製品開発とコストダウン(その1)

投稿日

1.形のないニーズを形にする設計業務

 コストダウン製造業における設計部門は、お客様のニーズという目にみえないものを製品という形あるものに変換する業務をしています。このため、従来から設計者の創造性ということが重要視されてきました。それは、アイデア力によって、顧客の要求を満たす性能や品質を持つ優れた製品が生み出せることを期待したからです。
 
 その一方で、従来あまりコストは、意識されることがありませんでした。それは、コスト面での制約を与えることによって、創造性を抑えることにならないようにするための配慮でありました。しかし、この結果は、製品の性能の良さは評価されるのですが、値段が高いためにお客様が買えず、売れないという経営上の課題を生み出すことになりました。
 
 製品が売れなければ、当然利益を得ることはできません。このため、製品の設計では、形のないニーズを形ある製品に作り出す創造性と他社に負けない原価で作れることが要求されるようになって来たのです。
 

2.製品コストダウンは設計段階での検討事項

 従来のコストダウンは、製造部門と購買部門を中心に進められてきました。とくに購買部門では、コストダウンは即そのまま利益につながるため、大手製造企業を中心に今も積極的に進められています。しかし、大きなコストダウンを実現しようとすると、部品の形状、材質など図面や仕様の変更をすることが必要になります。
 
 そして、これらの検討項目は、製品の形状や仕様を決めた設計部門での評価テストや確認など了解を取らなければなりません。なぜならば、これらの項目を最初に決めたのは設計部門であり、変更の権限も設計部門にあるからです。これは、最初の設計段階での製品原価の検討をしっかりと行なっていれば、このようなムダを減らすことができるのです。
 

3.製品開発のステップと原価の関係

 製品を開発する設計業務で効率よく目標原価を進めるにはどうすればよいでしょうか。そのためには、製品開発のステップと原価の関係について理解しておくことが必要です。製品開発は、販売部門が、お客様のニーズを文書化した書類から開始されます。この書類には、お客様のニーズが書かれています。これが商品企画書です。
 
 そして、設計段階の最初のステップは、構想設計といわれ、お客様のニーズを満たす方法を考え、必要とされる品質や性能、製品の大きさや入力を何にするのか、出力はどのようにするのか、その位置など全体像を描くことです。
 
 たとえば、複写機であれば、その大きさはどのくらいか、動力は電気を使い、紙をどこから入れるか、紙をどこから出してくるのか、1分間のコピー枚数といったことです。つぎのステップは、基本設計です。基本設計では、開発する製品に要求される基本的な機能をどのような構成要素によるのか、その構成の中をどのような構造にするのかを決めることです。
 
 複写機では、紙を取り入れる、原紙を読みとる、紙に写す、紙を排出するなどの構成要素があり、紙を排出する構成部分では、ゴムローラーを回して送り出すなどの構造を決めることです。
 
 そして、最後が詳細設計のステップです。詳細設計では、基本設計で決めた構造を具体的な部品へと展開していくことです。構造をいくつかの部品に分け、部品の形状や材質、寸法、公差などが詳しく決めることになります。設計した製品は、目的とした品質や機能などを達成しているのかを試作機を作って(設計試作)、検証します(実機テスト)。当初の計画通りの品質や機能などと目標原価が、要求が満たせていれば生産に移行することになります。これが製品開発のステップです。そして、この製品開発ステップとコスト決定の関係を見る...

1.形のないニーズを形にする設計業務

 コストダウン製造業における設計部門は、お客様のニーズという目にみえないものを製品という形あるものに変換する業務をしています。このため、従来から設計者の創造性ということが重要視されてきました。それは、アイデア力によって、顧客の要求を満たす性能や品質を持つ優れた製品が生み出せることを期待したからです。
 
 その一方で、従来あまりコストは、意識されることがありませんでした。それは、コスト面での制約を与えることによって、創造性を抑えることにならないようにするための配慮でありました。しかし、この結果は、製品の性能の良さは評価されるのですが、値段が高いためにお客様が買えず、売れないという経営上の課題を生み出すことになりました。
 
 製品が売れなければ、当然利益を得ることはできません。このため、製品の設計では、形のないニーズを形ある製品に作り出す創造性と他社に負けない原価で作れることが要求されるようになって来たのです。
 

2.製品コストダウンは設計段階での検討事項

 従来のコストダウンは、製造部門と購買部門を中心に進められてきました。とくに購買部門では、コストダウンは即そのまま利益につながるため、大手製造企業を中心に今も積極的に進められています。しかし、大きなコストダウンを実現しようとすると、部品の形状、材質など図面や仕様の変更をすることが必要になります。
 
 そして、これらの検討項目は、製品の形状や仕様を決めた設計部門での評価テストや確認など了解を取らなければなりません。なぜならば、これらの項目を最初に決めたのは設計部門であり、変更の権限も設計部門にあるからです。これは、最初の設計段階での製品原価の検討をしっかりと行なっていれば、このようなムダを減らすことができるのです。
 

3.製品開発のステップと原価の関係

 製品を開発する設計業務で効率よく目標原価を進めるにはどうすればよいでしょうか。そのためには、製品開発のステップと原価の関係について理解しておくことが必要です。製品開発は、販売部門が、お客様のニーズを文書化した書類から開始されます。この書類には、お客様のニーズが書かれています。これが商品企画書です。
 
 そして、設計段階の最初のステップは、構想設計といわれ、お客様のニーズを満たす方法を考え、必要とされる品質や性能、製品の大きさや入力を何にするのか、出力はどのようにするのか、その位置など全体像を描くことです。
 
 たとえば、複写機であれば、その大きさはどのくらいか、動力は電気を使い、紙をどこから入れるか、紙をどこから出してくるのか、1分間のコピー枚数といったことです。つぎのステップは、基本設計です。基本設計では、開発する製品に要求される基本的な機能をどのような構成要素によるのか、その構成の中をどのような構造にするのかを決めることです。
 
 複写機では、紙を取り入れる、原紙を読みとる、紙に写す、紙を排出するなどの構成要素があり、紙を排出する構成部分では、ゴムローラーを回して送り出すなどの構造を決めることです。
 
 そして、最後が詳細設計のステップです。詳細設計では、基本設計で決めた構造を具体的な部品へと展開していくことです。構造をいくつかの部品に分け、部品の形状や材質、寸法、公差などが詳しく決めることになります。設計した製品は、目的とした品質や機能などを達成しているのかを試作機を作って(設計試作)、検証します(実機テスト)。当初の計画通りの品質や機能などと目標原価が、要求が満たせていれば生産に移行することになります。これが製品開発のステップです。そして、この製品開発ステップとコスト決定の関係を見ると図1のようになります。
 
             コストダウン
               図1.製品開発ステップとコスト決定の関係
 
 製品の構想段階では、製品の大きさによってコストは左右されますが、また自由度は高い状態にあり、コストはそれほど決定されているわけではありません。つぎの基本設計段階では、大きさや構成が決まり、その構成の中の構造の違いによってコストが左右されることになります。そして、最後の詳細設計では、構造の中の部品の形状や材質、寸法などによってコストが左右されることになっていきます。
 
 このように製品の中身が、具体的に決められていくに従って、コスト決定の自由度が狭まっていくことになります。そして、「製品のコストは、設計段階でその80%が決まる。」といわれるゆえんがここにあります。
 
 次回は、設計でのコストダウンのポイントを解説します。
 

   続きを読むには・・・


この記事の著者

間舘 正義

製品を切り口に最適コスト追求のためのコスト・ソリューションを提供します。

製品を切り口に最適コスト追求のためのコスト・ソリューションを提供します。


「技術マネジメント総合」の他のキーワード解説記事

もっと見る
顧客の声を聴くとは 新規事業・新商品を生み出す技術戦略(その49)

        今回は一部に賛否両輪がささやかれる「顧客の声を聴く」がテーマです。    売れ...

        今回は一部に賛否両輪がささやかれる「顧客の声を聴く」がテーマです。    売れ...


自社の存在価値 普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その116)

  ここまでずっと、「思考を構成する2つの要素」のうちの「思い付く」、そしてさらにその「思い付く」の2つ要素の内の知識や経験を「整理するフ...

  ここまでずっと、「思考を構成する2つの要素」のうちの「思い付く」、そしてさらにその「思い付く」の2つ要素の内の知識や経験を「整理するフ...


技術文書の品質管理(その6)技術文書の最小単位、文の品質管理

  今回は、技術文書の最小単位である文と、その品質管理について解説します。文の品質管理は技術文書の品質管理に含まれます。しかし、文の品質管...

  今回は、技術文書の最小単位である文と、その品質管理について解説します。文の品質管理は技術文書の品質管理に含まれます。しかし、文の品質管...


「技術マネジメント総合」の活用事例

もっと見る
擦り合わせ型開発と組み合わせ型開発とは

   「擦り合わせ型開発」という言葉や考え方は、東京大学の藤本隆宏教授が著書「能力構築競争」(中公新書)などで示したものです。マスコミなどでは...

   「擦り合わせ型開発」という言葉や考え方は、東京大学の藤本隆宏教授が著書「能力構築競争」(中公新書)などで示したものです。マスコミなどでは...


品質の仕組みとは3 プロジェクト管理の仕組み (その29)

 これまでISO9001を例にした話になっていますので、ここで PMBOK (Project Management Body of Knowledge) ...

 これまでISO9001を例にした話になっていますので、ここで PMBOK (Project Management Body of Knowledge) ...


設計部門とリスク管理(その2)

【設計部門とリスク管理 連載目次】 1. リスク管理とは目標達成までのシナリオ作成 2. コンティンジェンシープランの注意事項 3. リスク管理...

【設計部門とリスク管理 連載目次】 1. リスク管理とは目標達成までのシナリオ作成 2. コンティンジェンシープランの注意事項 3. リスク管理...