「ステージゲート法」とは、イノベーションを継続的に生み出すためのマネジメント体系をわかりやすく解説
1. ステージゲート法とは
ステージゲート法とは、1980年代にカナダのロバート・クーパー教授が開発した、多くの製品や技術開発テーマを効率的に絞り込んでいく方法論です。 R&Dのテーマや商品アイデアの創出に始まり、多数創出されたアイデアを対象に、R&Dや事業化・商品化活動を複数の活動(ステージ)に分割し、次のステージに移行する前に評価を行う場(ゲート)を設けて、そこでの評価をパスしたテーマのみを次のステージに進めて、最終的に事業化・商品化に至らしめます。 これによって事業性が不明確なテーマはとにかくスタートして、ステージを進める程精緻な評価を行うことで、合理的に事業性のあるテーマを残すことが可能となります。
2. ステージゲートプロセスの目的
ステージゲートプロセスは、日本では研究開発テーマを管理する手法と理解されていますが、その理解は正しくありません。ステージゲートプロセスの目的は、イノベーションを継続して起こすためのマネジメント体系です。
3. ステージゲートプロセスとは
ステージゲートプロセスは、テーマの創出から、製品の市場投入、更にはその先までのプロセスを複数の活動、すなわち「ステージ」に分け、各ステージの間には評価の関門である「ゲート」を設け、そこでそのテーマを次のステージに進めるかどうかを評価し意思決定するというプロセスです。テーマが市場投入するには複数の「ゲート」をくぐりぬけることが求められます。
4. ステージゲートプロセスによる自由と管理
ステージゲートプロセスは、研究開発のテーマ・マネジメントにおいて、自由度と管理をバランス良く行うためのプロセスとも言えます。各ステージは研究者に日々の活動は基本的に任せておいて良い。しかし、ゲートでは、各テーマ・プロジェクトを徹底して事業の成功の視点から評価(管理)します。その評価の中で、プロジェクトの魅力度が低いと判断されたテーマは厳格に中止します。
5. ステージゲートプロセスは管理のツールではない
上記では「管理」という言葉を使いましたが、それは「自由」の対比として「管理」という言葉を敢えて使ったもので、ステージゲートプロセスは、その本来的な意味において決して管理のためのツールではありません。まさに、イノベーションを継続的に生み出すためのマネジメント体系です。ステージゲートプロセスは、イノベーション創出に向けたプロセスで、その効果は世界中の多くの企業で実証されています。
6. ゲート評価の深化、厳格さと柔軟性の両立
ステージゲートプロセスにおける「ゲート」は、単なる進捗確認の場ではありません。それは、プロジェクトの存続を決定する重要な意思決定ポイントです。各ゲートでは、事業の実現性、市場の魅力度、技術的な実現可能性、財務的な健全性といった多角的な視点から、プロジェクトが厳しく評価されます。しかし、この厳格さの裏には、プロジェクトの成功確率を最大化するという明確な目的があります。ゲートを通過したテーマは、すでに複数の関門をクリアしているため、より多くのリソースを安心して投じることができます。
この厳格な評価プロセスは、一見すると研究開発の自由を阻害するように見えるかもしれません。しかし、実際はその逆です。ゲートでの厳格な評価があるからこそ、失敗を恐れずに多様なアイデアを試すことができます。不確実性の高い初期段階では、とにかく多くのテーマを立ち上げ、その中から有望な芽を見つけることが重要です。ゲートは、その「多くのテーマ」を、次のステージへと進めるべき「厳選されたテーマ」へと絞り込むための公正なフィルタリングシステムとして機能します。
さらに、ステージゲート法は、画一的なルールを押し付けるものではありません。プロジェクトの特性や規模に応じて、ゲートの評価基準やステージの構成を柔軟に変更することができます。例えば、革新的な新技術の開発プロジェクトでは、初期のステージに多くの時間をかけ、技術的なリスクを徹底的に検証するような設計が可能です。一方で、既存製品の改良プロジェクトでは、より迅速な意思決定を可能にするために、ステージやゲートを簡素化することもできます。このような柔軟性があるからこそ、ステージゲート法は多様なイノベーション活動に対応できるのです。
7. チームと経営層の協調を促すコミュニケーションツール
ステージゲートプロセスは、単にプロジェクトを管理するだけでなく、組織内のコミュニケーションを円滑にする強力なツールとしても機能します。各ゲートでは、プロジェクトチームが経営層や関連部門(マーケティング、生産、財務など)に対して、これまでの成果や今後の計画について説明します。このプロセスを通じて、プロジェクトの目的や進捗状況が組織全体で共有され、異なる部門間の認識のズレが解消されます。
これにより、プロジェクトチームは孤立することなく、組織全体のサポートを得ながら活動を進めることができます。例えば、ゲート評価の場で、マーケティング部門から市場のニーズに関する貴重なフィードバックを得たり、生産部門から技術的な課題に関する助言を受けたりすることが可能です。このような部門横断的な協調は、イノベーションを成功させる上で不可欠な要素です。ステージゲート法は、この協調を自然に促す仕組みを提供します。
また、ゲートでの意思決定は、単に「進めるか、止めるか」という二者択一ではありません。プロジェクトの方向性を微調整したり、追加のリソースを割り当てたり、新たな課題を検討したりするなど、建設的な対話の場でもあります。この対話を通じて、プロジェクトチームと経営層は、互いの期待をすり合わせ、目標を共有することができます。これにより、プロジェクトの実行段階で生じがちな「言った、言わない」といったコミュニケーションの齟齬を未然に防ぎ、スムーズな進行を可能にします。
8. イノベーション文化を育むステージゲート法
ステージゲート法が真に目指すのは、イノベーションを単発的な成功で終わらせず、組織のDNAに組み込むことです。このプロセスを繰り返し実行することで、失敗から学び、成功のパターンを蓄積する文化が育まれます。
これは、失敗を恐れない姿勢が醸成されます。ステージゲート法は、失敗を早めに特定し、リソースの無駄遣いを最小限に抑えることを目的としています。失敗したプロジェクトは厳格に中止されますが、その過程で得られた知見やデータは、次のイノベーション活動に活かされます。この「賢い失敗」を許容する文化は、従業員が新しいアイデアを積極的に提案し、リスクを恐れずに挑戦する意欲を高めます。
次に、成功体験の共有が促されます。ゲートを通過したプロジェクトは、その成功が組織全体で認知され、称賛されます。これにより、イノベーションへのモチベーションが高まり、組織全体で「次も成功させよう」というポジティブな雰囲気が生まれます。成功の要因を分析し、ベストプラクティスとして共有することで、組織全体のイノベーション能力が底上げされます。
さらに、ステージゲート法は、透明性と公平性を確保します。評価基準が明確であるため、プロジェクトチームは、なぜ自分のテーマが次のステージに進めなかったのか、あるいはなぜ進めることができたのかを理解できます。これにより、評価プロセスへの納得感が高まり、不満や不信感が生まれにくくなります。透明性の高いプロセスは、組織の健全な競争を促し、より良いアイデアが生まれやすい環境を創造します。
結論として、ステージゲート法は単なるプロジェクト管理手法ではありません。それは、組織全体のイノベーション能力を高め、変化の激しい時代を生き抜くための羅針盤であり、組織文化そのものを変革する強力なツールなのです
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