: 工程の流れを見えるようにする JIT(その6)

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トヨタ生産方式

【JIT(ジャストインタイム)連載目次】

 

1.JIT:工程が分離しているから成果に結びつかない

 個別改善を行って作業改善するとその作業自体が楽になることは良いことですが、できれば早くそして確実に経営成果に結びつけて欲しいものです。まずできる改善で従業員の皆さんに自信を持ってもらうことは非常に大切なことですが、いつまでもできる改善をやっていては世の中の競争にはついていけません。「できるだけ早くできる改善」から「必要な改善」ができるようになっていくように仕向けたいものです。この見極めと指導が管理監督者の大きな仕事になると考えます。

 個々の改善が多くなるに従い、ムダが少なくなっていき工場全体が原価低減できるようになります。しかしほとんどはその作業の中に留まってしまい、せっかくの改善効果が経営成果として現れなくなる場合も多くあります。それは作業や工程がお互いに関連してつながっているようで、実はつながっていないからと考えます。

 その原因として、各作業や各工程が流れになっていないからで、仕掛というクッションや停滞に吸収されてしまうのです。作業の手待ちになってしまったり、ラインバランスが狂ったりして、元の木阿弥になっていることが多いのです。改善をしたらすぐにその効果を吸い上げて、工数低減、コストダウン、品質向上などの経営成果に結び付けたいものです。

 工場の付加価値はインプットからアウトプットまでの過程が上手くつながり、マネジメントされて初めて生み出されるものです。どこかで停滞していたら、その分原価が高騰することになります。従って、モノや情報を素早く流れるようにしなければなりません。

 このつながっているようで、実はつながっていない作業や工程が見えないとかわからないこと自体が問題です。この仕掛をできるだけ少なくして、前の作業や工程を素早くつないで全体の停滞をなくしていくことで、成果が原価低減へと結びついて行きます。

 

2.JIT:つないで見る方法に魚の骨や巻紙分析がある

 作業や工程をつないで見える方法に「魚の骨」や「巻紙分析」があります。これらをご紹介しましょう。工程が短いものや組立工程が対象であれば「魚の骨」を用います。また工程が長い場合や間接部門の場合には「巻紙分析」を用います。

 「魚の骨」と聞くと、すぐに「特性要因図」を思い浮かべられるかと思いますが別なものになります。頭は工程の先頭になり、尻尾は後工程の最後になります。頭を左にまな板に置き、身はすべて取り去り骨だけにします。骨の関節部門の上半分の骨には部品を並べていきます。その関節の下には、その作業や工程で用いる治工具や設備を順番に記入していきます。

 工場のレイアウトで見るとあちこちに部品や仕掛が行ったり来たりして、流れを掴むことが難しいのでどこから改善を着手してよいかわかりにくかったのです。一匹の魚(最初は鰻のように長くなります)にしますと、先頭から尻尾まで一連の流れになり、全体の流れが一目でわかるようになります。一種の工程分析表になりますが、魚に例えると遊び心も入ってくるので現場の人たちの意識が違ってきます。

 これを作成する時に組立の製品であると、完成品から一つずつ部品を外しながら、その順番と治工具の関係を照らし合わせていきます。先頭と尻尾の両方から作業しやすい順番を検証します。順番がよければ「魚の骨」に記述していきます。そこでサブアッシーや予め在庫対応してもよい部位を検討してみます。接着剤の乾燥や硬化処理が必要で、リードタイムが長くなるものを除外したりすることなどがヒントとして頭に浮かんできます。この場合の仕掛はできちゃったものではなく、持ちたい!という意思がありますので、容易に制御が出来る戦略的仕掛になります。作業や工程の関係も明確になって、改善したことがどこに結びつくかも見えてきて効果が出やすくなります。

 「巻紙分析」は、巻紙のように工程の経路が長くなると紙を張り合わせていくのでこのように呼ばれます。「魚の骨」と同様に工程の先頭から終わりまでの流れに沿って並べていきます。その時に作業時間や停滞時間をヒアリングしてリードタイムを算出します。誰も全体像を知らないことが多く、こんなにも複雑で問題が多くあることに皆さんが驚きます。この問題の共有化が重要になります。

 現状をしっかり把握することで、もう8割の改善ができたといえるほどです。帳票やPCの画面も印刷してモノと情報の流れを同時に確認します。一連の流れを壁に貼り付けますと、ボトルネックが顕在化してきます。このように全体像が見えて、お互いの関連がわかってくるとどう対応すべきかがわかってきます。不要な作業や工程を省いたり、集約したり、廃止したりして全体の流れを短くしていくようにします。全体像が共有化でき、対策も関連して取りやすくなります。

 

3.JIT:工程の見直しや再設計が楽にでき、成果も出始める

 加工部品や組立部品には必ず設計図面があり、その図面を見れば加工や組立の再現が可能です。狭い範囲の作業や工程は見渡せば何とか見えますが、工程が分断されている場合や離れ小島で作業するものや協力工場に出した中間品なども見えなくなっています。これらが一つの流れになって見えるようになり設計図のようになれば、設計変更も簡単にできるものです。今までそれが疎かになっていたので...

トヨタ生産方式

【JIT(ジャストインタイム)連載目次】

 

1.JIT:工程が分離しているから成果に結びつかない

 個別改善を行って作業改善するとその作業自体が楽になることは良いことですが、できれば早くそして確実に経営成果に結びつけて欲しいものです。まずできる改善で従業員の皆さんに自信を持ってもらうことは非常に大切なことですが、いつまでもできる改善をやっていては世の中の競争にはついていけません。「できるだけ早くできる改善」から「必要な改善」ができるようになっていくように仕向けたいものです。この見極めと指導が管理監督者の大きな仕事になると考えます。

 個々の改善が多くなるに従い、ムダが少なくなっていき工場全体が原価低減できるようになります。しかしほとんどはその作業の中に留まってしまい、せっかくの改善効果が経営成果として現れなくなる場合も多くあります。それは作業や工程がお互いに関連してつながっているようで、実はつながっていないからと考えます。

 その原因として、各作業や各工程が流れになっていないからで、仕掛というクッションや停滞に吸収されてしまうのです。作業の手待ちになってしまったり、ラインバランスが狂ったりして、元の木阿弥になっていることが多いのです。改善をしたらすぐにその効果を吸い上げて、工数低減、コストダウン、品質向上などの経営成果に結び付けたいものです。

 工場の付加価値はインプットからアウトプットまでの過程が上手くつながり、マネジメントされて初めて生み出されるものです。どこかで停滞していたら、その分原価が高騰することになります。従って、モノや情報を素早く流れるようにしなければなりません。

 このつながっているようで、実はつながっていない作業や工程が見えないとかわからないこと自体が問題です。この仕掛をできるだけ少なくして、前の作業や工程を素早くつないで全体の停滞をなくしていくことで、成果が原価低減へと結びついて行きます。

 

2.JIT:つないで見る方法に魚の骨や巻紙分析がある

 作業や工程をつないで見える方法に「魚の骨」や「巻紙分析」があります。これらをご紹介しましょう。工程が短いものや組立工程が対象であれば「魚の骨」を用います。また工程が長い場合や間接部門の場合には「巻紙分析」を用います。

 「魚の骨」と聞くと、すぐに「特性要因図」を思い浮かべられるかと思いますが別なものになります。頭は工程の先頭になり、尻尾は後工程の最後になります。頭を左にまな板に置き、身はすべて取り去り骨だけにします。骨の関節部門の上半分の骨には部品を並べていきます。その関節の下には、その作業や工程で用いる治工具や設備を順番に記入していきます。

 工場のレイアウトで見るとあちこちに部品や仕掛が行ったり来たりして、流れを掴むことが難しいのでどこから改善を着手してよいかわかりにくかったのです。一匹の魚(最初は鰻のように長くなります)にしますと、先頭から尻尾まで一連の流れになり、全体の流れが一目でわかるようになります。一種の工程分析表になりますが、魚に例えると遊び心も入ってくるので現場の人たちの意識が違ってきます。

 これを作成する時に組立の製品であると、完成品から一つずつ部品を外しながら、その順番と治工具の関係を照らし合わせていきます。先頭と尻尾の両方から作業しやすい順番を検証します。順番がよければ「魚の骨」に記述していきます。そこでサブアッシーや予め在庫対応してもよい部位を検討してみます。接着剤の乾燥や硬化処理が必要で、リードタイムが長くなるものを除外したりすることなどがヒントとして頭に浮かんできます。この場合の仕掛はできちゃったものではなく、持ちたい!という意思がありますので、容易に制御が出来る戦略的仕掛になります。作業や工程の関係も明確になって、改善したことがどこに結びつくかも見えてきて効果が出やすくなります。

 「巻紙分析」は、巻紙のように工程の経路が長くなると紙を張り合わせていくのでこのように呼ばれます。「魚の骨」と同様に工程の先頭から終わりまでの流れに沿って並べていきます。その時に作業時間や停滞時間をヒアリングしてリードタイムを算出します。誰も全体像を知らないことが多く、こんなにも複雑で問題が多くあることに皆さんが驚きます。この問題の共有化が重要になります。

 現状をしっかり把握することで、もう8割の改善ができたといえるほどです。帳票やPCの画面も印刷してモノと情報の流れを同時に確認します。一連の流れを壁に貼り付けますと、ボトルネックが顕在化してきます。このように全体像が見えて、お互いの関連がわかってくるとどう対応すべきかがわかってきます。不要な作業や工程を省いたり、集約したり、廃止したりして全体の流れを短くしていくようにします。全体像が共有化でき、対策も関連して取りやすくなります。

 

3.JIT:工程の見直しや再設計が楽にでき、成果も出始める

 加工部品や組立部品には必ず設計図面があり、その図面を見れば加工や組立の再現が可能です。狭い範囲の作業や工程は見渡せば何とか見えますが、工程が分断されている場合や離れ小島で作業するものや協力工場に出した中間品なども見えなくなっています。これらが一つの流れになって見えるようになり設計図のようになれば、設計変更も簡単にできるものです。今までそれが疎かになっていたのです。

 本来ですと「魚の骨」や「巻紙分析」ではなく、工程分析表が元になって設計図となりさらに「標準作業票」や「標準作業組合せ票」が作成されます。でも現場の変化は目まぐるしいので、ついつい頭の中でやってしまい、結局図面(あるべき姿)と実態が合わないものになっているようです。まず実態をこれらの方法で把握して、誰もが見えるようにして(これが肝心なことです)、流れを掴みながら効率の良い流れに作り上げます。

 このように作業や工程の流れが見えるようになれば、どの工程をサブアッシーにするか、ストア対応にするか、協力工場に出すかなど工程結合すべき個所が、図を見ながら検討できるようになります。これが見えるようになればもう改善のお膳立てはできたようなものです。この仕分けができると、全体がシンプルになり、メインの工程では良品のみを流すことができるので、不良手直しが少なく素早く流れるようになって、リードタイムが短縮できます。また仕掛も制御できるようになり、工程全体が短くラインは小さくできます。今まで毎日見ていて頭の中でわかったと思ってみても、実際には正確に記述できません。まず現地現物で事実を確認して成果を出したいものです。

 

 次回に続きます。

 

 【出典】株式会社 SMC HPより、筆者のご承諾により編集して掲載

 

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この記事の著者

松田 龍太郎

見えないコトを見えるようにする現場改善コンサルタント。ユーモアと笑顔をセットにして、元氣一杯に現地現物での指導を心がける。難しいことはわかりやすく、例え話や事例を用いながら解説し、納得してもらえるように楽しく動機付けを行います。

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