トヨタ生産方式を賢く応用するKnow Why -シンガポールでの事例-

 トヨタ生産方式が1980年代半ばに世界に知られるようになってから30年、多くの企業が失敗を繰り返す中で、筆者は、「かんばん」とか「ジャスト・イン・タイム」などの方法(Know How)だけでなく、なぜそうするのか(Know Why)という本質を考えて、数々の成果を収めました。今回から数回に分けて、トヨタ方式を応用するときの心構えともいうべきKnow Whyについて紹介します。

 30年前にシンガポールで生産性向上の技術協力に携わっていた時、シンガポール側からトヨタ生産方式の専門家を派遣して欲しいと要請があり、トヨタのお膝元にある中部産業連盟から短期専門家としてI氏に来ていただきました。その時シンガポール側のトップが「すぐに成果が出るように」と要求したのに対してI氏が「私がトヨタに1年間通ってやっと理解できたものを、1週間やそこらで成果が出るようにしろなんて、分っていないもホドがある」と歎いていたのを思い出します。
 しかし長期専門家の筆者には短期専門家がやってくれたものを成果に結び付ける責務がありますので、必死にI氏のノウハウを吸収したました。その上で、家族経営の小さな段ボール製造会社をモデル会社にし、トヨタ生産方式の本質は何かをいろいろと考えて応用することを根気強く繰り返して、ムダを省きコストを下げることに成功しました。その後、この会社は上場を果たして、中国へも進出するまでに成長したのです。
 一方、多くの企業がトヨタ生産方式の導入に失敗する中で、筆者はこのモデル企業での経験を活かして、数多くの企業で成果を上げることができました。

 トヨタ生産方式について筆者がセミナーで話す時、トヨタ生産方式の膨大な内容を限られた時間でどのようにしたら、正しく、というよりも役に立つ形で、参加者に伝えられるかに非常に気を使います。I氏は「1週間やそこらで・・・」と歎いたわけですが、セミナーは(特に今日の日本では)1時間半とか半日と短いですし、参加される方も(特に今日の日本では)多くの課題を抱えていますので、ワラにもすがる思いで「すぐに役立つものを求められ」たり、「うちみたいな中小零細企業ではそんなのムリだよ」と最初からハスに構えられたりするのに、頭を悩ませられることもしばしばです。

 そこで筆者は最初に、「何とか皆さんのお役に立つようにと考えていますが、お聴き下さる皆さんにも“受信機の感度をウ~ンと上げて頂く”ことが必須です。ところで受信機の感度をウ~ンと上げるにはどうすればいいかというと、聴いたり見たりしたことを、先ず、“なるほどそうなのか!”と素直に受け入れることです」と申し上げています。

 トヨタ生産方式の本質のひとつは、「ムダ排除への飽くなき挑戦」で、その柱の1つがジャスト・イン・タイム(必要なものを、必要なときに、必要なだけ)です。ご存知かと思いますが、この発想は初代社長の豊田喜一郎氏がアメリカ視察の際に目にしたスーパーマーケット(今のコンビニ)の商品補充方式だという話はつとに有名です。自動車造りとスーパーマーケットは何の関係もありません。それなのに、豊田社長は何故この発想を得たのでしょうか。それは、「ムダをなくすにはどうしたらいいか?」という意識が常にあって、スーパーマーケットの「なくなった分だけ補充する」というやり方を見聞した時に、「なるほどそうなのか!」と素直に受け入れたことにあります。

 皆さんもセミナーに参加された時には、まず「なるほどそうなのか!」と素直に受け入れ、その後で、わが社の実状はこれこれなんだけどどうやって応用するうのがいいだろうかと考えて、それから講師に相談するようにしてみて下さい。必ず良いアイデアが浮んできて、競争相手よりも一歩先んずることが出来るでしょう。後に紹介するベトナムのニットウエア会社の場合にも、実は同じようなエピソードがありますので、次回をお楽しみにしてください。


この記事の著者

鈴木 甫

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