期待に応える品質管理とは 中小製造業の課題と解決への道筋(その8)

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【中小製造業の課題と解決への道筋 連載目次】

 

第2章 求められる品質管理の発想転換

第4節 現場改革の原動力「中核人材」

 中小製造業の現場の変革を推進する原動力は「中核人材」と呼ばれる現場の若手リーダー、監督者。しかし、多くの企業でその力を十分に引き出せているとはいえません。「指示待ち」、「言われたことしかしない」というレッテル貼りを止め、今こそ、若手社員の力を100%引き出すための企業内努力が重要になっています。

 モノの品質だけでなく、顧客の期待に応える品質に変革していく原動力となるのは、企業を支える中核人材です。しかし、一人前となるにはトップが「このように成長してほしい」、「このようなスキルを身に付けてほしい」といった求める人材像を明確に示して彼らに意識付け、動機付けを行うこと、また業務改革の必要性を示し、その中で中核人材として育成していく必要があります。

 中核人材の100%の能力を引き出すための環境づくりを行うのは、他でもないトップ層の役目です。

 

1、現場の中核人材育成と現場力強化

 「中核人材」とは、事業上の様々な業務で中核を担う人材、または特殊な資格や専門性の高い就業経験を有する即戦力たる人材と定義しています。
 また、人材育成に取り組む企業がどのような課題を抱えているかをみると「中核人材の指導・育成を行う能力のある社員がいない、もしくは不足している」(42.0%)が最も高く、人材育成を行う人材の不足というジレンマが生じています。また「社員が多忙で、教育を受けている時間がない」(17.1%)、「中核人材の指導・育成のノウハウが社内に蓄積していない」(15.7%)も上位に挙げられています。

 【出典】(中小企業庁,2015,「中小企業白書 第2部 第2章 第3節 中小企業・小規模事業者において求められる人材の質と能力開発」)

 

 では、白書の指摘する通り、「中核人材の指導・育成を行う能力のある社員がいない、もしくは不足している」という指摘は本当でしょうか? 自社の社員の力量不足とするアンケート結果には少し違和感を覚えます。また「社員が多忙で、教育を受けている時間がない」というのも、短期的な利益を追うあまり、目先の業務や納期優先の経営姿勢を取ってきたことを裏付けているのではないかと考えられます。

 人材の力量が不足ならば、なぜトップはそのような指導者を長期的な視点で育成してこなかったのでしょうか? なぜ業務の中で教育に割り当てる時間の工夫を怠ってきたのでしょうか?日本の製造業がこれからも世界で高い競争力を維持し、今後もその技術力を世界に認めてもらうためには、日ごろからの地道な人材育成の取り組みが必須ではないでしょうか。企業トップの意識改革を強く望みます。

 次に、企業が今取り組むべき中核人材教育の項目について検討してみます。

 

2、入社5年後までの人材育成計画

 中小企業の場合、長期的な人材育成の仕組みを持っていない場合が多いと思われます。新人は、指示されたことを忠実に実施することが求められますが二年目、三年目になると、指示されなくても自主的に仕事をしてほしいと思います。

 しかし放任していたのでは、思った通りの行動をしてくれません。いつまでたっても指示待ちのままのです。そこで、長期的な人材育成メニューが必要になります。例えば、以下のような5年間の計画を立てます。

  • 1年目:組織人としての仕事の基礎を身に付ける教育
  • 2年目:業務を一人で遂行し、同時に後輩の指導に当たる
  • 3年目:業務を主体的に取り組み、コミュニケーションを密にして業務を遂行する
  • 4年目:既存の業務のやり方の問題点を指摘し、主体的に問題解決に取り組む
  • 5年目:現場リーダーとしてチームをまとめ、リーダーシップを発揮し業務を遂行する

 

 5年間の教育の中で最も重要なテーマは、日常業務における課題を発見し、解決していく現場リーダーの育成で、どの企業も最も必要性を感じていることと思います。しかし理想のリーダー像を描いても、実際にどうやって育成したらいいのか、具体的な手順が明確になっていない企業がほとんどと思われます。

 リーダーシップ研修などを受講させることも必要ですが、実際の現場における業務の中で課題に「挑戦」して、「試行錯誤」を繰り返しながら、再び「挑戦」することで試練を乗り越えること、そして適切な管理層の「支援」が加わることでリーダーとして成長を遂げることが可能と考えられます。

 この場合、管理層の役割は非常に重要となります。困難を伴う課題に挑戦する機会を与えることと、側面から支援を行うこと、そして結果を評価することが求められます。

 ところが実態として、運よく若手自らが行動して困難に向き合うチャンスが無ければ、おそらくリーダーとしての成長のチャンスを逃してしまうというのが、多くの企業の実情ではないかと考えられます。リーダーの理想像は描けても、リーダーを育成する方法はあまり社内で論じられることはありません。

 

3、権限委譲と修羅場

 このような人材を育成するには、現場のリーダーに対して、必要な意思決定を可能にするために十分な権限を与えることも重要です。もちろん権限には、それを行使した結果に対する責任も伴います。

 もし権限が経営層に集中していれば、下の組織は意見を経営層に進言することはあっても、説得してまで貫こうとはしません。そこまでが自分の責任の範囲であって、その先は経営層の責任として、行動することを諦めてしまうからです。こうしたことが繰り返されると、受け入れられやすい意...

 

【中小製造業の課題と解決への道筋 連載目次】

 

第2章 求められる品質管理の発想転換

第4節 現場改革の原動力「中核人材」

 中小製造業の現場の変革を推進する原動力は「中核人材」と呼ばれる現場の若手リーダー、監督者。しかし、多くの企業でその力を十分に引き出せているとはいえません。「指示待ち」、「言われたことしかしない」というレッテル貼りを止め、今こそ、若手社員の力を100%引き出すための企業内努力が重要になっています。

 モノの品質だけでなく、顧客の期待に応える品質に変革していく原動力となるのは、企業を支える中核人材です。しかし、一人前となるにはトップが「このように成長してほしい」、「このようなスキルを身に付けてほしい」といった求める人材像を明確に示して彼らに意識付け、動機付けを行うこと、また業務改革の必要性を示し、その中で中核人材として育成していく必要があります。

 中核人材の100%の能力を引き出すための環境づくりを行うのは、他でもないトップ層の役目です。

 

1、現場の中核人材育成と現場力強化

 「中核人材」とは、事業上の様々な業務で中核を担う人材、または特殊な資格や専門性の高い就業経験を有する即戦力たる人材と定義しています。
 また、人材育成に取り組む企業がどのような課題を抱えているかをみると「中核人材の指導・育成を行う能力のある社員がいない、もしくは不足している」(42.0%)が最も高く、人材育成を行う人材の不足というジレンマが生じています。また「社員が多忙で、教育を受けている時間がない」(17.1%)、「中核人材の指導・育成のノウハウが社内に蓄積していない」(15.7%)も上位に挙げられています。

 【出典】(中小企業庁,2015,「中小企業白書 第2部 第2章 第3節 中小企業・小規模事業者において求められる人材の質と能力開発」)

 

 では、白書の指摘する通り、「中核人材の指導・育成を行う能力のある社員がいない、もしくは不足している」という指摘は本当でしょうか? 自社の社員の力量不足とするアンケート結果には少し違和感を覚えます。また「社員が多忙で、教育を受けている時間がない」というのも、短期的な利益を追うあまり、目先の業務や納期優先の経営姿勢を取ってきたことを裏付けているのではないかと考えられます。

 人材の力量が不足ならば、なぜトップはそのような指導者を長期的な視点で育成してこなかったのでしょうか? なぜ業務の中で教育に割り当てる時間の工夫を怠ってきたのでしょうか?日本の製造業がこれからも世界で高い競争力を維持し、今後もその技術力を世界に認めてもらうためには、日ごろからの地道な人材育成の取り組みが必須ではないでしょうか。企業トップの意識改革を強く望みます。

 次に、企業が今取り組むべき中核人材教育の項目について検討してみます。

 

2、入社5年後までの人材育成計画

 中小企業の場合、長期的な人材育成の仕組みを持っていない場合が多いと思われます。新人は、指示されたことを忠実に実施することが求められますが二年目、三年目になると、指示されなくても自主的に仕事をしてほしいと思います。

 しかし放任していたのでは、思った通りの行動をしてくれません。いつまでたっても指示待ちのままのです。そこで、長期的な人材育成メニューが必要になります。例えば、以下のような5年間の計画を立てます。

  • 1年目:組織人としての仕事の基礎を身に付ける教育
  • 2年目:業務を一人で遂行し、同時に後輩の指導に当たる
  • 3年目:業務を主体的に取り組み、コミュニケーションを密にして業務を遂行する
  • 4年目:既存の業務のやり方の問題点を指摘し、主体的に問題解決に取り組む
  • 5年目:現場リーダーとしてチームをまとめ、リーダーシップを発揮し業務を遂行する

 

 5年間の教育の中で最も重要なテーマは、日常業務における課題を発見し、解決していく現場リーダーの育成で、どの企業も最も必要性を感じていることと思います。しかし理想のリーダー像を描いても、実際にどうやって育成したらいいのか、具体的な手順が明確になっていない企業がほとんどと思われます。

 リーダーシップ研修などを受講させることも必要ですが、実際の現場における業務の中で課題に「挑戦」して、「試行錯誤」を繰り返しながら、再び「挑戦」することで試練を乗り越えること、そして適切な管理層の「支援」が加わることでリーダーとして成長を遂げることが可能と考えられます。

 この場合、管理層の役割は非常に重要となります。困難を伴う課題に挑戦する機会を与えることと、側面から支援を行うこと、そして結果を評価することが求められます。

 ところが実態として、運よく若手自らが行動して困難に向き合うチャンスが無ければ、おそらくリーダーとしての成長のチャンスを逃してしまうというのが、多くの企業の実情ではないかと考えられます。リーダーの理想像は描けても、リーダーを育成する方法はあまり社内で論じられることはありません。

 

3、権限委譲と修羅場

 このような人材を育成するには、現場のリーダーに対して、必要な意思決定を可能にするために十分な権限を与えることも重要です。もちろん権限には、それを行使した結果に対する責任も伴います。

 もし権限が経営層に集中していれば、下の組織は意見を経営層に進言することはあっても、説得してまで貫こうとはしません。そこまでが自分の責任の範囲であって、その先は経営層の責任として、行動することを諦めてしまうからです。こうしたことが繰り返されると、受け入れられやすい意見、受け入れられやすい行動しか取らない組織風土が出来上がり、そこにはリーダーも育ちません。

 経営者や上司の権限委譲と意識づけによる課題へチャレンジする機会を与え、そしてその中で壁に突き当たり、振り出しに戻るといった困難な状況を経験することで、リーダーとして必要な様々な事柄を学ぶことができます。その経験は自己への気づきをもたらし、自分の限界を認識し、そのような試練はリーダーへの成長に重要な影響をもたらすとされています。

 リーダーの成長を促す経験を積むためには、次の3つの要素が含まれていなければならず、どのような種類の経験であっても、この3つの要素が備わっている場合は、リーダーの能力開発に最も効果的であるというものです。

  • 困難を伴う課題の設定
  • サポート・支援 
  • 評価

 

 試練とは言葉のとおり、個人が慣れ親しんだ環境や、やり方を変えざるを得ないような課題への取り組みです。まだ経験したことのない課題や強いプレッシャーを伴うような課題に直面した時、人は不安を跳ね除けて前向きな気持ちで、それまでのやり方や考え方の見直しの必要性を認識し、新しい能力を身につける必要性に駆られるのです。また困難を克服するためには、新しいスキルや方法を試そうとします。同時に困難を伴うものであるほど、周りや上司の励ましや承認が必要となります。

 次回は、第5節 なぜ「報連相」が根付かないのか。から解説を続けます。

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この記事の著者

濱田 金男

製造業に従事して50年、新製品開発設計から製造技術、品質管理、海外生産まで、あらゆる業務に従事した経験を基に、現場目線で業務改革・経営改革・意識改革支援に取り組んでいます。

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