作業環境づくり 作業環境:5S、ムダ(その13)

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 工場の経営者から現場の従業員の方を対象として「作業環境:5S、ムダ」をテーマに連載で解説します。固定観念を打ち崩しながら現場改善に留(とど)まらず、経営革新まで範囲を広げて、改善とは何か、革新とは何かを、目からウロコ的に連載しておりますが、今回はその第13回目となります。

 

◆ 探さなくても分かる現場に ~ “手元化”のススメ

1. 職場も人生も探すムダが多い

 工場内の作業を観察、分析してみますと、どの作業でも治工具や部品、帳票類、文房具などの物探しがあり、それに伴い歩行のムダも発生しています。これらは付加価値を生まない作業で、結果として生産時間がなくなり、慌てて作業する派目になります。挙句の果てに不良を出したり、手直しまですることになり、踏んだり蹴ったりの状態に陥ってしまいます。これを私は「悪魔のサイクル」と呼んでいます。

 そんなムダを理解してもらうために、ちょっとしたデモンストレーションをやっていますので紹介しましょう。

 『目的は「M」という文字を書くことです』と宣言します。ここからホワイトボートのペン受けにあるペンを探します。歩いて行き、ペンを取ります。わざとペン先でない方を取り、そのままボードに「M」と書きます。「あれ?書けない。あっ、そっかっ!」とペンを持ち替えます。そして再び「M」と書きますが、書けません。「あっ、そっかっ!」と再び頭をかきながら、ペン先のキャップを取り外します。

 さらに「M」を書こうとしますが、ペン先が宙に浮いたままにします。紙に接触しないと書けません。「今、ペン先とボードの間の隙間を調整してま~す!」と言って、ようやく「M」の文字を書きます。そしてキャップを戻し、わざとボードのペン受けに投げつけます。ペンは当然跳ねて床に落ちます。そして、拾い上げて腰を叩きながら、ペンをペン受けにそっと置きます。そしてムーンウォークのように後ろ向きで元の位置に戻ります。

 この間は約10秒間ですが「付加価値のある作業はどこですか?」と質問を投げ掛けます。参加者は不思議な顔をしながら「書く」だけ?と頼りない回答をします。「本当に?」と尋ねると、さらに自信をなくすように小さな声になってしまいます。ムダを考えたことがない人は分からないのです。「そうです。書くだけです!」というとホッとされます。

 価値のある書く時間は、1秒にもなりません。全体の1割しか付加価値はないのです。改善の進んでいない職場では、どの作業においても付加価値のある作業は、5~10%しかありません。逆に付加価値のない作業が、90~95%もあるのです。経験上ですが、その内の3割が物探しに費やされています。実は職場だけでなく家庭でも、物探しは多く発生しています。良く考えてみると人生そのものも、意識していないと物探しの人生になってしまい兼ねません。「探すから迷う、迷うから考え込む、考え込むから仕事の時間がなくなってしまう」といった一連の悪循環を断ち切りたいものです。

 

2. 不要な物は徹底して廃除する勇気を

 物探しをなくすためには、探さなくても探せる作業環境をつくることです。そのためには余分なものは一切なくすことです。本当で必要なものだけにして、欲しい物が取り出しやすく、しかも仕舞いやすいように、表示標識とセットにして職場を変えてしまいます。

 やり方は、5Sの整理から始めます。不要な物をなくして廃棄まで行います。「排除」は横にずらすだけであり、また元に戻ってしまいますので、徹底して「廃除」します。「いつか使うかもしれない」という気持ちもあるかと思いますが、残しておくと何時(いつ)まで経っても物は減りません。今の状態から決別する勇気を持つことです。キックオフ大会など、宣言する機会を準備することもよいでしょう。

 どうしてよいか分からないものは、黄色のカードをつけ、保留期間を明示して、別な場所に保管します。その間に使うことがなければ思い切って廃棄します。物が減らないと気持ちの整理ができなくなりますので、ここで勇気を持って取り組みましょう。これは一人では難しいので、職場の仲間と一気に行います。

 まずは身の回りから取り掛かります。作業台、机の上、引き出しから着手します。捨てる前にぜひ、現状の証拠写真を撮影しておきましょう。これは貴重な過去の負の財産として、あとで「笑いのネタ」にしてください。そこで勢いがついたら、周囲の棚やキャビネットに立ち向かいます。これらには扉が付き物ですから、普段は目隠しの役割をしていますので、中が乱雑になってしまいます。

 開けてびっくり玉手箱の状態がほとんどです。いつも見ている人は気づきませんが、第三者を巻き込むと「なんだ?これは!?」とびっくりマークが出てきます。停滞は段々と状態を悪化させ、腐らせていきます。その次は倉庫や受入場、出荷場に進んでいきます。一通り進んでいくと、もう一度振り出しに戻ってレベルアップしていきます。

 

3. 作業の外段取りから、迷い断ち切る

 段取り八分に仕事二分とよくいわれますが、仕事は事前の準備がとても重要です。準備が事前にできていないから、本番になって不足していたものが明らかになり、大慌てで物探しになるものです。その迷いを断ち切るためにも、この作業の外段取りをしっかり実施することです。要は基準を明確にすることです。

 私が行っている簡単なやり方は、チェックリストを作成して消し込む方法です。漏れをなくすことで、物探しをなくします。次に治工具などの小物は、シャドーボード(影絵を描き、少し凹ませて物を入れ込みます)にして、必要な物が一目で確認できるようにします。配置に迷ったら...

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 工場の経営者から現場の従業員の方を対象として「作業環境:5S、ムダ」をテーマに連載で解説します。固定観念を打ち崩しながら現場改善に留(とど)まらず、経営革新まで範囲を広げて、改善とは何か、革新とは何かを、目からウロコ的に連載しておりますが、今回はその第13回目となります。

 

◆ 探さなくても分かる現場に ~ “手元化”のススメ

1. 職場も人生も探すムダが多い

 工場内の作業を観察、分析してみますと、どの作業でも治工具や部品、帳票類、文房具などの物探しがあり、それに伴い歩行のムダも発生しています。これらは付加価値を生まない作業で、結果として生産時間がなくなり、慌てて作業する派目になります。挙句の果てに不良を出したり、手直しまですることになり、踏んだり蹴ったりの状態に陥ってしまいます。これを私は「悪魔のサイクル」と呼んでいます。

 そんなムダを理解してもらうために、ちょっとしたデモンストレーションをやっていますので紹介しましょう。

 『目的は「M」という文字を書くことです』と宣言します。ここからホワイトボートのペン受けにあるペンを探します。歩いて行き、ペンを取ります。わざとペン先でない方を取り、そのままボードに「M」と書きます。「あれ?書けない。あっ、そっかっ!」とペンを持ち替えます。そして再び「M」と書きますが、書けません。「あっ、そっかっ!」と再び頭をかきながら、ペン先のキャップを取り外します。

 さらに「M」を書こうとしますが、ペン先が宙に浮いたままにします。紙に接触しないと書けません。「今、ペン先とボードの間の隙間を調整してま~す!」と言って、ようやく「M」の文字を書きます。そしてキャップを戻し、わざとボードのペン受けに投げつけます。ペンは当然跳ねて床に落ちます。そして、拾い上げて腰を叩きながら、ペンをペン受けにそっと置きます。そしてムーンウォークのように後ろ向きで元の位置に戻ります。

 この間は約10秒間ですが「付加価値のある作業はどこですか?」と質問を投げ掛けます。参加者は不思議な顔をしながら「書く」だけ?と頼りない回答をします。「本当に?」と尋ねると、さらに自信をなくすように小さな声になってしまいます。ムダを考えたことがない人は分からないのです。「そうです。書くだけです!」というとホッとされます。

 価値のある書く時間は、1秒にもなりません。全体の1割しか付加価値はないのです。改善の進んでいない職場では、どの作業においても付加価値のある作業は、5~10%しかありません。逆に付加価値のない作業が、90~95%もあるのです。経験上ですが、その内の3割が物探しに費やされています。実は職場だけでなく家庭でも、物探しは多く発生しています。良く考えてみると人生そのものも、意識していないと物探しの人生になってしまい兼ねません。「探すから迷う、迷うから考え込む、考え込むから仕事の時間がなくなってしまう」といった一連の悪循環を断ち切りたいものです。

 

2. 不要な物は徹底して廃除する勇気を

 物探しをなくすためには、探さなくても探せる作業環境をつくることです。そのためには余分なものは一切なくすことです。本当で必要なものだけにして、欲しい物が取り出しやすく、しかも仕舞いやすいように、表示標識とセットにして職場を変えてしまいます。

 やり方は、5Sの整理から始めます。不要な物をなくして廃棄まで行います。「排除」は横にずらすだけであり、また元に戻ってしまいますので、徹底して「廃除」します。「いつか使うかもしれない」という気持ちもあるかと思いますが、残しておくと何時(いつ)まで経っても物は減りません。今の状態から決別する勇気を持つことです。キックオフ大会など、宣言する機会を準備することもよいでしょう。

 どうしてよいか分からないものは、黄色のカードをつけ、保留期間を明示して、別な場所に保管します。その間に使うことがなければ思い切って廃棄します。物が減らないと気持ちの整理ができなくなりますので、ここで勇気を持って取り組みましょう。これは一人では難しいので、職場の仲間と一気に行います。

 まずは身の回りから取り掛かります。作業台、机の上、引き出しから着手します。捨てる前にぜひ、現状の証拠写真を撮影しておきましょう。これは貴重な過去の負の財産として、あとで「笑いのネタ」にしてください。そこで勢いがついたら、周囲の棚やキャビネットに立ち向かいます。これらには扉が付き物ですから、普段は目隠しの役割をしていますので、中が乱雑になってしまいます。

 開けてびっくり玉手箱の状態がほとんどです。いつも見ている人は気づきませんが、第三者を巻き込むと「なんだ?これは!?」とびっくりマークが出てきます。停滞は段々と状態を悪化させ、腐らせていきます。その次は倉庫や受入場、出荷場に進んでいきます。一通り進んでいくと、もう一度振り出しに戻ってレベルアップしていきます。

 

3. 作業の外段取りから、迷い断ち切る

 段取り八分に仕事二分とよくいわれますが、仕事は事前の準備がとても重要です。準備が事前にできていないから、本番になって不足していたものが明らかになり、大慌てで物探しになるものです。その迷いを断ち切るためにも、この作業の外段取りをしっかり実施することです。要は基準を明確にすることです。

 私が行っている簡単なやり方は、チェックリストを作成して消し込む方法です。漏れをなくすことで、物探しをなくします。次に治工具などの小物は、シャドーボード(影絵を描き、少し凹ませて物を入れ込みます)にして、必要な物が一目で確認できるようにします。配置に迷ったら、ビニールシートの下に紙を敷いて治工具の絵を描いて、シミュレーションしてベストな位置を探します。写真をラミネートすると、物と位置が明確になり、戻す意識が随分養われます。

 次に棚やキャビネットの扉については、中が一目で見えるように外してしまいます。保管が必要な場合は、扉をくり抜き、アクリル板をはめ込み中が見えるようにします。さらに保管するものは、置き場を決めてシャドーボードに収納します。表示標識も合わせてセットします。

 さらに物の保管状態が定着していくと、棚もキャビネットをなくして台車やオカモチに置き換え、手元化[1]します。「いつでもできる」と思っていては、結局できないものです。「やる!」と宣言し、着手し始める勇気を持ちたいものです。体験的にも、着手してしまうと半分はできたといえますので、まずやってみることです。

 仕事が終われば、すべてを元の位置に戻します。物を探さなくなるとストレスもなくなり、すぐに効率の良い仕事ができるようになっていきます。

 

 【用語解説[1]手元化:トヨタ生産方式用語。レンチなど普段使う工具だけを近くに置き、歩行や移動などにかかる時間のムダを省くこと。

 【出典】株式会社 SMC HPより、筆者のご承諾により編集して掲載

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この記事の著者

松田 龍太郎

見えないコトを見えるようにする現場改善コンサルタント。ユーモアと笑顔をセットにして、元氣一杯に現地現物での指導を心がける。難しいことはわかりやすく、例え話や事例を用いながら解説し、納得してもらえるように楽しく動機付けを行います。

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