【ものづくりの現場から】創業100年の家具工場が取り組む技術の継承(飛騨職人学舎)

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図1、技術教育の様子

 

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ものづくりを現場視点で理解する「シリーズ『ものづくりの現場から』」では、現場の課題や課題解消に向けた現場の取り組みについて取材し、ものづくり発展に役立つ情報をお届けしています。今回は家具工場が次世代職人への技術技能伝承への取り組みで立ち上げた飛騨職人学舎を紹介します。

 

◉この記事で分かる事
・企業における技術教育の方法論
・テクニック(技術)は教育で、スキル(技能)は実践で習得するもの

 


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1,創業100年の家具製造工場が考えた文化と技術の継承

今回取材した飛騨職人学舎(一般社団法人飛騨職人学舎)は2年制の職人学校。技能と人間力を兼ね備えた木工家具職人の養成に取り組んでいます。

図2、学習目標と学習、修了後のイメージ(学舎サイト化から)

 

最初は徹底した手加工の習得、その後機械加工を習得する流れを取り入れており、取材中も手加工に汗を流す生徒の作業を見る事ができました。指示された作業を何度も繰り返し身体に叩き込む実践教育は、自動化やデジタル化が進む中でよりその重要性が高まっていると学舎の教員からお話しいただきました。

「自動化、機械化から始まると応用が難しくなる。まだ真っ白な段階で基本である手仕事を身に着けたうえで自働化、機械化に取り組むことで、機械やソフトウェアの良いところと人の手作業の利点、生み出す価値を理解した真の生産性に配慮した仕事ができるようになる」との事で、革新的な製造方法の変更や新しい材料、加工機械の登場、DX推進などが今まで以上に求められるこれからの製造業では、工夫や改善を超えた改革ともいえる変化が求められています。変革を起こし、それを業務に落とし込む際に重要になるのは「基本」。基本の重要性は今まで以上に重要になるスキルである事は疑う余地はありません。

 

図3,教室入口(教壇裏には作業に必要な手工具や卒業生の作品が整然と並ぶ)

 

 

徹底した手加工技術(基本)の習得をベースとして機械化、自働化に対応した人材を育てる事は高生産性を担う人材やDX人材の育成にも通じるところであり、業種や業態を超えて参考になる点である。

 


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2、職人学舎で学ぶ若者

授業中の教室での取材を許可頂き、1年生の授業に参加。未来の職人3名が手仕事に取り組んでおり、教員1名に学生3名の非常に恵まれた環境で技術を育む座学と技能の習得に資する実習が行われていた。授業中に我々外部の者が教室に入ると同時に号令と礼が若者側から自主的に行われ、その後、一人づつ自己紹介を頂いた。

 


図4,自己紹介の様子(全員がキビキビとしていたのが印象的)

 

同学舎は毎朝5時のランニングに始まり、恋愛もスマホも禁止の全寮制の教育機関。日曜日もなく盆と正月以外しっかり「職人」を学ぶなかで身に付いた人間力は挨拶や会話、動作にも表れている。また、学舎の朝礼で毎日唱和されている「職人心得三十箇条」を紹介頂いた。作るものが違っても職人共通の、ひいてはものづくり共通の心得であると感じました。

ここに飛騨職人学舎が掲げる「職人心得三十箇条」を紹介します。

 

職人心得三十箇条(飛騨職人学舎)

1.挨拶のできた人から現場に行かせてもらえます。
2.連絡・報告・相談のできる人から現場に行かせてもらえます。
3.明るい人から現場に行かせてもらえます。
4.周りをイライラさせない人から現場に行かせてもらえます。
5.人の言うことを正確に聞ける人から現場に行かせてもらえます。
6.愛想よくできる人から現場に行かせてもらえます。
7.責任を持てる人から現場に行かせてもらえます。
8.返事をきっちりできる人から現場に行かせてもらえます。
9.思いやりがある人から現場に行かせてもらえます。
10.おせっかいな人から現場に行かせてもらえます。
11.しつこい人から現場に行かせてもらえます。
12.時間を気にできる人から現場に行かせてもらえます。
13.道具の整備がいつもされている人から現場に行かせてもらえます。
14.おそうじ、かたづけの上手な人から現場に行かせてもらえます。
15.今の自分の立場が明確な人から現場に行かせてもらえます。
16.前向きに事を考えられる人から現場に行かせてもらえます。
17.感謝のできる人から現場に行かせてもらえます。
18.身だしなみのできている人から現場に行かせてもらえます。
19.お手伝いのできる人から現場に行かせてもらえます。
20.自己紹介ができる人から現場に行かせてもらえます。
21.自慢のできる人から現場に行かせてもらえます。
22.意見が言える人から現場に行かせてもらえます。
23.お手紙をこまめに出せる人から現場に行かせてもらえます。
24.トイレそうじができる人から現場に行かせてもらえます。
25.道具を上手に使える人から現場に行かせてもらえます。
26.電話を上手にかける事ができる人から現場に行かせてもらえます。
27.食べるのが早い人から現場に行かせてもらえます。
28.お金を大事に使える人から現場に行かせてもらえます。
29.そろばんのできる人から現場に行かせてもらえます。
30.レポートがわかりやすい人から現場に行かせてもらえます。


様々なものづくりの現場、人材教育に通じるであろう心得。自社の現場で活用できるのではないだろうか。

 

図5,飛騨職人学舎(公式ホームページより)

 

 

【学舎概要】

・名称 一般社団法人飛騨職人学舎 

・所在:岐阜県高山市 

  HP https://hidasangyo.com/company/craftsman/

 


この記事の著者

大岡 明

改善技術(トヨタ生産方式(TPS)/IE)とIT,先端技術(IoT,IoH,xR,AI)の現場活用を現場実践指導、社内研修で支援しています。

改善技術(トヨタ生産方式(TPS)/IE)とIT,先端技術(IoT,IoH,xR,AI)の現場活用を現場実践指導、社内研修で支援しています。


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