『坂の上の雲』に学ぶコミニュケーション論(その1)

人材育成
 『坂の上の雲』は司馬遼太郎が残した多くの作品の中で、最もビジネス関係者が愛読しているものの一つでしょう。これには企業がビジネスと言う戦場で勝利をおさめる為のヒントが豊富に隠されています。『坂の上の雲』に学ぶマネジメント、今回はコミニュケーション論のその1です。
 

1. すべての関係者と課題を共有する。

 ダメな管理者は部下に「毎回報告しろ」と言います。断片的に指示をしているから、部下は毎回それをやらなくてはならなくなります。しかし、報告とは週1回とか月1回でいいのが理想的です。部下が仕事をさぼっていたり、スキル不足のために毎回報告を求めるのであれば話は別ですが、「ほうれんそう」を頻繁に求めるのは間違いだと思います。「ほうれんそう」はないのが理想であって、部下がある程度のレベルに達していてもまだ「ほうれんそう」を求めているのなら、それは組織のレベルが低いことにほかなりません。たとえば、課長が部長に毎日「ほうれんそう」をしているとしたら、これは組織の体をなしていないと思います。
 

(1) しゃべる上司、しゃべらない上司

 『坂の上の雲』の中で、しゃべらない上司の典型例が東郷平八郎です。参謀となる秋山真之と初対面で、「このたびはあなたの力に負うところが大である」と言いましたが、あとはしゃべらない。しゃべらないのは基本的にはよくないことですが、この場合は秋山真之のほうが東郷に対して、「この人は大した人だ。この人の下なら存分に仕事ができそうだ」と感じたので二人の名コンビが生まれました。「見込んだら、すべて任す」のも理想的な状態です。この辺は押さえたから、あとは任せたよと言うことができるのです。大きな目的を共有しないと、細かいところが気になるから、むしろいろいろと細かい指示が入ってしまうことになります。
 
 反対によくしゃべる上司の例として、ロシアの海軍中将マカロフの話があります。旅順艦隊がどこにも出撃せずにただ守っているだけという非常に辛い状態の中、マカロフが着任したら水兵の士気がいっぺんに上がったといいます。それは、マカロフが末端の水兵に至るまで「なぜここで守らなくてはならないか」「今は拮抗しているが、バルチック艦隊が来れば戦力比が2対1になるので、来るまでここを保全していれば絶対に勝てる」と言い聞かせていたからです。もっとも守っているだけではどうにもならないので、時々は港外に打って出ました。それがもとで日本軍の撒いた機雷に触れてマカロフは戦死してしまうのですが、水兵の末端にまで、目的を徹底周知させて統率していたのは、当時のロシアの階級社会では極めて珍しい例であると言えるでしょう。一方、後に日本海海戦で東郷と直接対決することになるバルチック艦隊のロジェストウェンスキーは逆に何も教えなかったそうです。途中で第二艦隊の艦隊長が亡くなったことすら全艦隊に知らせなかったのです。『坂の上の雲』でマカロフとロジェストウェンスキーはまったく対照的に描かれています。ロジェストウェンスキーは階級社会の申し子のように描かれ、バルチック艦隊の派遣で日露の戦力比がどうなるかなどは兵士には余計なことで、お前たちは毎日武器の手入れさえしていればいいんだと言うわけです。問題ないと言えば問題ないのですが、それだけではすまないのが人間です。一方、マカロフの例は、色々な人が集まっている中で、「今度のプロジェクトの目的は○○である」としっかり宣言するプロジェクトマネジャーのお手本のような人物です。
 

(2) 背景を物語にする

 あらゆる関係者と課題を共有するためには、どのような行動をとればよいのでしょうか。ある人から何かを頼まれたとします。たとえば、上司から「オフィスを引っ越すので、音頭取りを頼むよ」と言われたら、「なぜ引っ越すのか」についてストーリー(物語)を作ってみましょう。よくアメリカでは「ストーリー・テリング」などと言われますが、自分で語って(テリングして)みるとよいのです。単に荷物をまとめて滞りなく引っ越しが終われば、それでよしとするのか、あるいは背景にあるニーズを発掘して関係者の共感を得るようにするところまでやるのか。
 
 速読ができる人は自分なりに頭の中でストーリーを作って読んでいるようです。文字を読まずに頭の中にイメージを作っているのです。そこにストーリーがないと辻つまが合わなかったり、バリューを考えたりすることができません。まずストーリーを作る。次に関係者それぞれにとっての意義や価値を作る。頼んだ人にとっての意義や価値が重要となる。次に、そのストーリーの展開、実行にあたっては、得意な人を見つけるのが必要となる。なんでもかんでも自分でやることは無理です。重要なのは自分一人でやることではなく、結果が出ることなのであって、必要なものは何でも使うという発想が重要です。
 

(3) 説得は必要ない

 説得とは、その名のとおり「得」になることを「説く」ことです。説得する相手が自分の得になることを理解できていないから、「説得」しなくてはならないのです。説得すること自体が必要になるのは、その内容が理解できていないか、あるいは関係者(ステークホルダー)の利害が大きく対立しているかのどちらかです。たとえば、家庭で大型液晶テレビを買うことを考えてみましょう。家族全員の同意が必要となるのですが、みんなで課題を共有できれば説得する必要はなくなるのです。説得の達人と言われる人は、実は不要なことをたくさんやっているのかもしれません。本来は説得する必要があること自体がおかしいのです。関係者全員がストーリーを納得すれば、もうそれで改めて説得する必要はなくなるでしょう。ストーリーを共有することの重要性がご理解いただけると思います。
 
 次回は、課題の共有から解説を続けます。
 
【出典】
 津曲公二 著「坂の上の雲」に学ぶ、勝てるマネジメント  総合法令出版株式会社発行
 筆者のご承諾により、抜粋を連載。
  

この記事の著者

津曲 公二

技術者やスタッフが活き活きと輝きながら活動できる環境作りに貢献します。

新マネジメント技法を使って、日本のモノづくりを支援します。 チームの行なう業務の開始から完了までを、プロジェクト目標、スケジュール、実行コントロールなど6つのモジュールにまとめ、プロジェクト目標の明確化、見える化、共有化を実現します。 …

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