印刷機よりスキージが重要 高品質スクリーン印刷標論(その2)

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【関連解説:印刷技術】

 高品質スクリーン印刷の実践を目的とする皆様の標となるように、論理的で整合性のある解説を心掛けたいと思います。前回のその1に続いて解説します。
 

1. スクリーン印刷:印刷機よりスキージが重要

 
 手刷りでも30ミクロンラインが印刷できるのがスクリーン印刷の工程能力の高さです。高精度な印刷装置を使用すれば、印刷の再現性、均一性、位置合わせ精度や生産性が向上しますが、スキージが同じであれば、達成できる印刷品質の上限は同じです。
 
 スキージは、英語ではSqueegee と書き、意味は窓ふきのゴムヘラです。押し出す、絞り出すという意味のSqueezeと混同している方が多いようで、大きな印圧でインキを押し出すことが必要と誤解されているようです。
 
 ゴムヘラですので、シャープなエッジでスクリーン版上のインキをきれいに掻きとる必要があります。インキがかたい(粘弾性が高い)場合は、十分な掻きとりをさせるために、少し印圧を高くする必要があります。
 
 スキージの形状は、図1のように、大きく分けて、平スキージ、剣先スキージと角スキージがあります。平スキージと剣先スキージは、垂直から20度程度傾けて(スキージ角度70度)使用します。角スキージは、ホルダーを垂直に立てて使用しますので、スキージ面のアタック角度は45度となります。
 
スクリーン印刷 図1. スキージの形状
 
 高品質スクリーン印刷のためには、スキージは、精密な機械研磨が出来て、アタック角度が安定し、適度な変形で基材に追随できる事が必要です。この意味では、剣先スキージや角スキージの使用はお薦めしません。耐溶剤性の高い平スキージでゴム硬度70~85度をお薦めします。
 
 但し、平スキージ使用の場合でも背あて付きスキージホルダーや中芯入りスキージ、先端部以外を硬度90度以上のゴムと接合した複合スキージは、基材に追随しませんのでお薦めしません。
 

2. スクリーン印刷:研磨した鋭利なスキージ、すぐに摩耗

 
 高品質スクリーン印刷のためには、平スキージはホルダーに固定した状態で精密な機械研磨をする必要があります。スキージエッジにバリが出ないような、高精度な研磨装置を使用してください。精密に研磨したスキージのエッジは、写真1のように、非常に鋭利な直角状態になります。
 
スクリーン印刷
写真1. スキージのエッジ
 
 鋭利なスキージエッジは、ポリエステルメッシュ版での50回程度の印刷で、約0.1mm程度摩耗し、500回の印刷で0.2mm近く摩耗します。スキージエッジが摩耗するということは、インキの掻きとり状態が変わり、印刷膜厚が変わるということです。また、スキージエッジの「欠け」不具合の可能性が高くなります。
 
 これを未然に防ぐために、印刷前に、研磨したスキージを600番~1000番のサンドペーパーで30回程磨き、面取り仕上げをすることをお薦めします。写真2は、面取り仕上げ後の断面形状です。約0.2㎜程度、摩耗させた状態と同じになります。
 
スクリーン印刷
 写真2. 面取り仕上げ後の断面形状
 
 適正なスキージであれば、この状態から2万回くらい印刷可能です。その場合、0.3㎜程度の摩耗となるため、0.3mmの深さで再度研磨を行い再使用してください。
 
 

3. スクリーン印刷:印刷中に摩耗したスキージの「粉」は、何処へ

 
 印刷中にスクリーンメッシュで摩耗したスキージゴムの「粉」は、どこへ行くのでしょうか。スクリーンメッシュを通り抜けて、基材上に印刷されてしまう可能性があると心配する方が多いと思いますが、心配ありません。摩耗したスキージゴムの粉がメッシュを通り抜けることは絶対にありません。以下、それが明確に証明できる応用例を紹介します。
 
 積層チップコンデンサー(MLCC)という電子部品製造工程で、大量にスクリーン印刷を行っています。35ミクロン厚のPETシートの上に厚み1ミクロン以下の生セラミック層上に電極であるニッケルペーストを1ミクロン以下(乾燥後)で印刷する工程です。図2に、MLCCの断面の模式図を示します。黒色の電極を印刷した絶縁のシート(誘電体)を交互に数百層積層した構造です。
 
スクリーン印刷図2. 積層チップコン...

 

【関連解説:印刷技術】

 高品質スクリーン印刷の実践を目的とする皆様の標となるように、論理的で整合性のある解説を心掛けたいと思います。前回のその1に続いて解説します。
 

1. スクリーン印刷:印刷機よりスキージが重要

 
 手刷りでも30ミクロンラインが印刷できるのがスクリーン印刷の工程能力の高さです。高精度な印刷装置を使用すれば、印刷の再現性、均一性、位置合わせ精度や生産性が向上しますが、スキージが同じであれば、達成できる印刷品質の上限は同じです。
 
 スキージは、英語ではSqueegee と書き、意味は窓ふきのゴムヘラです。押し出す、絞り出すという意味のSqueezeと混同している方が多いようで、大きな印圧でインキを押し出すことが必要と誤解されているようです。
 
 ゴムヘラですので、シャープなエッジでスクリーン版上のインキをきれいに掻きとる必要があります。インキがかたい(粘弾性が高い)場合は、十分な掻きとりをさせるために、少し印圧を高くする必要があります。
 
 スキージの形状は、図1のように、大きく分けて、平スキージ、剣先スキージと角スキージがあります。平スキージと剣先スキージは、垂直から20度程度傾けて(スキージ角度70度)使用します。角スキージは、ホルダーを垂直に立てて使用しますので、スキージ面のアタック角度は45度となります。
 
スクリーン印刷 図1. スキージの形状
 
 高品質スクリーン印刷のためには、スキージは、精密な機械研磨が出来て、アタック角度が安定し、適度な変形で基材に追随できる事が必要です。この意味では、剣先スキージや角スキージの使用はお薦めしません。耐溶剤性の高い平スキージでゴム硬度70~85度をお薦めします。
 
 但し、平スキージ使用の場合でも背あて付きスキージホルダーや中芯入りスキージ、先端部以外を硬度90度以上のゴムと接合した複合スキージは、基材に追随しませんのでお薦めしません。
 

2. スクリーン印刷:研磨した鋭利なスキージ、すぐに摩耗

 
 高品質スクリーン印刷のためには、平スキージはホルダーに固定した状態で精密な機械研磨をする必要があります。スキージエッジにバリが出ないような、高精度な研磨装置を使用してください。精密に研磨したスキージのエッジは、写真1のように、非常に鋭利な直角状態になります。
 
スクリーン印刷
写真1. スキージのエッジ
 
 鋭利なスキージエッジは、ポリエステルメッシュ版での50回程度の印刷で、約0.1mm程度摩耗し、500回の印刷で0.2mm近く摩耗します。スキージエッジが摩耗するということは、インキの掻きとり状態が変わり、印刷膜厚が変わるということです。また、スキージエッジの「欠け」不具合の可能性が高くなります。
 
 これを未然に防ぐために、印刷前に、研磨したスキージを600番~1000番のサンドペーパーで30回程磨き、面取り仕上げをすることをお薦めします。写真2は、面取り仕上げ後の断面形状です。約0.2㎜程度、摩耗させた状態と同じになります。
 
スクリーン印刷
 写真2. 面取り仕上げ後の断面形状
 
 適正なスキージであれば、この状態から2万回くらい印刷可能です。その場合、0.3㎜程度の摩耗となるため、0.3mmの深さで再度研磨を行い再使用してください。
 
 

3. スクリーン印刷:印刷中に摩耗したスキージの「粉」は、何処へ

 
 印刷中にスクリーンメッシュで摩耗したスキージゴムの「粉」は、どこへ行くのでしょうか。スクリーンメッシュを通り抜けて、基材上に印刷されてしまう可能性があると心配する方が多いと思いますが、心配ありません。摩耗したスキージゴムの粉がメッシュを通り抜けることは絶対にありません。以下、それが明確に証明できる応用例を紹介します。
 
 積層チップコンデンサー(MLCC)という電子部品製造工程で、大量にスクリーン印刷を行っています。35ミクロン厚のPETシートの上に厚み1ミクロン以下の生セラミック層上に電極であるニッケルペーストを1ミクロン以下(乾燥後)で印刷する工程です。図2に、MLCCの断面の模式図を示します。黒色の電極を印刷した絶縁のシート(誘電体)を交互に数百層積層した構造です。
 
スクリーン印刷図2. 積層チップコンデンサー断面(模式図)
 
 もし、数ミクロンのスキージの粉が印刷されたペーストに含まれていたら、積層時に絶縁層を突き破り、電気的にショートすることになります。MLCC製造にスクリーン印刷が問題なく使用されているということが、摩耗したスキージの粉がメッシュを通り抜けない事の証明です。スキージ粉は、スクリーン版上でペーストに混じり最後までローリングし続けます。但し、目視できるような大きい異物は、スクレッパーでのコートの際にスジが出ることがあるため、取り除く必要があります。
 
 使用済みペーストを回収して再使用する時は、ステンレス製の635メッシュのふるい網を使用し、高粘度ペースト濾し機で異物を除去してから使用することをお薦めします。
  

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この記事の著者

佐野 康

明確なスクリーン印刷理論を用い、納得できる具体的手法により、エレクトロニクスのみならず全ての分野の高品質スクリーン印刷技術の実践をお手伝いします。

明確なスクリーン印刷理論を用い、納得できる具体的手法により、エレクトロニクスのみならず全ての分野の高品質スクリーン印刷技術の実践をお手伝いします。


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