2.設計・製造リンク構築(IT 化)の進め方
PDM/PLM は設計・製造リンクの中核となるシステムですが、設計・製造リンクの構想がない状態での PLM/PDM の導入は、その後の運用において大きな混乱や滞留を生じさせることになります。実際、PDM/PLM にかかる費用や投入した工数に見合う投資効果を得ていないというマネジャーの不満や、システムに縛られてかえって効率が落ちているという開発現場からの不満をよく聞きます。
このような PDM/PLM を導入しても十分な効率化ができていない、もしくは成果が出ていない組織のほとんどは、IT 化を技術者の片手間でやったり、タスクフォースや委員会を設置して兼任で進めたり、構想や設計からシステムベンダーに丸投げしたりしています。実は、設計・製造リンクのような全体最適となる設計・製造の IT 化ができない最大の原因は、自社で開発業務全体を視野に入れた IT 化要員を置いていないことなのです。
PLM/PDM の導入などによる IT 化を行った後、顧客や製品、部署などの変化に対応する必要が生じたとき、PDM/PLM のどの部分に変更が必要なのか、その変更がどこに影響するのかなどを自分たちで判断できずシステムベンダーに頼るしかないとしたら、どういうことが起きるでしょうか?
システムベンダーがすぐに対応してくれるとは限らず、対応してくれたとしても短期間での対応には通常よりも多額の費用が必要となるでしょう。その上、現状業務の調査からはじめることになって短期間の対応とはいえなくなり、さらに、思いもよらないところに影響があって手戻りを繰り返すようなことになり、結局稼働できるまでには長い時間かかってしまうことにもなりかねません。そして忘れてはいけないのが、システムベンダーに頼んでいるにもかかわらず、現状調査や設計、テストなどに、社員が多くの時間をとられてしまうということです。
PDM/PLM の導入などの IT 基盤構築は自分たちの主業務ではないからと、システムベンダーに頼ってしまっては、必要最小限の工数で迅速かつ的確に開発業務の変化に対応することはできません。自分たちで製品開発業務を考え、自分たちで PDM/PLM などのシステムやツールをどのように拡張したり変更したりすればいいのかを設計することが大切なのです。その上で、拡張や変更の実作業をシステムベンダーなどの外部にやってもらえばいいのです。
PLM/PDM からなる設計・製造リンクは、自社の開発に合った固有の業務基盤であると同時に、ビジネス拡大のために継続的に成長させるべきものなのです。この認識があれば、片手間にシステム導入を行ったり、システムベンダーに丸投げすることはないはずです。自社内に設計・製造リンクを構築するための IT 要員を置き、自社内に自社の開発における脳発を IT化するための知見・スキルを蓄積することが必要不可欠です。
3.IT 化要員の育成
自社内で IT 化要員を置き、全体最適となるような設計・製造リンクを構想し設計したうえで PDM/PLM の導入・構築に取り組むことができれば、その実装方法の選択肢も広がります。たとえば、自社の設計・製造リンクに合うパッケージを購入して自分たちで設定やカスタマイズをすることもできますし、要求仕様を具体化した上で実装はシステムベンダーに任せることもできます。もちろん、市販のデータベースを使って自分たちで最初から開発することもできます。いずれの実装方法であっても、自社の IT 化要員が全体を構想・設計しているので、顧客要求の変化や効率化のための業務変更などに迅速に対応することが可能です。
図3は、あるメーカーで設計・製造リンク構築を進めるために関係している部署からメンバーを出してもらい作ったチームです。メンバーには、PLM/PDM の導入などの設計・製造リンク構築の実務を担当してもらうととともに、今後の IT 化を進める中心的役割を担う人材となるためのトレーニングを実施しています。そのため、各メンバーには設計などの自分に関係する業務領域を担当してもらい、実務を通じて、業務分析・設計やシステム設計、業務やデータフロー設計などのスキルを身につけてもらいました。
図3. 設計・製造リンク構築チーム
このメンバーで、各種 CAD や PLM、製造における自動機などの導入など、設計・製造リンクのシステム構築を行い、開発期間の半減などの大きな効果を上げています。実際の育成方法は別の機会に紹介したいと思いますが、トップが決断すれば、社内のメンバーで IT 化を進めることが可能なのです。
設計・製造リンクを構築することは、インダストリ 4.0 や IoT に対応するための大前提にもなっています。ビッグデータを活用し外部との密なネットワーク化を進めるには、まずは自社内のデータ化、ネットワーク化ができている必要があるからです。インダストリ 4.0 などの新しい時代で製品開発を継続するためには、製品の設計・製造のための技術者育成と同様に、製品開発のための IT 基盤構築のための技術者の育成にも力を入れることは、企業規模にかかわらず重要です。