『価値づくり』の研究開発マネジメント (その8)

更新日

投稿日

 
ステージゲート
 
 今回から、オープンイノベーションを経済学のキーワードから「範囲の経済性」を解説します。

1.「範囲の経済性」とは

 
 「規模の経済性」は、既に一般的な用語として、日々の企業活動の中で良く使われる言葉ですが、今回議論する「範囲の経済性」はあまり聞いたことがないかもしれません。「範囲の経済性」は「規模の経済性」とは類似した概念ですが、もちろん「規模」ではなく「範囲」という名称がついているのですから、相違点もあります。「規模の経済性」は、『同じもの』を数多く生産・供給することで、生産・供給する製品一個当たりの費用を低減しようとするものです。
 
 例えば、ある製品を作るのに百万円の金型が必要とすると、1個しか作らないのであれば、その製品1個に百万円の金型の費用が掛かってしまいますが、百個作れば一個当たりの金型費用は1万円で済むというものです。「範囲の経済性」では、自社にある「技術、知識や能力」を使って、『異なるもの』を数多く生産・供給することで、生産・供給する製品一個当たりの費用を低減しようとするものです。例えば、ある技術を開発するのに百万円掛ったとすると、その技術を使って、A製品を1個しかつくらないのであれば、そのA製品1個に百万円の開発費が掛りますが、B製品、C製品、D製品と合計4個生産することにも使うのであれば、1個当たりの開発費は4分の1の25万円で済みます。

2.「範囲の経済性」から見たオープンイノベーションの経済性

 
 オープイノベーションで相手方に提供する技術、知識や能力を創出・構築するには、すべての場合に何等かの費用が発生しています。そのような自社内で創出・構築に費用を掛けた「技術、知識や能力」を、自社だけ(上の例で言えばA製品)でなく、他社のB製品、C製品、D製品に利用すれば、そこには「範囲の経済性」が生まれます。
 
 自社(供給側)は、既にその「技術、知識や能力」を保有していますので、基本的に追加費用ゼロで他社に供給することができます(現実にはその他の部分で「取引コスト」等で費用は発生しますが)。したがって、その供給価格(需要側にとっては費用)は、そこに供給側が利益を載せても、需要側は自社でゼロからその「技術、知識や能力」を創出・構築するより低い費用で調達できる可能性が高まります。
 
 このように、供給側(...
 
ステージゲート
 
 今回から、オープンイノベーションを経済学のキーワードから「範囲の経済性」を解説します。

1.「範囲の経済性」とは

 
 「規模の経済性」は、既に一般的な用語として、日々の企業活動の中で良く使われる言葉ですが、今回議論する「範囲の経済性」はあまり聞いたことがないかもしれません。「範囲の経済性」は「規模の経済性」とは類似した概念ですが、もちろん「規模」ではなく「範囲」という名称がついているのですから、相違点もあります。「規模の経済性」は、『同じもの』を数多く生産・供給することで、生産・供給する製品一個当たりの費用を低減しようとするものです。
 
 例えば、ある製品を作るのに百万円の金型が必要とすると、1個しか作らないのであれば、その製品1個に百万円の金型の費用が掛かってしまいますが、百個作れば一個当たりの金型費用は1万円で済むというものです。「範囲の経済性」では、自社にある「技術、知識や能力」を使って、『異なるもの』を数多く生産・供給することで、生産・供給する製品一個当たりの費用を低減しようとするものです。例えば、ある技術を開発するのに百万円掛ったとすると、その技術を使って、A製品を1個しかつくらないのであれば、そのA製品1個に百万円の開発費が掛りますが、B製品、C製品、D製品と合計4個生産することにも使うのであれば、1個当たりの開発費は4分の1の25万円で済みます。

2.「範囲の経済性」から見たオープンイノベーションの経済性

 
 オープイノベーションで相手方に提供する技術、知識や能力を創出・構築するには、すべての場合に何等かの費用が発生しています。そのような自社内で創出・構築に費用を掛けた「技術、知識や能力」を、自社だけ(上の例で言えばA製品)でなく、他社のB製品、C製品、D製品に利用すれば、そこには「範囲の経済性」が生まれます。
 
 自社(供給側)は、既にその「技術、知識や能力」を保有していますので、基本的に追加費用ゼロで他社に供給することができます(現実にはその他の部分で「取引コスト」等で費用は発生しますが)。したがって、その供給価格(需要側にとっては費用)は、そこに供給側が利益を載せても、需要側は自社でゼロからその「技術、知識や能力」を創出・構築するより低い費用で調達できる可能性が高まります。
 
 このように、供給側(自社)にとっても需要側(他社)にとってもメリットのある、いわゆるWin-Winの関係を実現できるのがオープンイノベーションと言うことができます。それとは異なり、オープンイノベーションを、供給者、需要者という関係で捉えるのではなく、2つの企業がそれぞれの強みを出し合うと見れば、それによりそれまで実現できなかった製品やサービスを実現することで、両者は費用を掛けることなく、追加的な収益を生み出すことができるという言い方もできます。
 
 

   続きを読むには・・・


この記事の著者

浪江 一公

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。


「技術マネジメント総合」の他のキーワード解説記事

もっと見る
実践!技術マネジメント:7つのプロセスと35のチェックポイント

 技術開発マネジメントの手法で、筆者が実践してきた主なものをチャート化すると図1のようになり、マーケティング戦略、発想法(TRIZ)、意思決定法(KT法、...

 技術開発マネジメントの手法で、筆者が実践してきた主なものをチャート化すると図1のようになり、マーケティング戦略、発想法(TRIZ)、意思決定法(KT法、...


政治の統治機構 普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その38)

        この連載では、将来の市場環境に大きく影響を与えるPESTEL(Political:政治、Ec...

        この連載では、将来の市場環境に大きく影響を与えるPESTEL(Political:政治、Ec...


技術文書の品質管理(その6)技術文書の最小単位、文の品質管理

  今回は、技術文書の最小単位である文と、その品質管理について解説します。文の品質管理は技術文書の品質管理に含まれます。しかし、文の品質管...

  今回は、技術文書の最小単位である文と、その品質管理について解説します。文の品質管理は技術文書の品質管理に含まれます。しかし、文の品質管...


「技術マネジメント総合」の活用事例

もっと見る
システム設計1 プロジェクト管理の仕組み (その33)

 コンサルタントとして多くの開発現場に入ると、普段使っている単語、もしくは意味しているものが開発現場によって想像以上に違うことを実感します。たとえば、「レ...

 コンサルタントとして多くの開発現場に入ると、普段使っている単語、もしくは意味しているものが開発現場によって想像以上に違うことを実感します。たとえば、「レ...


進捗の見える化:第1回 プロジェクト管理の仕組み (その10)

 この数回はプロジェクト管理の仕組みについて解説していますが、表面的な仕組みではなく、本質的な課題に対応したより進化・深化した仕組みにするための考え方を解...

 この数回はプロジェクト管理の仕組みについて解説していますが、表面的な仕組みではなく、本質的な課題に対応したより進化・深化した仕組みにするための考え方を解...


‐産学交流からの開発テ-マと市場の観察‐  製品・技術開発力強化策の事例(その7)

 前回の事例その6に続いて解説します。産学交流による開発テ-マの探索や共同開発に関心が寄せられています。 大学には基礎研究の面で優れた開発テ-マの候補にな...

 前回の事例その6に続いて解説します。産学交流による開発テ-マの探索や共同開発に関心が寄せられています。 大学には基礎研究の面で優れた開発テ-マの候補にな...