中小メーカ向け経営改革の考察(その7経営理念・方針などの混同 3

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 前回のその6に続いて解説します。経営方針と事業計画が適正に設定されていないために生じている問題を挙げると次の4点のようになります。これらについては、2回に分けて解説しています。今回はその2で、(3)と(4)についてです。
 
   (1)生産計画の乱れ
 
   (2)生産コストの把握が困難
 
   (3)売上高増加に考えが偏り、具体策が乏しい
 
   (4)技術蓄積が図られない
 

(3)売上高増加に考えが偏り、具体策が乏しいために蒙る損失

 
 売上高が低下し赤字経営に陥る可能性が強くなってくると、焦りの心が募り、無理な受注をするようになります。このような時にまとまった受注の引き合いがあると、社内で経験したことのない加工工程がかなり高い割合で含まれていることが確認できても、外注することで処理が可能と判断して受注に踏み切るのは珍しいことではありません。
 
 しかし、外注先を探して生産を始めた当初は問題なく進捗しても、品質検査の段階になって要求されている品質仕様を満たすことが困難であることが判り、慌て出す場合が珍しくありません。自社内で経験したことのない技術内容が含まれていると、外注先を指導することはできないため、再度別の外注先を探す羽目に陥った例もあります。つまり、技術経験のない受注に当たっては慎重に対処しないと後で大きな損失を発生させ、納期遅延になり信用を失墜することも多いのです。
 
 このような場合には、受注品の生産に必要な要素技術を細分化し、特に困難が予想される要素技術に対しては、社内で独自に開発するのか、協力先を探すのか、辞退するのか、検討する。担当者任せにするのでなく、要素技術に関する詳細な検討の場を代表者出席の下で設けます。全社の総力を上げて取り組む事が決まれば、リスクを見込んだ見積りを行うことです。一時的な売上高の低下に慌てている企業では、経営方針が明確でないために受注対象品の技術分野について社内に合意が形成されず、生産面に混乱を招くことがあります。
 

(4)技術蓄積が図られないための損失

 
 初めて経験する案件では試行錯誤の過程を踏む事は当然のことです。経験した要素技術・作業を記録し、再利用することで次の案件が問題なく処理され、利益を確保できるようになります。
 
 記録を取らないままに作業を進めている企業、蓄積した要素技術・作業を再利用する可能性のない受注品が多く占められている企業では、技術蓄積を図る事ができないので、常に不安定な段取り替え時間や品質問題が発生して利益を確保する事はできません。
 
 経営方針に技術蓄積を図る考え方が乏しく、売上高を上げることに力点が置かれている企業、困難な技術課題に取組む事に関心が高く、新しいことに取組む事を得意にしているが、技術デ-タを蓄積し技術の再利用を図るように経営方針が明確になっていない企業では、業績の向上を図ることは非常に困難です。
 
 技術蓄積が図られない企業は「顧客の要求に応じなければ受注できなくなる。多品種・単品受注で特注品に対応することが生きる道」と考えて売上高を確保する考え方が濃厚です。そのために、「蓄積した技術の再利用率を高くすることでコストダウンを図ること、かつ、品質安定化にも寄与することから納期を守る事も可能になる」そのような面にまで考えが及んでいません。自企業と客先のいずれにも、満足度を充足させられるような対策、それが蓄積した技術の利用度を上げることです。
 
 技術蓄積のためにデ-タを採取しその再利用を図るためにデータベースを作ることは、先行投資的な行為です。時間の余裕がないとしてこの先行投資を怠ることは、業績向上の芽を摘んでいるに等しいと言えます。全ての受注品を蓄積した技術で処理可...
 前回のその6に続いて解説します。経営方針と事業計画が適正に設定されていないために生じている問題を挙げると次の4点のようになります。これらについては、2回に分けて解説しています。今回はその2で、(3)と(4)についてです。
 
   (1)生産計画の乱れ
 
   (2)生産コストの把握が困難
 
   (3)売上高増加に考えが偏り、具体策が乏しい
 
   (4)技術蓄積が図られない
 

(3)売上高増加に考えが偏り、具体策が乏しいために蒙る損失

 
 売上高が低下し赤字経営に陥る可能性が強くなってくると、焦りの心が募り、無理な受注をするようになります。このような時にまとまった受注の引き合いがあると、社内で経験したことのない加工工程がかなり高い割合で含まれていることが確認できても、外注することで処理が可能と判断して受注に踏み切るのは珍しいことではありません。
 
 しかし、外注先を探して生産を始めた当初は問題なく進捗しても、品質検査の段階になって要求されている品質仕様を満たすことが困難であることが判り、慌て出す場合が珍しくありません。自社内で経験したことのない技術内容が含まれていると、外注先を指導することはできないため、再度別の外注先を探す羽目に陥った例もあります。つまり、技術経験のない受注に当たっては慎重に対処しないと後で大きな損失を発生させ、納期遅延になり信用を失墜することも多いのです。
 
 このような場合には、受注品の生産に必要な要素技術を細分化し、特に困難が予想される要素技術に対しては、社内で独自に開発するのか、協力先を探すのか、辞退するのか、検討する。担当者任せにするのでなく、要素技術に関する詳細な検討の場を代表者出席の下で設けます。全社の総力を上げて取り組む事が決まれば、リスクを見込んだ見積りを行うことです。一時的な売上高の低下に慌てている企業では、経営方針が明確でないために受注対象品の技術分野について社内に合意が形成されず、生産面に混乱を招くことがあります。
 

(4)技術蓄積が図られないための損失

 
 初めて経験する案件では試行錯誤の過程を踏む事は当然のことです。経験した要素技術・作業を記録し、再利用することで次の案件が問題なく処理され、利益を確保できるようになります。
 
 記録を取らないままに作業を進めている企業、蓄積した要素技術・作業を再利用する可能性のない受注品が多く占められている企業では、技術蓄積を図る事ができないので、常に不安定な段取り替え時間や品質問題が発生して利益を確保する事はできません。
 
 経営方針に技術蓄積を図る考え方が乏しく、売上高を上げることに力点が置かれている企業、困難な技術課題に取組む事に関心が高く、新しいことに取組む事を得意にしているが、技術デ-タを蓄積し技術の再利用を図るように経営方針が明確になっていない企業では、業績の向上を図ることは非常に困難です。
 
 技術蓄積が図られない企業は「顧客の要求に応じなければ受注できなくなる。多品種・単品受注で特注品に対応することが生きる道」と考えて売上高を確保する考え方が濃厚です。そのために、「蓄積した技術の再利用率を高くすることでコストダウンを図ること、かつ、品質安定化にも寄与することから納期を守る事も可能になる」そのような面にまで考えが及んでいません。自企業と客先のいずれにも、満足度を充足させられるような対策、それが蓄積した技術の利用度を上げることです。
 
 技術蓄積のためにデ-タを採取しその再利用を図るためにデータベースを作ることは、先行投資的な行為です。時間の余裕がないとしてこの先行投資を怠ることは、業績向上の芽を摘んでいるに等しいと言えます。全ての受注品を蓄積した技術で処理可能な企業に接した事がありますが、そのような企業は社内に活力がなく将来性が心配です。そのような事態に陥らないようにするために、新規技術を開発することが必要な受注品の概略の比率を決めておき、その方針に沿って営業活動を行っている例もあります。
 
 いかに優れた技術者であっても、最初から失敗無しで要求されている品質仕様を満たす製品を作る事は、出来ません。稀に、何処にもない高度な製品を受注して高い業績を上げている企業が存在します。そのような企業では他社が真似できない困難な技術分野を限定し、完成するまで納期を決めていません。請求では要求額を通しています。そして、値切るような相手に対しては受注辞退する経営方針を堅持しています。
 
 

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この記事の著者

新庄 秀光

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