:押すから引くことに変えて在庫削減 JIT(その4)

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【JIT(ジャストインタイム)連載目次】

 

1.JIT:ほとんどの工場が押し込み生産方式の考え方で生産

 今から100年前にフォードさんが画期的な生産方法を思いつきました。それは同じモノを大量に生産するベルトコンベア方式を採用することで、安くお客様に商品を提供することができるようにしたものです。そのお陰で生産ラインが川の流れのようになり、サイクルタイムも一定になり非常にモノがつくりやすくなったのです。

 各工程の作業も決まり標準作業もできるようになって、生産性が一気に向上して、その生産方式が一気に世界中を席巻したのです。このことで作業を分業して単能工することにより、習熟度も格段に上がることを証明してくれました。非常に効果的な方式だったので、車の生産だけではなく電気機器など色々な分野の生産に横展開されました。

 この方式は生産者側が優位に立っていた時には非常に有効な方法でした。世の中が少しずつよくなって、お客様は同じモノよりも違ったモノが欲しくなったのです。少し贅沢になるとこの要求は自然に発生してくるものです。従って、同じ生産ラインで異なった製品をいくつも流すことになったわけです。約20年前からはパソコンとインターネットが一気に普及して情報革命が起こりました。これにより情報がオープンになり、誰でもどこでも情報を入手しまた発信ができるようになりました。

 この情報革命により、BRICSといわれる国々が安くモノを生産し市場に供給できるようになりました。これでモノが溢れ出すことになり、品質、納期、価格、そしてサービスまで市場が決めるようになってしまったのです。市場は変化しても工場の中の生産方式は依然として、少品種大量生産方式の古い体質のまま生産をしている企業があまりにも多いのです。つまり今の市場環境が激化する時代に、少品種大量生産方式が根底から崩れだしたのです。

 つまりベルトコンベアによる少品種大量生産である押し込み生産方法は、今の市場環境では前提条件が完全に崩れてしまい、そのメリットが成り立たなくなってしまったのです。それはそれぞれの工程のスピードが違ってくると、作業が間に合わなくなった工程に仕掛が溜まってしまうためです。さらに品種が多くなるとその品種の分だけさらに仕掛が増えることになります。

 こうなると悪魔のサイクルが回り出します。置き場がなくなり、モノが通路にはみ出してきて、そして通路が通れなくなり、移動に時間が掛かり始めます。追い討ちを掛けて通い箱や容器も不足してきて、モノ探しや入れ替え作業、先入先出しも守られなくなり、完全に混乱状態に陥ってしまいます。これでは生産どころの騒ぎではなく、付加価値を生まないムダな宝探しになってしまいます。

 

2.JIT:後工程引き取りだと仕掛を削減できる

 レストランでフルコースの食事をする時には、まず食前酒をいただきます。そして前菜、メインの料理、デザートと食後酒やコーヒーが順番に出されます。いきなりすべての料理を持ってきたり、最後のデザートを最初に持ってくるなどはありえないことです。きちんと順番にしかも前の料理を食べ終わった頃を見計らって次の料理を運んでくれます。それができない店はすぐに潰れてしまうでしょう。でも製造現場はどうでしょうか?レストランのように順序良くモノが流れているでしょうか?テーブルの上には注文した以外のモノはありませんが、製造現場の置き場はどうでしょうか?モノが溢れてはいませんか?よく見ると押し込み生産がまかり通っているかのようだと思いませんか。

 これを後工程引き取り方法のやり方に変えてみましょう。この考え方はスーパーマーケットで買い物をする発想です。まず一番お客様に近い下流の最終工程からやってみます。スーパーマーケットの在庫(仕掛)は、前工程のすぐ近くに設置し直します(ストアといいます)。前工程の人がストアの在庫を目で見て管理できるようにします。そのストアからなくなった分を生産して、欠品がないように補充していきます。

 順番として、最終工程で必要な部品を前工程に取りに行きます。後工程が使ってから、前工程に引き取りに行くのです。つまり必要なものを買いに行くわけです。前工程は勝手に余分を作ろうとしても、生産してくれという情報(かんばん)がなければ生産をしない約束を守ります。ストアに在庫を持つと在庫が増えるような錯覚がありますが、これは制御できる在庫です。これで、どこに何がどれだけあるか不明だった多くの在庫をなくすことができます。

 つまりなくなった分だけを前工程の責任で生産して、後工程が引き取っても欠品のない様にMIN・MAX管理や引き取り量の設定などを取り決めします。段替えの能力、生産能力などお互いの情報を最初にしっかり刷り合わせすることで、最小の在庫で工程間をつないでいきます。しかも工程間のスピードが異なっていても、ストアの在庫で上手くつなぐことができます。また多くの品種にも対応しやすくなります。

 置き場が明確になるため、モノ探しや容器探しもなくなってきます。モノがどこにどれだけあるかがわかるだけでも、随分と作業が楽になります。安定してくると容器を半分の量にしたり、容器そのものを減らしたり、在庫削減が簡単にできるようになります。さらに工程間結合や近づけることでさらに在庫を削減できます。天使のサイクルが回り始めます。

 

3.JIT:簡単なことから実際にやって経験を積むことです

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【JIT(ジャストインタイム)連載目次】

 

1.JIT:ほとんどの工場が押し込み生産方式の考え方で生産

 今から100年前にフォードさんが画期的な生産方法を思いつきました。それは同じモノを大量に生産するベルトコンベア方式を採用することで、安くお客様に商品を提供することができるようにしたものです。そのお陰で生産ラインが川の流れのようになり、サイクルタイムも一定になり非常にモノがつくりやすくなったのです。

 各工程の作業も決まり標準作業もできるようになって、生産性が一気に向上して、その生産方式が一気に世界中を席巻したのです。このことで作業を分業して単能工することにより、習熟度も格段に上がることを証明してくれました。非常に効果的な方式だったので、車の生産だけではなく電気機器など色々な分野の生産に横展開されました。

 この方式は生産者側が優位に立っていた時には非常に有効な方法でした。世の中が少しずつよくなって、お客様は同じモノよりも違ったモノが欲しくなったのです。少し贅沢になるとこの要求は自然に発生してくるものです。従って、同じ生産ラインで異なった製品をいくつも流すことになったわけです。約20年前からはパソコンとインターネットが一気に普及して情報革命が起こりました。これにより情報がオープンになり、誰でもどこでも情報を入手しまた発信ができるようになりました。

 この情報革命により、BRICSといわれる国々が安くモノを生産し市場に供給できるようになりました。これでモノが溢れ出すことになり、品質、納期、価格、そしてサービスまで市場が決めるようになってしまったのです。市場は変化しても工場の中の生産方式は依然として、少品種大量生産方式の古い体質のまま生産をしている企業があまりにも多いのです。つまり今の市場環境が激化する時代に、少品種大量生産方式が根底から崩れだしたのです。

 つまりベルトコンベアによる少品種大量生産である押し込み生産方法は、今の市場環境では前提条件が完全に崩れてしまい、そのメリットが成り立たなくなってしまったのです。それはそれぞれの工程のスピードが違ってくると、作業が間に合わなくなった工程に仕掛が溜まってしまうためです。さらに品種が多くなるとその品種の分だけさらに仕掛が増えることになります。

 こうなると悪魔のサイクルが回り出します。置き場がなくなり、モノが通路にはみ出してきて、そして通路が通れなくなり、移動に時間が掛かり始めます。追い討ちを掛けて通い箱や容器も不足してきて、モノ探しや入れ替え作業、先入先出しも守られなくなり、完全に混乱状態に陥ってしまいます。これでは生産どころの騒ぎではなく、付加価値を生まないムダな宝探しになってしまいます。

 

2.JIT:後工程引き取りだと仕掛を削減できる

 レストランでフルコースの食事をする時には、まず食前酒をいただきます。そして前菜、メインの料理、デザートと食後酒やコーヒーが順番に出されます。いきなりすべての料理を持ってきたり、最後のデザートを最初に持ってくるなどはありえないことです。きちんと順番にしかも前の料理を食べ終わった頃を見計らって次の料理を運んでくれます。それができない店はすぐに潰れてしまうでしょう。でも製造現場はどうでしょうか?レストランのように順序良くモノが流れているでしょうか?テーブルの上には注文した以外のモノはありませんが、製造現場の置き場はどうでしょうか?モノが溢れてはいませんか?よく見ると押し込み生産がまかり通っているかのようだと思いませんか。

 これを後工程引き取り方法のやり方に変えてみましょう。この考え方はスーパーマーケットで買い物をする発想です。まず一番お客様に近い下流の最終工程からやってみます。スーパーマーケットの在庫(仕掛)は、前工程のすぐ近くに設置し直します(ストアといいます)。前工程の人がストアの在庫を目で見て管理できるようにします。そのストアからなくなった分を生産して、欠品がないように補充していきます。

 順番として、最終工程で必要な部品を前工程に取りに行きます。後工程が使ってから、前工程に引き取りに行くのです。つまり必要なものを買いに行くわけです。前工程は勝手に余分を作ろうとしても、生産してくれという情報(かんばん)がなければ生産をしない約束を守ります。ストアに在庫を持つと在庫が増えるような錯覚がありますが、これは制御できる在庫です。これで、どこに何がどれだけあるか不明だった多くの在庫をなくすことができます。

 つまりなくなった分だけを前工程の責任で生産して、後工程が引き取っても欠品のない様にMIN・MAX管理や引き取り量の設定などを取り決めします。段替えの能力、生産能力などお互いの情報を最初にしっかり刷り合わせすることで、最小の在庫で工程間をつないでいきます。しかも工程間のスピードが異なっていても、ストアの在庫で上手くつなぐことができます。また多くの品種にも対応しやすくなります。

 置き場が明確になるため、モノ探しや容器探しもなくなってきます。モノがどこにどれだけあるかがわかるだけでも、随分と作業が楽になります。安定してくると容器を半分の量にしたり、容器そのものを減らしたり、在庫削減が簡単にできるようになります。さらに工程間結合や近づけることでさらに在庫を削減できます。天使のサイクルが回り始めます。

 

3.JIT:簡単なことから実際にやって経験を積むことです

 今やろうとしていることは実は先の事例にあったレストランやスーパーマーケットのように、実社会では当たり前のことをやっていることをただ生産現場に持ち込むことだけだと簡単に考えてみて欲しいのです。なにやら難しいことなのでできそうもないという消極的な考えはゴミ箱に投げてしまいましょう。簡単なことなのでまずどこからでもやってみようじゃないか!という軽い気持ちでやってみることです。考えていてもダメです。

 その事例として、まず生産に直接関係のない段ボールや補材、共通部品などでやってみるとよいでしょう。前工程とのやり取りが非常に簡単で生産にあまり影響はありませんので、初期の事例として失敗してもすぐに対応できます。頭でわかったようでも、実際にモノを使ってやるのは大違いです。

 まず何でもよいので手を掛けて見て、体を使って納得することが大切です。1つ体験するともうこの仕組みは自分のものになり、次の本格的な応用が可能になります。最下流の最終工程から1つずつ上流の前工程に向かってつないでいきます。実際に工程をつなげられないこともありますが、そこをカンバンという情報でつないで、あたかもつながっている状態にすることができます。

 

 次回に続きます。

 

 【出典】株式会社 SMC HPより、筆者のご承諾により編集して掲載

 

 

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この記事の著者

松田 龍太郎

見えないコトを見えるようにする現場改善コンサルタント。ユーモアと笑顔をセットにして、元氣一杯に現地現物での指導を心がける。難しいことはわかりやすく、例え話や事例を用いながら解説し、納得してもらえるように楽しく動機付けを行います。

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