オープンイノベーションにおけるライトハウスカスタマーの事例2件

投稿日

 情報・知識を多様化するコンセプトとして、オープンイノベーションが注目されています。今回は、そのための情報発信先としてのライトハウスカスタマーについて、B2B製品とB2C製品での2つの事例を紹介したいと思います。

1.B2B製品の事例:島津製作所の質量分析装置

 以下はノーベル化学賞を受賞した島津製作所の田中耕一さんの「生涯最高の失敗」(朝日新聞社)からの引用で、この中に質量分析装置のライトハウスカスタマーが紹介されています。

「 国内では行き詰ってしまったため、海外にまで活動範囲を広げました。そのころは、海外のほうが私たちの成果に対する評価が高かったため、欧米の研究機関から、ひきあいがいくつも寄せられました。そのなかでも、米国のシティ・オブ・ホープ研究所にひとり、単に関心を持つだけでなく、真剣に購入を検討してくださった方がいらっしゃいました。免疫学者のテリー・D・リー先生です。先生は、研究の質の高さに定評があったのは当然ですが、まだ正式に製品となっていないような装置を世界で最初に購入し、その能力を引き出す技術とセンスで有名でした。」

 島津製作所にとって、このテリー・D・リー先生が、まさにライトハウスカスタマーです。なにしろ「まだ正式に製品となっていないような装置を世界で最初に購入し、その能力を引き出す」ということまでやる顧客ですから。このテリー・D・リー先生は、普段から質量分析に関する技術や製品に関心を持ち、自らもその使い方を研究し、質量分析装置の世界中の関連企業や研究者の活動にアンテナを張って情報を集めていた筈です。
  

2.B2C製品の事例:シマノの釣り具

 以下はシマノの釣り具についての日本経済新聞(2005年7月18日)の「私の履歴書 島野喜三」からの引用です。

ライトハウスカスタマー事例「確か74年である。私は会議で堺の本社にいた。呼び出しがあり、「アメリカから妙な男たちがやって来た。釣り具のことで話があるというが、訛のある英語でよくわからない。来てほしい」と言う。小太りで髪を刈り込み、運動靴をはいた男が親玉格で、彼がルー・チルドレというバス釣りの名人だった。「バス釣り用の最高の両軸リールを作りたい。それができるのはシマノだ」
このころルアー釣りのリールでは、北欧に世界トップブランドメーカーがあり、「それに負けないものがほしい」と言う。いろんな人と話す中でシマノの名が挙がり、アメリカからわざわざ堺までやってきたようだった。アメリカには時折、こんな風に純粋に熱中...

 情報・知識を多様化するコンセプトとして、オープンイノベーションが注目されています。今回は、そのための情報発信先としてのライトハウスカスタマーについて、B2B製品とB2C製品での2つの事例を紹介したいと思います。

1.B2B製品の事例:島津製作所の質量分析装置

 以下はノーベル化学賞を受賞した島津製作所の田中耕一さんの「生涯最高の失敗」(朝日新聞社)からの引用で、この中に質量分析装置のライトハウスカスタマーが紹介されています。

「 国内では行き詰ってしまったため、海外にまで活動範囲を広げました。そのころは、海外のほうが私たちの成果に対する評価が高かったため、欧米の研究機関から、ひきあいがいくつも寄せられました。そのなかでも、米国のシティ・オブ・ホープ研究所にひとり、単に関心を持つだけでなく、真剣に購入を検討してくださった方がいらっしゃいました。免疫学者のテリー・D・リー先生です。先生は、研究の質の高さに定評があったのは当然ですが、まだ正式に製品となっていないような装置を世界で最初に購入し、その能力を引き出す技術とセンスで有名でした。」

 島津製作所にとって、このテリー・D・リー先生が、まさにライトハウスカスタマーです。なにしろ「まだ正式に製品となっていないような装置を世界で最初に購入し、その能力を引き出す」ということまでやる顧客ですから。このテリー・D・リー先生は、普段から質量分析に関する技術や製品に関心を持ち、自らもその使い方を研究し、質量分析装置の世界中の関連企業や研究者の活動にアンテナを張って情報を集めていた筈です。
  

2.B2C製品の事例:シマノの釣り具

 以下はシマノの釣り具についての日本経済新聞(2005年7月18日)の「私の履歴書 島野喜三」からの引用です。

ライトハウスカスタマー事例「確か74年である。私は会議で堺の本社にいた。呼び出しがあり、「アメリカから妙な男たちがやって来た。釣り具のことで話があるというが、訛のある英語でよくわからない。来てほしい」と言う。小太りで髪を刈り込み、運動靴をはいた男が親玉格で、彼がルー・チルドレというバス釣りの名人だった。「バス釣り用の最高の両軸リールを作りたい。それができるのはシマノだ」
このころルアー釣りのリールでは、北欧に世界トップブランドメーカーがあり、「それに負けないものがほしい」と言う。いろんな人と話す中でシマノの名が挙がり、アメリカからわざわざ堺までやってきたようだった。アメリカには時折、こんな風に純粋に熱中する人がいる。すでにバス釣り用リールでは、米国市場を狙って開発を進めていたが、彼らとは協力することにした。」

 このルー・チルドレという人物は、既に市場にある様々なリールを試したり、それらのいずれにも満足できない強いニーズを持っている顧客です。ちなみに、このルー・チルドレの協力で作られたリールは、後に大ヒットすることになりました。

 どの市場にも必ずと言って良いほど、このようなライトハウスカスタマーが存在しますので、まだ見ぬライトハウスカスタマーを対象に、自社から主体的に情報発信をすることで貴重な情報が集まってくるのです。

   続きを読むには・・・


この記事の著者

浪江 一公

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。


「ステージゲート法」の他のキーワード解説記事

もっと見る
顧客視点で製品ライフサイクルを考える、あらゆる機会に目を向け顧客価値の向上を!

1.顧客ライフサイクルの全体  顧客は自社で必要な資材や設備を購入するに当たり、様々なニーズや関連する課題を持っています。それは、購入のずっと以前から始...

1.顧客ライフサイクルの全体  顧客は自社で必要な資材や設備を購入するに当たり、様々なニーズや関連する課題を持っています。それは、購入のずっと以前から始...


ステージゲート法の課題と対応(ゲートキーパーはプロジェクトを中止する)

1.ステージゲート法を展開する上での課題  ステージゲート法は、ステージ(活動)とゲート(活動結果の評価の場と次の活動への関門)という大変シンプルな構造...

1.ステージゲート法を展開する上での課題  ステージゲート法は、ステージ(活動)とゲート(活動結果の評価の場と次の活動への関門)という大変シンプルな構造...


非重要顧客  研究テーマの多様な情報源(その7)

1.『非重要顧客』とは何か?  前回の、その6に続いて、今回は、非重要顧客についてです。営業の視点から見ると、自社製品を定常的に沢山買ってくれる顧客は『...

1.『非重要顧客』とは何か?  前回の、その6に続いて、今回は、非重要顧客についてです。営業の視点から見ると、自社製品を定常的に沢山買ってくれる顧客は『...


「ステージゲート法」の活用事例

もっと見る
積極的情報発信の事例

  「情報の収集のための積極的情報発信」の必要性については、りんご(情報)を収穫するのに、一つ一つのりんごをりんごの木からもぎ取るのではなく、りんごの木の...

  「情報の収集のための積極的情報発信」の必要性については、りんご(情報)を収穫するのに、一つ一つのりんごをりんごの木からもぎ取るのではなく、りんごの木の...


3Mにおける組織内の知識・情報活用の事例

 研究テーマの設定、推進にあたって、組織内の知識・情報(特に技術に関する)の活用は極めて有用ですが、それを徹底しているのがイノベーションで有名な3Mです。...

 研究テーマの設定、推進にあたって、組織内の知識・情報(特に技術に関する)の活用は極めて有用ですが、それを徹底しているのがイノベーションで有名な3Mです。...