現場は全てを物語る 人材育成・組織・マネジメント(その2)

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人材育成

 

 

 

【人材育成・組織・マネジメントの考察 連載目次】

 

 工場の経営者から現場の従業員の方を対象として「人材育成・組織・マネジメント」をテーマに連載で解説しています。今回はその第2回目となります。

◆ 全ての結果が集約されている現場

1. コンサルタントは初めに何を要求するか

 コンサルタントが初めて工場に訪問する時には、2つのスタイルがあるといわれています。

 その一つは「まず、経営数値をみせてください」というもので、もう一つは「さあ、現場に行ってみましょうか」というものだそうです。私のスタイルは後者の方ですが、このように「早速ですが、まず現場に行きましょう」と切り出しますと、経営者の皆さんは「他のコンサルタントは、まず経営数値を見せてくれというが、お前は違うのか?」とよくいわれました。最近はこんなことも少なくなり、随分とこのスタイルが浸透してきたものと思います。

 現場は、全ての結果が集約された状態で見ることができますので、まず現場で状況を見れば、その工場が今まで活動してきた経過が手に取るように分るものです。経営数値は、情報を加工したデータであり、工場の全てを物語っているものではありません。情報からデータに変換する際、その加工方法や処理の仕方、さらにはその加工する人の主観で大きく内容が異なったものに表されてしまう恐れもあります。

 つまり、経営数値は意図的に操作が可能なものですので、そのまま鵜呑(うの)みにすることは危険です。ですから、本当の実態をわが目で確認しないことには、その工場の的確な診断をすることができません。また、その処方箋(せん)についても良いものを出すことができなくなります。データではなく、実際の現場の状況をしっかり把握しないことには、間違った診断を出したり、処方箋を書いてしまったりします。

 

2. 先頭工程から最終工程まで2回見る

 工場診断の際には、まず案内しやすい先頭工程から最終工程まで見させてもらいます。その時には、質問はほとんど行わず、気が付いた点をメモに取るだけにしています。

 次に最終工程の出荷場から前工程へと上流に遡(さかのぼ)って行きます。出荷場に行ってから「はい、ありがとうございます。これから今見せて頂いた工程を逆に戻って先頭工程に行きます。色々質問をしていきますよ」と話し、再び歩き始めます。元に戻りますと、一往復になりますので、2回同じ工程を見ます。先ほどメモったことを見ながら今度は質問していきます。

 案内に同行している人たちも、2回見ることになりますので、かなり気付きを発見できます。データとは違い、現場の情報量は格段に多くのものがあります。データや文章さらに写真では気付かないことが満ち溢(あふ)れています。しかし、先頭工程から最終工程まで2回見ることは、初めて訪問する工場では案内をしてくれる人も非常に困るようです。いつもの工場見学では、先頭工程から順に後工程の出荷場まで行われて終了ですが「今日はもう一度、反対方向の出荷場からもう一度」といっても戸惑うようです。物の流れとは反対なので、毎日働いていても逆に歩くことはほとんどなく、しかも後工程から説明をしながら遡っていくのは、やはり難しいようです。 

 

3. 工場の人材をフル活用するには

 会社の組織による指示、命令などの流れは、水の流れのように上から下に向かっています。しかし物の加工、組み立て、検査、出荷業務に実際携わっているのは現場なのです。指示、命令、指導、教育などを受け、実際にものづくりをする現場で結果を出したものとして、製品が出荷されます。その最終製品を製造している現場の一人ひとりがどんな意識で、ものづくりに取り組んでいるかは非常に重要なことです。後工程から診断して行くというのは、これらの結果が最終工程に集約されているからです。このことは、現場の教育の重要性を示唆(しさ)していると考えます。

 設備投資に熱心な経営者であっても、人材(あえていうと人財)教育への投資は、形に見えなく、結果もすぐには出ない代物ですから、おいそれとは投資する気にはなれなかったと思います。しかし、従業員の中で一番お客様に近いのは、現場の人なのです。しかも一番人員の多いのも現場です。彼らを全員教育して、戦力にしていけば、競争力も相当身に付けることができるはずです。

 小集団活動、QCサークル活動のような職場の改善活動が、組織されている工場が多くあります。実態は、手法やツールの部分の勉強が中心であり、本当に必要なのは何故(なぜ)この改善活動を行うのかという背景や目的が明確になっていることです。「手法、ツール」の他に「システム」...

人材育成

 

 

 

【人材育成・組織・マネジメントの考察 連載目次】

 

 工場の経営者から現場の従業員の方を対象として「人材育成・組織・マネジメント」をテーマに連載で解説しています。今回はその第2回目となります。

◆ 全ての結果が集約されている現場

1. コンサルタントは初めに何を要求するか

 コンサルタントが初めて工場に訪問する時には、2つのスタイルがあるといわれています。

 その一つは「まず、経営数値をみせてください」というもので、もう一つは「さあ、現場に行ってみましょうか」というものだそうです。私のスタイルは後者の方ですが、このように「早速ですが、まず現場に行きましょう」と切り出しますと、経営者の皆さんは「他のコンサルタントは、まず経営数値を見せてくれというが、お前は違うのか?」とよくいわれました。最近はこんなことも少なくなり、随分とこのスタイルが浸透してきたものと思います。

 現場は、全ての結果が集約された状態で見ることができますので、まず現場で状況を見れば、その工場が今まで活動してきた経過が手に取るように分るものです。経営数値は、情報を加工したデータであり、工場の全てを物語っているものではありません。情報からデータに変換する際、その加工方法や処理の仕方、さらにはその加工する人の主観で大きく内容が異なったものに表されてしまう恐れもあります。

 つまり、経営数値は意図的に操作が可能なものですので、そのまま鵜呑(うの)みにすることは危険です。ですから、本当の実態をわが目で確認しないことには、その工場の的確な診断をすることができません。また、その処方箋(せん)についても良いものを出すことができなくなります。データではなく、実際の現場の状況をしっかり把握しないことには、間違った診断を出したり、処方箋を書いてしまったりします。

 

2. 先頭工程から最終工程まで2回見る

 工場診断の際には、まず案内しやすい先頭工程から最終工程まで見させてもらいます。その時には、質問はほとんど行わず、気が付いた点をメモに取るだけにしています。

 次に最終工程の出荷場から前工程へと上流に遡(さかのぼ)って行きます。出荷場に行ってから「はい、ありがとうございます。これから今見せて頂いた工程を逆に戻って先頭工程に行きます。色々質問をしていきますよ」と話し、再び歩き始めます。元に戻りますと、一往復になりますので、2回同じ工程を見ます。先ほどメモったことを見ながら今度は質問していきます。

 案内に同行している人たちも、2回見ることになりますので、かなり気付きを発見できます。データとは違い、現場の情報量は格段に多くのものがあります。データや文章さらに写真では気付かないことが満ち溢(あふ)れています。しかし、先頭工程から最終工程まで2回見ることは、初めて訪問する工場では案内をしてくれる人も非常に困るようです。いつもの工場見学では、先頭工程から順に後工程の出荷場まで行われて終了ですが「今日はもう一度、反対方向の出荷場からもう一度」といっても戸惑うようです。物の流れとは反対なので、毎日働いていても逆に歩くことはほとんどなく、しかも後工程から説明をしながら遡っていくのは、やはり難しいようです。 

 

3. 工場の人材をフル活用するには

 会社の組織による指示、命令などの流れは、水の流れのように上から下に向かっています。しかし物の加工、組み立て、検査、出荷業務に実際携わっているのは現場なのです。指示、命令、指導、教育などを受け、実際にものづくりをする現場で結果を出したものとして、製品が出荷されます。その最終製品を製造している現場の一人ひとりがどんな意識で、ものづくりに取り組んでいるかは非常に重要なことです。後工程から診断して行くというのは、これらの結果が最終工程に集約されているからです。このことは、現場の教育の重要性を示唆(しさ)していると考えます。

 設備投資に熱心な経営者であっても、人材(あえていうと人財)教育への投資は、形に見えなく、結果もすぐには出ない代物ですから、おいそれとは投資する気にはなれなかったと思います。しかし、従業員の中で一番お客様に近いのは、現場の人なのです。しかも一番人員の多いのも現場です。彼らを全員教育して、戦力にしていけば、競争力も相当身に付けることができるはずです。

 小集団活動、QCサークル活動のような職場の改善活動が、組織されている工場が多くあります。実態は、手法やツールの部分の勉強が中心であり、本当に必要なのは何故(なぜ)この改善活動を行うのかという背景や目的が明確になっていることです。「手法、ツール」の他に「システム」、「マネジメント」、「思想」、これらをしっかり理解し、納得して行動してもらうことが大切です。

 工場がライバルとの競争に勝つには、競争力を高めることが必要です。しかし、経営者やマネージャーの方は、この従業員で一番多い現場の人たちをもっと教育して、戦力組織にしていくことを余り意識されていることがない様に感じることがあります。近くにいたり、毎日見たりしているものは気付かないものなのです。一番人員の多い工場の人材をフルに活用することは当然でしょう。一番現場を知っている人たちですから、やる気になれば凄(すご)いものになるはずです。

 その対応は、やはり教育が求められます。見えるものに対しての投資は簡単ですが、この見えないものには戸惑いがあるかもしれません。しかし、これからはこの見えないものに、いかに力を注いでいくかが、不確実性の時代には不可欠であると考えます。欧米のように4半期という非常に短期に物事を判断するのではなく、もっと中長期のスパンでみたいものです。時間はかかりますが、その成果は計り知れません。 

 次回に解説を続けます。

 【出典】株式会社 SMC HPより、筆者のご承諾により編集して掲載

 

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この記事の著者

松田 龍太郎

見えないコトを見えるようにする現場改善コンサルタント。ユーモアと笑顔をセットにして、元氣一杯に現地現物での指導を心がける。難しいことはわかりやすく、例え話や事例を用いながら解説し、納得してもらえるように楽しく動機付けを行います。

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