手法よりも考え方 現場改善:発想の転換 (その2)

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生産マネジメント

 

 工場の経営者から現場の従業員の方を対象として「現場改善:発想の転換」をテーマに解説します。固定観念を打ち崩しながら現場改善に留(とど)まらず、経営革新まで範囲を広げ、改善とは何か、革新とは何かを、目からウロコ的に連載しておりますが、今回はその第2回目となります。

◆ 手法よりも考え方が肝心

1. 手法の物真似だけではダメ

 経営者の方々からわれわれコンサルタントに、生産革新や工場の改善の依頼があります。その狙いを伺(うかが)ってみますと「競争会社が何やら改善活動をしていて効果を出しているから、自分の会社も何かをやらなければ遅れてしまうと」少し慌て気味での相談も少なくありません。そこで、即効性のある改善の手法やツールを、教えてほしいというリクエストになってきます。

 しかしこれは、切り花を花瓶(びん)に生けて飾っているようなもので、実は花を支える根っ子がないままの状態と変わらないため長続きはせず、一時的かつ物理的な物真似(まね)になってしまいます。手法やツールは形になって見えるので、真似がしやすいものであるため仕方ありませんが、慌てていると本質を見失うこともあります。

 また、それに対してコンサルタントの方も目先の成果を出すことに捉われ、クライアントと一緒になり手法やツールに関したコンサルティングに集中してしまうといった事に陥りやすいようです。本当はもっとじっくり、コンサルティングしたいようでも、相手のあることですから思うようにはいかないことが多々あります。

 しかし、早い工場では半年もすれば以前の工場と比べて相当5Sも良くなり、見た目には非常に改善の結果をみることができるようになります。この状態を見て経営者の一部には、この程度なら自分たちでも十分に活動を推進することができると自信を持って錯覚される方?もいます。

 そして、わざわざ社外の人に頼らなくとも、自分たちで企画する社内研修か何かで代用できると勘違いして、コンサルタントを排除してしまうことになります。しばらくすると、工場内は元の状態に戻ってしまい、こんなはずじゃなかったと後悔することになります。切り花と一緒でしばらくすれば枯れてしまうもので、見た目には変わった気分がしただけのことなのです。

 私のクライアントの中にも3回訪問しただけで自分たちでも改善ができるといって、2年間自主活動をやった結果、工場全体の生産性が思うように向上しなかったため「やはりダメだった。再度お願いします」と依頼してきた会社がありました。一般的には、工場全体の生産性は、そんなに簡単に向上するものではなく、むしろ低下させる要因や圧力が多く、現状維持ができれば良い方であり、年率5%以上であれば良い会社といわれるくらいです。一方では、真面目に5年間活動を続けていた工場では、当時から比較して生産性が2倍以上になっている会社もあります。伸びていく一つの要素としては、素直さにあるようです。

 

2. 根っ子に考え方があった

 良い会社、優れている会社、評判の良い会社、強い会社、特徴のある会社、儲かっている会社などといわれている会社は、どこが違うのでしょうか?

 かんばんや標準作業、アンドンの導入などの手法やツールの物真似だけでは、ダントツの利益を得る会社に変身させることは全く無理な話です。その綺麗な花の下には、しっかりした根っ子があることを忘れてはなりません。改善が本当に定着して、習慣化し風土化して生産革新できるのは、少なくとも3年から5年以上は掛かるものです。つまり、花を支える根っ子である思想がなければ、これらの活動も表面的なものになってしまうということです。

 手法やツールの背後にある考え方(思想、信念、価値観など)が、あるのとないのでは大きな違いになります。しかも、それは外部から見ても、なかなか見つけにくく、わからないものなのです。ただ目的に向かって突っ走るだけでは、迷路に迷い込むことにもなりかねません。魚は頭から泳ぐように、行動にはそれなりのポリシー、志、思想などの考えが伴わなければ意味がないと思います。それらを基に社員全員が、ベクトルを合わせるように仕向けることが重要になります。

 全員が同じ考えで、お客様の方向に向かい、行動している会社が良い会社などと評価されるでしょう。

 

3. フレームワークを根本から変える

 氷山に例えるならば、手法やツールの部分は海面から出て見えている部分です。それ以外は、海面から下の見えない部分に当たります。本当は、この下の部分の勉強や習得が必要なのです。これらを実践して理解、納得するまでには相当時間は掛かります。それは、もっと基本の「考え方」を経営者含め社員の方々が心の底から納得していないからで、そのために活動が他人事になってしまい継続しなかったと考えます。

 この手法と考え方の関係をフレームワークに描きます。このフレームワークを基にしますと考えるうえで、非常に整理しやすく参考になると思います。品質のつくりこみだけでなく、コストのつくりこみ、リードタイムのつくりこみなど、ものづくり全般に応用できるものですので『「品質のつくりこみ能力」パワーアップ教本』(日刊工業新聞社発刊)という本などを参考にして頂きたいと思います。

 上段から5S、作業標準、標準作業、作業要領書、ポカヨケ、アンドンなどの「手法やツール」があり、その下段には1個流し、小ロット生産、不良でラインを止める、ムダ取り、平準化生産などの「システム」があります。さらに、現場の自律化、目で看る管理、多能工化などの「マネジメント」、最下段が、品質は検査ではなく工程内でつくりこむ考え、共存共栄、人間性尊重などの考え方に相当する「...

生産マネジメント

 

 工場の経営者から現場の従業員の方を対象として「現場改善:発想の転換」をテーマに解説します。固定観念を打ち崩しながら現場改善に留(とど)まらず、経営革新まで範囲を広げ、改善とは何か、革新とは何かを、目からウロコ的に連載しておりますが、今回はその第2回目となります。

◆ 手法よりも考え方が肝心

1. 手法の物真似だけではダメ

 経営者の方々からわれわれコンサルタントに、生産革新や工場の改善の依頼があります。その狙いを伺(うかが)ってみますと「競争会社が何やら改善活動をしていて効果を出しているから、自分の会社も何かをやらなければ遅れてしまうと」少し慌て気味での相談も少なくありません。そこで、即効性のある改善の手法やツールを、教えてほしいというリクエストになってきます。

 しかしこれは、切り花を花瓶(びん)に生けて飾っているようなもので、実は花を支える根っ子がないままの状態と変わらないため長続きはせず、一時的かつ物理的な物真似(まね)になってしまいます。手法やツールは形になって見えるので、真似がしやすいものであるため仕方ありませんが、慌てていると本質を見失うこともあります。

 また、それに対してコンサルタントの方も目先の成果を出すことに捉われ、クライアントと一緒になり手法やツールに関したコンサルティングに集中してしまうといった事に陥りやすいようです。本当はもっとじっくり、コンサルティングしたいようでも、相手のあることですから思うようにはいかないことが多々あります。

 しかし、早い工場では半年もすれば以前の工場と比べて相当5Sも良くなり、見た目には非常に改善の結果をみることができるようになります。この状態を見て経営者の一部には、この程度なら自分たちでも十分に活動を推進することができると自信を持って錯覚される方?もいます。

 そして、わざわざ社外の人に頼らなくとも、自分たちで企画する社内研修か何かで代用できると勘違いして、コンサルタントを排除してしまうことになります。しばらくすると、工場内は元の状態に戻ってしまい、こんなはずじゃなかったと後悔することになります。切り花と一緒でしばらくすれば枯れてしまうもので、見た目には変わった気分がしただけのことなのです。

 私のクライアントの中にも3回訪問しただけで自分たちでも改善ができるといって、2年間自主活動をやった結果、工場全体の生産性が思うように向上しなかったため「やはりダメだった。再度お願いします」と依頼してきた会社がありました。一般的には、工場全体の生産性は、そんなに簡単に向上するものではなく、むしろ低下させる要因や圧力が多く、現状維持ができれば良い方であり、年率5%以上であれば良い会社といわれるくらいです。一方では、真面目に5年間活動を続けていた工場では、当時から比較して生産性が2倍以上になっている会社もあります。伸びていく一つの要素としては、素直さにあるようです。

 

2. 根っ子に考え方があった

 良い会社、優れている会社、評判の良い会社、強い会社、特徴のある会社、儲かっている会社などといわれている会社は、どこが違うのでしょうか?

 かんばんや標準作業、アンドンの導入などの手法やツールの物真似だけでは、ダントツの利益を得る会社に変身させることは全く無理な話です。その綺麗な花の下には、しっかりした根っ子があることを忘れてはなりません。改善が本当に定着して、習慣化し風土化して生産革新できるのは、少なくとも3年から5年以上は掛かるものです。つまり、花を支える根っ子である思想がなければ、これらの活動も表面的なものになってしまうということです。

 手法やツールの背後にある考え方(思想、信念、価値観など)が、あるのとないのでは大きな違いになります。しかも、それは外部から見ても、なかなか見つけにくく、わからないものなのです。ただ目的に向かって突っ走るだけでは、迷路に迷い込むことにもなりかねません。魚は頭から泳ぐように、行動にはそれなりのポリシー、志、思想などの考えが伴わなければ意味がないと思います。それらを基に社員全員が、ベクトルを合わせるように仕向けることが重要になります。

 全員が同じ考えで、お客様の方向に向かい、行動している会社が良い会社などと評価されるでしょう。

 

3. フレームワークを根本から変える

 氷山に例えるならば、手法やツールの部分は海面から出て見えている部分です。それ以外は、海面から下の見えない部分に当たります。本当は、この下の部分の勉強や習得が必要なのです。これらを実践して理解、納得するまでには相当時間は掛かります。それは、もっと基本の「考え方」を経営者含め社員の方々が心の底から納得していないからで、そのために活動が他人事になってしまい継続しなかったと考えます。

 この手法と考え方の関係をフレームワークに描きます。このフレームワークを基にしますと考えるうえで、非常に整理しやすく参考になると思います。品質のつくりこみだけでなく、コストのつくりこみ、リードタイムのつくりこみなど、ものづくり全般に応用できるものですので『「品質のつくりこみ能力」パワーアップ教本』(日刊工業新聞社発刊)という本などを参考にして頂きたいと思います。

 上段から5S、作業標準、標準作業、作業要領書、ポカヨケ、アンドンなどの「手法やツール」があり、その下段には1個流し、小ロット生産、不良でラインを止める、ムダ取り、平準化生産などの「システム」があります。さらに、現場の自律化、目で看る管理、多能工化などの「マネジメント」、最下段が、品質は検査ではなく工程内でつくりこむ考え、共存共栄、人間性尊重などの考え方に相当する「思想」となります。

 多くの会社がコンサルティングを受けて実践しているのは、実は一番上にある「手法やツール」の部分を中心としたものです。確かに形から入っていって魂を変えることもできますが、その魂の部分の納得不足があり改善活動で終始してしまい、生産革新まで到達できるところまで継続できない一つの要因と考えます。

 従来からやってきた各社の生産活動におけるフレームワークは、それは単なる積み重ねであったり、混沌としていたものだったり、あるいはそれ自体がなかったりしたのではないかと思います。大事なことは「急がば回れ」であって、この肝心な“考え方”を腹に入れることで、“考え方”を変え、そして行動を変えていき、それで工場全体が変わり、現場の改善が工場革新、経営革新へと変わっていくものです。

 今までこびりついていた脳みその垢をそぎ落としていく意識改革は、苦痛を伴いますが、競争力をつけ生き残っていくためには避けて通れない道です。このフレームワークを今後も活用しながら、生産現場や会社全体を変えていく話を進めていきたいと思います。

 次回は、現場改善:発想の転換(その3) 会社の目的は何かです。

 

 【出典】株式会社 SMC HPより、筆者のご承諾により編集して掲載

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この記事の著者

松田 龍太郎

見えないコトを見えるようにする現場改善コンサルタント。ユーモアと笑顔をセットにして、元氣一杯に現地現物での指導を心がける。難しいことはわかりやすく、例え話や事例を用いながら解説し、納得してもらえるように楽しく動機付けを行います。

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