『坂の上の雲』に学ぶ先人の知恵(その2)

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 『坂の上の雲』は司馬遼太郎が残した多くの作品の中で、最もビジネス関係者が愛読しているものの一つでしょう。これには企業がビジネスと言う戦場で勝利をおさめる為のヒントが豊富に隠されています。『坂の上の雲』に学ぶマネジメント、今回は、先人の知恵、定石と応用 (その2)です。
 

2. 既成概念を疑う

 
 既成概念は思い込みと言いかえてもいいでしょう。思い込みがあることは、間違った前提条件をもっていることになる。企業の寿命はかつて30年と言われ、いまでは25年とか20年とも言われるようになっています。今、バンバン売れているとこれから先もきっとこの調子がつづくと錯覚するのです。
 
 日露戦争初期の旅順攻撃も10年前の日清戦争のときには1日で終わったから、今度もそんなものだろうとの既成概念があったのです。ところが日清戦争のときは要塞も何もないところで、今回とはまるで違うのでした。今回は要塞になっているし、日本があちこち攻めたから、ロシア軍のコンドラチェンコ少将は二〇三高地が弱点だとすぐわかり補強していました。日清戦争のときからの思い込みがあったのです。日清戦争のとき1日で通過したから今回もせいぜい3日か1週間あれば大丈夫でしょうと、現地の参謀たちがみな、たかをくくっていたことが『坂の上の雲』に記されています。
 
 既成概念を疑うには、どうすればよいでしょうか。既成概念や思い込みをくつがえすことはなかなか難しいことです。まず、渦中にいると本人には見えないので、そこには第三者の存在がカギとなります。さらに、歴史に学ぶことで、つまり企業の寿命年とおなじで、そろそろ変わってもおかしくないかと発想することです。プロジェクトであれば、第三者とは本人から離れている人です。組織ではまったく別の会社の友人など、違うところに率直な話のできる人がいるのは非常によいことです。『坂の上の雲』では、現場にいるとよくわからないことの例として、二〇三高地を落としたときのことで、攻城砲(要塞を攻める大口径の大砲)をそんな後ろに置いて撃つバカがいるか、と児玉源太郎は第三者的発想ですぐ近くに移動させました。現場の渦中にいる乃木大将、伊地知参謀はわからないのです。歴史からは、エッセンスを学ぶことです。エッセンスは見かけとは別物で、歴史が変わるところを学ばないといけないでしょう。それもうねりのような大きな歴史の流れに学ぶことです。
 

3. やり方を一新する

人的資源マネジメント
 いままでの延長上では飛躍的な成果は望めません。『坂の上の雲』で描かれているエピソードで、従来の延長線上でないのは、艦隊の艦砲射撃のやり方を組織的運営にしたことです。つまり従来のやり方から一新したのです。ロシア艦隊は従来のままだったようです。戦艦に砲塔が10基あるとすると10基が全部ばらばらに撃つ、これが従来のやり方でした。それを変更したのです。仮に10基の砲塔があると、まず1基だけが試射する。試射した結果から、距離や角度を修正する。その修正情報を他の砲塔に伝えるという新しいやり方にしたのです。いままでの方法を変えられたのは、既成概念を捨てたからです。
 
 ロシアの旅順艦隊を全滅させたので、日本艦隊とバルチック艦隊の戦力比は1対1にはなったが、東郷に与えられた使命は、相手を全滅させることです。なぜなら、敵艦船を1隻でも撃ち漏らすと大陸との海上補給路を脅かされ、大陸で消耗しつつある陸軍部隊が重大な危機にさらされるからです。おまけに東郷は明治天皇の前で必ずバルチック艦隊を撃滅いたしますと約束していました。そうすると、並の戦い方では到底ダメだということが頭に浮かぶ。目標が高すぎると考えるよりも、やり方を一新しなければという考え方に変わったのでしょう。
 
 艦隊の戦力は1対1とほぼ同等でありながら相手を撃滅させるのです。そのために砲の訓練を徹底的にやるのです。しかし、「それだけではダメだ、やり方を一新しないと」、に発想を変...
 『坂の上の雲』は司馬遼太郎が残した多くの作品の中で、最もビジネス関係者が愛読しているものの一つでしょう。これには企業がビジネスと言う戦場で勝利をおさめる為のヒントが豊富に隠されています。『坂の上の雲』に学ぶマネジメント、今回は、先人の知恵、定石と応用 (その2)です。
 

2. 既成概念を疑う

 
 既成概念は思い込みと言いかえてもいいでしょう。思い込みがあることは、間違った前提条件をもっていることになる。企業の寿命はかつて30年と言われ、いまでは25年とか20年とも言われるようになっています。今、バンバン売れているとこれから先もきっとこの調子がつづくと錯覚するのです。
 
 日露戦争初期の旅順攻撃も10年前の日清戦争のときには1日で終わったから、今度もそんなものだろうとの既成概念があったのです。ところが日清戦争のときは要塞も何もないところで、今回とはまるで違うのでした。今回は要塞になっているし、日本があちこち攻めたから、ロシア軍のコンドラチェンコ少将は二〇三高地が弱点だとすぐわかり補強していました。日清戦争のときからの思い込みがあったのです。日清戦争のとき1日で通過したから今回もせいぜい3日か1週間あれば大丈夫でしょうと、現地の参謀たちがみな、たかをくくっていたことが『坂の上の雲』に記されています。
 
 既成概念を疑うには、どうすればよいでしょうか。既成概念や思い込みをくつがえすことはなかなか難しいことです。まず、渦中にいると本人には見えないので、そこには第三者の存在がカギとなります。さらに、歴史に学ぶことで、つまり企業の寿命年とおなじで、そろそろ変わってもおかしくないかと発想することです。プロジェクトであれば、第三者とは本人から離れている人です。組織ではまったく別の会社の友人など、違うところに率直な話のできる人がいるのは非常によいことです。『坂の上の雲』では、現場にいるとよくわからないことの例として、二〇三高地を落としたときのことで、攻城砲(要塞を攻める大口径の大砲)をそんな後ろに置いて撃つバカがいるか、と児玉源太郎は第三者的発想ですぐ近くに移動させました。現場の渦中にいる乃木大将、伊地知参謀はわからないのです。歴史からは、エッセンスを学ぶことです。エッセンスは見かけとは別物で、歴史が変わるところを学ばないといけないでしょう。それもうねりのような大きな歴史の流れに学ぶことです。
 

3. やり方を一新する

人的資源マネジメント
 いままでの延長上では飛躍的な成果は望めません。『坂の上の雲』で描かれているエピソードで、従来の延長線上でないのは、艦隊の艦砲射撃のやり方を組織的運営にしたことです。つまり従来のやり方から一新したのです。ロシア艦隊は従来のままだったようです。戦艦に砲塔が10基あるとすると10基が全部ばらばらに撃つ、これが従来のやり方でした。それを変更したのです。仮に10基の砲塔があると、まず1基だけが試射する。試射した結果から、距離や角度を修正する。その修正情報を他の砲塔に伝えるという新しいやり方にしたのです。いままでの方法を変えられたのは、既成概念を捨てたからです。
 
 ロシアの旅順艦隊を全滅させたので、日本艦隊とバルチック艦隊の戦力比は1対1にはなったが、東郷に与えられた使命は、相手を全滅させることです。なぜなら、敵艦船を1隻でも撃ち漏らすと大陸との海上補給路を脅かされ、大陸で消耗しつつある陸軍部隊が重大な危機にさらされるからです。おまけに東郷は明治天皇の前で必ずバルチック艦隊を撃滅いたしますと約束していました。そうすると、並の戦い方では到底ダメだということが頭に浮かぶ。目標が高すぎると考えるよりも、やり方を一新しなければという考え方に変わったのでしょう。
 
 艦隊の戦力は1対1とほぼ同等でありながら相手を撃滅させるのです。そのために砲の訓練を徹底的にやるのです。しかし、「それだけではダメだ、やり方を一新しないと」、に発想を変えました。そこから出てきたのは、画期的な成功を想定することの発想です。やり方を一新するのは、単に一新しようということではなく、何かのインセンティブ(刺激か気持ち)が働かないと行動にはならないのです。この場合のインセンティブは、褒美をもらうという意味ではなく、1対1の戦力でも相手を全滅させるという心意気のようなものがないと難しいということです。いつも目標を値切ることばかり考えているビジネスパーソンは自滅します。そんなひまがあったら、やり方を一新する提案を考えるべきです。
 
 次回は、先人の知恵、定石と応用 (その3)です。
 
【出典】
 津曲公二 著「坂の上の雲」に学ぶ、勝てるマネジメント 総合法令出版株式会社発行
 筆者のご承諾により、抜粋を連載。
 
  

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この記事の著者

津曲 公二

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