パテント・ポートフォリオの構築方法(その7)

更新日

投稿日

【パテント・ポートフォリオの構築方法、連載目次】

 前回のその6に続いて解説します。
 

5.パテント・ポートフォリオの「見える化」

 
 パテント・ポートフォリオを事業展開と併せて、特許情報をベースに構築する方法について検討を行ってきましたが、具体的にパテント・ポートフォリオをどのように表現し、管理するかが次の重要な問題です。パテント・ポートフォリオは、「事業目的のために最適化された」特許群ですが、これを単なる時系列的な一覧表にしても目的に応じた管理はできません。最適化の状態を的確に把握できるような「見える化」の工夫が必要であり、そのためには特許群を適切に区分すること、及び特許に対する評価尺度を取り入れることが必要です。
 
    知的財産
                                   図9.パテント・ポートフォリオ・シート
 
 図9に示したパテント・ポートフォリオ・シートはその一例です。この表において縦軸は、課題、解決手段、用途で構成されていますが、その他に、素材、製造方法(あるいは製造工程)、製品と言った自社のバリューチェーンに対応させた項目で構成することもできます。一方、表の横軸は特許の評価項目で構成されます。評価項目は企業の知財管理の実態に応じて、色々と工夫することができますが、下記はその一例です。
 
 ① 特許の実施状況・・・・・現在実施中、実施予定、防衛、等
 ② 発明の事業への貢献度・・大、中、小
 ③ 回避の難易度・・・・・・難、中、易
 ④ 権利の状況・・・・・・・未審査請求、審査段階、登録済み、等
 ⑤ 残存期間・・・・・・・・満了まで何年を残すか(0~5、6~10、11~20、等)
 
 このような評価は、特許出願の際のアイデア提案書等の段階から、経営者、研究開発担当者、知的財産担当者の密接な連携に基づいて、系統的に積み上げていくことが必要です。
 
 この表の枡目には該当する特許出願(ないし特許)の件数が記入されます。数字をクリックすると特許出願の一覧表が表示され、さらにクリックすれば、個別の特許出願が表示されると言ったソフト上の工夫を行っておけば、管理しやすいシートになるでしょう。このようなシートを開発の初期の段階から作成するようにしておけば、開発・事業の展開に合わせて、継続的にパテント・ポートフォリオの構築を進めていくことができます。
 

6.知的財産管理

 
 これまで述べてきたことから明らかなとおり、「戦略データ・ベース」の構築を軸とするこの一連の情報処理は、知的財産管理の全ての課題に対応するための効果的で効率的なマネジメント手法であると言うことができます。先進的な企業はすでにこうしたプロセスのかなりの部分を実行していると考えられ、今後、さらに多くの日本企業が知的財産管理に採用していくことを願っています。なお、残念ながらこのプロセス全般をカバーするツールはまだ存在しませんが、市販の様々な特許情報解析ツールあるいはエクセル、アクセス等を駆使することによって効率的にこれらの作業を進める環境は整いつつあると考えられます。
 
注記(引用文献、参考文献)
 
 1)「「知的財産情報開示指針」2004年1月、経済産業省
 2)「戦略的な知的財産管理に向けて-技術経営力を高めるために-」[知財戦略事例集]2007年4月、
   経済産業省、特許庁
 3)株式会社レイテックの提供データ
 4)「TQMのための統計的品質管理」山田 茂他著、コロナ社
 5)「特許流通支...

【パテント・ポートフォリオの構築方法、連載目次】

 前回のその6に続いて解説します。
 

5.パテント・ポートフォリオの「見える化」

 
 パテント・ポートフォリオを事業展開と併せて、特許情報をベースに構築する方法について検討を行ってきましたが、具体的にパテント・ポートフォリオをどのように表現し、管理するかが次の重要な問題です。パテント・ポートフォリオは、「事業目的のために最適化された」特許群ですが、これを単なる時系列的な一覧表にしても目的に応じた管理はできません。最適化の状態を的確に把握できるような「見える化」の工夫が必要であり、そのためには特許群を適切に区分すること、及び特許に対する評価尺度を取り入れることが必要です。
 
    知的財産
                                   図9.パテント・ポートフォリオ・シート
 
 図9に示したパテント・ポートフォリオ・シートはその一例です。この表において縦軸は、課題、解決手段、用途で構成されていますが、その他に、素材、製造方法(あるいは製造工程)、製品と言った自社のバリューチェーンに対応させた項目で構成することもできます。一方、表の横軸は特許の評価項目で構成されます。評価項目は企業の知財管理の実態に応じて、色々と工夫することができますが、下記はその一例です。
 
 ① 特許の実施状況・・・・・現在実施中、実施予定、防衛、等
 ② 発明の事業への貢献度・・大、中、小
 ③ 回避の難易度・・・・・・難、中、易
 ④ 権利の状況・・・・・・・未審査請求、審査段階、登録済み、等
 ⑤ 残存期間・・・・・・・・満了まで何年を残すか(0~5、6~10、11~20、等)
 
 このような評価は、特許出願の際のアイデア提案書等の段階から、経営者、研究開発担当者、知的財産担当者の密接な連携に基づいて、系統的に積み上げていくことが必要です。
 
 この表の枡目には該当する特許出願(ないし特許)の件数が記入されます。数字をクリックすると特許出願の一覧表が表示され、さらにクリックすれば、個別の特許出願が表示されると言ったソフト上の工夫を行っておけば、管理しやすいシートになるでしょう。このようなシートを開発の初期の段階から作成するようにしておけば、開発・事業の展開に合わせて、継続的にパテント・ポートフォリオの構築を進めていくことができます。
 

6.知的財産管理

 
 これまで述べてきたことから明らかなとおり、「戦略データ・ベース」の構築を軸とするこの一連の情報処理は、知的財産管理の全ての課題に対応するための効果的で効率的なマネジメント手法であると言うことができます。先進的な企業はすでにこうしたプロセスのかなりの部分を実行していると考えられ、今後、さらに多くの日本企業が知的財産管理に採用していくことを願っています。なお、残念ながらこのプロセス全般をカバーするツールはまだ存在しませんが、市販の様々な特許情報解析ツールあるいはエクセル、アクセス等を駆使することによって効率的にこれらの作業を進める環境は整いつつあると考えられます。
 
注記(引用文献、参考文献)
 
 1)「「知的財産情報開示指針」2004年1月、経済産業省
 2)「戦略的な知的財産管理に向けて-技術経営力を高めるために-」[知財戦略事例集]2007年4月、
   経済産業省、特許庁
 3)株式会社レイテックの提供データ
 4)「TQMのための統計的品質管理」山田 茂他著、コロナ社
 5)「特許流通支援チャート」平成16年度化学4有機EL素子(材料技術)、独立行政法人工業所有権情
   報・研修館編
 6)「NM法のすべて増補版-アイデア生成の理論と実践的方法」中山正和著、産能大学出版部
 7)「図解 TRIZ-革新的技術開発の技法」山田郁夫著、日本実業出版社
 
 

   続きを読むには・・・


この記事の著者

鶴見 隆

三位一体の特許情報活動のパイオニア、戦略的データベースの構築を通じて企業の知財力アップを支援します!

三位一体の特許情報活動のパイオニア、戦略的データベースの構築を通じて企業の知財力アップを支援します!


「知的財産マネジメント」の他のキーワード解説記事

もっと見る
無料で利用できる特許情報を活用するには

【目次】 1.特許情報とは  我が国の特許制度は先願主義を採用していますので、企業、大学、研究所等で開発された技術はいち早く特許庁...

【目次】 1.特許情報とは  我が国の特許制度は先願主義を採用していますので、企業、大学、研究所等で開発された技術はいち早く特許庁...


米国への出願戦略を検討するには アメリカ特許法(その1)

 2011年9月16日にアメリカ特許法の改正法が成立しました。この中で最も重要な改正事項の1つである先願主義への移行に関する改正法の発効日(2013年3月...

 2011年9月16日にアメリカ特許法の改正法が成立しました。この中で最も重要な改正事項の1つである先願主義への移行に関する改正法の発効日(2013年3月...


知的財産としての特許権

1. 知的財産と関連法案  知的財産には特許権、商標権、意匠権、著作権とあり、それぞれの対象となる範囲とそれを規定する法律との関連性を下図に示します。今...

1. 知的財産と関連法案  知的財産には特許権、商標権、意匠権、著作権とあり、それぞれの対象となる範囲とそれを規定する法律との関連性を下図に示します。今...


「知的財産マネジメント」の活用事例

もっと見る
中小企業の特許技術導入について ―森田テックの事例―

1.はじめに  経済のグローバル化など外部環境が大きな変革期を迎える中で、中小企業も、下請け型を脱して、自社固有製品の開発を行うことが必要となりつつあり...

1.はじめに  経済のグローバル化など外部環境が大きな変革期を迎える中で、中小企業も、下請け型を脱して、自社固有製品の開発を行うことが必要となりつつあり...


知財戦略の柱の一つである営業秘密

 先日、営業秘密管理の専門家から、講習会を受ける機会がありました。  私自身会社に勤めていたころ、国内のみならず海外のグループ会社においても不正競争...

 先日、営業秘密管理の専門家から、講習会を受ける機会がありました。  私自身会社に勤めていたころ、国内のみならず海外のグループ会社においても不正競争...


特許侵害訴訟のリスク事例(サトウの切り餅) 前編

1.はじめに  特許訴訟は、アップルとサムスンのような超巨大企業の間のみで起こるように思われがちですが、実際にはすべての企業が巻き込まれるおそれがありま...

1.はじめに  特許訴訟は、アップルとサムスンのような超巨大企業の間のみで起こるように思われがちですが、実際にはすべての企業が巻き込まれるおそれがありま...