インキの粘度測定 高品質スクリーン印刷標論(その21)

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【関連解説:印刷技術】

 
 高品質スクリーン印刷の実践を目的とする皆様の標となるように、論理的で整合性のある解説を心掛けたいと思います。
 

1. スクリーン印刷用インキの粘度測定

 
 この連載の(その6)で、インキの粘弾性の解説をした際に、「弾性」特性が印刷性能に大きく影響していることを解説しました。インキの弾性特性を測定するには、レオメータと呼ばれる高価な粘弾性測定機が必要ですが、粘度計でも印刷性能を推し量ることが出来ます。
 
 最初に、粘度の定義と粘度計について説明します。粘度とは、流動している液体の流動のし難さを表す指標であり、流動状態でしか測定できません。スクリーン印刷用のインキは、流動速度が速くなるに従い、流動しやすくなる特性があります。このため、粘度の数値を表すときには、必ず流動速度を明記する必要があります。一般的には、粘度計のローターの回転数rpmで表します。
 
 粘度の定義は、流体に加わるせん断応力をせん断速度で除したものです。せん断速度とは、図1のように液体が間隔hの距離で2枚のプレート挟まれた状態で、一方のプレートがせん断方向に移動する速度vをhで除した値です。例えば、一方のプレートがv=1000μm/秒で移動し、間隔h=100μmの場合、せん断速度は、1000μm/s÷10μmで、10(1/S セックインバース)となります。
 
  スクリーン印刷
 図1.移動速度とせん断速度
 
 h=10μmの場合、100/(1/s)となります。つまり、通常の粘度計の回転するセンサーに対抗のプレートがないと、せん断速度は、制御できないことになります。現在、多くの印刷現場で、回転センサーをインキに浸漬するだけの簡易粘度計が使用されていますが、この場合の回転数は、せん断速度とは、無関係であり、正確な粘度値は測定できません。インキの印刷性能の評価に使用することは、適していません。しかしながら、量産印刷でのインキのロット管理の為であれば使用できます。
 
 正しいせん断速度を制御できる粘度計には、図2のような円錐形のコーンスピンドルが付いています。先端の角度は、対向のプレートに対して、1°、1.565°、3°などがあります。スピンドルの回転数にそれぞれ、7.5倍、3.84倍、2.0倍する事で、せん断速度が算出てきます。スピンドルの回転数が5rpmの場合、角度が3°のコーンを使用すると、せん断速度は、10(1/S)となります。大手インキメーカでは、E型粘度計で、せん断速度10(1/s)での粘度を標準としていますので、私もそれを採用しています。私の経験では、50μmのファインラインが印刷できる銀ペーストの粘度は、およそ100Pa.S(1000ポイズ)です。
 
 スクリーン印刷
 図2.コーンプレート型粘度計
 

2. スクリーン印刷:「TI値」とインキの印刷性能

 
 エレクトロニクス業界では、古くから「TI 値」で印刷性能を推し量ることが一般的と思われてきましたが、私の考えは異なります。「TI値」は、一般的な(せん断速度が制御できない)粘度計などで、回転数を10倍にした際の粘度の変化率です。例えば5rpmの粘度が50Pa.Sで、50rpmの粘度が20Pa.Sの場合、「TI値」は、2.5と表します。(対数で表す事もあります)
 
 通常、スクリーン印刷用のインキを攪拌すると粘度が低下しますが、すぐに粘度が下がるもの、ゆっくりと下がるものがあり、両者で印刷性能は異なります。粘度がすぐに下がインキは、攪拌を止めると、粘度がすぐに回復します。このようなインキは、ベタパターンでは、メッシュ痕が大きく、ラインパターンでの凹凸が大きく、印刷性能が低いと言えます。これまでも、粘度値と「TI値」が同じでも、印刷性能が違う事がある事は、多くの方が気付いていると思います。正しい粘度計で測定した「TI値」であっても、インキの印刷性能は、推し量れないと考えるべきです。
 

3. スクリーン印刷: インキの「時間依存性」と印刷性能

 
 実は、弾性特性が大きいものは、攪拌により粘度の低下に時間がかかり、回復する際にも時間が必要です。つまり「時間依存性」大きいと言えます。つまり、インキの「時間依存性」を比較する事で印刷性能を推し量ることができます。
 
 図3は、私が最近、提案しはじめている、粘度計での「時間依存性」の比較方法です。先ず、(1) 回転数5rpmで2分間後の粘度V5を測定し、(2) 50rpmでの粘度V50を測定します。(3) 回転数を5rpmに戻し、粘度が、V5とV50のちょうど中間の「50%粘度」に回復する時間を測定します。2分間を過ぎても「50%粘度」に回復しない場合は、2分間後の粘度の回復率を%で表すようにします。
 
 
 図3.粘度計による「時間依存性」比較方法
 
 AとBの二つにインキのV5,V50が同じ(TI値も同じ)であっても、回復時間が異なることで印刷性能が異なります。私の経験では、回復時間が長いものの方が印刷性は高いと言えま...

 

【関連解説:印刷技術】

 
 高品質スクリーン印刷の実践を目的とする皆様の標となるように、論理的で整合性のある解説を心掛けたいと思います。
 

1. スクリーン印刷用インキの粘度測定

 
 この連載の(その6)で、インキの粘弾性の解説をした際に、「弾性」特性が印刷性能に大きく影響していることを解説しました。インキの弾性特性を測定するには、レオメータと呼ばれる高価な粘弾性測定機が必要ですが、粘度計でも印刷性能を推し量ることが出来ます。
 
 最初に、粘度の定義と粘度計について説明します。粘度とは、流動している液体の流動のし難さを表す指標であり、流動状態でしか測定できません。スクリーン印刷用のインキは、流動速度が速くなるに従い、流動しやすくなる特性があります。このため、粘度の数値を表すときには、必ず流動速度を明記する必要があります。一般的には、粘度計のローターの回転数rpmで表します。
 
 粘度の定義は、流体に加わるせん断応力をせん断速度で除したものです。せん断速度とは、図1のように液体が間隔hの距離で2枚のプレート挟まれた状態で、一方のプレートがせん断方向に移動する速度vをhで除した値です。例えば、一方のプレートがv=1000μm/秒で移動し、間隔h=100μmの場合、せん断速度は、1000μm/s÷10μmで、10(1/S セックインバース)となります。
 
  スクリーン印刷
 図1.移動速度とせん断速度
 
 h=10μmの場合、100/(1/s)となります。つまり、通常の粘度計の回転するセンサーに対抗のプレートがないと、せん断速度は、制御できないことになります。現在、多くの印刷現場で、回転センサーをインキに浸漬するだけの簡易粘度計が使用されていますが、この場合の回転数は、せん断速度とは、無関係であり、正確な粘度値は測定できません。インキの印刷性能の評価に使用することは、適していません。しかしながら、量産印刷でのインキのロット管理の為であれば使用できます。
 
 正しいせん断速度を制御できる粘度計には、図2のような円錐形のコーンスピンドルが付いています。先端の角度は、対向のプレートに対して、1°、1.565°、3°などがあります。スピンドルの回転数にそれぞれ、7.5倍、3.84倍、2.0倍する事で、せん断速度が算出てきます。スピンドルの回転数が5rpmの場合、角度が3°のコーンを使用すると、せん断速度は、10(1/S)となります。大手インキメーカでは、E型粘度計で、せん断速度10(1/s)での粘度を標準としていますので、私もそれを採用しています。私の経験では、50μmのファインラインが印刷できる銀ペーストの粘度は、およそ100Pa.S(1000ポイズ)です。
 
 スクリーン印刷
 図2.コーンプレート型粘度計
 

2. スクリーン印刷:「TI値」とインキの印刷性能

 
 エレクトロニクス業界では、古くから「TI 値」で印刷性能を推し量ることが一般的と思われてきましたが、私の考えは異なります。「TI値」は、一般的な(せん断速度が制御できない)粘度計などで、回転数を10倍にした際の粘度の変化率です。例えば5rpmの粘度が50Pa.Sで、50rpmの粘度が20Pa.Sの場合、「TI値」は、2.5と表します。(対数で表す事もあります)
 
 通常、スクリーン印刷用のインキを攪拌すると粘度が低下しますが、すぐに粘度が下がるもの、ゆっくりと下がるものがあり、両者で印刷性能は異なります。粘度がすぐに下がインキは、攪拌を止めると、粘度がすぐに回復します。このようなインキは、ベタパターンでは、メッシュ痕が大きく、ラインパターンでの凹凸が大きく、印刷性能が低いと言えます。これまでも、粘度値と「TI値」が同じでも、印刷性能が違う事がある事は、多くの方が気付いていると思います。正しい粘度計で測定した「TI値」であっても、インキの印刷性能は、推し量れないと考えるべきです。
 

3. スクリーン印刷: インキの「時間依存性」と印刷性能

 
 実は、弾性特性が大きいものは、攪拌により粘度の低下に時間がかかり、回復する際にも時間が必要です。つまり「時間依存性」大きいと言えます。つまり、インキの「時間依存性」を比較する事で印刷性能を推し量ることができます。
 
 図3は、私が最近、提案しはじめている、粘度計での「時間依存性」の比較方法です。先ず、(1) 回転数5rpmで2分間後の粘度V5を測定し、(2) 50rpmでの粘度V50を測定します。(3) 回転数を5rpmに戻し、粘度が、V5とV50のちょうど中間の「50%粘度」に回復する時間を測定します。2分間を過ぎても「50%粘度」に回復しない場合は、2分間後の粘度の回復率を%で表すようにします。
 
 
 図3.粘度計による「時間依存性」比較方法
 
 AとBの二つにインキのV5,V50が同じ(TI値も同じ)であっても、回復時間が異なることで印刷性能が異なります。私の経験では、回復時間が長いものの方が印刷性は高いと言えます。なお、流動速度が速くなると粘度が下がる特性は、「擬塑性」と呼び、「擬塑性」で「時間依存性」が大きいものを「チクソトロピック」特性が大きいと言います。
 
 

4. スクリーン印刷: レオメータでのフローカーブと「時間依存性」

 
 スクリーン印刷
 図4.銀ペーストのフローカーブ
 
 図4は、印刷性能が高いガラス基板用の銀ペーストを、レオメータを使用し、1分間でせん断速度を0→300(1/S)に上昇後、1分間放置、300(1/s)→0に変化させ、せん断応力を測定したフローカーブです。青線の上昇曲線と下降曲線の差が大きく「時間依存性」が大きいことが分かります。なお、赤線は、せん断応力(Pa)をせん断速度(1/s)で除した、粘度(Pa.S)曲線です。
 
 次回に続きます。
 

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この記事の著者

佐野 康

明確なスクリーン印刷理論を用い、納得できる具体的手法により、エレクトロニクスのみならず全ての分野の高品質スクリーン印刷技術の実践をお手伝いします。

明確なスクリーン印刷理論を用い、納得できる具体的手法により、エレクトロニクスのみならず全ての分野の高品質スクリーン印刷技術の実践をお手伝いします。


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