儲かる現場づくりとは:現場改善のヒント(その1)

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【改善のヒント連載目次】

 

◆ 改善にコストは掛からない

1. 意識して、観察する

 普段の業務で「多分」とか「だろう」という思い込みから物事を判断していたため「実は何も事実を知らなかった」という経験をされた方々もいらっしゃるかと思います。例えば「私は現場をよく知っている」と話しながら、知っていたことは机上のパソコンに記録されているデータのみで、現場の声や状況などについては把握していなかった、といったケースです。積極的に現場に足を運ばないと的確な判断ができないばかりか、適切な改善もできなくなります。やったことは良かったが、的が外れて結果が出なくなり、雰囲気だけでなく人間関係にも悪影響を与えてしまいます。結果を出さないことには、仕事になりません。

 直接部門だけでなく間接部門も含めて、付加価値を生まない仕事を見つけるにはどうしたらよいでしょうか。問題点を解決するためには、事実をつかむことです。「なぜなぜ」を5回繰り返す方法もありますが、さらに簡単な手法を用いて誰でも何時(いつ)でも簡単にできる方法を紹介します。ポイントは「意識して、観察する」ということです。なんだ当たり前のことかとお思いでしょうが、真理とはそれほど簡単なことなのです。あまりにも簡単だからこそ気付かなかったのです。

 

2. はじめは、3Sと7つのムダを意識させる

 意識して現場を観察するには「じっくり観察して、すぐに事実を記録する」ことです。その「じっくり」とは、60分が目安です。15~20分ですと短すぎます。被観察者は見られていると少し緊張していますので、普段とは違った作業や動きをみせます。これでは事実をつかむには難しいので、さらに延長していきますと緊張がほぐれ、普段の作業や動きになります。

 「観察する」には、第一に、3S(整理・整頓・清掃)、安全性、作業姿勢の問題など作業環境が適切かどうか。次に、7つのムダ[1]はないか。ということだけまず意識させます。レベルアップしていけば、さらに観察項目が増えていきますが、最初はこれで慣れてもらいましょう。

 「記録する」には、用意するものはA4サイズの用紙、筆記用具、画板そして時計だけです。記憶は年を取るごとに怪しくなってきますので、マメに『記録する』ことが重要です。ビデオも記録ツールですが、すぐに結果を出すことに関しては、良いとはいえません。もう一度再生しなければならないため時間がもったいなく、2回も集中して見られるものではありません。「後で再生するから」と言っても、観察している瞬間の集中力が一番重要なのです。ファインダーを通したものよりも、紙に描いたものを見れば一目瞭然です。自分の手で書くという行為が、非常に『意識』にとっては重要なのです。五感をフル活用することで、感性が研ぎ澄まされるのです。

 被観察者一人について、2人が観察します。役割分担は、一人は歩行の導線図を描きます。もう一人は、作業内容を順番に記入して、さらに時間を記入しますが、まずは分単位で十分です。時計の秒針まで見ていますと、記入作業に集中できません。大体の時間で結構です。ここで大切なルールとして二つ示しますが、観察する時には、絶対に喋(しゃべ)らないこと。事実だけを記入し、絶対に改善案を考えないことです。これも簡単なことですが、実際にやるとなかなかできないものです。ですから観察者を監視する観察者をつけてでも、この二つを確実に実行するのだと冗談でいうくらいにできないものです。しかし、一度やるとその効果が実感できます。一組でなく2組、3組で観察すると、多くの事実を発見し気付くことができます。

 

3. 簡単な手法なのでやってみましょう

 まず観察する時には、被観察者に事前に内容を知らせておきましょう。普段は観察されずに作業していますから、余計に緊張しますので、和やかな雰囲気をつくることが大切です。観察が終れば拍手(はくしゅ)します。このフォローが、後で効きますので忘れないように。被観察者は照れますが、ニコッとします。すぐに導線図の結果を見せて、少しコメントを伝えます。それから一緒に、問題点のまとめと改善案の検討も参加してもらいます。情報を一番持っているのがその本人ですので、普段気付かなかったことを、観察結果を利用して上手くヒアリングしていきます。

(1)問題点のまとめ方

 次に問題点のまとめ方ですが、ここでも少しやり方にルールを設けます。黒板などに問題点を列記しますが、順番に「一人1件ずつしか発言しない」、「問題点だけに集中して、途中に絶対に改善案を出さない」、この二つを遵守します。二巡、三巡して問題点が出なくなったら、待っている人に発言してもらいます。少し面倒なようですが、これがチームとしての「チームワーク」を形成していくのです。一人で全て発言してしまいますと、一気にしらけてしまいます。問題という事実だけを、1件1件列記していくのです。時間的は60分を目安とし、最長75分で切り上げます。それ以上はだらけるだけですので、キビキビやりましょう。

(2)改善案の立案

 最後に改善案の立案ですが、ここまできたら一気に改善案が噴出する如(ごと)く出てきます。不思議ですが全員でじっくり問題点を一つひとつ見てきたので、共有化できてその作業全体が見えるようになり、改善案も一気に出るのでしょう。筆者は、これはビールやワインと同様にある程度の改善案が出るまでの「発酵時間が必要」だと話ています。後は特にルールはありませんので、ワイガヤ式でやってください。時間的には、問題点と同じ配分です。

 出てきた改善案は、大きく二つに区分できます。それは、すぐにできるものとそうでないものです。そこで、すぐできるものをみますと、これも不思議ですが、ほとんどお金の掛からないものやお金の要らないも...

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【改善のヒント連載目次】

 

◆ 改善にコストは掛からない

1. 意識して、観察する

 普段の業務で「多分」とか「だろう」という思い込みから物事を判断していたため「実は何も事実を知らなかった」という経験をされた方々もいらっしゃるかと思います。例えば「私は現場をよく知っている」と話しながら、知っていたことは机上のパソコンに記録されているデータのみで、現場の声や状況などについては把握していなかった、といったケースです。積極的に現場に足を運ばないと的確な判断ができないばかりか、適切な改善もできなくなります。やったことは良かったが、的が外れて結果が出なくなり、雰囲気だけでなく人間関係にも悪影響を与えてしまいます。結果を出さないことには、仕事になりません。

 直接部門だけでなく間接部門も含めて、付加価値を生まない仕事を見つけるにはどうしたらよいでしょうか。問題点を解決するためには、事実をつかむことです。「なぜなぜ」を5回繰り返す方法もありますが、さらに簡単な手法を用いて誰でも何時(いつ)でも簡単にできる方法を紹介します。ポイントは「意識して、観察する」ということです。なんだ当たり前のことかとお思いでしょうが、真理とはそれほど簡単なことなのです。あまりにも簡単だからこそ気付かなかったのです。

 

2. はじめは、3Sと7つのムダを意識させる

 意識して現場を観察するには「じっくり観察して、すぐに事実を記録する」ことです。その「じっくり」とは、60分が目安です。15~20分ですと短すぎます。被観察者は見られていると少し緊張していますので、普段とは違った作業や動きをみせます。これでは事実をつかむには難しいので、さらに延長していきますと緊張がほぐれ、普段の作業や動きになります。

 「観察する」には、第一に、3S(整理・整頓・清掃)、安全性、作業姿勢の問題など作業環境が適切かどうか。次に、7つのムダ[1]はないか。ということだけまず意識させます。レベルアップしていけば、さらに観察項目が増えていきますが、最初はこれで慣れてもらいましょう。

 「記録する」には、用意するものはA4サイズの用紙、筆記用具、画板そして時計だけです。記憶は年を取るごとに怪しくなってきますので、マメに『記録する』ことが重要です。ビデオも記録ツールですが、すぐに結果を出すことに関しては、良いとはいえません。もう一度再生しなければならないため時間がもったいなく、2回も集中して見られるものではありません。「後で再生するから」と言っても、観察している瞬間の集中力が一番重要なのです。ファインダーを通したものよりも、紙に描いたものを見れば一目瞭然です。自分の手で書くという行為が、非常に『意識』にとっては重要なのです。五感をフル活用することで、感性が研ぎ澄まされるのです。

 被観察者一人について、2人が観察します。役割分担は、一人は歩行の導線図を描きます。もう一人は、作業内容を順番に記入して、さらに時間を記入しますが、まずは分単位で十分です。時計の秒針まで見ていますと、記入作業に集中できません。大体の時間で結構です。ここで大切なルールとして二つ示しますが、観察する時には、絶対に喋(しゃべ)らないこと。事実だけを記入し、絶対に改善案を考えないことです。これも簡単なことですが、実際にやるとなかなかできないものです。ですから観察者を監視する観察者をつけてでも、この二つを確実に実行するのだと冗談でいうくらいにできないものです。しかし、一度やるとその効果が実感できます。一組でなく2組、3組で観察すると、多くの事実を発見し気付くことができます。

 

3. 簡単な手法なのでやってみましょう

 まず観察する時には、被観察者に事前に内容を知らせておきましょう。普段は観察されずに作業していますから、余計に緊張しますので、和やかな雰囲気をつくることが大切です。観察が終れば拍手(はくしゅ)します。このフォローが、後で効きますので忘れないように。被観察者は照れますが、ニコッとします。すぐに導線図の結果を見せて、少しコメントを伝えます。それから一緒に、問題点のまとめと改善案の検討も参加してもらいます。情報を一番持っているのがその本人ですので、普段気付かなかったことを、観察結果を利用して上手くヒアリングしていきます。

(1)問題点のまとめ方

 次に問題点のまとめ方ですが、ここでも少しやり方にルールを設けます。黒板などに問題点を列記しますが、順番に「一人1件ずつしか発言しない」、「問題点だけに集中して、途中に絶対に改善案を出さない」、この二つを遵守します。二巡、三巡して問題点が出なくなったら、待っている人に発言してもらいます。少し面倒なようですが、これがチームとしての「チームワーク」を形成していくのです。一人で全て発言してしまいますと、一気にしらけてしまいます。問題という事実だけを、1件1件列記していくのです。時間的は60分を目安とし、最長75分で切り上げます。それ以上はだらけるだけですので、キビキビやりましょう。

(2)改善案の立案

 最後に改善案の立案ですが、ここまできたら一気に改善案が噴出する如(ごと)く出てきます。不思議ですが全員でじっくり問題点を一つひとつ見てきたので、共有化できてその作業全体が見えるようになり、改善案も一気に出るのでしょう。筆者は、これはビールやワインと同様にある程度の改善案が出るまでの「発酵時間が必要」だと話ています。後は特にルールはありませんので、ワイガヤ式でやってください。時間的には、問題点と同じ配分です。

 出てきた改善案は、大きく二つに区分できます。それは、すぐにできるものとそうでないものです。そこで、すぐできるものをみますと、これも不思議ですが、ほとんどお金の掛からないものやお金の要らないものがなんと、8~9割もあるのです。これらは日数的には、1~3日でできるものです。お金や時間が掛からないから、すぐにできます。やればすぐ結果も出ますので、すぐ評価もできて次の案も出やすくなります。トータルの時間として、短い場合は半日でもやっており、1~3日間のワークショップ方式で、すぐやる改善として取り組み、効果を上げています。付け加えるならば、できるだけ他の部門の人に観察をさせると非常に面白い効果が出ますが、これも岡目八目的効果です。多くのところで前後工程、直接と間接、仕入先など色々とシャッフルさせて、意識を目覚めさせるように仕向けています。

 

4.効果はどれくらい?

 以上の方法で実践してきました。組立では、生産性が1.3倍~3倍の結果を出すことができています。 今まで何をやってきたのかと自己嫌悪に陥るかとお思いでしょうが、心配要りません。『人を責めないで、やり方を攻める』ようにと、話をしておけばよいのです。儲(もう)けるとは、人を信じると書きます。儲かる現場づくりを簡単な方法で、まずやってみましょう。

 

【用語解説】[1]:7つのムダ

  1. つくり過ぎのムダ
  2. 在庫のムダ
  3. 運搬のムダ
  4. 不良をつくるムダ
  5. 加工そのもののムダ
  6. 動作のムダ
  7. 手待ちのムダ

 

 次回に続きます。

 【出典】株式会社 SMC HPより、筆者のご承諾により編集して掲載

 

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この記事の著者

松田 龍太郎

見えないコトを見えるようにする現場改善コンサルタント。ユーモアと笑顔をセットにして、元氣一杯に現地現物での指導を心がける。難しいことはわかりやすく、例え話や事例を用いながら解説し、納得してもらえるように楽しく動機付けを行います。

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