人的資源マネジメント:目的(その2)

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【内発的動機づけの要素である「目的」連載目次】

◆本源的な質問に答えてわかる「目的」

 
 これまで何回かに渡って、内発的動機づけの「自律性」と「熟達」について解説してきましたが、今回は最後のテーマである「目的」です。
 

2. 「自分軸」を知る

 
 「自分軸」、そして、「自分軸」から導き出される「目的」が明確であればあるほど、自分の中にエネルギーが満ちあふれ、「自律性」や「熟達」のための行動ができるようになります。「目的」や「自分軸」は内発的動機づけのエネルギー源なのです。
 
 ところで、スタンフォード大学で25年以上続く「ビジネスにおける個人の創造性開発コース」という人気講座があります。教えているのは、「シリコンバレーで最も創造性豊かな男」と言われているマイケル・レイという人物です。彼が受講生の創造性を引き出すのに使っている2つの根源的な問いというものがあります。次の問いです。
 
「私はいったい何者なのか?」
「私の成すことは何なのか?」
 
 最初の問いは、自分の「価値観」を明らかにする問いです。「自分らしさ」とは何かということにもなるでしょう。そしてもう一つの問いは、自分の「ビジョン」を明らかにする問いで、「ありたい姿」を聞いていることにもなるでしょう。興味深いことに、「自分軸」を明確にすることは創造性にも大きく貢献するのです。目的を明らかにするための「自分軸」ですが、「自分軸」を知ることもまだ簡単ではありません。「自分軸」を知る方法について、もう少し解説を続けたいと思います。
 
 まず、まだ見ぬ「未来」のやる気が出る場面をイメージします。ワクワクしている場面、集中している場面、没頭している場面、充実している場面、どんな場面でもいいのです。自由にイメージしてください。どうですか? イメージできましたか?
 
 それでは次に「過去」に経験したことで、同じようにワクワクだった場面、集中していた場面、没頭していた場面、充実していた場面を考えます。どうですか? 思い出せましたか?
 
 さて、「未来」と「過去」、どちらがより充実していたでしょうか? これで、自分が「未来」指向なのか「過去」指向なのかを知ることができます。
 
 次に、心地よさを求めている(快追求)場面と、苦痛から逃れようとしている(苦回避)場面のどちらがより強い印象を持っているのかを考えます。心地よさを求めている場面と苦痛から逃れようとしている場面を思い浮かべて、どちらのエネルギーが強いのかを確かめます。
 
 最後に、他人の評価などではなく「自分」がいいと感じるからいいのか、友人や家族などの「他人」の笑顔や反応がいいからいいのかを確かめます。その充実した場面が「自分主役」なのか「他人主役」なのかということです。
 
人的資源マネジメント
図35. 自分軸を知る
 
 以上の3つの質問にそれぞれ2通りの答えがありますから、全部で8通りのタイプに分かれます。「自分軸」というのは人によって違うのです。たとえば、ある人は、やる気が出るのは5年後に業界で有名な講師となって、セミナーをしたりコラムを書いている自分をイメージするときだといいます。この人は「未来」「快追求」「自分主役」です。別のある人は、3年前にお客さんのところで怒られながらトラブル対応したときは必死だった。ダ...

【内発的動機づけの要素である「目的」連載目次】

◆本源的な質問に答えてわかる「目的」

 
 これまで何回かに渡って、内発的動機づけの「自律性」と「熟達」について解説してきましたが、今回は最後のテーマである「目的」です。
 

2. 「自分軸」を知る

 
 「自分軸」、そして、「自分軸」から導き出される「目的」が明確であればあるほど、自分の中にエネルギーが満ちあふれ、「自律性」や「熟達」のための行動ができるようになります。「目的」や「自分軸」は内発的動機づけのエネルギー源なのです。
 
 ところで、スタンフォード大学で25年以上続く「ビジネスにおける個人の創造性開発コース」という人気講座があります。教えているのは、「シリコンバレーで最も創造性豊かな男」と言われているマイケル・レイという人物です。彼が受講生の創造性を引き出すのに使っている2つの根源的な問いというものがあります。次の問いです。
 
「私はいったい何者なのか?」
「私の成すことは何なのか?」
 
 最初の問いは、自分の「価値観」を明らかにする問いです。「自分らしさ」とは何かということにもなるでしょう。そしてもう一つの問いは、自分の「ビジョン」を明らかにする問いで、「ありたい姿」を聞いていることにもなるでしょう。興味深いことに、「自分軸」を明確にすることは創造性にも大きく貢献するのです。目的を明らかにするための「自分軸」ですが、「自分軸」を知ることもまだ簡単ではありません。「自分軸」を知る方法について、もう少し解説を続けたいと思います。
 
 まず、まだ見ぬ「未来」のやる気が出る場面をイメージします。ワクワクしている場面、集中している場面、没頭している場面、充実している場面、どんな場面でもいいのです。自由にイメージしてください。どうですか? イメージできましたか?
 
 それでは次に「過去」に経験したことで、同じようにワクワクだった場面、集中していた場面、没頭していた場面、充実していた場面を考えます。どうですか? 思い出せましたか?
 
 さて、「未来」と「過去」、どちらがより充実していたでしょうか? これで、自分が「未来」指向なのか「過去」指向なのかを知ることができます。
 
 次に、心地よさを求めている(快追求)場面と、苦痛から逃れようとしている(苦回避)場面のどちらがより強い印象を持っているのかを考えます。心地よさを求めている場面と苦痛から逃れようとしている場面を思い浮かべて、どちらのエネルギーが強いのかを確かめます。
 
 最後に、他人の評価などではなく「自分」がいいと感じるからいいのか、友人や家族などの「他人」の笑顔や反応がいいからいいのかを確かめます。その充実した場面が「自分主役」なのか「他人主役」なのかということです。
 
人的資源マネジメント
図35. 自分軸を知る
 
 以上の3つの質問にそれぞれ2通りの答えがありますから、全部で8通りのタイプに分かれます。「自分軸」というのは人によって違うのです。たとえば、ある人は、やる気が出るのは5年後に業界で有名な講師となって、セミナーをしたりコラムを書いている自分をイメージするときだといいます。この人は「未来」「快追求」「自分主役」です。別のある人は、3年前にお客さんのところで怒られながらトラブル対応したときは必死だった。ダメなヤツだと思われるのがイヤで寝食忘れて没頭した。あんなお客さんの顔はもう見たくないといいます。この人は「過去」「苦回避」「他人主役」です。
 
 この3つの質問で自分のやる気の型を特定し、その場面をありありとイメージし(思い出し)、どうしてその場面がいいのか、何がいいのかを考えます。そして、どうなったらもっといいのか(もっとイヤなのか)、何の制約もなかったらどうなるのだろうかを考えます。どうですか? 何かしら気づきはありますか?折に触れこの問いかけをしてみてください。「自分軸」が段々と明確になってくるはずです。
 
 
  

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この記事の著者

石橋 良造

組織のしくみと個人の意識を同時に改革・改善することで、パフォーマンス・エクセレンスを追求し、実現する開発組織に変えます!

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