技術企業の高収益化: 技術プラットフォームとは

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◆ 儲かる会社は技術プラットフォームを使いこなす

 「うちは、技術プラットフォームの意識が希薄で情けないですよ」数年前のこと、こう話されたのは、とあるクライアント企業(A社)の技術担当役員(A部長)です。というのも、A社では、次のような状態が続いていたのです。

 A社はまがりなりにも面白い技術を多数保有していたため、特徴あるサンプルを展示会で発表するのです。社内でもサンプル展示は奨励されていたことから、多くの技術者がこぞって展示会に出そうとしていました。

 その後、いわゆるサンプルワークをします。サンプルワークとは、試作品をお客様に提供するなどして、フィードバックを得ることをいいます。展示会に出して反応を見ますが大抵の場合、顧客から「早くサンプルをくれ」といわれますので、苦労しながら試作品を仕上げて、なんとかサンプルを提供することになります。

 ここまでは活発で非常に良い動きです。

 

 あまり良くないのはココからです。サンプル提供の後は担当者達が顧客を訪問します。お客様が利用する用途や、スペックなどの情報を引き出したいからです。打ち合わせでは、顧客から用途を聞いたり、利用に当たっての具体的な話をしたりして、情報を引き出したいと思っています。打ち合わせがうまく行けば、顧客は「こんな事できないか」と聞いてきます。

 顧客にこんな打診をされた場合、嬉しくてこう答えます。「持ち帰って検討します」。情報を引き出すことに成功して、意気揚々と会社に戻るというわけですが、社内で技術者に「お客様からこんな相談があるんだけどできないか」と相談すると、技術者達がこう答えるのというのです。

 「できると思うけど時間がかかる」、「今は忙しいから無理」、「できない」

 そうこうしているうちに時は過ぎ、顧客からの引き合いは、雲散霧消してしまっていたそうです。

 

1、技術プラットフォームとは

 このような状態はA部長のイメージとは全く違っていました。A部長の頭の中では、次のようなことが起こっていなければなりませんでした。それは、サンプルワークで顧客が「こんなことできないか」という時です。

 営業担当者は「待ってました」とばかりに、自社の技術カタログを開かなければなりません。「この技術であれば、できそうです」と回答してスペックを聞き出し、持ち帰るためです。

 そして、スペック情報を社内に持ち帰り、技術担当に打診します。そうすると、技術者も「待ってました」とばかりに、顧客のスペックを実現する技術を、まるで引き出しにすでにあったかのようにスッと出すのです。

 技術はすでに開発済みで、いわば商品を棚に入れている状態です。レディメイドの状態のため、即座に対応出来るのです。開発済の技術をお客様に提案し、案件をものにする事ができていなければならないのです。

 スーツに例えると、お客様はセミオーダーのような感覚です。吊るしのスーツでは満足できないし、フルオーダーでは遅くて高い。しかし、セミオーダーなら必ずフィットしますし、コストパフォーマンスが高いという訳です。

 なぜA部長のイメージとは違っていたかといえば、A部長は技術プラットフォームという意識があり、技術プラットフォームを活用した新規事業戦略について運用していた経験があったからです。というのも、A部長は転職でA社に入社した経緯があります。社長に請われて、落下傘方式でA社に着任したからです。

 ここで技術プラットフォームとは、新事業・新商品開発のために予め準備しておく技術群のことです。スーツに例えれば、体型に合わせた様々な型紙といえます。好みに合わせた色柄の生地に例えても理解できるでしょう。セミオーダーのお店は、流行や好みに合わせた色柄の生地を仕入れ、お客様の体型や好みに合わせた型紙を用意して待っています。

 一方フルオーダーでは型紙から起こすため時間がかかる上、全ての工程を一職人が行うため高くついてしまう。しかしセミオーダーのテーラーさんでは、上記のように型紙や生地がレディメイドのため、それを組み合わせていくことでスーツができます。

 技術プラットフォームもそれと同じです。レディメイドの技術を予め準備しておくことで、様々なニーズが出た時に対応できるというものなのです。スーツと同じく即座に対応できます。

 

2、技術プラットフォームの展開

 A社での話に戻りますと、A部長の着任当時、A社内では技術プラットフォームという言葉が通用しませんでした。社員の誰がそれを聞いても、意味が分からない状態でした。

 危機感を抱いたA部長は「技術プラットフォームの意識形成が必要」と話され、私のセミナーに来られました。A社のように技術者の数が多いと、部長一人で一貫したマネジメントができる訳ではありません。A部長は、ある程度の人数のミドルがいなければならないことをよく知っていたのです。

 このことを説明するために、またスーツ屋さんの例に戻ります。前述の通り、A社はサンプルワークをして顧客の反応を見ていたのですが、いわばフルオーダーのテイラーさんだったのです。

 フルオーダーのテイラーさんは全てオーダーメイドなのです。悪くいえば、型紙は準備していない。生地も仕入れていない。カッコいいモデルを作って展示はしますが、いざオーダーが入っても対応する準備がないまま展示しますので、即時対応できないのです。

 フルオーダーのテイラーさんの社員は皆フルオーダーには対応できる立派な職人さんばかりですが、予め型紙を準備するなどという発想はありません。そのため型紙のために標準体型を調べることもしなければ、流行の生地をサーチすることもしませんでした。

 A社も全く同じでした。時間とお金さえあればフルオーダーは出来る。しかし待ってくれるお客様は少ないのです。上記の通り顧客からの相談は時間とともに雲散霧消していたのです。

 フルオーダーのテイラーさんをセミオーダーのスーツ屋さんに変革するのは、仕組みの変革や社員の意識変革が必要ということはご理解いただけると思います。そう、運用するのは社員ですから、社員の理解が必要なのです。

 A社に話を戻しますと、A部長は上記のような状態に近づけるために私のセミナーに来られました。その後A部長が取り組んだのは、技術戦略の策定を始めとした、一連の業務・意識改革です。ワークショップ(実践形式の研修・演習)や研修によって、社内の業務・意識改革を図ったのです。

 一連の改革の成果により、A社...

◆ 儲かる会社は技術プラットフォームを使いこなす

 「うちは、技術プラットフォームの意識が希薄で情けないですよ」数年前のこと、こう話されたのは、とあるクライアント企業(A社)の技術担当役員(A部長)です。というのも、A社では、次のような状態が続いていたのです。

 A社はまがりなりにも面白い技術を多数保有していたため、特徴あるサンプルを展示会で発表するのです。社内でもサンプル展示は奨励されていたことから、多くの技術者がこぞって展示会に出そうとしていました。

 その後、いわゆるサンプルワークをします。サンプルワークとは、試作品をお客様に提供するなどして、フィードバックを得ることをいいます。展示会に出して反応を見ますが大抵の場合、顧客から「早くサンプルをくれ」といわれますので、苦労しながら試作品を仕上げて、なんとかサンプルを提供することになります。

 ここまでは活発で非常に良い動きです。

 

 あまり良くないのはココからです。サンプル提供の後は担当者達が顧客を訪問します。お客様が利用する用途や、スペックなどの情報を引き出したいからです。打ち合わせでは、顧客から用途を聞いたり、利用に当たっての具体的な話をしたりして、情報を引き出したいと思っています。打ち合わせがうまく行けば、顧客は「こんな事できないか」と聞いてきます。

 顧客にこんな打診をされた場合、嬉しくてこう答えます。「持ち帰って検討します」。情報を引き出すことに成功して、意気揚々と会社に戻るというわけですが、社内で技術者に「お客様からこんな相談があるんだけどできないか」と相談すると、技術者達がこう答えるのというのです。

 「できると思うけど時間がかかる」、「今は忙しいから無理」、「できない」

 そうこうしているうちに時は過ぎ、顧客からの引き合いは、雲散霧消してしまっていたそうです。

 

1、技術プラットフォームとは

 このような状態はA部長のイメージとは全く違っていました。A部長の頭の中では、次のようなことが起こっていなければなりませんでした。それは、サンプルワークで顧客が「こんなことできないか」という時です。

 営業担当者は「待ってました」とばかりに、自社の技術カタログを開かなければなりません。「この技術であれば、できそうです」と回答してスペックを聞き出し、持ち帰るためです。

 そして、スペック情報を社内に持ち帰り、技術担当に打診します。そうすると、技術者も「待ってました」とばかりに、顧客のスペックを実現する技術を、まるで引き出しにすでにあったかのようにスッと出すのです。

 技術はすでに開発済みで、いわば商品を棚に入れている状態です。レディメイドの状態のため、即座に対応出来るのです。開発済の技術をお客様に提案し、案件をものにする事ができていなければならないのです。

 スーツに例えると、お客様はセミオーダーのような感覚です。吊るしのスーツでは満足できないし、フルオーダーでは遅くて高い。しかし、セミオーダーなら必ずフィットしますし、コストパフォーマンスが高いという訳です。

 なぜA部長のイメージとは違っていたかといえば、A部長は技術プラットフォームという意識があり、技術プラットフォームを活用した新規事業戦略について運用していた経験があったからです。というのも、A部長は転職でA社に入社した経緯があります。社長に請われて、落下傘方式でA社に着任したからです。

 ここで技術プラットフォームとは、新事業・新商品開発のために予め準備しておく技術群のことです。スーツに例えれば、体型に合わせた様々な型紙といえます。好みに合わせた色柄の生地に例えても理解できるでしょう。セミオーダーのお店は、流行や好みに合わせた色柄の生地を仕入れ、お客様の体型や好みに合わせた型紙を用意して待っています。

 一方フルオーダーでは型紙から起こすため時間がかかる上、全ての工程を一職人が行うため高くついてしまう。しかしセミオーダーのテーラーさんでは、上記のように型紙や生地がレディメイドのため、それを組み合わせていくことでスーツができます。

 技術プラットフォームもそれと同じです。レディメイドの技術を予め準備しておくことで、様々なニーズが出た時に対応できるというものなのです。スーツと同じく即座に対応できます。

 

2、技術プラットフォームの展開

 A社での話に戻りますと、A部長の着任当時、A社内では技術プラットフォームという言葉が通用しませんでした。社員の誰がそれを聞いても、意味が分からない状態でした。

 危機感を抱いたA部長は「技術プラットフォームの意識形成が必要」と話され、私のセミナーに来られました。A社のように技術者の数が多いと、部長一人で一貫したマネジメントができる訳ではありません。A部長は、ある程度の人数のミドルがいなければならないことをよく知っていたのです。

 このことを説明するために、またスーツ屋さんの例に戻ります。前述の通り、A社はサンプルワークをして顧客の反応を見ていたのですが、いわばフルオーダーのテイラーさんだったのです。

 フルオーダーのテイラーさんは全てオーダーメイドなのです。悪くいえば、型紙は準備していない。生地も仕入れていない。カッコいいモデルを作って展示はしますが、いざオーダーが入っても対応する準備がないまま展示しますので、即時対応できないのです。

 フルオーダーのテイラーさんの社員は皆フルオーダーには対応できる立派な職人さんばかりですが、予め型紙を準備するなどという発想はありません。そのため型紙のために標準体型を調べることもしなければ、流行の生地をサーチすることもしませんでした。

 A社も全く同じでした。時間とお金さえあればフルオーダーは出来る。しかし待ってくれるお客様は少ないのです。上記の通り顧客からの相談は時間とともに雲散霧消していたのです。

 フルオーダーのテイラーさんをセミオーダーのスーツ屋さんに変革するのは、仕組みの変革や社員の意識変革が必要ということはご理解いただけると思います。そう、運用するのは社員ですから、社員の理解が必要なのです。

 A社に話を戻しますと、A部長は上記のような状態に近づけるために私のセミナーに来られました。その後A部長が取り組んだのは、技術戦略の策定を始めとした、一連の業務・意識改革です。ワークショップ(実践形式の研修・演習)や研修によって、社内の業務・意識改革を図ったのです。

 一連の改革の成果により、A社には技術プラットフォームが形成され、社員にはその運用意識が備わるようになりました。かつては嘆いていたA部長も、今では「技術プラットフォームの次は技術マーケティング」と次のステップを意識しています。

 A社をスーツで例えますと、A社はフルオーダーのテイラーさんだったのがセミオーダーも出来るようになったのです。圧倒的な短納期でかなりの需要を満たすことができますので、対応できる幅が広がったのは想像に難くないと思います。

 

 この記事では、技術プラットフォームという聞き慣れない概念を解説しましたが、ご理解いただけたでしょうか。型紙や生地を事前に仕入れておくこと置き換えれば簡単だったのではないかと思います。

 難しいのは、技術戦略のたて方にあります。スーツに例えれば、どんな生地が流行り、どんな型が売れるのかという推理に当たるもので、どんな技術を予め準備しておけば良いのかの推理です。

 さて、あなたの会社では、遅いために受注を逃してしまったことや、高いために失注したなどということがないでしょうか。予め準備された技術群がなければ失注するのは当然のことといえましょう。

 部下に「技術プラットフォームを活用した高効率の事業」という意識や対応する仕組みがなければ、遅い・高いが故の失注は必ず起こります。会社に技術プラットフォームを備え、社員にその意識を芽生えさせることにより、自社を高収益に導くような意識はあなたにはおありでしょうか。

 

 【出典】株式会社 如水 HPより、筆者のご承諾により編集して掲載

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この記事の著者

中村 大介

若手研究者の「教育」、研究開発テーマ創出の「実践」、「開発マネジメント法の導入」の3本立てを同時に実践する社内研修で、ものづくり企業を支援しています。

若手研究者の「教育」、研究開発テーマ創出の「実践」、「開発マネジメント法の導入」の3本立てを同時に実践する社内研修で、ものづくり企業を支援しています。


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