伸びる金型メーカーの秘訣 (その27)参入障壁

 今回、紹介する金型メーカーは、株式会社Sです。同社は、PPやナイロン系の樹脂材料を成形素材とするモールド金型を製造するメーカーです。筆者が同社をサポートすることになったきっかけは、金融機関から専門家派遣制度を活用した支援依頼があったためです。
 

1. コアコンピタンス

 支援内容としては、同社が自社を紹介するホームページを製作するにあたり、そのコンテンツとなるPRの内容について、自社だけでは相対的な特徴を洗い出すことが難しく、そのサポートです。金融機関の支援担当者と共に訪問し、代表取締役であるS氏からヒアリングを行ったところ、筆者は同社の事業について、次のような特徴を挙げました。
 
(1) 構造部・意匠面のモデリング、全てを社内設計できる体制が整っている。
(2) 新規の金型製作から納入後の修理・メンテナンスまで、全て一括で対応している。
(3) ワイヤー放電・型彫り放電、マシニング加工など、機械加工を全て内製化している。
 
 これらの特徴から見出すことのできる同社の強みは、①短納期対応と②小回りの良さです。これらを、同社の強みとして挙げたのは、モールド金型メーカーを筆者が経営診断させていただく際、本来モールド金型メーカーがコア技術とするべき業務を、ここ最近アウトソースしている傾向にあると感じたためです。例えば、次のような傾向です。
 
・金型構造設計及び、キャビとコアの製品意匠面モデリング(パーティング面・勾配面のモデリングなど)を外注で対応し、CAMデータの作成から機械加工を社内で行う。
・機械加工の終わったキャビとコアの磨き作業を外注に依頼する。
・金型の組み付けは社内で行うが、トライ作業は客先にお任せする。
 
 これらの傾向については、やはり年々短納期化する金型納期と、引き下げられる金型費への対応のためであると考えられます。また、若手技術者の強みを活かせる分野として、CAMや機械加工といったマニュアル化・標準化しやすい作業を、今後もより内製化していく傾向になるものと思われます。
 
 しかしながら、筆者のような中小企業診断士やいわゆる経営コンサルタント等は、SWOT分析などから、「強みを市場機会にぶつけ競争力の高い事業を行う」などと提案することが多いのですが、前述したように本来コア技術となるべき業務をアウトソースする金型メーカーについては、筆者も「強み」を洗い出すことに思わず悩んでしまうことも多いのです。しかしながら、筆者が拠点とするここ中部地方では、まだまだ仕事量は飽和しており、どの金型メーカーも忙しく、受注についてはキャパオーバーとなっているようです。そうしたなか、海外生産に主力を移しつつある金型メーカーも多くなってきており、今後の国内の技術・コストの競争力については、楽観視できないところもあると思われます。
 
 
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2. 競争戦略

 こうした業界事情の中、同社は同業他社との差別性を意識した戦略をとっています。いかなる事業においても、企業が競争力を維持してために最も重要なこととして、「参入障壁」をいかに高くできるかです。全くライバルが存在しない新しい事業というものは、このご時世なかなか無いでしょう。仮に、全く新たなプロダクト(商品)を開発できたとしても、インターネットなどによって情報が一瞬で行き渡るこの時代では、すぐに模倣品が現れ、コモディティ化してしまうのです。ところが、金型製造という事業は、職人技術を要するために、各社これまで一定の事業領域を保ってビジネスを行ってくることが出来ました。
 
 それが皮肉にも、CAD/CAMや工作機械の進化により、一部の職人技術が機械システムに置き換わることで、限られた人にしか扱えない技術から、ソフトや機械を操作することで、誰にでも扱える技術に裾野が広がってきたという背景があります。例えば、鏡面磨き加工です。筆者も以前、高度ポリテクセンターにて鏡面磨きの研修を受講したことがありますが、受講生10名強の中で、最終課題である#8000の磨きの完了まで到達できた者はわずか4名ほどでした。このように金型の鏡面磨きは、必要な体の動作を、一定のトレーニングにより時間をかけ段階的に習得していくものであり、やり方・方法を知識的に知ったところで、とたんに作業できるというものではなかったのです。
 
 ところが、これを工作機械の加工で置き換えるとした場合、もちろんソフトや機械の操作、工具の特性・使い方など、覚えなくてはならないことは多岐に渡りますが、人間がトレーニングをするといったものとは異なる技術の扱いになるのです。一概には、どちらが覚えやすいか、覚えにくいかを明確に分けることは難しいのですが、前述した「参入障壁」という視点でみれば、習得に時間の掛かり、個人差が生まれやすいものほど、障壁は高いと言えるでしょう。
 
 また経営学で使われる用語に「経路依存性」というものがあり、これは過去に多くのさまざまな経験によって積み重ねられた技術や経験値は、他社から見ると複雑で、簡単には真似ができないといった強みを指します。これを模倣困難性と言います。つまり金型業界で言えば、現時点の技術ではまだ機械に置き換えることができない人の技能や、多くの失敗・経験によって構築された金型ノウハウについては、同業他社に追従される可能性を低くできるということになります。
 
 同社が内製化にこだわる、金型設計、金型の溶接補修などは、そうした経路依存性の高い技術だと言えるでしょう。また、他社が製作した金型についても、補修・メンテナンスを依頼されることが多く、こうした積み重ねが同社の設計において、さらなるノウハウの積み重ねとすることができるのです。これにより、壊れない・トラブルを起こさない金型製作をより強化していくことができ、これが同社の模倣困難性をさらに高めていくことになります。今回、筆者は同社のホームページ製作をサポートするにあたり、金型を専門とするコンサルタントの目線から、中長期的な視点でこのような同社の競争力を見出すことができました。
 

3. 事業継承

 同社は、これまである程度決まった取引先から受注を請けてきましたが、今後は事業の拡大と安定化のため、金融機関と協力した販路開拓にも取り組んでいくようです。現在、中小企業に関わる支援策は、金融機関や公的機関を窓口に、多岐に渡って展開されているため、信用金庫など身近な金融機関などに適宜、課題を相談しながら、うまく活用することが経営の効率化にもつながるでしょう。同社は事業拡大に伴い、設計対応力の強化を図るため、新たな技術者の採用に合わせてCADの拡充を検討しており、その際にはSolidWorksなどを活用した設計のオール3次元化も視野に入れているのです。
 
 同社の強みである、長期間に渡り使用できる丈夫な金型を製作する設計ノウハウを、若手技術者に継承していくための仕組みづくりも今後必要になってくるでしょう。人の持つ技術を最大限に活かした自社の競争力を高め、さらなる事業拡大を目指す同社に筆者は大きな期待をしています。
 
 この文書は、『日刊工業新聞社発行 月刊「型技術」掲載』の記事を筆者により改変したものです。
  

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