『坂の上の雲』に学ぶコミニュケーション論(その5)

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見える化

【『坂の上の雲』に学ぶコミニュケーション論の連載目次】

・すべての関係者と課題を共有する。

・課題の共有

・顧客の言うことを鵜呑みにしない

・鵜呑みにしないことの大切さ

・「見える化」を活用する

・共通語の必要性

 『坂の上の雲』は司馬遼太郎が残した多くの作品の中で、最もビジネス関係者が愛読しているものの一つでしょう。これには企業がビジネスと言う戦場で勝利をおさめる為のヒントが豊富に隠されています。『坂の上の雲』に学ぶマネジメント、今回はコミニュケーション論のその5です。
 

3. 「見える化」を活用する

 
 よく「見える化」と言われますが、「見える化」の定義は、単に図式化やイラスト化などによる視覚化(ビジュアライゼーション)ではありません。それらは本質ではないでしょう。では、「見える化」の定義は何でしょうか。「次に起こすアクションのためのシグナル」という定義が最適だと思います。「自分はこれをやらなければならない」とわかるのが「見える化」です。交通信号がそれです。信号の色で次に起こすアクションが共有できているのです。
 

(1) 兵棋演習

 
 明治時代に「見える化」という言葉はなかったわけですが、実質的には行われていたのです。その代表例が兵棋演習です。つまり図上演習とか机上演習などと呼ばれる軍事研究です。船は何隻必要で、鑑砲は何門必要、これくらいのスピードだと彼我の勢力の差ではどちらが勝つか、など誰にでも極めてよくわかって、次のアクションの橋渡しになるのです。これが「見える化」の例です。
 
 司馬遼太郎は、兵棋演習は玄人であるイギリス海軍ではなく、アメリカ海軍で盛んだったという主旨のことを書いています。イギリス海軍はネルソン提督以来の歴史を誇るので兵棋演習のような素人っぽいことを考えていた人がいたとしてもやらないのです。アメリカは実際に実行していました。アメリカ海軍の長所は歴史が浅い分、考え方が柔軟です。日本の海軍も歴史は浅く素人だったので、いいと思ったものはすぐに採用したのです。
 

(2) 細かく指示をだすことの弊害

 
 複雑な案件で「見える化」を行えば、いちいち「ああしなさい、こうしなさい」とそのつど指示しなくてもすむのです。たとえば、マネジャーが指示を出そうとすると、マネジャーの思い込みや漏れもあり危ないのですが、「見える化」する過程でみんなが考えるために、マネジャーが考えなかったアクションを先手先手でおこなう人も出てきます。だから「見える化」した情報は、情報としては極めて質の高いものになっていきます。「あれやれ、これやれ」ではなく、「こういうために、これは必要である」と「見える化」しておけば実行する際には非常に便利であり、マネジャーは安心していられるのです。
 
 細かく作業を書くと、「その作業さえやればいいのだ」と早とちりする人が出てきます。「これは必要」と書いておけば、自動的に「それではこういうことをやっておかないといけないね」と考える集団になります。アメリカ発のプロジェクトマネジメントに関する書籍では、作業指示べースについて書かれているものがほとんどです。アメリカの文化では、作業をする人とマネジャーとははっきり分化しています。日本人の特性として、とにかく「これお願いしますね」で足りてしまう便利さはあります。いちいち作業を指示するよりも、作業の結果で出来上がるものをぽんぽん並べておいたほうが便利です。「見える化」は作業や課題の共有には極めてよい方法で便利な道具です。
 

(3) コミュニケーションを支援する仕組み

 
 最近は、一つの部屋に集まってフェイス・トゥ・フェイスで話し合う場面が少なくなっています。フェイス・トゥ・フェイスで話し合うと、自ずから課題の共有化が出来ました。1970年代まではプロジェクトルームがあり、朝や夕方にメンバー全員がそこに集まってワイワイと家族的にやっていたので、誰が悩んでいるとか誰が調子悪いとかがよくわかっていました。チームワークもよくできていたのです。ところが、近年は拠点が分散していたり、別の団体と合同でプロジェクトを進めたりするなど、一部屋に集まってことを進めることは見られなくなりました。したがって、コミュニケーションを支援する仕掛けが重要になってきたのです。
 
 今はプロジェクトチームの中でツイッターを利用することもあ...
見える化

【『坂の上の雲』に学ぶコミニュケーション論の連載目次】

・すべての関係者と課題を共有する。

・課題の共有

・顧客の言うことを鵜呑みにしない

・鵜呑みにしないことの大切さ

・「見える化」を活用する

・共通語の必要性

 『坂の上の雲』は司馬遼太郎が残した多くの作品の中で、最もビジネス関係者が愛読しているものの一つでしょう。これには企業がビジネスと言う戦場で勝利をおさめる為のヒントが豊富に隠されています。『坂の上の雲』に学ぶマネジメント、今回はコミニュケーション論のその5です。
 

3. 「見える化」を活用する

 
 よく「見える化」と言われますが、「見える化」の定義は、単に図式化やイラスト化などによる視覚化(ビジュアライゼーション)ではありません。それらは本質ではないでしょう。では、「見える化」の定義は何でしょうか。「次に起こすアクションのためのシグナル」という定義が最適だと思います。「自分はこれをやらなければならない」とわかるのが「見える化」です。交通信号がそれです。信号の色で次に起こすアクションが共有できているのです。
 

(1) 兵棋演習

 
 明治時代に「見える化」という言葉はなかったわけですが、実質的には行われていたのです。その代表例が兵棋演習です。つまり図上演習とか机上演習などと呼ばれる軍事研究です。船は何隻必要で、鑑砲は何門必要、これくらいのスピードだと彼我の勢力の差ではどちらが勝つか、など誰にでも極めてよくわかって、次のアクションの橋渡しになるのです。これが「見える化」の例です。
 
 司馬遼太郎は、兵棋演習は玄人であるイギリス海軍ではなく、アメリカ海軍で盛んだったという主旨のことを書いています。イギリス海軍はネルソン提督以来の歴史を誇るので兵棋演習のような素人っぽいことを考えていた人がいたとしてもやらないのです。アメリカは実際に実行していました。アメリカ海軍の長所は歴史が浅い分、考え方が柔軟です。日本の海軍も歴史は浅く素人だったので、いいと思ったものはすぐに採用したのです。
 

(2) 細かく指示をだすことの弊害

 
 複雑な案件で「見える化」を行えば、いちいち「ああしなさい、こうしなさい」とそのつど指示しなくてもすむのです。たとえば、マネジャーが指示を出そうとすると、マネジャーの思い込みや漏れもあり危ないのですが、「見える化」する過程でみんなが考えるために、マネジャーが考えなかったアクションを先手先手でおこなう人も出てきます。だから「見える化」した情報は、情報としては極めて質の高いものになっていきます。「あれやれ、これやれ」ではなく、「こういうために、これは必要である」と「見える化」しておけば実行する際には非常に便利であり、マネジャーは安心していられるのです。
 
 細かく作業を書くと、「その作業さえやればいいのだ」と早とちりする人が出てきます。「これは必要」と書いておけば、自動的に「それではこういうことをやっておかないといけないね」と考える集団になります。アメリカ発のプロジェクトマネジメントに関する書籍では、作業指示べースについて書かれているものがほとんどです。アメリカの文化では、作業をする人とマネジャーとははっきり分化しています。日本人の特性として、とにかく「これお願いしますね」で足りてしまう便利さはあります。いちいち作業を指示するよりも、作業の結果で出来上がるものをぽんぽん並べておいたほうが便利です。「見える化」は作業や課題の共有には極めてよい方法で便利な道具です。
 

(3) コミュニケーションを支援する仕組み

 
 最近は、一つの部屋に集まってフェイス・トゥ・フェイスで話し合う場面が少なくなっています。フェイス・トゥ・フェイスで話し合うと、自ずから課題の共有化が出来ました。1970年代まではプロジェクトルームがあり、朝や夕方にメンバー全員がそこに集まってワイワイと家族的にやっていたので、誰が悩んでいるとか誰が調子悪いとかがよくわかっていました。チームワークもよくできていたのです。ところが、近年は拠点が分散していたり、別の団体と合同でプロジェクトを進めたりするなど、一部屋に集まってことを進めることは見られなくなりました。したがって、コミュニケーションを支援する仕掛けが重要になってきたのです。
 
 今はプロジェクトチームの中でツイッターを利用することもあるようです。ツイッターは140字以内でメールより敷居が低いのです。つぶやきだから件名もいりません。プロジェクトチームの中ではそのような情報が大切で、「やってみたら、厳しいな。思い違いだよ」のようなつぶやきがあると、それに対して誰かが「じゃ、○○さんに聞いてみようかな」とつぶやく。昔ならその○○さんが部屋にいたわけだが、今はそうではないのです。欧米はこの辺りの活用の仕方は進歩しているので見習えるでしょう。誇り高きフランスやドイツでも英語を使っているのです。日本は英語が弱く、グローバルなやりとりは苦手なのが少し不安です。
 
 次回も、「見える化」を活用するを解説します。
 
【出典】
 津曲公二 著「坂の上の雲」に学ぶ、勝てるマネジメント 総合法令出版株式会社発行
 筆者のご承諾により、抜粋を連載。
 
  

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この記事の著者

津曲 公二

技術者やスタッフが活き活きと輝きながら活動できる環境作りに貢献します。

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