『坂の上の雲』に学ぶ先人の知恵(その22)

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 『坂の上の雲』は司馬遼太郎が残した多くの作品の中で、最もビジネス関係者が愛読しているものの一つでしょう。これには企業がビジネスと言う戦場で勝利をおさめる為のヒントが豊富に隠されています。『坂の上の雲』に学ぶマネジメント、『学習する組織をめざせ』の章です。活動するたびにいつも組織と構成員の成長があること、そのしくみが「学習する組織」です。それをめざすにはどうするのか、この章で解説します。
 

10. 自分の感覚で組織の成熟度を測る

 
 組織を預かる人は、組織の成長を測る尺度を持ち、自分の感覚で組織の成熟度を測ることが必要です。これには例を示すことが一番わかりやすいでしょう。ある会社の創業者会長は、自社(組織)の成熟度の判断を、誰かお客様が来られたときに顔を合わせた従業員がすぐ挨拶をする、電話は3回鳴らせずに取る、この2つができないうちは何をやってもだめだと言いました。その会長によれば、組織の成熟度というのは何段階もない、これがピタっとする、シンプルだが自分の感覚で成熟度を測ると言われました。こういう測定方法もあるのでしょう。
 
 下請けで長くやってきたある会社のトップの話です。下請けばかりしていると、みんな下請け、孫受けの話ばかりで、うちの会社はこんなものでいいのだろうか、将来性があるのだろうか、とずっと不安に思っていた人がいっぱいいた。そしてトップ自身は、自社ブランドはできないのだろうか、下請けから脱皮したい、たこ壺のような会社ではなくていろんな会社とお付き合いしたい、独自のブランドも持ちたい、自分のアイデアで発想したものを世の中に出してみたい、などと夢見ていた。その方が社長になってから10年余、今それができるようになったというのです。組織としての成長です。昔からの付き合いもあるから下請けの仕事ももちろんこなして、それ以外に幅を広げたのです。
 
 幅が広がったのが成長という意味ではありません。これでいいのだろうかと感じ、将来を描いてそういうことをやりたいという目標を設定したからこそできるようになったと言うべきです。下請けが別に悪いのではなく、もっといろいろなお客様と付き合いたいという目標設定があってそれを達成したことが組織としての成長だと言えるでしょう。
 

11. 人の成長と組織の成長を同期させる

 
 欧米に比べて、粒揃いの人材が潤沢にあるのが日本です。粒揃いが、かえって組織としての成長という観点を見落すことになってしまうこともあります。個人の成長は考えても、組織の成長はあまり考えないで忘れがちです。人の成長と組織の成長が同期して行われた例を見てみましょう。
 
 ある高校の吹奏楽部OB/OG定期演奏会に行ったときのことです。この高校は学区再編で、既に廃校になりましたが、かつては全国大会に連続出場した強豪校でした。司会者から過去のエピソードが紹介されました。強豪校だから入部希望の中学生が練習を見に来ます。楽器ごとのパート別練習は、見学者の見るところさほどのレベルとは思えず、これなら入部してレギュラーメンバーになれるのも時間の問題と思うらしいのです。
 
 ところが、フルメンバーの合奏になると、見学の中学生は度肝を抜かれるそうです。さきほどのパート練習とは比較にならないほど素晴らしい出来ばえに、感激のショックを受けるらしいのです。個々レベルではそれほどでもないが、組織になるとケタ違いの高いパフォーマンスを発揮する。まさに、個人の努力だけでは達成できないことです。組織を成長させる指揮者の存在、組織の中で自分の役割を実感しながら成長するメンバー、司会者の話にそれぞれの姿が目に浮かぶようでした。
 
 『坂の上の雲』の中では、イギリスの観戦武官ペケナム大佐は戦艦「朝日」にいました。日本海海戦以前のこと、日本艦隊は射撃の猛訓練をしていました。そのときのことを彼は「日本艦隊の射撃の拙劣さに驚き、こんな艦隊と一緒に戦争に行くなら命を捨てに行くようなものだと思い、退艦させてくれと頼もうとさえ思った」そうです。ところが、いざ日本海海戦に行くと「その命中率のすごさに驚いた、別の艦隊を見るようだった」と述懐しています。
 
  訓練
 
 その秘密は何かと言えば、射撃の猛訓練からの気づきでした。砲員の能力に頼っていても飛躍はないことに気づいて、まったく独創的なやり方を開発したのです。これまでも述べてきましたが、従来のやり方は砲員が思い思いに照準をつけていたのですが、それを1艦ごとに統一した照準方式に変えたのでした。つまり、各砲がばらばらな照準だったものを、最も精度の高い照準に統一し、組織的にすべての砲に運用することにしたのです。この方法は、それまでの世界の海軍常識を打ち破る新思想と言うべきものであったそうです。
 
 もうひとつの例です。アルゼンチンの観戦武官でマヌエル・ドメック・ガルシア大佐がいました。巡洋艦日進に同乗し、日本海海戦に参加しました。帰国後、母国海軍に彼が提出した膨大なレポートがあります。その一節に「軍艦な...
 『坂の上の雲』は司馬遼太郎が残した多くの作品の中で、最もビジネス関係者が愛読しているものの一つでしょう。これには企業がビジネスと言う戦場で勝利をおさめる為のヒントが豊富に隠されています。『坂の上の雲』に学ぶマネジメント、『学習する組織をめざせ』の章です。活動するたびにいつも組織と構成員の成長があること、そのしくみが「学習する組織」です。それをめざすにはどうするのか、この章で解説します。
 

10. 自分の感覚で組織の成熟度を測る

 
 組織を預かる人は、組織の成長を測る尺度を持ち、自分の感覚で組織の成熟度を測ることが必要です。これには例を示すことが一番わかりやすいでしょう。ある会社の創業者会長は、自社(組織)の成熟度の判断を、誰かお客様が来られたときに顔を合わせた従業員がすぐ挨拶をする、電話は3回鳴らせずに取る、この2つができないうちは何をやってもだめだと言いました。その会長によれば、組織の成熟度というのは何段階もない、これがピタっとする、シンプルだが自分の感覚で成熟度を測ると言われました。こういう測定方法もあるのでしょう。
 
 下請けで長くやってきたある会社のトップの話です。下請けばかりしていると、みんな下請け、孫受けの話ばかりで、うちの会社はこんなものでいいのだろうか、将来性があるのだろうか、とずっと不安に思っていた人がいっぱいいた。そしてトップ自身は、自社ブランドはできないのだろうか、下請けから脱皮したい、たこ壺のような会社ではなくていろんな会社とお付き合いしたい、独自のブランドも持ちたい、自分のアイデアで発想したものを世の中に出してみたい、などと夢見ていた。その方が社長になってから10年余、今それができるようになったというのです。組織としての成長です。昔からの付き合いもあるから下請けの仕事ももちろんこなして、それ以外に幅を広げたのです。
 
 幅が広がったのが成長という意味ではありません。これでいいのだろうかと感じ、将来を描いてそういうことをやりたいという目標を設定したからこそできるようになったと言うべきです。下請けが別に悪いのではなく、もっといろいろなお客様と付き合いたいという目標設定があってそれを達成したことが組織としての成長だと言えるでしょう。
 

11. 人の成長と組織の成長を同期させる

 
 欧米に比べて、粒揃いの人材が潤沢にあるのが日本です。粒揃いが、かえって組織としての成長という観点を見落すことになってしまうこともあります。個人の成長は考えても、組織の成長はあまり考えないで忘れがちです。人の成長と組織の成長が同期して行われた例を見てみましょう。
 
 ある高校の吹奏楽部OB/OG定期演奏会に行ったときのことです。この高校は学区再編で、既に廃校になりましたが、かつては全国大会に連続出場した強豪校でした。司会者から過去のエピソードが紹介されました。強豪校だから入部希望の中学生が練習を見に来ます。楽器ごとのパート別練習は、見学者の見るところさほどのレベルとは思えず、これなら入部してレギュラーメンバーになれるのも時間の問題と思うらしいのです。
 
 ところが、フルメンバーの合奏になると、見学の中学生は度肝を抜かれるそうです。さきほどのパート練習とは比較にならないほど素晴らしい出来ばえに、感激のショックを受けるらしいのです。個々レベルではそれほどでもないが、組織になるとケタ違いの高いパフォーマンスを発揮する。まさに、個人の努力だけでは達成できないことです。組織を成長させる指揮者の存在、組織の中で自分の役割を実感しながら成長するメンバー、司会者の話にそれぞれの姿が目に浮かぶようでした。
 
 『坂の上の雲』の中では、イギリスの観戦武官ペケナム大佐は戦艦「朝日」にいました。日本海海戦以前のこと、日本艦隊は射撃の猛訓練をしていました。そのときのことを彼は「日本艦隊の射撃の拙劣さに驚き、こんな艦隊と一緒に戦争に行くなら命を捨てに行くようなものだと思い、退艦させてくれと頼もうとさえ思った」そうです。ところが、いざ日本海海戦に行くと「その命中率のすごさに驚いた、別の艦隊を見るようだった」と述懐しています。
 
  訓練
 
 その秘密は何かと言えば、射撃の猛訓練からの気づきでした。砲員の能力に頼っていても飛躍はないことに気づいて、まったく独創的なやり方を開発したのです。これまでも述べてきましたが、従来のやり方は砲員が思い思いに照準をつけていたのですが、それを1艦ごとに統一した照準方式に変えたのでした。つまり、各砲がばらばらな照準だったものを、最も精度の高い照準に統一し、組織的にすべての砲に運用することにしたのです。この方法は、それまでの世界の海軍常識を打ち破る新思想と言うべきものであったそうです。
 
 もうひとつの例です。アルゼンチンの観戦武官でマヌエル・ドメック・ガルシア大佐がいました。巡洋艦日進に同乗し、日本海海戦に参加しました。帰国後、母国海軍に彼が提出した膨大なレポートがあります。その一節に「軍艦などの設備はおカネさえあればいくらでも買える。しかし、兵員の質をここまで高めるのは容易にできることではない。日本海軍は不断の努力で兵員をここまで練磨した。その結果がこの空前の勝利につながった」。大意としてこのような記述があるそうです。
 
 組織を機能させるには人の成長だけでなく、組織の成長という観点からきちんと取り組んだことがうかがえます。また、ガルシア大佐は同乗した日進艦内の日常についても記述しています。「上官(将校)が兵士を侮辱したり、逆に兵士が上官の品位を汚したりするような発言は、私が見聞する限り一切なかった」。ガルシア大佐のレポートは、現在もアルゼンチン海軍士官学校の教育資料として使われているということです。
 
 次回も、学習する組織の解説を続けます。
 
【出典】
 津曲公二 著「坂の上の雲」に学ぶ、勝てるマネジメント 総合法令出版株式会社発行
 筆者のご承諾により、抜粋を連載。
 
  

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この記事の著者

津曲 公二

技術者やスタッフが活き活きと輝きながら活動できる環境作りに貢献します。

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