実験の成功から技術開発の成功へ  品質工学による技術開発(その16)

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品質工学

 

◆実験の成功から技術開発の成功へ 

1.はじめに

前回の(その15)から,LIMDOW-MOの事例を取り上げて,自社の独自技術の事業化を実現するための技術開発の進め方を紹介しています。今回はLIMDOW-MOの技術開発に品質工学を導入する前の段階から事業化成功に至る過程を紹介します。

 

【この連載の前回:品質工学による技術開発(その15)独自技術事業化を目指した技術開発へのリンク】

◆【特集】 連載記事紹介連載記事のタイトルをまとめて紹介、各タイトルから詳細解説に直リンク!!

◆ 関連解説記事:品質工学による技術開発 【連載記事紹介】

 

2.実験の成功から技術開発の成功へ

図1にLIMDOW-MOの技術開発から事業化へ至る流れを示します.この過程で、1991年までの従来方法での研究活動から品質工学による技術開発への変革が事業化に向けてプロジェクトを加速する大きなきっかけとなりました.この変革によって研究のための研究から事業化のための技術開発へと大きく舵を切ることができたのです.まさに現状打破と言えるものでしたが、実際には品質工学を導入した当初からいきなりギアチェンジできたわけではありません.

 

1991年に矢野先生のご指導を受けるチャンスを得たことが変革を実現するきっかけとなったのですが、実はその前から独学で品質工学のパラメータ設計を使っていたのです.ただし、その使い方はまったく品質工学の本質からずれた表面的なものでした.例えば、光ディスクの性能を測る代表的な指標にCN比というものがあります.このCN比は品質工学のSN比を同じく、ほしい出力とほしくないノイズの比をとった評価指標なのですが、もともとノイズ成分を含んでいるCN比にノイズ因子を加えてSN比を計算するという本質を知らずに、形式的に機能性評価のまね事をしていたレベルでした.

 

その後、矢野先生からのご指導を受けて、機能の考え方やSN比の計算方法を学び、パラメータ設計の実験ができるレベルになったのが1991年です.効果的な目的機能を定義して、ようやくパラメータ設計と言える実験ができるようになり、今度は褒められるだろうと期待して結果を矢野先生に報告したのです.ところが矢野先生から「それで市場に出せるのですが」と言われたのです.思いがけない返答に頭をガツン一撃された思いでした.この発言をきっかけに品質工学を活用する真の狙いは実験を成功させることではなく、技術開発を成功させることである、そして技術開発の成功とは市場に出せるロバスト性と性能を実現することであると学んだのです.その一言がトリガーとなり、本連載“その1”の技術開発プロセスが回り出し、事業化というゴールに向けてプロジェクトが加速したのです.

 

 品質工学

図1 LIMDOW-MO事業化までの流れ

 

3.仕組みとしての品質工学

一般的にパラメータ設計はロバスト性を改善する実験手法として位置づけられています.もちろん改善手法としてのパラメータ設計は有効ですが、それは新たなシステムや制御因子の発想が必要ない製品設計段階以降においてです.つまり市場投入可能な目処が立っているシステムがすでに存在し、さらに制御因子を最適化することでロバスト性を少しでも改善したいというケースです.ロバスト性の改善によって得られた余裕分を許容差設計でコストダウンに回すことが可能となります.そういう意味ではパラメータ設計の狙いはコストダウンとも言えます.(その7参照)一方、技術開発の大きな目的は新たな技術手段を発想することです。そこに予測技法としてのロバストパラメータ設計や創造技法としてのCS-T法が仕組みの中で有効活用されることを本連載で示していきます...

品質工学

 

◆実験の成功から技術開発の成功へ 

1.はじめに

前回の(その15)から,LIMDOW-MOの事例を取り上げて,自社の独自技術の事業化を実現するための技術開発の進め方を紹介しています。今回はLIMDOW-MOの技術開発に品質工学を導入する前の段階から事業化成功に至る過程を紹介します。

 

【この連載の前回:品質工学による技術開発(その15)独自技術事業化を目指した技術開発へのリンク】

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◆ 関連解説記事:品質工学による技術開発 【連載記事紹介】

 

2.実験の成功から技術開発の成功へ

図1にLIMDOW-MOの技術開発から事業化へ至る流れを示します.この過程で、1991年までの従来方法での研究活動から品質工学による技術開発への変革が事業化に向けてプロジェクトを加速する大きなきっかけとなりました.この変革によって研究のための研究から事業化のための技術開発へと大きく舵を切ることができたのです.まさに現状打破と言えるものでしたが、実際には品質工学を導入した当初からいきなりギアチェンジできたわけではありません.

 

1991年に矢野先生のご指導を受けるチャンスを得たことが変革を実現するきっかけとなったのですが、実はその前から独学で品質工学のパラメータ設計を使っていたのです.ただし、その使い方はまったく品質工学の本質からずれた表面的なものでした.例えば、光ディスクの性能を測る代表的な指標にCN比というものがあります.このCN比は品質工学のSN比を同じく、ほしい出力とほしくないノイズの比をとった評価指標なのですが、もともとノイズ成分を含んでいるCN比にノイズ因子を加えてSN比を計算するという本質を知らずに、形式的に機能性評価のまね事をしていたレベルでした.

 

その後、矢野先生からのご指導を受けて、機能の考え方やSN比の計算方法を学び、パラメータ設計の実験ができるレベルになったのが1991年です.効果的な目的機能を定義して、ようやくパラメータ設計と言える実験ができるようになり、今度は褒められるだろうと期待して結果を矢野先生に報告したのです.ところが矢野先生から「それで市場に出せるのですが」と言われたのです.思いがけない返答に頭をガツン一撃された思いでした.この発言をきっかけに品質工学を活用する真の狙いは実験を成功させることではなく、技術開発を成功させることである、そして技術開発の成功とは市場に出せるロバスト性と性能を実現することであると学んだのです.その一言がトリガーとなり、本連載“その1”の技術開発プロセスが回り出し、事業化というゴールに向けてプロジェクトが加速したのです.

 

 品質工学

図1 LIMDOW-MO事業化までの流れ

 

3.仕組みとしての品質工学

一般的にパラメータ設計はロバスト性を改善する実験手法として位置づけられています.もちろん改善手法としてのパラメータ設計は有効ですが、それは新たなシステムや制御因子の発想が必要ない製品設計段階以降においてです.つまり市場投入可能な目処が立っているシステムがすでに存在し、さらに制御因子を最適化することでロバスト性を少しでも改善したいというケースです.ロバスト性の改善によって得られた余裕分を許容差設計でコストダウンに回すことが可能となります.そういう意味ではパラメータ設計の狙いはコストダウンとも言えます.(その7参照)一方、技術開発の大きな目的は新たな技術手段を発想することです。そこに予測技法としてのロバストパラメータ設計や創造技法としてのCS-T法が仕組みの中で有効活用されることを本連載で示していきます[1][2]

 

次回以降はLIMDOW-MOの技術開発を事例として取り上げてロバストパラメータ設計の具体的な活用方法と事業化までの流れを紹介します.

 

【参考文献】
[1]細川哲夫:「タグチメソッドによる技術開発 ~基本機能を探索できるCS-T法~」,日科技連(2020)
[2]細川哲夫:QE Compass, https://qecompass.com/, (2023.04.06)

 

 

◆関連解説『品質工学(タグチメソッド)とは』

 

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この記事の著者

細川 哲夫

お客様の期待を超える感動品質を備えた製品を継続して提供するために、創造性と効率性を両立した新しい品質工学を一緒に活用しましょう。

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