パテント・ポートフォリオの構築方法(その5)

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【パテント・ポートフォリオの構築方法、連載目次】

 前回のその4に続いて解説します。
 

4.特許情報の収集・解析をベースにしたパテント・ポートフォリオの構築

 

(2)戦略データ・ベースによる特許情報解析

 
 「戦略データ・ベース」を用いることによって、戦略的な特許情報解析を系統的に進めることが可能です。図4は、これを示したものです。
 
          パテント
                                        図4.戦略データ・ベースに基づく特許情報解析
 
 特許情報解析は、マクロ分析、セミマクロ分析、ミクロ分析に大別されますが、マクロ分析は、主に技術、市場、他社の動向を把握することを目的として、縦軸あるいは横軸のいずれかに時間の尺度がプロットされます。セミマクロ分析はそれに対し、目的に応じて書誌的事項、特許分類、統一キーワード等から選んだキーワードを利用し、2軸ないし3軸で解析を行なうマトリクス分析です。セミマクロ分析は、下記のように、競争力分析マップと技術分析マップとに大別することができます。
 

 ① 競争力分析マップ

 
 競争力分析マップは、出願人と課題、出願人と解決手段、出願人と用途との関係を解析することを目的としたもので、この解析手法を用いることにより、自社と競合他社との技術・知的財産における競争力を分析することができます。
 

 ② 技術分析マップ

 
 技術分析マップは、課題―解決手段、課題-用途、解決手段―用途それぞれの間の関連性を解析することを目的としたものです。図5は、有機ELの課題-解決手段マップですが、どのような課題に対してどのような解決手段が検討されているかを解析することができます。ミクロ分析はそれに対し、「請求項」の記載まで踏み込んだ分析で、クレームマップ、構成要件対比表等、権利関係の解析手法が含まれます。
 
   パテント
                                               図5.課題、解決手段マップの例
 
 マクロ分析からミクロ分析に至る以上の解析手法を駆使することによって、自社事業、自社技術のポジショニング、競合他社との競争力比較、他社との抵触関係の把握等、戦略の立案・推進に必要な具体的情報を得ることが可能となります。これらの情報は、3で述べた事業戦略の立案、知的財産の構築方法の選択、及び研究成果の保護・保全等の判断を行う際の前提になるものであると同時に、以下に述べるパテント・ポートフォリオ構築の前提となるものです。
 

(3)特許情報解析結果を利用したパテント・ポートフォリオの構築

 
 研究開発の結果に基づいて特許出願を行えば、とりあえず特許群を構築することができますが、それは「事業目的に対して最適化された」ものと言うことはできません。「最適化された」ものと言うためには、パテント・ポートフォリオを構成する特許群が次の要件を満たすことが必要です。
 
 ① 事業領域を、課題、解決手段、用途の観点あるいは、素材、部品、プロセス、製品等のサプライ
   チェーン、バリューチェーンの観点にわたって洩れなくカバーしていること
 ② 代替技術、競合技術に対しても対応していること
 ③ 事業領域の周辺に対しても目配りされていること
 ④ 不必要なものを含まないこと
 
 これらを達成する上で、(2)に述べた各種の解析手法、とりわけ、競争力分析マップ、技術分析マップが有効です。
 
 次回は、競争力分析マップ、技術分析マップの利用法について解説します。
 
 
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【パテント・ポートフォリオの構築方法、連載目次】

 前回のその4に続いて解説します。
 

4.特許情報の収集・解析をベースにしたパテント・ポートフォリオの構築

 

(2)戦略データ・ベースによる特許情報解析

 
 「戦略データ・ベース」を用いることによって、戦略的な特許情報解析を系統的に進めることが可能です。図4は、これを示したものです。
 
          パテント
                                        図4.戦略データ・ベースに基づく特許情報解析
 
 特許情報解析は、マクロ分析、セミマクロ分析、ミクロ分析に大別されますが、マクロ分析は、主に技術、市場、他社の動向を把握することを目的として、縦軸あるいは横軸のいずれかに時間の尺度がプロットされます。セミマクロ分析はそれに対し、目的に応じて書誌的事項、特許分類、統一キーワード等から選んだキーワードを利用し、2軸ないし3軸で解析を行なうマトリクス分析です。セミマクロ分析は、下記のように、競争力分析マップと技術分析マップとに大別することができます。
 

 ① 競争力分析マップ

 
 競争力分析マップは、出願人と課題、出願人と解決手段、出願人と用途との関係を解析することを目的としたもので、この解析手法を用いることにより、自社と競合他社との技術・知的財産における競争力を分析することができます。
 

 ② 技術分析マップ

 
 技術分析マップは、課題―解決手段、課題-用途、解決手段―用途それぞれの間の関連性を解析することを目的としたものです。図5は、有機ELの課題-解決手段マップですが、どのような課題に対してどのような解決手段が検討されているかを解析することができます。ミクロ分析はそれに対し、「請求項」の記載まで踏み込んだ分析で、クレームマップ、構成要件対比表等、権利関係の解析手法が含まれます。
 
   パテント
                                               図5.課題、解決手段マップの例
 
 マクロ分析からミクロ分析に至る以上の解析手法を駆使することによって、自社事業、自社技術のポジショニング、競合他社との競争力比較、他社との抵触関係の把握等、戦略の立案・推進に必要な具体的情報を得ることが可能となります。これらの情報は、3で述べた事業戦略の立案、知的財産の構築方法の選択、及び研究成果の保護・保全等の判断を行う際の前提になるものであると同時に、以下に述べるパテント・ポートフォリオ構築の前提となるものです。
 

(3)特許情報解析結果を利用したパテント・ポートフォリオの構築

 
 研究開発の結果に基づいて特許出願を行えば、とりあえず特許群を構築することができますが、それは「事業目的に対して最適化された」ものと言うことはできません。「最適化された」ものと言うためには、パテント・ポートフォリオを構成する特許群が次の要件を満たすことが必要です。
 
 ① 事業領域を、課題、解決手段、用途の観点あるいは、素材、部品、プロセス、製品等のサプライ
   チェーン、バリューチェーンの観点にわたって洩れなくカバーしていること
 ② 代替技術、競合技術に対しても対応していること
 ③ 事業領域の周辺に対しても目配りされていること
 ④ 不必要なものを含まないこと
 
 これらを達成する上で、(2)に述べた各種の解析手法、とりわけ、競争力分析マップ、技術分析マップが有効です。
 
 次回は、競争力分析マップ、技術分析マップの利用法について解説します。
 
 

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この記事の著者

鶴見 隆

三位一体の特許情報活動のパイオニア、戦略的データベースの構築を通じて企業の知財力アップを支援します!

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