製造現場は赤ちゃんと同じで手間が掛かるもの 作業環境:5S、ムダ(その3)

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生産マネジメント

 

 工場の経営者から現場の従業員の方を対象として「作業環境:5S、ムダ」をテーマに連載で解説します。固定観念を打ち崩しながら現場改善に留(とど)まらず、経営革新まで範囲を広げて、改善とは何か、革新とは何かを、目からウロコ的に連載しておりますが、今回はその第3回目となります。

 

◆ 手間が掛かるからこそ育てる意味がある

1. 絶えず変化する製造現場

 市場環境は加速度を増して変わりつつあり、その影響を受けて多品種小ロット化が進み、生産ロットの段取り替えも、従来より数多く発生するようになってきています。

 これによって営業も設計も生産計画も、全て変更が多くなっていると思いますが、実際に物事が変わらざるを得ないのは、製造現場そのものです。顧客からの数量や納期などの変更依頼、コストダウンやVEなどによる設計変更、素材や購入品などの納期遅れによる対応、設備や治工具のトラブルなどによる工程変更など、問題が山積しています。また悪いことに、前工程からの問題が、最終的に後工程の製造に降り掛かってくるものです。従って、製造現場は実際に物を動かさなければならないため、てんやわんやの状態になります。

 

 以前、ある工場で異常が発生した時、すぐにラインを止めるための仕組みをつくりました。しかしその対応が素早くできなかったため、現場の従業員から逆に反発されてしまい、投げやりな雰囲気になってしまったことがありました。そこで「今度こそ」と、異常対応が素早く可能な仕組みを改善担当者と一緒に考え直すことにしました。

 異常があった際の報知は、火災報知器のベルを使用して職場内で誰もが分かるようにしました。これが作動した時の音は、本当に心臓が胸を突き破るくらいビックリさせられます。赤ランプもパトライト方式にして点滅が確認できるようにしました。さらに工作室、生産技術、製造技術のメンバーを再編成してもらい、救急隊を配置しました。

 以前はこの救急隊の存在と権限が不明確であったため、速やかな解決に結びつかず、結局機能しなくなってしまいましたが今回は、これらの反省を踏まえ、新たに取り組むことにしたのです。

 当初は1日に数十回も火災報知器が鳴り響き、従業員も作業ができないほどわずらわしく、フロア全体から苦情が出たほどでした。それでも異常があれば異常ベルを鳴らしなさいと指導しました。救急隊には大変でしたでしょうが、しばらく我慢してもらいながら、素早い処置と再発防止を実施してもらいました。当初は救急隊や従業員の皆さんも四苦八苦していましたが、3週間も経つと何と異常は十分の一以下にまで減っていきました。

 結果的に、今まで目先の処置ばかりを行い、根本的な対策を一切取っていなかったことが分かってきたのです。そのことに対して、とやかく責めるつもりはありませんでした。彼らに責任はなく、工場の体質から仕組みがなかったことが問題だったからです。異常が再発しなくなると、生産性は一気に向上してきます。やればできる、そしてそのことが良い方向に結びついたことで自分自身の喜びとなり、それらが噛(か)み合い、回り始めてから雰囲気も俄然(がぜん)良くなりました。

 

2. 「わが子も製造現場も同じ」~ いつも見守っていることが必要

 製造現場は子育てのようなもので、しかも自分一人で何もできない赤ちゃんのようなものだとも考えられます。

 むしろ製造現場は赤ちゃんのように手間が掛かるものだと認識を替えた方が良いでしょう。「今まで本当に自分の子どもを育てるように看(み)てきたか?」と質問しますと「はい!」と返事されるのには抵抗があるかと思います。この「看る」は、看護の「看る」です。字を良く見ますと「手」、「目」で構成されています。実際に自分が現場に出向いて物を直接触り、部下とは心を込めて話をしてきたかどうかということです。

 

 実際に子育てをしてきた人は、自分の赤ちゃんのオムツ交換をした時に、排泄物は汚いと思ったことはないでしょう。わが子の下の世話を、手袋をつけて交換することは絶対になかったはずです。それは当然のことで、わが子は可愛(かわい)くて仕方なかったからですね。製造現場も同じように考えてはどうでしょうか? 「工場内で唯一、付加価値を生み、工場全員の給料を稼ぎ出している源泉である」と思い直すと、わが子のようになんとも可愛くていとおしくなってきませんか?

 実際にモノを加工し生産して付加価値を生む生産現場は、まるで赤ちゃんがすくすく育つような作業環境です。これを整備していくことは、工場全体がより良い方向に進んでいくことにもなります。赤ちゃんは自分で異常を知らせることができるのは、大きな声で鳴くことだけです。その泣き声で、お腹が減ったのか、おしっこがでたのか、どこが痛いのかなどを察知しなければなりません。お母さんは、その泣き声ですぐに赤ちゃんが何を訴えたいのかを察知し、素早く処置をします。それはいつも赤ちゃんと一緒にいるからこそ、素早くしかも的確に察知して対応ができるのです。

 現場で毎日発生する諸問題も同じことです。赤ちゃんが泣くことを全く止めてしまうと、病気になったのか逆に心配になってきますね。現場が何も言わなくなってくるのは、多くの場合が上司やトップの態度によるものです。赤ちゃんと同じで現場は手間が掛かるものであり、手間が掛かるからこそ育てる意味を持っているということです。

 

3. 職場は上司の鏡

 笊(ざる)で水をすくうことは、網になっているので到底無理ですね。すくい上げた途端に水は網目からスーッと抜け出てしまいます。それでは笊の中に水を一面に溜めることはできますか?それは、いつも笊を水の中に漬けておけばよいのです。

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生産マネジメント

 

 工場の経営者から現場の従業員の方を対象として「作業環境:5S、ムダ」をテーマに連載で解説します。固定観念を打ち崩しながら現場改善に留(とど)まらず、経営革新まで範囲を広げて、改善とは何か、革新とは何かを、目からウロコ的に連載しておりますが、今回はその第3回目となります。

 

◆ 手間が掛かるからこそ育てる意味がある

1. 絶えず変化する製造現場

 市場環境は加速度を増して変わりつつあり、その影響を受けて多品種小ロット化が進み、生産ロットの段取り替えも、従来より数多く発生するようになってきています。

 これによって営業も設計も生産計画も、全て変更が多くなっていると思いますが、実際に物事が変わらざるを得ないのは、製造現場そのものです。顧客からの数量や納期などの変更依頼、コストダウンやVEなどによる設計変更、素材や購入品などの納期遅れによる対応、設備や治工具のトラブルなどによる工程変更など、問題が山積しています。また悪いことに、前工程からの問題が、最終的に後工程の製造に降り掛かってくるものです。従って、製造現場は実際に物を動かさなければならないため、てんやわんやの状態になります。

 

 以前、ある工場で異常が発生した時、すぐにラインを止めるための仕組みをつくりました。しかしその対応が素早くできなかったため、現場の従業員から逆に反発されてしまい、投げやりな雰囲気になってしまったことがありました。そこで「今度こそ」と、異常対応が素早く可能な仕組みを改善担当者と一緒に考え直すことにしました。

 異常があった際の報知は、火災報知器のベルを使用して職場内で誰もが分かるようにしました。これが作動した時の音は、本当に心臓が胸を突き破るくらいビックリさせられます。赤ランプもパトライト方式にして点滅が確認できるようにしました。さらに工作室、生産技術、製造技術のメンバーを再編成してもらい、救急隊を配置しました。

 以前はこの救急隊の存在と権限が不明確であったため、速やかな解決に結びつかず、結局機能しなくなってしまいましたが今回は、これらの反省を踏まえ、新たに取り組むことにしたのです。

 当初は1日に数十回も火災報知器が鳴り響き、従業員も作業ができないほどわずらわしく、フロア全体から苦情が出たほどでした。それでも異常があれば異常ベルを鳴らしなさいと指導しました。救急隊には大変でしたでしょうが、しばらく我慢してもらいながら、素早い処置と再発防止を実施してもらいました。当初は救急隊や従業員の皆さんも四苦八苦していましたが、3週間も経つと何と異常は十分の一以下にまで減っていきました。

 結果的に、今まで目先の処置ばかりを行い、根本的な対策を一切取っていなかったことが分かってきたのです。そのことに対して、とやかく責めるつもりはありませんでした。彼らに責任はなく、工場の体質から仕組みがなかったことが問題だったからです。異常が再発しなくなると、生産性は一気に向上してきます。やればできる、そしてそのことが良い方向に結びついたことで自分自身の喜びとなり、それらが噛(か)み合い、回り始めてから雰囲気も俄然(がぜん)良くなりました。

 

2. 「わが子も製造現場も同じ」~ いつも見守っていることが必要

 製造現場は子育てのようなもので、しかも自分一人で何もできない赤ちゃんのようなものだとも考えられます。

 むしろ製造現場は赤ちゃんのように手間が掛かるものだと認識を替えた方が良いでしょう。「今まで本当に自分の子どもを育てるように看(み)てきたか?」と質問しますと「はい!」と返事されるのには抵抗があるかと思います。この「看る」は、看護の「看る」です。字を良く見ますと「手」、「目」で構成されています。実際に自分が現場に出向いて物を直接触り、部下とは心を込めて話をしてきたかどうかということです。

 

 実際に子育てをしてきた人は、自分の赤ちゃんのオムツ交換をした時に、排泄物は汚いと思ったことはないでしょう。わが子の下の世話を、手袋をつけて交換することは絶対になかったはずです。それは当然のことで、わが子は可愛(かわい)くて仕方なかったからですね。製造現場も同じように考えてはどうでしょうか? 「工場内で唯一、付加価値を生み、工場全員の給料を稼ぎ出している源泉である」と思い直すと、わが子のようになんとも可愛くていとおしくなってきませんか?

 実際にモノを加工し生産して付加価値を生む生産現場は、まるで赤ちゃんがすくすく育つような作業環境です。これを整備していくことは、工場全体がより良い方向に進んでいくことにもなります。赤ちゃんは自分で異常を知らせることができるのは、大きな声で鳴くことだけです。その泣き声で、お腹が減ったのか、おしっこがでたのか、どこが痛いのかなどを察知しなければなりません。お母さんは、その泣き声ですぐに赤ちゃんが何を訴えたいのかを察知し、素早く処置をします。それはいつも赤ちゃんと一緒にいるからこそ、素早くしかも的確に察知して対応ができるのです。

 現場で毎日発生する諸問題も同じことです。赤ちゃんが泣くことを全く止めてしまうと、病気になったのか逆に心配になってきますね。現場が何も言わなくなってくるのは、多くの場合が上司やトップの態度によるものです。赤ちゃんと同じで現場は手間が掛かるものであり、手間が掛かるからこそ育てる意味を持っているということです。

 

3. 職場は上司の鏡

 笊(ざる)で水をすくうことは、網になっているので到底無理ですね。すくい上げた途端に水は網目からスーッと抜け出てしまいます。それでは笊の中に水を一面に溜めることはできますか?それは、いつも笊を水の中に漬けておけばよいのです。

 頓智(とんち)問題かと思われるかもしれませんが、これができるようでできない良い習慣なのです。勉強も仕事も趣味も同じことであり、いつもそのことをやり続けているからこそ上手になります。それが簡単にできるようになると、自信がついて、さらに向上しようと努力を自ら行動するようになっていきます。

 いつも製造現場に出て従業員の皆さんに声を掛けながら動機付けをし、見守って彼らを育成していくことは、なかなかできるものではありません。クレームや大きなトラブルがあった時だけ製造現場に出向いてすぐに対策を取るのは、余りにも虫が良すぎるというもので、従業員はそれに積極的に応えようとしないものです。

 普段からの行動、態度、習慣が効いてくるものだと思います。まさに職場は上司の鏡だと思います。逆に誰もやらないことを確実にやっていくことが他社との差別化になります。思っている人、考えている人、やろうとしている人は多くいますが、実際にやっている人は非常に少ないもので、1%や10%ともいわれています。実際にやった人が勝つのです。

 次回は、現場改善:「作業環境:5S、ムダ (その4)設備も風呂に入って綺麗になろう 」から解説を続けます。

 

 【出典】株式会社 SMC HPより、筆者のご承諾により編集して掲載

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この記事の著者

松田 龍太郎

見えないコトを見えるようにする現場改善コンサルタント。ユーモアと笑顔をセットにして、元氣一杯に現地現物での指導を心がける。難しいことはわかりやすく、例え話や事例を用いながら解説し、納得してもらえるように楽しく動機付けを行います。

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