ほんまもんの技術者とは (その1)

更新日

投稿日

1.はじめに

 今回は、ものづくりCOMでの初めての発言です。皆さまからのご意見を頂ければ幸いです。

 私が品質工学の道にはいって約20数年になりますが、最近の東日本大震災などで起きた原発問題とその後の政府や電力関係の対応には苛立ちを感じています。このことについては、私のホームページで議論していますので後ほどアップしたいと考えています。

 今回の投稿は、10年前に関西品質工学研究会で講演した時の首題のテーマを再考して述べてみたいと思います。

 当時のNHKの朝ドラで「ほんまもん」という料理の達人のドラマがあり、私は大変好きな言葉ですが、品質工学の創始者である田口玄一博士に言わせると“コストのことを考えていないから駄目だ”と一蹴され厳しい評価でした。

 最近は企業の不祥事が相次いで起こっていますが,経営者を始め責任者の方の多くがサラリーマン化して,企業人の目的を喪失した責任逃れの姿は呆れるばかりです。

 

2.市場クレームと開発体制の問題点

 最近ビデオの再生機能が故障して販売店に聞いたところ,5万円以下のビデオでは再生機能は3年以内で再生不良になるというのです。 宇宙開発ロケットでも打ち上げた途端に落下した時に,科学的な現象説明の言い訳で誤魔化しています。

 電力会社の原発シュラウド(炉心隔壁)の“ひび割れ”問題で許容差を隔壁の厚さの半分まで許すという原子力委員会の発表でしたが,機能限界を超えたときの社会的損失から考えても異常だとしかいいようがありません。

 いずれの場合も,問題がある時点で起こるまで問題の大きさが分からないのです。これらの事実はモノ造りの原点である市場における信頼性の大切さを忘れた教育や企業の誤った開発体制に問題があると考えています。

 “問題とは理想と現実の差である”と昔から言われていますが,従来は問題の大きさを評価する適当な方法がなかったので,問題が起こる度に「もぐら叩き」を繰り返してきたのです。

 先日も企業の技術指導に行きましたが,目先の問題をいかにして潰すかで頭を悩ましているのです。それでも,品質工学を少し勉強されていてトラブルを「望小特性(小さければ小さいほうがよいという品質特性)」を用いて「古典的実験計画法」でL8直交表を使い,問題を解決しようとしていました。しかし,管理者はそのことの良し悪しの判断ができないのです。これが日本の平均的な企業の実体です。企業では、管理技術(SQC,VE,実験計画法,多変量解析,信頼性工学など)やシミュレーションな...

1.はじめに

 今回は、ものづくりCOMでの初めての発言です。皆さまからのご意見を頂ければ幸いです。

 私が品質工学の道にはいって約20数年になりますが、最近の東日本大震災などで起きた原発問題とその後の政府や電力関係の対応には苛立ちを感じています。このことについては、私のホームページで議論していますので後ほどアップしたいと考えています。

 今回の投稿は、10年前に関西品質工学研究会で講演した時の首題のテーマを再考して述べてみたいと思います。

 当時のNHKの朝ドラで「ほんまもん」という料理の達人のドラマがあり、私は大変好きな言葉ですが、品質工学の創始者である田口玄一博士に言わせると“コストのことを考えていないから駄目だ”と一蹴され厳しい評価でした。

 最近は企業の不祥事が相次いで起こっていますが,経営者を始め責任者の方の多くがサラリーマン化して,企業人の目的を喪失した責任逃れの姿は呆れるばかりです。

 

2.市場クレームと開発体制の問題点

 最近ビデオの再生機能が故障して販売店に聞いたところ,5万円以下のビデオでは再生機能は3年以内で再生不良になるというのです。 宇宙開発ロケットでも打ち上げた途端に落下した時に,科学的な現象説明の言い訳で誤魔化しています。

 電力会社の原発シュラウド(炉心隔壁)の“ひび割れ”問題で許容差を隔壁の厚さの半分まで許すという原子力委員会の発表でしたが,機能限界を超えたときの社会的損失から考えても異常だとしかいいようがありません。

 いずれの場合も,問題がある時点で起こるまで問題の大きさが分からないのです。これらの事実はモノ造りの原点である市場における信頼性の大切さを忘れた教育や企業の誤った開発体制に問題があると考えています。

 “問題とは理想と現実の差である”と昔から言われていますが,従来は問題の大きさを評価する適当な方法がなかったので,問題が起こる度に「もぐら叩き」を繰り返してきたのです。

 先日も企業の技術指導に行きましたが,目先の問題をいかにして潰すかで頭を悩ましているのです。それでも,品質工学を少し勉強されていてトラブルを「望小特性(小さければ小さいほうがよいという品質特性)」を用いて「古典的実験計画法」でL8直交表を使い,問題を解決しようとしていました。しかし,管理者はそのことの良し悪しの判断ができないのです。これが日本の平均的な企業の実体です。企業では、管理技術(SQC,VE,実験計画法,多変量解析,信頼性工学など)やシミュレーションなど沢山の解析手法を勉強していますが,本来の目的が分からずに使っていますから,本質的な問題解決にならないのです。

 この点に関して言えば,品質工学だって手法だけは真似していますが,品質工学の考え方を理解せずに間違って使われている場合が多いのです。

 手法を使うのが目的ではなく,問題を解決するのが目的です。

 そこで次回から,私なりに考えている「ほんまもんの技術者」とは何かをお話していきます。

(つづく)

◆関連解説『品質工学(タグチメソッド)とは』

   続きを読むには・・・


この記事の著者

原 和彦

品質工学を通して製品開発、設計の真髄を伝えます

品質工学を通して製品開発、設計の真髄を伝えます


「品質工学(タグチメソッド)総合」の他のキーワード解説記事

もっと見る
個別的な計算方法 エネルギー比型SN比とは (その3)

 エネルギー比型SN比は、品質工学における新しい評価尺度であり、SN比の比較対象間でデータの数や信号値の大きさが異なる場合でも、公平な比較が可能です。実務...

 エネルギー比型SN比は、品質工学における新しい評価尺度であり、SN比の比較対象間でデータの数や信号値の大きさが異なる場合でも、公平な比較が可能です。実務...


技術開発で活用される技法 品質工学による技術開発(その9)

  1.技術開発段階で活用される技法や仕組み 本連載ではこれまで,技術開発のあるべき姿やそのプロセスの全体像,その中で活用されるロバスト...

  1.技術開発段階で活用される技法や仕組み 本連載ではこれまで,技術開発のあるべき姿やそのプロセスの全体像,その中で活用されるロバスト...


技術評価におけるSN比 エネルギー比型SN比とは (その1)

1. エネルギー比型SN比    エネルギー比型SN比1)2)は、品質工学における新しい評価尺度であり、SN比の比較対象間でデータの数や信号...

1. エネルギー比型SN比    エネルギー比型SN比1)2)は、品質工学における新しい評価尺度であり、SN比の比較対象間でデータの数や信号...


「品質工学(タグチメソッド)総合」の活用事例

もっと見る
TRIZを含む科学的アプローチの推進 ~全社的な開発力向上と事業貢献を目指した取り組み

♦開発期間短縮、課題解決力向上などに成果  今回は2019年に創立100周年を迎え、グローバルカンパニーとして世界シェア70%の消化器内視鏡...

♦開発期間短縮、課題解決力向上などに成果  今回は2019年に創立100周年を迎え、グローバルカンパニーとして世界シェア70%の消化器内視鏡...


科学的手法(TRIZ,QFD,タグチメソッド)の社内展開:オリンパスの事例

 2011年のTRIZシンポジウムでオリンパス株式会社の緒方隆司さんが発表し、参加者投票 「私にとって最もよかった発表」で表彰された、「TRIZを含む科学...

 2011年のTRIZシンポジウムでオリンパス株式会社の緒方隆司さんが発表し、参加者投票 「私にとって最もよかった発表」で表彰された、「TRIZを含む科学...


精密鍛造金型メーカーが自社技術を起点に新商品開発に取り組んだ事例

※イメージ画像 1. 自社技術起点に新商品開発  今回は、精密鍛造金型メーカーとして創業し、現在は研究開発から部品製造まで精密鍛造に関するトータル...

※イメージ画像 1. 自社技術起点に新商品開発  今回は、精密鍛造金型メーカーとして創業し、現在は研究開発から部品製造まで精密鍛造に関するトータル...