『価値づくり』の研究開発マネジメント (その18)

更新日

投稿日

 
R&D
  前回のオープンイノベーションの心理学では、組織の構成員の持つオープンイノベーションに対する漠然とした不安について解説しました。しかし、組織には、そもそもオープンイノベーション導入のような大きな変化には抵抗するようにできているということがあります。今回はそのことを中心に解説します。
 

1.組織の「ホメオスタシス」(恒常性)の存在

 
 人間を含む生物などが一定の状態(体温、血圧、体液のpHやその総体としての健康状態)を保つために、その状態が変化した場合に、基に戻そうとする機能にホメオスタシスがあります。人間にとって、その状態が変化すれば死に至りますので、ホメオスタシスは生命維持にとって欠くべからざる極めて重要な機能です。

 組織にもこのホメオスタシスが存在し、組織の変化への抵抗も、このホメオスタシスから理解することができます。それまで慣れ親しんだ組織がそれが「より良い」と認識する現状を変化させようとする動きがあると、組織には本来的にそれに抵抗し、基の状態を維持しようとする自然な機能が備えられるというものです。

 言うまでもなく、本来は組織は目先のことだけでなく、その先の事を考えて、それに備えて変化をしていかなければなりません。大きな外的な環境変化などが起きつつある状況下においては、目先の狭い視野での「良い」ことと、広く長期の視野での「良い」こととは大きく異なります。
 

2.狭い目先の視野と広く長期の視野の乖離の大きさが組織の抵抗の大きさを決める

 
 健全で優秀な経営者は、当然この広い長期の視野で「良い」状態の実現を追求する訳ですが、それが現状にとっての「良い」状態との乖離が大きければ大きい程、すなわち、現状の経営を大きく変えれば変える程、必然的に組織の抵抗も大きくなります。
 

3.オープンイノベーションは現状の経営を根底から変えるもの

 
 GEのウェブサイトの中には、自社のオープンイノベーション活動の紹介ページがあり、そこには、次の記述があります。

We’re initiating a fundamental shift in the way we do business -
this is what we’ll stand for in our open collaboration efforts
and how we will operate.

 すなわち、GEはオープンイノベーションを経営における「fundamental shift」と捉えているのです。GEだけではありません。オープンイノベーションの先駆者であるP&Gは、その導入に当たり、外部パートナーとの研究開発を全体の50%にするという極めて野心的な目標を掲げました。つまり、オープンイノベーションは、これまでの経営を根底から変えるもの(fundamental shift)であるということです。また、オープンイノベーションの果実を最大化するためには、...
 
R&D
  前回のオープンイノベーションの心理学では、組織の構成員の持つオープンイノベーションに対する漠然とした不安について解説しました。しかし、組織には、そもそもオープンイノベーション導入のような大きな変化には抵抗するようにできているということがあります。今回はそのことを中心に解説します。
 

1.組織の「ホメオスタシス」(恒常性)の存在

 
 人間を含む生物などが一定の状態(体温、血圧、体液のpHやその総体としての健康状態)を保つために、その状態が変化した場合に、基に戻そうとする機能にホメオスタシスがあります。人間にとって、その状態が変化すれば死に至りますので、ホメオスタシスは生命維持にとって欠くべからざる極めて重要な機能です。

 組織にもこのホメオスタシスが存在し、組織の変化への抵抗も、このホメオスタシスから理解することができます。それまで慣れ親しんだ組織がそれが「より良い」と認識する現状を変化させようとする動きがあると、組織には本来的にそれに抵抗し、基の状態を維持しようとする自然な機能が備えられるというものです。

 言うまでもなく、本来は組織は目先のことだけでなく、その先の事を考えて、それに備えて変化をしていかなければなりません。大きな外的な環境変化などが起きつつある状況下においては、目先の狭い視野での「良い」ことと、広く長期の視野での「良い」こととは大きく異なります。
 

2.狭い目先の視野と広く長期の視野の乖離の大きさが組織の抵抗の大きさを決める

 
 健全で優秀な経営者は、当然この広い長期の視野で「良い」状態の実現を追求する訳ですが、それが現状にとっての「良い」状態との乖離が大きければ大きい程、すなわち、現状の経営を大きく変えれば変える程、必然的に組織の抵抗も大きくなります。
 

3.オープンイノベーションは現状の経営を根底から変えるもの

 
 GEのウェブサイトの中には、自社のオープンイノベーション活動の紹介ページがあり、そこには、次の記述があります。

We’re initiating a fundamental shift in the way we do business -
this is what we’ll stand for in our open collaboration efforts
and how we will operate.

 すなわち、GEはオープンイノベーションを経営における「fundamental shift」と捉えているのです。GEだけではありません。オープンイノベーションの先駆者であるP&Gは、その導入に当たり、外部パートナーとの研究開発を全体の50%にするという極めて野心的な目標を掲げました。つまり、オープンイノベーションは、これまでの経営を根底から変えるもの(fundamental shift)であるということです。また、オープンイノベーションの果実を最大化するためには、そもそもそのように捉えるべきであるということだと
思います。
 

4.オープンイノベーションは必然的に組織の抵抗を生み出す

 
 オープンイノベーションの果実を最大化すべく、それを導入しようとすれば、「必然的に」組織の生命維持機能のホメオスタシスが機能し、組織存続のために強く抵抗するものであると言えます。そのため、オープンイノベーションの導入に当たっては、経営者はこの組織の強い抵抗を所与のものとして、それに強い意志を持って対峙、対処するという覚悟を持たなければなりません。
 
 

   続きを読むには・・・


この記事の著者

浪江 一公

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。


「技術マネジメント総合」の他のキーワード解説記事

もっと見る
「期」について 普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その64)

 今回も、前回に引き続き、「思い付く」ための「知識・経験を整理するフレームワーク」の中の、知識・経験を時系列で整理する「期」ついて解説します。 ◆関...

 今回も、前回に引き続き、「思い付く」ための「知識・経験を整理するフレームワーク」の中の、知識・経験を時系列で整理する「期」ついて解説します。 ◆関...


研究開発テーマのPR 新規事業・新商品を生み出す技術戦略(その63)

◆ 研究開発ゴールを宣言する効果 1. 研究開発テーマの計画は?  ある研究開発組織の担当者から開発情報を聞く機会がありました。その時、彼は「来年...

◆ 研究開発ゴールを宣言する効果 1. 研究開発テーマの計画は?  ある研究開発組織の担当者から開発情報を聞く機会がありました。その時、彼は「来年...


クレーム率シングルppmをゼロに(4) 【快年童子の豆鉄砲】(その59)

  1.「連関図」の結論引き出し関連部分の表示 この事例の場合、熟成が完了した連関図は、データ数が91と多い上、熟成度指数が2.23(筆...

  1.「連関図」の結論引き出し関連部分の表示 この事例の場合、熟成が完了した連関図は、データ数が91と多い上、熟成度指数が2.23(筆...


「技術マネジメント総合」の活用事例

もっと見る
QFD-TRIZを活用した革新的製品開発への挑戦

♦ 限られた人員、予算で効率的にヒット製品を 1. QFD-TRIZ導入の背景  今回は創業当初から電磁バルブなどの「機器事業」と、198...

♦ 限られた人員、予算で効率的にヒット製品を 1. QFD-TRIZ導入の背景  今回は創業当初から電磁バルブなどの「機器事業」と、198...


進捗管理の精度を上げる:第3回 プロジェクト管理の仕組み (その15)

 回路図や実装図からは、端子数以外にも標準部品、後付部品、自動実装機部品などをカウントすることも可能です。図45 は、これらについて見積もり(計画)を作成...

 回路図や実装図からは、端子数以外にも標準部品、後付部品、自動実装機部品などをカウントすることも可能です。図45 は、これらについて見積もり(計画)を作成...


仕組み見直しとグローバル化(その3)

 前回のその2に続いて解説します。設計のカギを握っているリーダーの振る舞いは、開発のパフォーマンスやメンバー育成に大きな影響を及ぼします。したがって、リー...

 前回のその2に続いて解説します。設計のカギを握っているリーダーの振る舞いは、開発のパフォーマンスやメンバー育成に大きな影響を及ぼします。したがって、リー...