、それはこれまで膨大な製品を創出してきた日本企業ですから、その中にはそのような例はあるのは当然でしょう。一方で、その数は、例えば米国の企業などに比べ遥かに少ないのは事実ではないかと思います。
 

4.日本企業の収束思考重視の歴史的な背景

 
 日本企業が発散思考を苦手としている、言い換えると発散思考の反対である。収束思考を得意としている点については、明確な歴史的な背景があるように思えます。明治維新後現在まで150年もの長い間、言い古されたことではありますが、日本企業は、欧米社会や欧米企業のキャッチアップを主要な戦略としてきました。それは今でも続いていることです。
 
 この戦略では、発散思考は必要ありません。ひたすら、欧米企業もしくはその製品の実現、後半ではそれを品質において凌駕することを、収束思考で脇目を振らずに邁進してきました。そして、直近20年ぐらいは別にして、大きな成功を挙げてきたと言えます。ですので、日本企業の現在の経営陣は、この成功体験で会社の出世階段を登ってきた人達です。またこれらの人達は、先代からも収束思考の重要性を叩き込まれてきました。ですので、極論すると、収束思考が骨肉化していると言っても言いかもしれません。その結果が、QCDの向上を極端に重視する経営の蔓延です。経営陣自体が、発散思考をすることができないという状況にあるように思えます。
 

5.日本企業は発散思考が不得意であると明確に認めるべし

 
 この点を曖昧にして、企業の経営に当たることは大きな問題です。なぜなら、問題を明確に認識しなければ、その解決は困難だからです。収束思考重視の考え方は組織のすみずみにまで広範に、そして深く定着してしまっていて、その払拭には大きな、そして持続的な活動が必要だからです。
 
 

   続きを読むには・・・


この記事の著者

浪江 一公

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。


「技術マネジメント総合」の他のキーワード解説記事

もっと見る
関係性の種類、包含とは 普通の組織をイノベーティブにする処方箋(その94)

   現在、KETICモデルの中の「知識・経験を関係性で整理する」を解説しています。今回も前回に引き続き、下記の「関係性の種類」の中の「(...

   現在、KETICモデルの中の「知識・経験を関係性で整理する」を解説しています。今回も前回に引き続き、下記の「関係性の種類」の中の「(...


普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その182)妄想とイノベーション創出

  ・見出しの番号は、前回からの連番です。 【目次】 国内最多のものづくりに関するセミナー掲載中! ものづくりドットコ...

  ・見出しの番号は、前回からの連番です。 【目次】 国内最多のものづくりに関するセミナー掲載中! ものづくりドットコ...


『価値づくり』の研究開発マネジメント (その10)

 その8では「範囲の経済性」を、その9では「比較優位の原理」の解説をしましたが、今回はその両者と企業がオープンイノベーションを追求する意味合いとの関係性を...

 その8では「範囲の経済性」を、その9では「比較優位の原理」の解説をしましたが、今回はその両者と企業がオープンイノベーションを追求する意味合いとの関係性を...


「技術マネジメント総合」の活用事例

もっと見る
マトリクス体制での品質保証1 プロジェクト管理の仕組み (その30)

 適切な品質管理を実施できるような仕組みを構築し、運用することが品質保証であることを前回説明しました。品質管理を正しく実施するポイントは、製品(ここではサ...

 適切な品質管理を実施できるような仕組みを構築し、運用することが品質保証であることを前回説明しました。品質管理を正しく実施するポイントは、製品(ここではサ...


仕組みの見直しに成功する組織1 プロジェクト管理の仕組み (その25)

 この連載では、仕組みの見直しをテーマに様々な考え方や事例を紹介しているわけですが、実際にコンサルタントして仕組みの見直しに取り組んだ組織の中には成功して...

 この連載では、仕組みの見直しをテーマに様々な考え方や事例を紹介しているわけですが、実際にコンサルタントして仕組みの見直しに取り組んだ組織の中には成功して...


スーパーマンではなくプロフェッショナルな技術者に(その3)

【プロフェッショナルな技術者 連載目次】 1. 製品開発現場が抱えている問題 2. プロフェッショナルによる製品開発 3. 設計組織がねらい通り...

【プロフェッショナルな技術者 連載目次】 1. 製品開発現場が抱えている問題 2. プロフェッショナルによる製品開発 3. 設計組織がねらい通り...