経営方針と市場開拓 中小メーカ向け経営改革の考察(その18)

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◆経営方針と市場開拓

 前回のその17に続いて解説します。顧客情報の中で満たされていない需要がある事に気付き、外注先を探して生産依頼しましたが、満足が得られなかったため、営業の経験者が創業し代表者に就任した企業があります。このように顧客の潜在的な需要を把握し、自企業の開発テ-マを決め、研究開発から販売までを一貫して事業化することが行われています。
 
 一方で、技能や技術が売り物になると考えて創業した代表者の場合、下請け企業の形態を取る場合が多くあります。この場合には、特別に営業活動を行わなくても受注が確保できる状態から事業が開始されています。しかし、当初は他社の仕事はするなとの制約を設けて事業を行っていても、時代が変化して、営業活動を行わないと経営を維持でき難い状況になってくることがあります。
 
 追い込まれて代表者自ら営業活動を開始した場合、何をしなければ受注維持できなくなるのか、その感覚を掴むのに数年以上を要している例もあります。2~3年ならまだ良い方で、中には5~6年を必要とする場合もあります。何はともあれ、現場を直接見ないで頭だけで技術・製品開発の課題を決めて開発に取り組んでも、市場性のある成果が得られる事はありません。代表者が顧客訪問する事が非常に大切です。
 
 営業活動を代表者が行わない場合には、受注確保のために自企業が何をしなければならないのか、経営方針を決めるのに迷いがでます。独自に開発課題を決めても、売れる見通しが得られないため不安が増大します。営業を代表者が行って開発課題のヒントを掴んだ場合には、売り先の見当がつけられている場合が多いようです。いずれの経営形態を持つ企業であっても、需要動向に関する情報収集は経営方針と市場開拓の影響を受けます。これらの関係について次のような項目が挙げられます。
 
・下請的発想と自主経営の差異
・量産と少量・単品生産の差異による発想の切り替え
・開発テ-マと市場開拓
・新製品開発を連続させる場合の問題点
・クレ-ム対策と顧客の信頼性
・顧客満足と従業員満足度
 
 経営方針に基づく市場開拓のあり方が、情報収集の仕方、それからまとめられる開発テ-マ決定に影響し、事業の成否にも強い影響を及ぼします。これらについて検討してみましょう。
 

●下請的発想と自主経営の差異

 中小製造業の大部分は下請け企業であり、顧客から要求される技術課題を処理して受注品を処理することが慣習になっているため、自企業は何をしなければ受注維持ができなくなるのか、開発課題を決める事の訓練が積まれていない場合が多いようです。かつての下請け企業では、経営方針を決める必要性を感じなかったが、現在では情勢が変わり、仕事が確実に流れてくる時代でなくなったために、下請け企業でも経営方針を決めて事業に取り組むことは避けて通れなくなってきています。
 
 優秀な企業では、下請け企業であっても言われた通りに仕事をするだけでは、付加価値の高い仕事はできないと考え、要請された内容を加工技術の立場から上回る提案や、顧客が気付かないような品質・コストの面で有利になる形状の提案を行い、顧客満足度を充足させるように努めています。その事が基になって、顧客の開発部門から声がかかり、新製品の部品開発を任されるようになるのです。
 
 例えば、受注開拓のために開発部門を訪問する事で、特定の加工分野の需要を切り開いている某企業があります。この企業は、表面的には下請けの形態ですが、実際は自主技術を売物にする自主経営の考え方が見られるます。このようにして特定の分野の技術に特化すると、口コミで技術内容が知られるようになってきて、新規の顧客が訪れるようになります。
 
 しかし、この企業でも最初から特定の技術分野で特徴を保有していたわけではありません。単価が年々下がってくる傾向に悩んでいる時に、たまたま依頼を受けた加工品に対して...

◆経営方針と市場開拓

 前回のその17に続いて解説します。顧客情報の中で満たされていない需要がある事に気付き、外注先を探して生産依頼しましたが、満足が得られなかったため、営業の経験者が創業し代表者に就任した企業があります。このように顧客の潜在的な需要を把握し、自企業の開発テ-マを決め、研究開発から販売までを一貫して事業化することが行われています。
 
 一方で、技能や技術が売り物になると考えて創業した代表者の場合、下請け企業の形態を取る場合が多くあります。この場合には、特別に営業活動を行わなくても受注が確保できる状態から事業が開始されています。しかし、当初は他社の仕事はするなとの制約を設けて事業を行っていても、時代が変化して、営業活動を行わないと経営を維持でき難い状況になってくることがあります。
 
 追い込まれて代表者自ら営業活動を開始した場合、何をしなければ受注維持できなくなるのか、その感覚を掴むのに数年以上を要している例もあります。2~3年ならまだ良い方で、中には5~6年を必要とする場合もあります。何はともあれ、現場を直接見ないで頭だけで技術・製品開発の課題を決めて開発に取り組んでも、市場性のある成果が得られる事はありません。代表者が顧客訪問する事が非常に大切です。
 
 営業活動を代表者が行わない場合には、受注確保のために自企業が何をしなければならないのか、経営方針を決めるのに迷いがでます。独自に開発課題を決めても、売れる見通しが得られないため不安が増大します。営業を代表者が行って開発課題のヒントを掴んだ場合には、売り先の見当がつけられている場合が多いようです。いずれの経営形態を持つ企業であっても、需要動向に関する情報収集は経営方針と市場開拓の影響を受けます。これらの関係について次のような項目が挙げられます。
 
・下請的発想と自主経営の差異
・量産と少量・単品生産の差異による発想の切り替え
・開発テ-マと市場開拓
・新製品開発を連続させる場合の問題点
・クレ-ム対策と顧客の信頼性
・顧客満足と従業員満足度
 
 経営方針に基づく市場開拓のあり方が、情報収集の仕方、それからまとめられる開発テ-マ決定に影響し、事業の成否にも強い影響を及ぼします。これらについて検討してみましょう。
 

●下請的発想と自主経営の差異

 中小製造業の大部分は下請け企業であり、顧客から要求される技術課題を処理して受注品を処理することが慣習になっているため、自企業は何をしなければ受注維持ができなくなるのか、開発課題を決める事の訓練が積まれていない場合が多いようです。かつての下請け企業では、経営方針を決める必要性を感じなかったが、現在では情勢が変わり、仕事が確実に流れてくる時代でなくなったために、下請け企業でも経営方針を決めて事業に取り組むことは避けて通れなくなってきています。
 
 優秀な企業では、下請け企業であっても言われた通りに仕事をするだけでは、付加価値の高い仕事はできないと考え、要請された内容を加工技術の立場から上回る提案や、顧客が気付かないような品質・コストの面で有利になる形状の提案を行い、顧客満足度を充足させるように努めています。その事が基になって、顧客の開発部門から声がかかり、新製品の部品開発を任されるようになるのです。
 
 例えば、受注開拓のために開発部門を訪問する事で、特定の加工分野の需要を切り開いている某企業があります。この企業は、表面的には下請けの形態ですが、実際は自主技術を売物にする自主経営の考え方が見られるます。このようにして特定の分野の技術に特化すると、口コミで技術内容が知られるようになってきて、新規の顧客が訪れるようになります。
 
 しかし、この企業でも最初から特定の技術分野で特徴を保有していたわけではありません。単価が年々下がってくる傾向に悩んでいる時に、たまたま依頼を受けた加工品に対して提案を行い、好評を得た事が契機となり、このような取り組み方を発展させていけば道が開けるに違いないと、新しい発想が出てきたことに起因しています。
 
 一口に下請け企業と言っても、受注交渉の仕方により技術蓄積の状況が大きく変わってきます。最初は差異が見られなくても、時間が経過するほどに、技術の内容に大きな差異が出てきます。
 
 「経営方針」と正面から考えると、固くなって発想が開かれないかもしれないが、日常の取引きの中で専門技術の立場から提案する機会を見つけ出すために、顧客観察の仕方に工夫を重ねていくようにすることから始めればよいでしょう。
 
 特に重視しなければならない事は、「仕事は頂くもの」という考えが多くの下請け企業にあり、「何を提案すると顧客が関心を示すようになるのか」という発想が乏しいので、この考え方の切り替えをすることです。これができない限り、観察力や交渉力が向上することは期待できません。
 

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この記事の著者

新庄 秀光

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