ヒューマンエラーの防止 作業環境:5S、ムダ(その10)

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生産マネジメント

 

 工場の経営者から現場の従業員の方を対象として「作業環境:5S、ムダ」をテーマに連載で解説します。固定観念を打ち崩しながら現場改善に留(とど)まらず、経営革新まで範囲を広げて、改善とは何か、革新とは何かを、目からウロコ的に連載しておりますが、今回はその第10回目となります。

 

◆ “ヒューマンエラーゼロ”は規律づくりから


1. ヒューマンエラーはいつでもどこでも発生する

 ヒューマンエラーは「つい、うっかり隣のボタンを押してしまった」、「ぼんやりしていたため、ドアにぶつかってしまった」、「慌てていたので逆さまにしてしまった」、「それはあの事かと早とちりしてしまった」、「メモを書いたがそのメモをなくした」、「ここに置いたつもりだが、どこに置いたか思い出せない」など、身の回りや自分自身に当てはめても、毎日のように胸に手を当てると該当することばかりです。

 ヒューマンエラーの定義は「事故のきっかけになる人間の間違い」とされています。別な言い方では「やるべきことが決まっているのに、それをしなかったり、しなくてもよいことをしてしまう」ことになりますが、いずれにしても自分の意に反して「ありゃりゃ、またやってしまった!」ということです。

 ヒューマンエラーの種類は、主に3つあります。

  • スリップは、つい手が滑った → キーボードの「@」のキーの隣の「P」を押してしまったというもの。
  • ミステイクは、思い込み、早とちり、間違ったやり方で解釈する、本質とは異なる解釈をする。→ つもり、多分、こうだろうと自分勝手に思い込んでいた。
  • 失念は、忘れる、ボケ(著者は最近よく感じるので、メモをいつも携帯)→ 思い出せないでいつも探している。というものです。

 ついでにエラー、ミス、失敗についても記述しておきます。「エラー」とは、過失、誤り、間違い、うっかりというものです。「ミス」とは、し損なう、原因は何であれできなかったこと。「失敗」は、結果が上手くいかなかったことに区分できます。いずれにせよ、人間というものはミスを犯すのが大前提として考えて、それをいかに少なくして、なくすかが企業で働く人の大切な課題でもあります。

 よく考えてみますと、いずれも人的要因がほとんどのことなのです。ヒューマンエラーの現象は実に多くあり複雑に絡むことが多く、分類や分析をしてもなかなか原因を掴(つか)むことも難しくなってきています。机上で議論をしても、本質的な問題は解決しないのです。問題解決は、やはり現地現物を相手に取り組むことです。それこそ分類や分析すること自体がムダと考えます。それよりも「このようにやれば再発防止ができそうなので、すぐにやってみよう」という姿勢の方が大切だと考えます。解決策を検討するというより、現場で試行錯誤しながらでも、いかに早くヒューマンエラーをなくして災害や事故をなくすかが重要です。

 

2. 主因は規律の乱れ

 ヒューマンエラーを調べてみますと、99%は本当に取るに足らないことの積み重ねで発生しているものです。故意や過失といったものは1%しかありません。なぜ気付かなかったといわれると、些細(ささい)なことゆえに見逃していたと考えます。たわいのない小さなことが積み重なって、ある瞬間に事故になっていたのです。事故の本質は、このように手遅れになってやってしまったことですが、言い換えますと「あとの祭り」の状態です。あの時もう少しこうすればよかったというもので、ちょっとしたことばかりだと思います。

 「事故にならなくてああよかった」と胸をなでおろして終わりではなく、その貴重な体験つまり「ヒヤリ・ハット」を二度と繰り返さないように共有化して、教訓として積極的に活用したいものです。結果オーライでは、また事故や災害を繰り返すだけです。ところで毎年労働災害で亡くなっている方の数をご存じですか。昭和40年代の高度成長期は、4000人以上でした。余り表沙汰(おもてざた)にはなっていませんが、現在は全国で1000人ともいわれています。交通事故は年々減少していますが、労働災害は余り減っていません。

 ほんのちょっとのことでヒューマンエラーは発生するものですが、小さなヒューマンエラーもテコのように大きな事故を引き起こすことがあります。

 

 株やデータなどの情報系のミス、重機や大型プレスなどの操作ミスなど、一人の小さな人間ですが、扱う量や大きさは以前に比べ大きくなってきています。「電話一本で会社が潰れた!」、「一言余計なことを言ったため取引停止になった!」、「操作ボタンを間違えて大型プレスが動いてしまった!」など、ちょっとのことでも被害は甚大になります。

 私たちの働く職場で起こる規律の乱れが作業環境の劣化になり、ヒューマンエラーを誘発していると考えます。凡事徹底(ぼんじてってい)は永遠のテーマだといえますが、やはり基本動作は毎日の5S活動にあると考えます。5S活動で職場の規律を上げていくことが、些細な、そして小さなヒューマンエラーの要因を一つずつ撲滅していくのです。始業時のラジオ体操しかりですが、チンタラ体操は事故発生の兆候だと考えます。上司は社員の前に立って体操しますが、顔色だけでなくシャキッと体操しているかについても見極めるべきと思います。この規律の乱れの責任は、上司やトップにあると考えます。

 

3. 規律を高めることで、ヒューマンエラーは減少する

 人間のやることなのでゼロとはいきませんが、狙うのはヒューマンエラーゼロです。まずは少なくしてからなくしてくというステップを踏みたいと考えます。著者のスローガンは「安全で、楽に、しかも楽しい職場作りを目指しましょう」としています。まず安全な職場が確保されて、品質や生産性を求めることができます。さらに「工場はショールームに!」というものです。時々生産性第一のような工場が見受けられるのは残念です。

 それでは、撲滅の考え方を紹介します。

(1)作業環境の整備

 見過ごしていた安全教育は、最もハイリターンな投資と考えます。5S活動のうち...

生産マネジメント

 

 工場の経営者から現場の従業員の方を対象として「作業環境:5S、ムダ」をテーマに連載で解説します。固定観念を打ち崩しながら現場改善に留(とど)まらず、経営革新まで範囲を広げて、改善とは何か、革新とは何かを、目からウロコ的に連載しておりますが、今回はその第10回目となります。

 

◆ “ヒューマンエラーゼロ”は規律づくりから


1. ヒューマンエラーはいつでもどこでも発生する

 ヒューマンエラーは「つい、うっかり隣のボタンを押してしまった」、「ぼんやりしていたため、ドアにぶつかってしまった」、「慌てていたので逆さまにしてしまった」、「それはあの事かと早とちりしてしまった」、「メモを書いたがそのメモをなくした」、「ここに置いたつもりだが、どこに置いたか思い出せない」など、身の回りや自分自身に当てはめても、毎日のように胸に手を当てると該当することばかりです。

 ヒューマンエラーの定義は「事故のきっかけになる人間の間違い」とされています。別な言い方では「やるべきことが決まっているのに、それをしなかったり、しなくてもよいことをしてしまう」ことになりますが、いずれにしても自分の意に反して「ありゃりゃ、またやってしまった!」ということです。

 ヒューマンエラーの種類は、主に3つあります。

  • スリップは、つい手が滑った → キーボードの「@」のキーの隣の「P」を押してしまったというもの。
  • ミステイクは、思い込み、早とちり、間違ったやり方で解釈する、本質とは異なる解釈をする。→ つもり、多分、こうだろうと自分勝手に思い込んでいた。
  • 失念は、忘れる、ボケ(著者は最近よく感じるので、メモをいつも携帯)→ 思い出せないでいつも探している。というものです。

 ついでにエラー、ミス、失敗についても記述しておきます。「エラー」とは、過失、誤り、間違い、うっかりというものです。「ミス」とは、し損なう、原因は何であれできなかったこと。「失敗」は、結果が上手くいかなかったことに区分できます。いずれにせよ、人間というものはミスを犯すのが大前提として考えて、それをいかに少なくして、なくすかが企業で働く人の大切な課題でもあります。

 よく考えてみますと、いずれも人的要因がほとんどのことなのです。ヒューマンエラーの現象は実に多くあり複雑に絡むことが多く、分類や分析をしてもなかなか原因を掴(つか)むことも難しくなってきています。机上で議論をしても、本質的な問題は解決しないのです。問題解決は、やはり現地現物を相手に取り組むことです。それこそ分類や分析すること自体がムダと考えます。それよりも「このようにやれば再発防止ができそうなので、すぐにやってみよう」という姿勢の方が大切だと考えます。解決策を検討するというより、現場で試行錯誤しながらでも、いかに早くヒューマンエラーをなくして災害や事故をなくすかが重要です。

 

2. 主因は規律の乱れ

 ヒューマンエラーを調べてみますと、99%は本当に取るに足らないことの積み重ねで発生しているものです。故意や過失といったものは1%しかありません。なぜ気付かなかったといわれると、些細(ささい)なことゆえに見逃していたと考えます。たわいのない小さなことが積み重なって、ある瞬間に事故になっていたのです。事故の本質は、このように手遅れになってやってしまったことですが、言い換えますと「あとの祭り」の状態です。あの時もう少しこうすればよかったというもので、ちょっとしたことばかりだと思います。

 「事故にならなくてああよかった」と胸をなでおろして終わりではなく、その貴重な体験つまり「ヒヤリ・ハット」を二度と繰り返さないように共有化して、教訓として積極的に活用したいものです。結果オーライでは、また事故や災害を繰り返すだけです。ところで毎年労働災害で亡くなっている方の数をご存じですか。昭和40年代の高度成長期は、4000人以上でした。余り表沙汰(おもてざた)にはなっていませんが、現在は全国で1000人ともいわれています。交通事故は年々減少していますが、労働災害は余り減っていません。

 ほんのちょっとのことでヒューマンエラーは発生するものですが、小さなヒューマンエラーもテコのように大きな事故を引き起こすことがあります。

 

 株やデータなどの情報系のミス、重機や大型プレスなどの操作ミスなど、一人の小さな人間ですが、扱う量や大きさは以前に比べ大きくなってきています。「電話一本で会社が潰れた!」、「一言余計なことを言ったため取引停止になった!」、「操作ボタンを間違えて大型プレスが動いてしまった!」など、ちょっとのことでも被害は甚大になります。

 私たちの働く職場で起こる規律の乱れが作業環境の劣化になり、ヒューマンエラーを誘発していると考えます。凡事徹底(ぼんじてってい)は永遠のテーマだといえますが、やはり基本動作は毎日の5S活動にあると考えます。5S活動で職場の規律を上げていくことが、些細な、そして小さなヒューマンエラーの要因を一つずつ撲滅していくのです。始業時のラジオ体操しかりですが、チンタラ体操は事故発生の兆候だと考えます。上司は社員の前に立って体操しますが、顔色だけでなくシャキッと体操しているかについても見極めるべきと思います。この規律の乱れの責任は、上司やトップにあると考えます。

 

3. 規律を高めることで、ヒューマンエラーは減少する

 人間のやることなのでゼロとはいきませんが、狙うのはヒューマンエラーゼロです。まずは少なくしてからなくしてくというステップを踏みたいと考えます。著者のスローガンは「安全で、楽に、しかも楽しい職場作りを目指しましょう」としています。まず安全な職場が確保されて、品質や生産性を求めることができます。さらに「工場はショールームに!」というものです。時々生産性第一のような工場が見受けられるのは残念です。

 それでは、撲滅の考え方を紹介します。

(1)作業環境の整備

 見過ごしていた安全教育は、最もハイリターンな投資と考えます。5S活動のうち、特に清掃作業は綺麗(きれい)にするだけではなく、不具合個所や発生源の発見、そして再発防止策まで実施するものです。自ら不具合を発見するためにも、しっかりした清掃が求められます。社員を危険な作業に携わらせることは、貴重な資産を失うことになり兼ねません。

(2)社員を安全活動に巻き込む

 部下に責任と権限を与えていくことは人財育成の胆です。少しずつ彼らに任せてみましょう。任されることで、自分で考え行動し始めます。

(3)安全確保

 「安全第一」の標語を本気になって見直してみましょう。標語だけになっていませんか?まだ作業のやりにくさ、危険個所が多くあるものです。

(4)当たり前のことをコツコツと愚直に続ける

 やるべきことを確実にやれるようにします。大切なことはミスや失敗があってもその人を責めないことです。人は責めると殻(から)を閉じて萎縮してしまいます。簡単なことほど継続するのが難しいかもしれません。スカイツリーの建設では毎日数百人が働いていましたが、無災害だったのは5S活動の徹底による規律の良さだったようです。

 次回は、現場改善:「作業環境:5S、ムダ(その11)バラツキをおさえてから改善がはじまる 」から解説を続けます。

 

 【出典】株式会社 SMC HPより、筆者のご承諾により編集して掲載

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この記事の著者

松田 龍太郎

見えないコトを見えるようにする現場改善コンサルタント。ユーモアと笑顔をセットにして、元氣一杯に現地現物での指導を心がける。難しいことはわかりやすく、例え話や事例を用いながら解説し、納得してもらえるように楽しく動機付けを行います。

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