「安全設計」の重要性:照明器具落下による死亡事故の事例

 品質工学では、重要な二つのことを提案しています。

 一つは「ロバスト設計と許容差設計」であり、もう一つは「安全設計」です。ロバスト設計と許容差設計は、開発設計段階で、機能・性能が市場におけるノイズに強い最適設計を行うことですから、短時間に市場における品質とコストで信頼性を改善できる手法です。

 もう一つの「安全設計」は、いくらロバスト設計で信頼性を高めても、人間の寿命と同じで、機能が停止する事はあるという考えです。機能を停止した段階で、いかに安楽死させるかが大切なのです。航空機でも離着陸の間で必ず事故が起こるとして人間の生死を考えた「安全設計」を行うことが大切ですし、原発事故も必ず起こると考えて、最悪の事態を想定して、機能が完全に停止するまでの安全対策を行うことが必要なのです。

 「安全設計とは、事故が起きた時被害が最小になるような設計を行うこと」と品質工学では定義します。安全設計は、ロバストネスの信頼性設計とは全く違うことを強く認識することが大切です。

 

具体的な事例で安全設計を説明します。

 事例:1988年1月5日に東京のあるディスコで,1.6tfの重量の照明器具が落ちて3名の青年が死亡し、数人が怪我をしました。装置は6本のワイヤーで吊り下げられ、自由に伸びるようになっていました。上下に動かすチェーンが切れて落下したのです。

 チェーンの引張強さは3.2tf/本で、価格は15万円であり、2本のチェーンを用いていました。安全設計をした場合としない場合の品質評価をしてみます。

 評価特性は「望大特性(大きければ大きいほどよい)」であるので、損失関数は L=A002/y2 を適用します。

 照明器具の安全率を4として、1.6×4=6.4tfの重量に耐えるように、2本のチェーンを用いて y=2×3.2=6.4tf で設計していました。

 

安全設計なしの場合

 人命の損失を1.55億円/人とし、照明装置の下にいる人数を平均6人とすれば、機能限界Δ0=1.6tfを越えた時の損失は、A0=1.55×6=9.3億円となります。

 また、実際は2本のチェーンで、価格が30万円ですから
損失はL=93000×1.62/y2(万円)=93000×1.62/6.42=5812万円

 よってチェーン価格との合計損失は 5812+30=5842万円 です。

 それに対して、安全設計を行った場合には下記のようになります。

安全設計をした場合

 安全設計として,ワイヤーの長さを短くして,チェーンが切れても装置が人間の頭上で止まるようにします。この場合のA0=200万円の修理費用で済みます。

したがって、損失は L=200×1.62/y2=200×1.62/6.42=12.5万円

であり、チェーン価格との合計損失は 12.5+30=42.5万円 になります。

 

安全設計を行った結果、チェーン数は同じ2本でもワイヤーの長さを変えるだけで、総合損失を 42.5/5842=1/137に小さくできるのです。


この記事の著者

原 和彦

品質工学を通して製品開発、設計の真髄を伝えます

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