【ものづくりの現場から】中小製造業の事業継承(堀田カーペット)(その1)

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織機

ものづくりを現場視点で理解する「シリーズ『ものづくりの現場から』」では、現場の課題や課題解消に向けた現場の取り組みについて取材し、ものづくり発展に役立つ情報をお届けします。今回は日本有数のカーペットメーカーである堀田カーペット株式会社にうかがいました。

ウィルトン織り ~ 提供価値の本質に着目、事業続ける

この記事で分かること

・変化に対応する製造メーカーの事業について

【企業紹介】

大阪和泉市で三代続く堀田カーペットは、英国発祥のウィルトン織りでのカーペット生産を行う全国でも数少ないカーペットメーカーです。ウィルトン織りは耐久性とデザイン性において、非常に高い評価をされている高級カーペットの代名詞でもある反面、生産効率が低く高コストあることや、フローリングの普及などの影響により、需要が全盛期の100分の1にまで落ち込んでいます。
このような市場環境の中、同社では顧客への提供価値の本質に着目し、事業を行う事で2019年にはバブル以降、過去最高の売り上げを達成するなど成長を続けています。

堀田カーペットの現場

【写真説明】堀田カーペットの現場の様子。幅3.8mのカーペットを織ることができるウィルトン織機のスケールに驚かされます

製造品目、生産設備について

◆カーペット、ラグマット

同社の特徴として、製造設備である織機がウィルトン織機であることが挙げられます。ウィルトン織機は18世紀の産業革命時期に英国で開発されたもので、何日間も織り続け巨大なカーペットを生産します。織りは動力を用いたオートメーションですが、稼働中の材料供給(糸)、運転調整は職工と呼ばれる現場エンジニアの手により行われます。

カーペットとラグマット

【写真説明】カーペット㊧とラグマット(同社公式サイトより)

同社では8台のウィルトン織機が稼働しています。現在、日本国内でウィルトンカーペットを生産する会社は数社しかなく、織機台数も20台程しかありません。また、ウィルトン織機を生産する織機メーカーも国内には存在せず、織機の修理やメンテナンスを自社で行う必要があるため、倉庫には部品のストックを保管するとともに、必要時にはワンオフで部品を作るなど、織機の保全を行っています。

◆ウィルトン織り

ウィルトン織機を使って経糸と横糸によってパイル(カーペット表面の繊維の束)を締め付けて織ってゆく製法。その特徴は繊維の抜けが非常に少なく、複数の色糸を使って緻密(ちみつ)な柄を表現できる事にあります。昔も今も最高級カーペットとして世界中の迎賓館や高級ホテルで採用されています。

◆ウィルトン織機

ウィルトン織機は世界で初めて開発されたカーペット織機です。従来、手織りで生産されていたカーペットが18世紀、産業革命により機械化され、日本では大正時代に織機が輸入され生産が始まりました。織機の名前「ウィルトン」は開発された地域ウィルトン市に由来します。

手間と労力がかかる織機で製造を続ける理由

一口にカーペットと言っても多くの種類があります。同社が製造するウィルトンカーペットは機械織りの中で最も手間と時間、そして熟練の職工が必要となる織物です。現在、市場に流通するカーペット製品の多くは生産効率の高いタフテッド機(織らずに刺す方式)によるものが主流です。ウィルトン織機はタフテッド機の最も効率の良いものに比べ、1/100の量しか織ることができません。それでも同社がウィルトンカーペットを生産する理由は、製品の耐久性と手工品のような風合いが他に代えられないものだからです。

◆生産の流れ

ウィルトンカーペットの生産の流れは素材である糸を作るところから始まります。

図.ウィルトンカーペットの生産工程

今回は糸繰りから出荷の各工程現場を訪問し取材を行いました。
バッタン、バッタンと織機が動く音が響く現場では、織機を中心として多くの職工が持ち場での作業に従事されていました。

工程PickUp ~ 織工が感覚研ぎ澄ませ製織

多くの糸巻きから奥の織機に糸が送られる

【写真説明】多くの糸巻きから奥の織機に糸が送られます

◆段取り工程

糸の供給。無地カーペットでも前工程で準備した糸巻きが1200個必要です。セットはすべて手作業で前に使った糸をはさみで切って新しい糸を結んで行きます。

カーペットの織機

【写真説明】カーペットの織機。セットはすべて手作業で行われます

◆製織工程

ウィルトン織機は「織工(しょっこう)」と呼ばれる職人が、1台に対して1人必ず必要です。織工は目で糸を確認し、耳で織機の音を聞き、感覚を研ぎ澄ませながら製織していきます。一人前の職人になるには10年ほどの年月がかかります。

 【豆知識】
Q.
ウィルトン織機で一日に織れる反物は10m!?
A.カーペットの一反は30mなので一反を織り上げるのに約3日が必要です。

熟練の織工が支えているまさに匠といえる人の技術が支えている現場は、日々それぞれの職工が経験を蓄積し続け、高いレベルの生産を実現しています。

次回は、同社のより良い生産のためのポイントを説明してゆきます。


【インタビューにご協力いただいた方々】

代表取締役・堀田将矢氏㊧と執行役員の正木伸幸氏

代表取締役・堀田将矢氏㊧と執行役員の正木伸幸氏

【会社概要】

堀田カーペット株式会社

・社名 堀田カーペット株式会社
・住所 大阪府和泉市


この記事の著者

大岡 明

改善技術(トヨタ生産方式(TPS)/IE)とIT,先端技術(IoT,IoH,xR,AI)の現場活用を現場実践指導、社内研修で支援しています。

改善技術(トヨタ生産方式(TPS)/IE)とIT,先端技術(IoT,IoH,xR,AI)の現場活用を現場実践指導、社内研修で支援しています。


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