汎用機械とNC機械(前編) 伸びる金型メーカーの秘訣 (その8)

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 今回、紹介する機械加工メーカーは、愛知県にあるK工業です。従業員は7名。主な事業は、産業機械設備の部品などのフライスや旋盤等、各種機械加工を行うことです。同社は機械加工全般において、汎用機械とNC機械をバランス良く使いこなしており、コスト・品質に合わせた最適なモノづくりを行っています。今回の記事を執筆するにあたり、多くの金型メーカーが抱えている、ある課題について触れてみようと思います。その課題とは、最近の若手技術者の中に汎用機械を扱える者が、従来に比べ減少していることです。こうした状況によって、金型メーカーにどのような問題が起こっているのか解説します。
 

 1. 汎用機械とNC機械を適正に使い分ける

 
 多くの金型メーカーでは、汎用機械を使わなくなったことで、製造コスト高といった問題が起こっています。従来は汎用機械で行っていた加工も、現在はNC機械による自動加工に置き換わり、多台持ち作業も容易であるため、一見すると管理上、機械稼働率は高くなりました。
 
 ところが、一点一点の金型製造コストを分析してみると、特に加工費について、従来と比較し高くなっているのです。これは従来よりも加工工数が増えたことに起因します。例えば、ちょっとした穴あけ加工においても、NC機械はプログラミングや原点出し、ツールの付け替えなどの作業が必要であり、ケガキとポンチ打ちといった準備で済む汎用加工と比べ、作業時間は多くかかる傾向にあります。
 
 本来、汎用機械とNC機械は、適材適所で使い分けるべきであり、このバランスが狂うと、次第に採算性という企業の健康状態に表れてきます。こうした背景もあり、今回はK工業の事例を題材に取り上げ、金型メーカーにおける汎用機械とNC機械、それぞれの特徴とあるべき使い方を見ていきます。
 

2. K工業のコアコンピタンス

 
 K社の強みは、汎用機械とNC機械をうまく使い分けている点であり、これを見ていくと、それぞれの加工の長所・短所が見えてきます。まず汎用機械の長所ですが、①プログラムを作らず即加工を始めることができ一つ目の加工完了までが早い、②手送りで切削加工すると負荷抵抗がわかり、ワークのチャッキングが外れないまでのギリギリの負荷がわかる、③近接性が良く異形ワークの追加工など見やすい姿勢で加工ができるなどがあり、他にも色々と考えられます。
 
 同社においても、特に②③の特徴を活かした加工が多く、付加価値のある仕事を行っている。逆に汎用機械の短所と言えば、ア)ミスの発生率が高い、イ)Rやテーパ、直線等の複合など、複雑な形状の加工が難しいといった点があります。加工者の技量によって生産性に個人差も発生します。
 
 次にNC機械の長所ですが、①高精度で再現性のある繰り返し加工ができる、②XYZそれぞれの方向を複雑に組み合わせた軌跡の加工が可能、などであり、同社は、繰り返し加工を行う仕事にNC機械を使い、さらに汎用機械との多台持ち作業も行うことで、一人あたりの生産性を高くしています。逆にNC機械の短所は、1個目の加工完了がプログラム打ち込み等を必要とする分、遅くなることや、作業安全のため汎用機械と比較すると、加工中にワークへ近寄れないため、加工負荷がわかりづらいといった点があります。
 
 生産マネジメント
 

3. 金型メーカーが抱える課題

 
 多くの金型メーカーでは、こうした汎用機械とNC機械の使い分けができなくなっている現場が多いようです。その原因は、a)NC機械のユーザビリティ向上、b)コスト至上主義などです。
 
 a)については、特に若手人材が即戦力として仕事をするにあたり、NC機械がとても使いやすくなったという背景があります。しかし、高額な機械償却も背景にあり、稼働率を優先するあまり、ますます若手は機械担当から離れることができなくなり、多能工化が進んでいない現場も多いようです。
 
 b)についても、汎用機械は加工ミスが付きものであり、オシャカと呼ばれ手直しの効かない廃却になる不具合は最も目につく損失でもあるため、いの一番に対策されます。この結果、技能や集中力に左右される汎用加工よりも、安定した自動のNC加工の方が良いという不良対策が増え、汎用加工はますます減っている状況です。
 

4. 金型メーカーの競争力への影響

 
 こうした傾向は、企業の損益にどのような影響をもたらしているのでしょうか。まず自動加工が増えると多台持ち作業が容易になり、多くの仕事量をさばくことが可能になります。これにより労務費を増やさず、売上を伸ばしていける体制がとれます。
 
 ところが、これに比例して受注を増やしていけるかというと、なかなかそうはいかないのです。なぜなら前述したように、一型ごとの製造コスト、特に加工費のコストダウンが進まなくなる場合が多く、その結果、価格競争力が低下してしまうためです。実際こういった金型メーカーが多いでしょう。
 
 そもそも仕事が早い加工者は、図面を見た後に加工方法を考える際、まず汎用加工から検討することが多いのです。そして汎用機械では出せない精度や形状がある場合に、NC機械を使おうといった順番で考えています。この手順であれば、過剰品質になることが少ないのです。ところが、NC機械から仕事を覚えた人はこうした順序で考えることができないのです。
 
 また、汎用加工で行う切削の手送りをやっていないため、ここ一番、どこまで加工負荷をかけたらワークが飛んでしまうのか、その感覚がわからないのです。NC機械でプログラミングする毎分何ミリメートルといった数値入力では、ギリギリの加工条件は、なかなか出せないものです。多くの金型メーカーでは、こうした従来とは異なる加工方法の変化によって競争力の低下が起こっています。
 

5. K工業の課題

 
 K工業の話に戻ります。同社は昨年までの現場作業は、社長とベテラン旋盤職人の二人だけで行ってきました。それ以外の対外業務は社長の母親が行っており、同社は少数精鋭の会社でした。今年になり、事業の限界を危惧し、組織化することを考えました。一気に今年4名の採用を行い現在に至っています。とこ...
 今回、紹介する機械加工メーカーは、愛知県にあるK工業です。従業員は7名。主な事業は、産業機械設備の部品などのフライスや旋盤等、各種機械加工を行うことです。同社は機械加工全般において、汎用機械とNC機械をバランス良く使いこなしており、コスト・品質に合わせた最適なモノづくりを行っています。今回の記事を執筆するにあたり、多くの金型メーカーが抱えている、ある課題について触れてみようと思います。その課題とは、最近の若手技術者の中に汎用機械を扱える者が、従来に比べ減少していることです。こうした状況によって、金型メーカーにどのような問題が起こっているのか解説します。
 

 1. 汎用機械とNC機械を適正に使い分ける

 
 多くの金型メーカーでは、汎用機械を使わなくなったことで、製造コスト高といった問題が起こっています。従来は汎用機械で行っていた加工も、現在はNC機械による自動加工に置き換わり、多台持ち作業も容易であるため、一見すると管理上、機械稼働率は高くなりました。
 
 ところが、一点一点の金型製造コストを分析してみると、特に加工費について、従来と比較し高くなっているのです。これは従来よりも加工工数が増えたことに起因します。例えば、ちょっとした穴あけ加工においても、NC機械はプログラミングや原点出し、ツールの付け替えなどの作業が必要であり、ケガキとポンチ打ちといった準備で済む汎用加工と比べ、作業時間は多くかかる傾向にあります。
 
 本来、汎用機械とNC機械は、適材適所で使い分けるべきであり、このバランスが狂うと、次第に採算性という企業の健康状態に表れてきます。こうした背景もあり、今回はK工業の事例を題材に取り上げ、金型メーカーにおける汎用機械とNC機械、それぞれの特徴とあるべき使い方を見ていきます。
 

2. K工業のコアコンピタンス

 
 K社の強みは、汎用機械とNC機械をうまく使い分けている点であり、これを見ていくと、それぞれの加工の長所・短所が見えてきます。まず汎用機械の長所ですが、①プログラムを作らず即加工を始めることができ一つ目の加工完了までが早い、②手送りで切削加工すると負荷抵抗がわかり、ワークのチャッキングが外れないまでのギリギリの負荷がわかる、③近接性が良く異形ワークの追加工など見やすい姿勢で加工ができるなどがあり、他にも色々と考えられます。
 
 同社においても、特に②③の特徴を活かした加工が多く、付加価値のある仕事を行っている。逆に汎用機械の短所と言えば、ア)ミスの発生率が高い、イ)Rやテーパ、直線等の複合など、複雑な形状の加工が難しいといった点があります。加工者の技量によって生産性に個人差も発生します。
 
 次にNC機械の長所ですが、①高精度で再現性のある繰り返し加工ができる、②XYZそれぞれの方向を複雑に組み合わせた軌跡の加工が可能、などであり、同社は、繰り返し加工を行う仕事にNC機械を使い、さらに汎用機械との多台持ち作業も行うことで、一人あたりの生産性を高くしています。逆にNC機械の短所は、1個目の加工完了がプログラム打ち込み等を必要とする分、遅くなることや、作業安全のため汎用機械と比較すると、加工中にワークへ近寄れないため、加工負荷がわかりづらいといった点があります。
 
 生産マネジメント
 

3. 金型メーカーが抱える課題

 
 多くの金型メーカーでは、こうした汎用機械とNC機械の使い分けができなくなっている現場が多いようです。その原因は、a)NC機械のユーザビリティ向上、b)コスト至上主義などです。
 
 a)については、特に若手人材が即戦力として仕事をするにあたり、NC機械がとても使いやすくなったという背景があります。しかし、高額な機械償却も背景にあり、稼働率を優先するあまり、ますます若手は機械担当から離れることができなくなり、多能工化が進んでいない現場も多いようです。
 
 b)についても、汎用機械は加工ミスが付きものであり、オシャカと呼ばれ手直しの効かない廃却になる不具合は最も目につく損失でもあるため、いの一番に対策されます。この結果、技能や集中力に左右される汎用加工よりも、安定した自動のNC加工の方が良いという不良対策が増え、汎用加工はますます減っている状況です。
 

4. 金型メーカーの競争力への影響

 
 こうした傾向は、企業の損益にどのような影響をもたらしているのでしょうか。まず自動加工が増えると多台持ち作業が容易になり、多くの仕事量をさばくことが可能になります。これにより労務費を増やさず、売上を伸ばしていける体制がとれます。
 
 ところが、これに比例して受注を増やしていけるかというと、なかなかそうはいかないのです。なぜなら前述したように、一型ごとの製造コスト、特に加工費のコストダウンが進まなくなる場合が多く、その結果、価格競争力が低下してしまうためです。実際こういった金型メーカーが多いでしょう。
 
 そもそも仕事が早い加工者は、図面を見た後に加工方法を考える際、まず汎用加工から検討することが多いのです。そして汎用機械では出せない精度や形状がある場合に、NC機械を使おうといった順番で考えています。この手順であれば、過剰品質になることが少ないのです。ところが、NC機械から仕事を覚えた人はこうした順序で考えることができないのです。
 
 また、汎用加工で行う切削の手送りをやっていないため、ここ一番、どこまで加工負荷をかけたらワークが飛んでしまうのか、その感覚がわからないのです。NC機械でプログラミングする毎分何ミリメートルといった数値入力では、ギリギリの加工条件は、なかなか出せないものです。多くの金型メーカーでは、こうした従来とは異なる加工方法の変化によって競争力の低下が起こっています。
 

5. K工業の課題

 
 K工業の話に戻ります。同社は昨年までの現場作業は、社長とベテラン旋盤職人の二人だけで行ってきました。それ以外の対外業務は社長の母親が行っており、同社は少数精鋭の会社でした。今年になり、事業の限界を危惧し、組織化することを考えました。一気に今年4名の採用を行い現在に至っています。ところが、同社に新たな課題が発生したため、金型メーカー・機械加工業専門の筆者の事務所に相談があり支援がスタートしました。
 
 その課題は、今後企業としてどう組織をまとめていくか、チーム力を発揮していくかといったことであり、その具体的なコンサル内容は、次回に詳しく紹介しますが、まず、そもそも組織とはどうあるべきかに触れてみます。
 
 まず組織とは、分業とその統制を図ることであり、企業が営む事業が大きくなってくると、その効率化を図るため、個々の機能を複数の担当に分ける必要が出てきます。例えば、経理や営業、製造、品質管理などです。ただし、その分業化された機能の統制を図らなければ、かえって不効率な事業活動になってしまい、顧客が要求する品質・納期・コストで製造・販売ができなくなるのです。
 
 同社は、そうした不効率を排除し、企業としてより大きな事業を行っていくため、人材の新規採用を図り、強い組織を作ることを考えています。その具体的な事例は次回で詳しく解説します。
 
 この文書は、『日刊工業新聞社発行 月刊「型技術」掲載』の記事を筆者により改変したものです。
   

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この記事の著者

村上 英樹

金型・部品加工業専門コンサルティングです!販路開拓・生産改善・外注費削減の3つを支援するトライアングル支援パッケージ、技術を起点とする新しい経営コンサルタント

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