『価値づくり』の研究開発マネジメント (その19)

更新日

投稿日

 
イノベーション
 
  研究開発担当者のオープンイノベーションへの抵抗の要因として、前回のその18で解説した「組織のホメオスタシス」の他にも、自分の専門外の活動への抵抗があります。今回はこのテーマを解説します。
 

1. 必要性を理解しても抵抗する

 
 仮に研究者がオープンイノベーションの必要性を認識しても、これまでの自分の得意としてきた専門領域や、関心の対象の外での新たな知識の習得が必要とされる活動という認識により、『オープンイノベーションの導入に抵抗』するということがあります。特に研究者の場合、自分の専門領域で実績を挙げることが個人的な目標でもあり、モチベーションの源泉となっています。専門外の領域や、技術開発以外の活動には関心は低く、その結果その抵抗は声高な積極的な抵抗ではないものの、研究者が主体的に取り組まないという静かな抵抗の形をとります。オープンイノベーションを推進する側からすると、積極的な抵抗ではないために、むしろ問題はより厄介かもしれません。
 
 オープンイノベーション推進の活動に対して社員による面従腹背が発生し、その結果その活動は暖簾に腕押し状態に陥る可能性があります。積極的な強い抵抗は、オープンイノベーションの推進側にとって抵抗は明確に認識できますし、場合によっては推進側も抵抗排除に向けて強く出るということもあるでしょう。しかしこのような静かな抵抗においては、推進側がオープンイノベーションの必要性を理解してくれていると思っていても、オープンイノベーションが遅々として進まないという状況になります。
 

2. 研究開発担当者のミッションの再定義

 
 この問題の対処として、会社側はオープンイノベーション推進を強く掲げるだけでなく、この方針を研究者個人のミッションにまで反映させるということが重要です。まさに研究者のミッションを『価値づくり』、すなわち顧客にとっての大きな価値を実現することとすることとする必要があります。
 
 研究者にとって、自分の専門分野を究めるということを一つの重要な目的とすることは決して悪いことではありませんが、その上位に来る究極の目的、自分の存在価値は、あくまで『価値づくり』であり、仮に『価値づくり』と『自分の専門分野を究める』という目的が相反する場合には、より上位の『価値づくり』を優先するという考え方です。その上で、研究者一人一人、オープンイノベーションを『価値づくり』実現の重要な構成要素として位置付けてもらうことが必要となります。
 

3. 経営陣によるオープンイノベーションの必要性の認識

 
 オープンイノベーションを個人のミッションにまで反映させる訳ですから、企業側もオープンイノ...
 
イノベーション
 
  研究開発担当者のオープンイノベーションへの抵抗の要因として、前回のその18で解説した「組織のホメオスタシス」の他にも、自分の専門外の活動への抵抗があります。今回はこのテーマを解説します。
 

1. 必要性を理解しても抵抗する

 
 仮に研究者がオープンイノベーションの必要性を認識しても、これまでの自分の得意としてきた専門領域や、関心の対象の外での新たな知識の習得が必要とされる活動という認識により、『オープンイノベーションの導入に抵抗』するということがあります。特に研究者の場合、自分の専門領域で実績を挙げることが個人的な目標でもあり、モチベーションの源泉となっています。専門外の領域や、技術開発以外の活動には関心は低く、その結果その抵抗は声高な積極的な抵抗ではないものの、研究者が主体的に取り組まないという静かな抵抗の形をとります。オープンイノベーションを推進する側からすると、積極的な抵抗ではないために、むしろ問題はより厄介かもしれません。
 
 オープンイノベーション推進の活動に対して社員による面従腹背が発生し、その結果その活動は暖簾に腕押し状態に陥る可能性があります。積極的な強い抵抗は、オープンイノベーションの推進側にとって抵抗は明確に認識できますし、場合によっては推進側も抵抗排除に向けて強く出るということもあるでしょう。しかしこのような静かな抵抗においては、推進側がオープンイノベーションの必要性を理解してくれていると思っていても、オープンイノベーションが遅々として進まないという状況になります。
 

2. 研究開発担当者のミッションの再定義

 
 この問題の対処として、会社側はオープンイノベーション推進を強く掲げるだけでなく、この方針を研究者個人のミッションにまで反映させるということが重要です。まさに研究者のミッションを『価値づくり』、すなわち顧客にとっての大きな価値を実現することとすることとする必要があります。
 
 研究者にとって、自分の専門分野を究めるということを一つの重要な目的とすることは決して悪いことではありませんが、その上位に来る究極の目的、自分の存在価値は、あくまで『価値づくり』であり、仮に『価値づくり』と『自分の専門分野を究める』という目的が相反する場合には、より上位の『価値づくり』を優先するという考え方です。その上で、研究者一人一人、オープンイノベーションを『価値づくり』実現の重要な構成要素として位置付けてもらうことが必要となります。
 

3. 経営陣によるオープンイノベーションの必要性の認識

 
 オープンイノベーションを個人のミッションにまで反映させる訳ですから、企業側もオープンイノベーションを単なる経営の一手段と位置付けるだけでは不十分です。経営陣もオープンイノベーションは今後の企業の存続のため、すなわち『価値づくり』を継続的に実現するために不可欠で本質的な活動であることを認識しなければなりません。加えて、この連載でもオープンイノベーションの経済学という言葉を使って説明してきたように、そもそもオープンイノベーションは企業にとって極めて有効な活動でもありますので、企業にとって本来的に進むべき道である点も同様に理解しなければなりません。
 
 

   続きを読むには・・・


この記事の著者

浪江 一公

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。


「技術マネジメント総合」の他のキーワード解説記事

もっと見る
設計部門の課題と原因分析 【連載記事紹介】おすすめセミナーのご紹介

       設計部門の課題と原因分析の連載記事が無料でお読みいただけます!   ◆設計部門の...

       設計部門の課題と原因分析の連載記事が無料でお読みいただけます!   ◆設計部門の...


目的達成と自分の成長 普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その82)

 現在エドワード・デシの4段階理論に基づき、外発的動機付けから内発的動機付けを誘引する4つの段階を解説しています。 ◆関連解説記事『技術マネジメント...

 現在エドワード・デシの4段階理論に基づき、外発的動機付けから内発的動機付けを誘引する4つの段階を解説しています。 ◆関連解説記事『技術マネジメント...


GainとPainのリスト化 普通の組織をイノベーティブにする処方箋(その85)

 これまで、エドワード・デシの外発的動機付けから内発的動機付けを誘引する4段階理論について解説を続けています。過去2回では、その中で第3段階を実現する...

 これまで、エドワード・デシの外発的動機付けから内発的動機付けを誘引する4段階理論について解説を続けています。過去2回では、その中で第3段階を実現する...


「技術マネジメント総合」の活用事例

もっと見る
ソフトウェア開発の成果物による進捗管理 プロジェクト管理の仕組み (その16)

 前回は、計画時の見積もり精度を上げるための基準モデルと、進捗を見える化するための基本ツールである基本メトリクスセットのひとつ、作業成果物メトリクスについ...

 前回は、計画時の見積もり精度を上げるための基準モデルと、進捗を見える化するための基本ツールである基本メトリクスセットのひとつ、作業成果物メトリクスについ...


設計部門の仕組み構築(その1)

【設計部門の仕組み構築 連載目次】 1. 設計部門の仕組み構築 2. 設計部門の仕組み構築(解決すべき根本原因) 3. 設計部門の仕組み構築(具...

【設計部門の仕組み構築 連載目次】 1. 設計部門の仕組み構築 2. 設計部門の仕組み構築(解決すべき根本原因) 3. 設計部門の仕組み構築(具...


追求するのは擦り合わせ能力を活かすマネジメント(その2)

 前回のその1に続いて解説します。それでは、まず「調整」の仕組みについて考えたいと思います。最初に質問です。調整の仕組みが欠如した製品開発はどのような状態...

 前回のその1に続いて解説します。それでは、まず「調整」の仕組みについて考えたいと思います。最初に質問です。調整の仕組みが欠如した製品開発はどのような状態...