前回の事例その11に続いて解説します。製品開発は完了したがどのように売れば良いのか、ベンチャ-ビジネスの相談や異業種交流の会合では特に売り方に関する方法が課題になっている場合が多いようです。この場合、開発テ-マはどのようにして捉えたのか、その実情を尋ねると、開発者は「このテ-マは面白く、興味が湧くからきっと売れるはず。何処にもない技術である」と開発技術者の立場から開発テ-マを決めている場合が多いです。
このような取り組み方では、対象にしている需要家が不明確のため、誰に売れば良いのか、その見当をつけるには大変な時間と費用が費やされねばなりません。開発テ-マの設定に当たっては需要家の活動内容を観察し、何らかの不便性を察知し、その問題解決のために開発テ-マを決定する。このとき、需要家の客層をきちっと把握しておれば、その客層に接近出来るようなル-トを選択して販売活動を行えば良いことになります。
そのような取り組み方をしていても、販売することは難しいのに、狙いとする客層が不明では一段と販路開拓の難しさが募ることになります。客層としては例えば、年齢層、性別、業種別、使用環境の差異等の分類に基づいて、きちっとした把握が不可欠です。情報収集は製品開発の入り口であるから、その入り口における取り組み方を誤れば、以降の開発活動における損失発生は増加します。自企業の実情に即した独自性のある情報収集のあり方を開発に先行して決めることが重要です。
製品開発に当たり独自性のある取り組み方が重要である。とされているが、その入り口に当たる情報収集に際して狙いとする客層への接触の方法に独自の工夫が無ければ、優れた製品開発は出来ません。日常的に情報収集活動が行われるような組織を育てていくために次のような配慮が必要です。
経営者は外部機関との接触の機会が、自企業内でもっとも多く得られる立場にあるから、そこから得られた情報を企業内で説明するように務め、従業員が開発関連の情報に対する関心を強めて行きます。更に、経営者は企業内情報への感度が鋭敏になる様に努める必要もあります。報告された中から有用な情報に対する価値判断を誤り、逃がしてしまって事業機会を逃すような事や機会損失発生させるような事が起こらない様にしなければなりません。
社内から提案されても経営者が関心を示さないため、開発の機会を逃し、他社に先行されたり、機会損失を予防する機会を失った例は多く、中には、技術者が失望して退社してしまった例も少くないです。
次に、以上に関連して、情報収集と営業の役割について、整理します。
・情報収集と営業の役割
経営者に次いで外部との接触の機会が多いのは、営業担当です。営業の役目は売上目標と情報収集であ
ることを明確にしている企業では、情報収集に基づいて開発テ-マの絞り込みを行う仕組みがあります。
担当者別に情報収集件数の目標を申告させ、営業日報に顧客との接触の中から得られた情報(顧客が困っていると考えられること、要望されたこと、観察から感じたこと、競合企業の動向、顧客動向及び業界動向等)を記載し、それを関係者に回覧し、相互啓発に役立てます。更に、経営者が重要と感じた一次情報については、再度調査するように指示します。必要に応じて開発担当の技術者が同行して問題点に関する掘り下げた調査を行い、二次情報が得られます。
調査が必要な項目は、市場での類似製品の動向や競合企業の状態、開発製品の将来性等について調査を行い、三次情報として報告します。最終的に開発テ-マに取り上げることの可否が検討されるようにします。二次情報の収集の段階で三次情報も収集されている例があるので、対象としている製品により情報収集の方法を使い分けます。この場合大切なことは、情報の分類整理のル-ルを決めておくことです。どのような切り口で情報を分類するのか、つまり、客層の設定と用途が情報の価値判断に影響します。営業員に技術的業務を経験させる事については、扱う製品により考慮が必要になります。
中間に別の企業が介在する二次下請のような場合には、納入した製品を使用する企業との接触が出来るように、中間の商社などの業者に納入品に関する情報収集のために直接担当者と接触できるように、話をつけておく必要があります。
事例:現場追跡を徹底した機械メ-カ
B社では営業員に売上高目標に加えて、月間の情報収集件数の目標値が個人別に自主申告により設定されています。納入した訪問先で機械の使用状況を尋ね、クレ-ムに至らない僅かな情報でも聞き取り、情報共有用に電子データ化して報告します。電子データは分類されて、更に詳細な調査が必要な情報、開発候補に挙がっているテ-マに類似の情報、暖めておく情報、等に分類して整理されます。日々報告される共...