形状保持メカニズム終了後の印刷結果観察とは 高品質スクリーン印刷標論(その14)

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【関連解説:印刷技術】

 高品質スクリーン印刷の実践を目的とする皆様の標となるように、論理的で整合性のある解説を心掛けたいと思います。前回のその13に続いて解説します。
 

1. スクリーン印刷:レベリング又は形状保持のメカニズム

 
 「版離れ」後、基材上に転移されたインキ・ペーストは、一定時間経過で、レベリング又は、形状を保持します。通常、印刷結果として観察できるのは、このレベリング又は形状保持のメカニズムが終了した後です。レベリングは、インキ・ペーストの性状よっては、数分以上の時間がかかることもあります。
 
 スクリーン印刷は、スクリーン版のメッシュ開口部をインキが変形しながら通り抜け、基材の上に転移する際に、水平方向に流動するものです。ベタパターンでは、スクリーンメッシュが基材に接触した状態から「版離れ」するため、メッシュからのせん断の力の影響を最も受けやすいと考えられます。このため、「版離れ」直後は、メッシュ開口部を通り抜け基材上に転移したインキは、凹凸の形状になり、その後、時間経過でレベリングすると考えられます。レベリングを進行させる力は、図1のように印刷されたインキの自らの表面積を小さくするような力であると考えられます。インキの弾性特性が高いと、表面積を小さくする力が大きくなると考えられます。
 
  スクリーン印刷 図1. ベタパターンのレベリングでの力
 
 「版離れ」直後の凹凸の大きさは、スクリーンメッシュの線材の太さに影響を受け、印刷膜厚は、スクリーンメッシュの開口率と厚さに影響を受けます。レベリングを進行させる力に対し、押し留める力は、印刷膜厚に反比例して大きくなります。つまり、印刷膜厚が薄いほどレベリングが進行しにくくなるという事です。
 
 図2は、同じ線径でメッシュ厚みが異なる3種類のステンレス250メッシュの外観です。線径が同じであるため、印刷直後の凸凹の大きさは同じと考えらえますが、印刷膜厚が異なります。つまり、メッシュ厚が厚い3Dメッシュよりもメッシュ厚が薄いカレンダーメッシュの方が、レベリングが進行しにくくなるという事です。
 
 スクリーン印刷
 図2. 同一線径メッシュでの織り方よるメッシュ厚の違い
 
 また、ポリエステルメッシュは、ステンレスメッシュに比べて同じメッシュ数でも線径が太いのが一般的です。さらにポリエステル線材は、織り工程で線材が扁平するため線材の幅がカタログ値よりも約20%太くなり、開口率も小さくなります。さらに、メッシュ厚も薄いため、レベリング性が低くなります。つまり、同一のインキで、レベリング性を向上させたいときには、ポリエステルメッシュでなく、ステンレスメッシュを使用するほうが有効だという事です。
 
 よりレベリング性を高くするためには、3Dメッシュ又は、開口率が高いステンレスメッシュを使用してください。強度が高いメッシュで、クリアランスを大きくして、速いスキージ速度で印刷して、「版離れ」の際のせん断速度を高くすることでレベリング性を向上させることが出来ます。
 

2. スクリーン印刷:ファインラインでの形状保持性

 
 100μmのラインパターンでは、スクリーン版の乳剤が基材に接触するためメッシュは基材には接触しません。図3のように乳剤に囲まれた開口部に充てんされたインキが基材に接触して「版離れ」されることで、基材上に転移されます。この時、メッシュ開口部に充てんされたインキの上方部20~30%は、メッシュに残ったまま「版離れ」されます。つまり、乳剤開口部に充てんされ、基材に接触し、転移されたインキは、「版離れ」の際にメッシュからのせん断の力をほとんど受ける事はないという事です。
 
 スクリーン印刷 図3. 100μmラインパターンでのインキ転移
 
 古くからよく言われてきた事ですが、「ファインライン印刷で、ダレないインキは、版離れの際に、メッシュのせん断の力を受け一瞬で粘度が下がり、基材上で、一瞬で粘度が上昇し形状を保持する」という考えは、間違いです。
 
 ファインライン印刷では、インキ...

 

【関連解説:印刷技術】

 高品質スクリーン印刷の実践を目的とする皆様の標となるように、論理的で整合性のある解説を心掛けたいと思います。前回のその13に続いて解説します。
 

1. スクリーン印刷:レベリング又は形状保持のメカニズム

 
 「版離れ」後、基材上に転移されたインキ・ペーストは、一定時間経過で、レベリング又は、形状を保持します。通常、印刷結果として観察できるのは、このレベリング又は形状保持のメカニズムが終了した後です。レベリングは、インキ・ペーストの性状よっては、数分以上の時間がかかることもあります。
 
 スクリーン印刷は、スクリーン版のメッシュ開口部をインキが変形しながら通り抜け、基材の上に転移する際に、水平方向に流動するものです。ベタパターンでは、スクリーンメッシュが基材に接触した状態から「版離れ」するため、メッシュからのせん断の力の影響を最も受けやすいと考えられます。このため、「版離れ」直後は、メッシュ開口部を通り抜け基材上に転移したインキは、凹凸の形状になり、その後、時間経過でレベリングすると考えられます。レベリングを進行させる力は、図1のように印刷されたインキの自らの表面積を小さくするような力であると考えられます。インキの弾性特性が高いと、表面積を小さくする力が大きくなると考えられます。
 
  スクリーン印刷 図1. ベタパターンのレベリングでの力
 
 「版離れ」直後の凹凸の大きさは、スクリーンメッシュの線材の太さに影響を受け、印刷膜厚は、スクリーンメッシュの開口率と厚さに影響を受けます。レベリングを進行させる力に対し、押し留める力は、印刷膜厚に反比例して大きくなります。つまり、印刷膜厚が薄いほどレベリングが進行しにくくなるという事です。
 
 図2は、同じ線径でメッシュ厚みが異なる3種類のステンレス250メッシュの外観です。線径が同じであるため、印刷直後の凸凹の大きさは同じと考えらえますが、印刷膜厚が異なります。つまり、メッシュ厚が厚い3Dメッシュよりもメッシュ厚が薄いカレンダーメッシュの方が、レベリングが進行しにくくなるという事です。
 
 スクリーン印刷
 図2. 同一線径メッシュでの織り方よるメッシュ厚の違い
 
 また、ポリエステルメッシュは、ステンレスメッシュに比べて同じメッシュ数でも線径が太いのが一般的です。さらにポリエステル線材は、織り工程で線材が扁平するため線材の幅がカタログ値よりも約20%太くなり、開口率も小さくなります。さらに、メッシュ厚も薄いため、レベリング性が低くなります。つまり、同一のインキで、レベリング性を向上させたいときには、ポリエステルメッシュでなく、ステンレスメッシュを使用するほうが有効だという事です。
 
 よりレベリング性を高くするためには、3Dメッシュ又は、開口率が高いステンレスメッシュを使用してください。強度が高いメッシュで、クリアランスを大きくして、速いスキージ速度で印刷して、「版離れ」の際のせん断速度を高くすることでレベリング性を向上させることが出来ます。
 

2. スクリーン印刷:ファインラインでの形状保持性

 
 100μmのラインパターンでは、スクリーン版の乳剤が基材に接触するためメッシュは基材には接触しません。図3のように乳剤に囲まれた開口部に充てんされたインキが基材に接触して「版離れ」されることで、基材上に転移されます。この時、メッシュ開口部に充てんされたインキの上方部20~30%は、メッシュに残ったまま「版離れ」されます。つまり、乳剤開口部に充てんされ、基材に接触し、転移されたインキは、「版離れ」の際にメッシュからのせん断の力をほとんど受ける事はないという事です。
 
 スクリーン印刷 図3. 100μmラインパターンでのインキ転移
 
 古くからよく言われてきた事ですが、「ファインライン印刷で、ダレないインキは、版離れの際に、メッシュのせん断の力を受け一瞬で粘度が下がり、基材上で、一瞬で粘度が上昇し形状を保持する」という考えは、間違いです。
 
 ファインライン印刷では、インキは、殆どせん断の力を受ける事はありません。乳剤開口部に充てんされたインキが基材表面に密着し、「版離れ」により、そのままの形状で転移されるものです。一瞬で粘度が下がり、一瞬で粘度が上がるインキの性状では、形状を保持することはできません。また、このようなインキは、レベリングが進行しないため、ベタパターン部ではメッシュ痕が大きく残ります。
 
 ベタパターンで、レベリング性能が高いインキとは、流動性が高く(粘度が低い)弾性特性が高いものです。ファインラインで形状保持性が高いインキとは、高粘度で弾性特性が高い、つまり高粘弾性のものです。なお、良好なレベリングや形状保持のためには、インキは、基材に対して良好な濡れ性を有する必要があります。
  

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この記事の著者

佐野 康

明確なスクリーン印刷理論を用い、納得できる具体的手法により、エレクトロニクスのみならず全ての分野の高品質スクリーン印刷技術の実践をお手伝いします。

明確なスクリーン印刷理論を用い、納得できる具体的手法により、エレクトロニクスのみならず全ての分野の高品質スクリーン印刷技術の実践をお手伝いします。


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