MTシステム超入門(その19)

投稿日

1.ばらつきに注目すると低コスト化の方法が見えてくる

 「まずはばらつきを減らそう」から始める。それがタグチメソッドにおける低コスト化への入り口です。 使う場所の温度や湿度が変わっても、ユーザの使い方がいろいろでも、機能や品質にばらつきが生じない設計がコンセプトです。 開発に当たっては、わざとばらつく原因を与えます。それに一番堪えた設計が「一番良い設計」です。

 

2.コストは品質より重要

 このサブタイトルについては、多くの方が「???」と感じるでしょう。

 固体燃料ロケットは、2006年で打上げ終了となったのですが、その理由はコストが高かったことです。品質や性能は世界でも群を抜いていましたが、他国の低価格ロケットが12~20億円に対して、日本は75億円です。これではビジネスになりません。「顧客がお金を払う気になる価格でなければ、宝の持ち腐れ」です。

 JAXAの低コスト化(イプシロンロケット)に関する日経産業新聞(10月4日)の記事をご紹介します。 ・・・「技術水準が高く良質な製品ならば受け入れられるはずだ」という発想を捨て、通信会社などロケット打上げ発注者の要望を優先する姿勢に変わった。「顧客第一主義」への転換だ・・・

 太陽光発電も日本の技術が世界一ではありますが、コストで劣るため、顧客に十分届いているとは言えません。「購入され、使われてこそ顧客に利益を提供できる」のですから、何よりコストが重要なのです。これに応えることが、製品開発に当たる技術者の宿命です。

 タグチメソッドが目指しているのは、(1)競合品に対する品質を維持しながら、コストを下げる手法 、(2)向上した品質を低コスト化に振り向ける方法、 を提示することです。

「そんなうまいやり方」があれば良いですね。以降で、さわりを説明します。

 

3.良さ悪さの数値化

 世の中のあらゆることは数値で評価されます。「なんでも鑑定団」では、骨董品に値段という数値が付けられますね。本人にとって大切かどうかではなく、本物であるかとかレアかどうかなどの客観評価で...

 ものまねや歌のうまさも点数化され、視聴者はその数値に興味を持ちます。野球選手も年棒という数値で貢献度や期待度が評価されます。 我々も小学校のころから、テストの点数や通信簿の数字という逃げることのできない数値に一喜一憂していました。

 何が根拠になっていようとも、良さ悪さは数値化しないと“甲乙つけがたい”ことになりますし、それは好き嫌いの問題ではないでしょう。

 筆者はときどきゴルフをしますが、スコアを気にするとストレス発散になりません。思い切りクラブを振り、歩く。そのことだけを楽しみたいと思いつつ、やはりスコアに一喜一憂してしまいます...。この世の中で数値に頼らず済む事柄はないのでしょうか。

 

4.品質の測り方

 なんでも鑑定団、野球選手の年棒、学校の成績...これらがすべて数値で表現され、その数値が(やむを得ず)良さ悪さの指標になっているわけですが、製品の品質は数値化できるでしょうか。

 ここで、あなたが電器店で掃除機を購入する場面を想像してみてください。目の前にはダイソンの掃除機、向こう側には他メーカの掃除機があるとします。価格はそれぞれ8万円と3万円で、カタログ仕様は同等とします。あなたは、この5万円の差をどう考えるで...

1.ばらつきに注目すると低コスト化の方法が見えてくる

 「まずはばらつきを減らそう」から始める。それがタグチメソッドにおける低コスト化への入り口です。 使う場所の温度や湿度が変わっても、ユーザの使い方がいろいろでも、機能や品質にばらつきが生じない設計がコンセプトです。 開発に当たっては、わざとばらつく原因を与えます。それに一番堪えた設計が「一番良い設計」です。

 

2.コストは品質より重要

 このサブタイトルについては、多くの方が「???」と感じるでしょう。

 固体燃料ロケットは、2006年で打上げ終了となったのですが、その理由はコストが高かったことです。品質や性能は世界でも群を抜いていましたが、他国の低価格ロケットが12~20億円に対して、日本は75億円です。これではビジネスになりません。「顧客がお金を払う気になる価格でなければ、宝の持ち腐れ」です。

 JAXAの低コスト化(イプシロンロケット)に関する日経産業新聞(10月4日)の記事をご紹介します。 ・・・「技術水準が高く良質な製品ならば受け入れられるはずだ」という発想を捨て、通信会社などロケット打上げ発注者の要望を優先する姿勢に変わった。「顧客第一主義」への転換だ・・・

 太陽光発電も日本の技術が世界一ではありますが、コストで劣るため、顧客に十分届いているとは言えません。「購入され、使われてこそ顧客に利益を提供できる」のですから、何よりコストが重要なのです。これに応えることが、製品開発に当たる技術者の宿命です。

 タグチメソッドが目指しているのは、(1)競合品に対する品質を維持しながら、コストを下げる手法 、(2)向上した品質を低コスト化に振り向ける方法、 を提示することです。

「そんなうまいやり方」があれば良いですね。以降で、さわりを説明します。

 

3.良さ悪さの数値化

 世の中のあらゆることは数値で評価されます。「なんでも鑑定団」では、骨董品に値段という数値が付けられますね。本人にとって大切かどうかではなく、本物であるかとかレアかどうかなどの客観評価で...

 ものまねや歌のうまさも点数化され、視聴者はその数値に興味を持ちます。野球選手も年棒という数値で貢献度や期待度が評価されます。 我々も小学校のころから、テストの点数や通信簿の数字という逃げることのできない数値に一喜一憂していました。

 何が根拠になっていようとも、良さ悪さは数値化しないと“甲乙つけがたい”ことになりますし、それは好き嫌いの問題ではないでしょう。

 筆者はときどきゴルフをしますが、スコアを気にするとストレス発散になりません。思い切りクラブを振り、歩く。そのことだけを楽しみたいと思いつつ、やはりスコアに一喜一憂してしまいます...。この世の中で数値に頼らず済む事柄はないのでしょうか。

 

4.品質の測り方

 なんでも鑑定団、野球選手の年棒、学校の成績...これらがすべて数値で表現され、その数値が(やむを得ず)良さ悪さの指標になっているわけですが、製品の品質は数値化できるでしょうか。

 ここで、あなたが電器店で掃除機を購入する場面を想像してみてください。目の前にはダイソンの掃除機、向こう側には他メーカの掃除機があるとします。価格はそれぞれ8万円と3万円で、カタログ仕様は同等とします。あなたは、この5万円の差をどう考えるでしょう?それから、もし店員さんが「今ならダイソンを5万円にします」と言ったら、どうするでしょう? 差が5万円なら買わないけれども、2万円なら買うということになるかもしれません。カタログ仕様が同じなのに、ダイソンという信用力や評判に2万円以上の対価を支払うということはどういう意味を持つのでしょうか。また、差が5万円ならダイソンを選ばないとするなら、どういう意味なのでしょうか。 これは、ダイソンの品質(あるいはブランド)に対して、あなたが2万円~5万円の評価を与えているということになりませんか。

 T先生は品質の良否を「計測可能」とするために、金額という数値を与えることが適切、という回答を出しました。前述のとおり、ほとんどの人が知らずしらずのうちに金額で数値化していることを、技術的に妥当な方法で定義したのです。

   続きを読むには・・・


この記事の著者

手島 昌一

データ解析やパターン認識をしてみたいけれど難しそう、と考えていませんか? MTシステムは“分かった”,“使える”への最適解です。

データ解析やパターン認識をしてみたいけれど難しそう、と考えていませんか? MTシステムは“分かった”,“使える”への最適解です。


「損失関数/許容差設計」の他のキーワード解説記事

もっと見る
許容差設計と許容差の決め方【後編】

【前篇】より続いています。 1.4 組立品の許容差設計  組立品の許容差設計は,部品特性xの出力yに対する影響度の関係を,一つ一つの部品について調べれ...

【前篇】より続いています。 1.4 組立品の許容差設計  組立品の許容差設計は,部品特性xの出力yに対する影響度の関係を,一つ一つの部品について調べれ...


技術は経済学、技術者はクリエイター、-原発事故から技術の方向を考える-

1.福島第一原発の衝撃  2011年に発生した福島第一原発の衝撃的な事故は、日本の技術者に重い課題を提示しました。予想を超える地震とそれに伴う大津波、そ...

1.福島第一原発の衝撃  2011年に発生した福島第一原発の衝撃的な事故は、日本の技術者に重い課題を提示しました。予想を超える地震とそれに伴う大津波、そ...


許容差設計と許容差の決め方【前編】

はじめに  パラメータ設計の後で,製造で問題が起こらないように,図面寸法やスペックの公差を決める許容差設計と許容差の決め方を解説します。これはまた,材料...

はじめに  パラメータ設計の後で,製造で問題が起こらないように,図面寸法やスペックの公差を決める許容差設計と許容差の決め方を解説します。これはまた,材料...


「損失関数/許容差設計」の活用事例

もっと見る
フォトカプラのコストダウンと市場トラブル防止を同時に達成した事例

2007年の品質工学会研究発表大会で株式会社ナナオの中西貴志さんが発表した「フォトカプラの機能性評価」の概要を掲載します。   1.はじめに  電子...

2007年の品質工学会研究発表大会で株式会社ナナオの中西貴志さんが発表した「フォトカプラの機能性評価」の概要を掲載します。   1.はじめに  電子...


「安全設計」の重要性:照明器具落下による死亡事故の事例

 品質工学では、重要な二つのことを提案しています。  一つは「ロバスト設計と許容差設計」であり、もう一つは「安全設計」です。ロバスト設計と許容差設計は、...

 品質工学では、重要な二つのことを提案しています。  一つは「ロバスト設計と許容差設計」であり、もう一つは「安全設計」です。ロバスト設計と許容差設計は、...


プレス加工の条件を最適化し大幅なコストダウンを達成した事例

 2000年の品質工学会研究発表大会で株式会社三琇ファインツールの白塚山覚さんが発表した「プレス深絞りの最適化」の概要を紹介します。 従業員100名に満た...

 2000年の品質工学会研究発表大会で株式会社三琇ファインツールの白塚山覚さんが発表した「プレス深絞りの最適化」の概要を紹介します。 従業員100名に満た...