社風が会社の見える部分を変える 人材育成・組織・マネジメント(その7)

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人材育成

 

【人材育成・組織・マネジメントの考察 連載目次】

 

 工場の経営者から現場の従業員の方を対象として「人材育成・組織・マネジメント」をテーマに連載で解説します。今回はその第7回目となります。

◆ 会社の文化を変える

1. 職場の良し悪しは会社の文化そのもの

 初めて会った人の第一印象は見た目で9割が判断されてしまうものだといわれています。私はいつも身だしなみをしっかりと小奇麗(ぎれい)にして、挨拶もこちらから大きな声で発します。しかも笑顔をつくりながら、握手もしっかりと両手で行うことを心掛けています。発する言葉に込められた内容は、印象の内のたった7%しか相手は気にしていないことは、驚きの数値でした。それよりも見た目の服装や顔の表情、声の明るさ、声の調子などのウエイトが高いというのです。

 

 筆者自身も実際に会社を訪問して、玄関や工場内に一歩踏み入れた時、一目見た瞬間でその会社の良し悪しを決めてしまっています。またいつもすべての結果は床にあると思っているため、床の状態を見て工場の5Sや規律に対するおよそのレベルを想定しています。8~9割は間違いない判断を出すことができますが、床や5Sの結果は、会社の文化そのものが表面化したものと考えています。

 文化という字をみると「文」は大地の上に人が立っていて、その地面の下には交差しています。つまり地面の下の土を、耕すことだと思います。「化」は、化けるということです。つまり見えない部分を常に耕すことで、その上にいる人が変化することを「文化」と屁理屈(へりくつ)な見方で考えてみましたがどうでしょうか?

 皆さんもとても美味(おい)しくて、しかも収穫してから2年間も腐らないリンゴを、何年もかかって作り上げたという話をお聞きなったことがあると思います。本当の実を得るなら、見えない部分の土から作り変えないといけないことを示唆したものです。会社の目的は、長く生き残ることです。そのためには見える部分を良くするだけではなく、合わせて見えない部分である文化や風土を変えていく必要があると考えます。

 

2. 上司自らが率先垂範し、規律を律する

 ある機械加工と組み立てを行っている工場を見学した時、フォークリフトや台車が行き来している構内の通路や道路を見ても、汚れがなくゴミも見当たりませんでした。見学コースから少し離れて、一般の社員に「綺麗(きれい)な職場ですが、いつも掃除をしておられるのでしょうか?掃除時間はどれくらいですか?」と尋ねてみました。すると意外な答えが返ってきました。掃除時間は特に決めていないといい、汚れた時に気がついた人が率先して清掃しているというのです。

 「それだけじゃないでしょう?何かあるはずですが、本当のところは何ですか?」としつこく聞いてみると、頭を掻(か)きながら「実は、社長が5Sに対してとてもうるさいのです。またいつも突然現れて、あれこれと指摘をされるので、いつも綺麗にしておくことが習慣になってしまったのです」と教えてくれました。それはトップがいつも現場に出て、自分のあるべき姿や思いを社員に自分の言葉で熱く伝えているのでしょう。さりげなく些細(ささい)なことですが、実は全てのことを含んでいるかのようであり、このことを「細部に神々は宿る」というようです。

 

 職場に新たに白線を引いて物の置き場に設定しても、いつもその白線から物がはみ出ているとしたら、それを見ている社員はそれが当たり前になってしまいます。「はみ出しても問題はないのだ、そうするなら他の約束事も守らなくても問題はないのだ」というように、それらが次第にその職場の風土になっていきます。それを誰も指摘しなければ、白線からはみ出してもよいのだというように、士気が成り下がり規律も低下してしまいます。そこで上司やトップが少しでもはみ出したら、すぐに元に戻す行動と規律が求められます。場合によっては、部下に雷を落とすこともあるかと思います。決して怒るのではなく、叱(しか)るということです。このようにすぐに指摘して、あるべき姿をいつも維持できるように規律を自ら律することで、その職場の風土を規律あるものに変えていくべきだと思います。風土が変われば、会社の文化も変わっていくものです。

 人間は刺激がなければ、マイナス思考に陥りやすい動物なのです。プラス思考にしていくには、プラス思考の言葉や態度をシャワーのように社員に振り掛け続ける誰かが必要なわけです。その役割は、上司やトップの重要な仕事になるかと思います。職場は、その長の『鏡』であり『鑑』になるものだと思います。その職場の長の考えや行動が、その職場の規律をつくっていくものです。

 

3. 部下の育成は自分の学びにつながる

 人を育てることは、責任を持ってその人の行動がはっきり変わることまで見届けなければなりません。人は尊敬する人や好きな人のことは、自分でも真似(まね)てみようかと思うそうです。逆にそんな心理を、逆手にとってしまえばよいのです。あなた自身が、部下から好かれる人に変わればよいのです。

 反省だけはサルでもできますが、その後の行動を変えることのできるのは人間だけです。今までの行動(こうどう;攻動、口動、考動、孝動、交動、幸動など)を振り返り、何をすべきか自ら考え直す良い機会になるはずです。多くの人が自分中心になり、部下はニの次になっていたと思います。もっと自己規律を向上させて、ご自...

人材育成

 

【人材育成・組織・マネジメントの考察 連載目次】

 

 工場の経営者から現場の従業員の方を対象として「人材育成・組織・マネジメント」をテーマに連載で解説します。今回はその第7回目となります。

◆ 会社の文化を変える

1. 職場の良し悪しは会社の文化そのもの

 初めて会った人の第一印象は見た目で9割が判断されてしまうものだといわれています。私はいつも身だしなみをしっかりと小奇麗(ぎれい)にして、挨拶もこちらから大きな声で発します。しかも笑顔をつくりながら、握手もしっかりと両手で行うことを心掛けています。発する言葉に込められた内容は、印象の内のたった7%しか相手は気にしていないことは、驚きの数値でした。それよりも見た目の服装や顔の表情、声の明るさ、声の調子などのウエイトが高いというのです。

 

 筆者自身も実際に会社を訪問して、玄関や工場内に一歩踏み入れた時、一目見た瞬間でその会社の良し悪しを決めてしまっています。またいつもすべての結果は床にあると思っているため、床の状態を見て工場の5Sや規律に対するおよそのレベルを想定しています。8~9割は間違いない判断を出すことができますが、床や5Sの結果は、会社の文化そのものが表面化したものと考えています。

 文化という字をみると「文」は大地の上に人が立っていて、その地面の下には交差しています。つまり地面の下の土を、耕すことだと思います。「化」は、化けるということです。つまり見えない部分を常に耕すことで、その上にいる人が変化することを「文化」と屁理屈(へりくつ)な見方で考えてみましたがどうでしょうか?

 皆さんもとても美味(おい)しくて、しかも収穫してから2年間も腐らないリンゴを、何年もかかって作り上げたという話をお聞きなったことがあると思います。本当の実を得るなら、見えない部分の土から作り変えないといけないことを示唆したものです。会社の目的は、長く生き残ることです。そのためには見える部分を良くするだけではなく、合わせて見えない部分である文化や風土を変えていく必要があると考えます。

 

2. 上司自らが率先垂範し、規律を律する

 ある機械加工と組み立てを行っている工場を見学した時、フォークリフトや台車が行き来している構内の通路や道路を見ても、汚れがなくゴミも見当たりませんでした。見学コースから少し離れて、一般の社員に「綺麗(きれい)な職場ですが、いつも掃除をしておられるのでしょうか?掃除時間はどれくらいですか?」と尋ねてみました。すると意外な答えが返ってきました。掃除時間は特に決めていないといい、汚れた時に気がついた人が率先して清掃しているというのです。

 「それだけじゃないでしょう?何かあるはずですが、本当のところは何ですか?」としつこく聞いてみると、頭を掻(か)きながら「実は、社長が5Sに対してとてもうるさいのです。またいつも突然現れて、あれこれと指摘をされるので、いつも綺麗にしておくことが習慣になってしまったのです」と教えてくれました。それはトップがいつも現場に出て、自分のあるべき姿や思いを社員に自分の言葉で熱く伝えているのでしょう。さりげなく些細(ささい)なことですが、実は全てのことを含んでいるかのようであり、このことを「細部に神々は宿る」というようです。

 

 職場に新たに白線を引いて物の置き場に設定しても、いつもその白線から物がはみ出ているとしたら、それを見ている社員はそれが当たり前になってしまいます。「はみ出しても問題はないのだ、そうするなら他の約束事も守らなくても問題はないのだ」というように、それらが次第にその職場の風土になっていきます。それを誰も指摘しなければ、白線からはみ出してもよいのだというように、士気が成り下がり規律も低下してしまいます。そこで上司やトップが少しでもはみ出したら、すぐに元に戻す行動と規律が求められます。場合によっては、部下に雷を落とすこともあるかと思います。決して怒るのではなく、叱(しか)るということです。このようにすぐに指摘して、あるべき姿をいつも維持できるように規律を自ら律することで、その職場の風土を規律あるものに変えていくべきだと思います。風土が変われば、会社の文化も変わっていくものです。

 人間は刺激がなければ、マイナス思考に陥りやすい動物なのです。プラス思考にしていくには、プラス思考の言葉や態度をシャワーのように社員に振り掛け続ける誰かが必要なわけです。その役割は、上司やトップの重要な仕事になるかと思います。職場は、その長の『鏡』であり『鑑』になるものだと思います。その職場の長の考えや行動が、その職場の規律をつくっていくものです。

 

3. 部下の育成は自分の学びにつながる

 人を育てることは、責任を持ってその人の行動がはっきり変わることまで見届けなければなりません。人は尊敬する人や好きな人のことは、自分でも真似(まね)てみようかと思うそうです。逆にそんな心理を、逆手にとってしまえばよいのです。あなた自身が、部下から好かれる人に変わればよいのです。

 反省だけはサルでもできますが、その後の行動を変えることのできるのは人間だけです。今までの行動(こうどう;攻動、口動、考動、孝動、交動、幸動など)を振り返り、何をすべきか自ら考え直す良い機会になるはずです。多くの人が自分中心になり、部下はニの次になっていたと思います。もっと自己規律を向上させて、ご自分の職場も向上させたいものです。

 

 ご自分の仕事を楽にしたいのなら、自らが持っているノウハウ、知識、知恵を惜しみなく部下に提供して、ご自分の分身となるべき人を育て上げるとよいでしょう。一度に多くの人は無理でしょうから、部下の中で後継者と思われる人を選定し、厳しくしかも優しく育てていくと、後継者として申し分のない人材育成ができ、初めて上司の仕事になると思います。教えることでご自身も改めて学ぶことになります。

 部下を褒めることができない上司を多く見ることがあります。なぜ部下を認めようとしないのでしょうか。部下が自分より仕事ができないのは当たり前のことですが、少し振り返ってご自分が仕事に従事した頃のことを思い出して見てほしいものです。誰も最初から仕事ができた訳ではありません。部下は上司を選べません。そう思うと彼らの仕事や人生も決めるのは、上司であるあなた自身だということを自覚してもらいたいのです。まず相手である部下の良い点を見つけ、そして認めてあげることです。部下は給料の価値よりも、上司から認めてもらうことを給料よりも価値があると思っているのです。そんな時間はない。とおっしゃるのは言い訳です。時間はつくリ出すものです。

 

 次回に続きます。

 【出典】株式会社 SMC HPより、筆者のご承諾により編集して掲載

 

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この記事の著者

松田 龍太郎

見えないコトを見えるようにする現場改善コンサルタント。ユーモアと笑顔をセットにして、元氣一杯に現地現物での指導を心がける。難しいことはわかりやすく、例え話や事例を用いながら解説し、納得してもらえるように楽しく動機付けを行います。

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