工場のリンパ液をきちんと流そう レイアウトと物流(その5)

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生産マネジメント

 

1.工場のリンパ液も人間と同様に停滞しやすい

人間の体内を流れる血液は、体に必要な栄養分や酸素などを運ぶ働きを持っています。しかも血液型は何かとか、血液型による性格はどうなのかと関心が高いものですが、リンパ液についてはほとんど関心がないのが普通です。リンパ液について余りその働きを知ることはありませんが、体の老廃物を運ぶ働きつまり浄化作用があります。そして血液だけでは出来ない働きを担っており、血液と一緒になってお互いに補完し合い正常な生命維持の流れを形成しています。

 

人間のリンパ液の流れは、血管のように見てわかるパイプのようなものはなく、一部はジワジワと体の中を流れているようです。しかも体のよくわかる部位ではなく、例えば顎の下、鎖骨のくぼみ、脇の下、ひざの後ろなどにそのリンパ液の経路があり、普段気づかない部位に存在するものです。工場内のリンパ液に相当するゴミや老廃物などは、ゴミ収集場所、階段の下、焼却炉、棚の上、天井との隙間、設備の後ろ、屋根裏など目に付きにくい場所に溜まりやすく、隠れた存在となっていることとよく似ています。

 

“工場の血液”とは、部材、仕掛、完成品、それにまつわる情報を含めた流れと例えられます。血液は真っ赤ですので、血管から飛び出しますと一目でわかりすぐに対応することができます。血液は目に付きやすいので、異常管理もやりやすいものです。

“工場のリンパ液”とは、直接生産には結びつかないゴミとか、廃棄物(汚れ、ホコリ、不要物など)、切粉、廃材、端材、梱包材、空箱、潤滑油、不要になった伝票やメモ、文房具などの補材関係の流れに相当するといえます。

しかもリンパ液は淡黄色な液体であり、あまり見えることはありませんので、それが漏れていても気づくのはトラブルが顕著になってわかるというものです。体のリンパ液が流れにくくなると、老廃物や毒素が溜まり、むくみ、体調不良などになっていきます。

 

工場内のゴミ、老廃物なども毎日見ていると見えなくなるものです。しかしこれらが工場内に停滞していると、場所を占領してしまい本来流すべき部品、仕掛、完成品がスムースに流すことができなくなっていくものです。しかも外部から訪問される人たちは、色々な工場を見ておられますので、すぐにその違いに気づかれます。ただ素直に汚いですよと進言できる人は滅多にいないので、話題にもならずにそのまま放置されることになります。当然エントロピーの法則に則って、段々とゴミや汚れは溜まっていきます。

 

2.ゴミも一つの部品と考えて改善に組み込む

ある工場で何度も改善を繰り返して、生産性を5倍以上にすることができましたが、まだ市場の要求に対して不十分だとして改善に取り組んでいます。まだ改善の余地はないかと相談があり、ある工程の作業を一緒に観察をしていました。すると作業の途中に発生したゴミ(部材を保護するためのシール材)を廃棄するために、その作業場から3歩歩いてゴミ箱に捨てて、また作業場に返る動作をしていたことを気づきました。しかもゴミ箱が小さくそして高さが50cmしかないので、オペレータはわざわざ腰をかがめてゴミを捨てていたのです。

 

歩行1歩≒1秒に相当しますので、往復で数秒もかかるムダな作業状態になっていたのです。しかもこごむ作業はエリゴノミーの悪い姿勢です。彼らはこのムダな作業を一連の作業の中に集約していたことがわかり、すぐに「ゴミも一つの部品と考えよ」とヒントを出したところすぐに意図を理解して改善に取り掛かりました。作業している場所にゴミ箱を移動して、立ったまま手を離すと万有引力の法則に則り、ゴミは自然落下してゴミ箱に収まります。結果としてサイクルタイムの短縮だけではなく、エリゴノミーの改善もできリズムある作業にすることができました。

 

そのアイデアをすぐに横展開して、部品を運搬する台車にもゴミ箱をつけたり、さらにゴミ箱に入れやすいようにラッパ状に広げたりしました。それにヒントを得て、治工具や材料の位置だけではなく、取り出しやすいように作業の順番に置き換え、オペレータが順番に取っていけるように配置換えやベストポイント化も実践するようになりました。ちょっとしたヒントが波紋のように広がっていく様を傍から見ていても、改善の楽しさを効果によって感じることもできます。

 

余分なモノ、つまり工場内の不要物がなくなっていくことにより、必要なものが見えるようになって自ら気づくようになります。一度この気づきの感覚を覚えると自然に次々とヒントが見えて、すぐに改善することにより手ごたえも感じることができ、ますます意欲が湧いてくるのです。体内の老廃物が排出されてスッキリした体になると動きが良くなることと同じですね。このように人体はシステマチックになっていますので、工場もこれを同じ考えだと捉えてみますと理解しやすくなるものです。

 

3.工場の血液とリンパ液を同期させて現場改善する

切粉、廃材、端材、梱包材の廃材、不要になった伝票やメモなどの処理は、いわば付帯的な作業です。ですから終了時にまとめてやればよいとか、今日は忙しいので明日に先送りしようなどと思っていたら、いつの間にか溜まりに溜まってしまい、ついにはゴミ屋敷になってしまうのです。

 

しかしこれらを定期的にしかも短時間サイクルで処理していくと、工場内は必要なモノが見えるようになってきます。部品、仕掛、完成品と合わせて、そこ...

生産マネジメント

 

1.工場のリンパ液も人間と同様に停滞しやすい

人間の体内を流れる血液は、体に必要な栄養分や酸素などを運ぶ働きを持っています。しかも血液型は何かとか、血液型による性格はどうなのかと関心が高いものですが、リンパ液についてはほとんど関心がないのが普通です。リンパ液について余りその働きを知ることはありませんが、体の老廃物を運ぶ働きつまり浄化作用があります。そして血液だけでは出来ない働きを担っており、血液と一緒になってお互いに補完し合い正常な生命維持の流れを形成しています。

 

人間のリンパ液の流れは、血管のように見てわかるパイプのようなものはなく、一部はジワジワと体の中を流れているようです。しかも体のよくわかる部位ではなく、例えば顎の下、鎖骨のくぼみ、脇の下、ひざの後ろなどにそのリンパ液の経路があり、普段気づかない部位に存在するものです。工場内のリンパ液に相当するゴミや老廃物などは、ゴミ収集場所、階段の下、焼却炉、棚の上、天井との隙間、設備の後ろ、屋根裏など目に付きにくい場所に溜まりやすく、隠れた存在となっていることとよく似ています。

 

“工場の血液”とは、部材、仕掛、完成品、それにまつわる情報を含めた流れと例えられます。血液は真っ赤ですので、血管から飛び出しますと一目でわかりすぐに対応することができます。血液は目に付きやすいので、異常管理もやりやすいものです。

“工場のリンパ液”とは、直接生産には結びつかないゴミとか、廃棄物(汚れ、ホコリ、不要物など)、切粉、廃材、端材、梱包材、空箱、潤滑油、不要になった伝票やメモ、文房具などの補材関係の流れに相当するといえます。

しかもリンパ液は淡黄色な液体であり、あまり見えることはありませんので、それが漏れていても気づくのはトラブルが顕著になってわかるというものです。体のリンパ液が流れにくくなると、老廃物や毒素が溜まり、むくみ、体調不良などになっていきます。

 

工場内のゴミ、老廃物なども毎日見ていると見えなくなるものです。しかしこれらが工場内に停滞していると、場所を占領してしまい本来流すべき部品、仕掛、完成品がスムースに流すことができなくなっていくものです。しかも外部から訪問される人たちは、色々な工場を見ておられますので、すぐにその違いに気づかれます。ただ素直に汚いですよと進言できる人は滅多にいないので、話題にもならずにそのまま放置されることになります。当然エントロピーの法則に則って、段々とゴミや汚れは溜まっていきます。

 

2.ゴミも一つの部品と考えて改善に組み込む

ある工場で何度も改善を繰り返して、生産性を5倍以上にすることができましたが、まだ市場の要求に対して不十分だとして改善に取り組んでいます。まだ改善の余地はないかと相談があり、ある工程の作業を一緒に観察をしていました。すると作業の途中に発生したゴミ(部材を保護するためのシール材)を廃棄するために、その作業場から3歩歩いてゴミ箱に捨てて、また作業場に返る動作をしていたことを気づきました。しかもゴミ箱が小さくそして高さが50cmしかないので、オペレータはわざわざ腰をかがめてゴミを捨てていたのです。

 

歩行1歩≒1秒に相当しますので、往復で数秒もかかるムダな作業状態になっていたのです。しかもこごむ作業はエリゴノミーの悪い姿勢です。彼らはこのムダな作業を一連の作業の中に集約していたことがわかり、すぐに「ゴミも一つの部品と考えよ」とヒントを出したところすぐに意図を理解して改善に取り掛かりました。作業している場所にゴミ箱を移動して、立ったまま手を離すと万有引力の法則に則り、ゴミは自然落下してゴミ箱に収まります。結果としてサイクルタイムの短縮だけではなく、エリゴノミーの改善もできリズムある作業にすることができました。

 

そのアイデアをすぐに横展開して、部品を運搬する台車にもゴミ箱をつけたり、さらにゴミ箱に入れやすいようにラッパ状に広げたりしました。それにヒントを得て、治工具や材料の位置だけではなく、取り出しやすいように作業の順番に置き換え、オペレータが順番に取っていけるように配置換えやベストポイント化も実践するようになりました。ちょっとしたヒントが波紋のように広がっていく様を傍から見ていても、改善の楽しさを効果によって感じることもできます。

 

余分なモノ、つまり工場内の不要物がなくなっていくことにより、必要なものが見えるようになって自ら気づくようになります。一度この気づきの感覚を覚えると自然に次々とヒントが見えて、すぐに改善することにより手ごたえも感じることができ、ますます意欲が湧いてくるのです。体内の老廃物が排出されてスッキリした体になると動きが良くなることと同じですね。このように人体はシステマチックになっていますので、工場もこれを同じ考えだと捉えてみますと理解しやすくなるものです。

 

3.工場の血液とリンパ液を同期させて現場改善する

切粉、廃材、端材、梱包材の廃材、不要になった伝票やメモなどの処理は、いわば付帯的な作業です。ですから終了時にまとめてやればよいとか、今日は忙しいので明日に先送りしようなどと思っていたら、いつの間にか溜まりに溜まってしまい、ついにはゴミ屋敷になってしまうのです。

 

しかしこれらを定期的にしかも短時間サイクルで処理していくと、工場内は必要なモノが見えるようになってきます。部品、仕掛、完成品と合わせて、そこから切粉、梱包材、廃材、端材、不要になった伝票やメモなどもセットにして流す、つまりお互いを同期化させて流すことをやってみましょう。行きと帰りの動きがセットになっているように、仕掛や部品を運んだ時についでにゴミや切粉の処理もやってしまうなどです。これらも一緒にして同期化させて動かすことで、今まで気づかなかったことが見えてきます。またちょっとしたレイアウト変更もムダなモノが発見できる良い機会になりますのでお勧めします。

 

このように見えるようになれば、次にやるべき作業がすぐにわかるようになり、段々と工程の流れが速くなります。それほど不要物で視界をさえぎられてムダな動きが見えなかったのです。今まで余り考えなかった廃棄物、梱包材、ゴミなども毎日の生産と共に産出されるものです。入りと出はセットであるように、これらも流れの中に組み込んで、工場内に停滞しない仕組みにして現場改善が毎日できるようにしたいものです。

 

次回に続きます。

【出典】株式会社 SMC HPより、筆者のご承諾により編集して掲載 

 

 

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この記事の著者

松田 龍太郎

見えないコトを見えるようにする現場改善コンサルタント。ユーモアと笑顔をセットにして、元氣一杯に現地現物での指導を心がける。難しいことはわかりやすく、例え話や事例を用いながら解説し、納得してもらえるように楽しく動機付けを行います。

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