設計上の機会損失 設計機能(その2)

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【設計機能 連載目次】

 前回のその1に続いて解説します。
 

1. 機会損失(=逸失利益)とは

 
 機会損失(opportunity loss)とは、ある意思決定をしないことで利益を得る機会を失い、それにより生じた損失のことです。例えば、在庫切れの場合、商品を販売しなかったことによって利益を得る機会がなくなります。本来売れたはずのものを売れなくなったために生じた損失になります。
 
 機会損失というのは可視化できない場合が多いようです。機会損失を知らなければ、目の前の小さな問題点にこだわり、大きなチャンスを逃すこともあります。機会損失という考え方は、設計技術者にとっては、コストダウンを考えるときの急がば回れの視点になります。
 

2. 機会費用(=機会原価)との違い

 
 機会損失は最善の決定をしなかったことによって発生する損失で、機会費用(opportunity cost)は最善の行動をせずに他の行動をしたことによって、失われる利益のことです。「損失」と「失われた利益」の違いになります。
 
 両者は経済学や管理会計の分野でよく耳にする言葉です。機会原価が分かり難いのには、2つの理由が考えられます。1つ目は、機会原価が未来の原価であり、会計上の原価と異なるからです。会計上の原価は過去に発生した費用の履歴になっています。2つ目は、機会原価が2つの代替案(オプション)の利益の差額(差額原価)で計算されるからです。
 

3. 設計上の機会損失

 
 設計上の機会損失は、図1のように「真に必要な機能」に付加された機能で表現できます。例えば、「技術情報不足」、「安全性不足」、「調達力不足」、「製造技術力不足」、「商品戦略・マーケティング力不足」のような付加機能が設計上の機会損失になります。
 
機会損失
図1.  設計上の機会損失
 
 その商品に基本的な顧客ニーズが盛り込まれた機能を「真の要求機能」とすれば次式が成り立ちます。設計段階でこの機会損失の概念を俯瞰しておくことで、機会損失を未然の防止できる可能性が出てきます。言い換えれば、この考え方は顕在的機能だけでなく潜在的機能も考えておくというリスクマネジメントに近いものになります。
 
  現状の商品機能 - 追加機能 = 真の要求機能
 
 つまり
  現状の商品機能 - 真の要求機能 = 追加機能
                 = 顕在的機能 + 潜在的機能
 
 また、機会損失には次のような重要な留意点があります。
 

(1) 時間の経過で機会損失は変化すること

 
 新技術、新材料、新工法、新設備、新市場等の出現に...

【設計機能 連載目次】

 前回のその1に続いて解説します。
 

1. 機会損失(=逸失利益)とは

 
 機会損失(opportunity loss)とは、ある意思決定をしないことで利益を得る機会を失い、それにより生じた損失のことです。例えば、在庫切れの場合、商品を販売しなかったことによって利益を得る機会がなくなります。本来売れたはずのものを売れなくなったために生じた損失になります。
 
 機会損失というのは可視化できない場合が多いようです。機会損失を知らなければ、目の前の小さな問題点にこだわり、大きなチャンスを逃すこともあります。機会損失という考え方は、設計技術者にとっては、コストダウンを考えるときの急がば回れの視点になります。
 

2. 機会費用(=機会原価)との違い

 
 機会損失は最善の決定をしなかったことによって発生する損失で、機会費用(opportunity cost)は最善の行動をせずに他の行動をしたことによって、失われる利益のことです。「損失」と「失われた利益」の違いになります。
 
 両者は経済学や管理会計の分野でよく耳にする言葉です。機会原価が分かり難いのには、2つの理由が考えられます。1つ目は、機会原価が未来の原価であり、会計上の原価と異なるからです。会計上の原価は過去に発生した費用の履歴になっています。2つ目は、機会原価が2つの代替案(オプション)の利益の差額(差額原価)で計算されるからです。
 

3. 設計上の機会損失

 
 設計上の機会損失は、図1のように「真に必要な機能」に付加された機能で表現できます。例えば、「技術情報不足」、「安全性不足」、「調達力不足」、「製造技術力不足」、「商品戦略・マーケティング力不足」のような付加機能が設計上の機会損失になります。
 
機会損失
図1.  設計上の機会損失
 
 その商品に基本的な顧客ニーズが盛り込まれた機能を「真の要求機能」とすれば次式が成り立ちます。設計段階でこの機会損失の概念を俯瞰しておくことで、機会損失を未然の防止できる可能性が出てきます。言い換えれば、この考え方は顕在的機能だけでなく潜在的機能も考えておくというリスクマネジメントに近いものになります。
 
  現状の商品機能 - 追加機能 = 真の要求機能
 
 つまり
  現状の商品機能 - 真の要求機能 = 追加機能
                 = 顕在的機能 + 潜在的機能
 
 また、機会損失には次のような重要な留意点があります。
 

(1) 時間の経過で機会損失は変化すること

 
 新技術、新材料、新工法、新設備、新市場等の出現によって大きく変わります。
 

(2) 情報の範囲の拡大に比例して機会損失も拡大すること

 
 季節、地域、取引先等により価格も変化します。
 

(3) 関係者の多寡により機会損失も変化すること

 
 自社の設計品質、競合他社の設計品質、他業界の設計品質によって価格も変化します。
 
  

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この記事の著者

粕谷 茂

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