仕組み見直しとグローバル化(その2)

更新日

投稿日

◆「気づき」能力向上のカギは製品開発経験の活用

 
 前回のその1に続いて解説します。「気づき」能力は、擦り合わせ型開発を行う上で技術者が備えるべき基本的な能力であると述べましたが、基本的な能力だからこそ、その能力開発は難しいといえます。関連する様々な人材育成プログラムもあるようですが、効果的な育成のためには、実際の製品開発経験に関連づける必要があります。そこで今回は、間接的な方法になりますが、開発における技術者個人の振る舞いを技術者自身にフィードバックすることにより、自分の振る舞いの良し悪しを気づかせる事例を紹介します。
 
           R&D
                          図17.プロジェクトのリーダー1年間の開発工程別工数比率
 
 図17 はある製品開発プロジェクトのリーダー(設計部門)3人について、1年(この製品の開発期間は約1年です)の間に、どのような開発作業を行っていたのかを、開発工程ごとの工数比率で表したものです。わかりやすいように開発工程の大分類ごとに色分けしています。同じ色の中にいくつかに分かれて表示されているのが詳細分類ですが、今回は無視してください。

 リーダーの下には 5 ~ 10 人程度のメンバーがついており、リーダーはメンバー(担当者)に仕事を割り振り、メンバーの仕事をレビュー、フォローすることを優先するようにといわれています。したがって、リーダーは青色の点線で囲んでいる「企画」「システム設計」「プロジェクト管理」が主業務となるはずです。担当者は「製作」と「評価」が主業務になり、橙色の点線で囲んでいます。「設計」「不具合対応」は、リーダーと担当者が適宜協力して実施するので点線で囲んでいません。

 まず、同じプロジェクトの同じリーダー(ブロックリーダー)であるにもかかわらず、それぞれの時間の使い方が大きく違うことに驚くのではないでしょうか。何となくわかっているものの、このように定量的に見せられると認識も変わると思います。

 このような個人のばらつきは特別なことではなく、多くの設計部門で同じ傾向を示します。さらに、リーダーに期待されている業務(青色の点線)について注目すると、リーダー B は青色の業務が全体の約 90 % を占めていますが、リーダー A は 35 % 程度です。反対に、担当者業務(橙色の点線)にリーダー A は 50 % 以上の時間を費やしています。リーダー B が担当者業務に費やしている時間は 10 % 以下です。

 単純な分析ですが、1年というような長いスパンで自分の行動を評価するのにハロー効果の影響を排除するのは難しく、最近やっていた業務や精神的に大変だった業務に時間を使っていたと考えがちです。したがって、客観的なデータ...

◆「気づき」能力向上のカギは製品開発経験の活用

 
 前回のその1に続いて解説します。「気づき」能力は、擦り合わせ型開発を行う上で技術者が備えるべき基本的な能力であると述べましたが、基本的な能力だからこそ、その能力開発は難しいといえます。関連する様々な人材育成プログラムもあるようですが、効果的な育成のためには、実際の製品開発経験に関連づける必要があります。そこで今回は、間接的な方法になりますが、開発における技術者個人の振る舞いを技術者自身にフィードバックすることにより、自分の振る舞いの良し悪しを気づかせる事例を紹介します。
 
           R&D
                          図17.プロジェクトのリーダー1年間の開発工程別工数比率
 
 図17 はある製品開発プロジェクトのリーダー(設計部門)3人について、1年(この製品の開発期間は約1年です)の間に、どのような開発作業を行っていたのかを、開発工程ごとの工数比率で表したものです。わかりやすいように開発工程の大分類ごとに色分けしています。同じ色の中にいくつかに分かれて表示されているのが詳細分類ですが、今回は無視してください。

 リーダーの下には 5 ~ 10 人程度のメンバーがついており、リーダーはメンバー(担当者)に仕事を割り振り、メンバーの仕事をレビュー、フォローすることを優先するようにといわれています。したがって、リーダーは青色の点線で囲んでいる「企画」「システム設計」「プロジェクト管理」が主業務となるはずです。担当者は「製作」と「評価」が主業務になり、橙色の点線で囲んでいます。「設計」「不具合対応」は、リーダーと担当者が適宜協力して実施するので点線で囲んでいません。

 まず、同じプロジェクトの同じリーダー(ブロックリーダー)であるにもかかわらず、それぞれの時間の使い方が大きく違うことに驚くのではないでしょうか。何となくわかっているものの、このように定量的に見せられると認識も変わると思います。

 このような個人のばらつきは特別なことではなく、多くの設計部門で同じ傾向を示します。さらに、リーダーに期待されている業務(青色の点線)について注目すると、リーダー B は青色の業務が全体の約 90 % を占めていますが、リーダー A は 35 % 程度です。反対に、担当者業務(橙色の点線)にリーダー A は 50 % 以上の時間を費やしています。リーダー B が担当者業務に費やしている時間は 10 % 以下です。

 単純な分析ですが、1年というような長いスパンで自分の行動を評価するのにハロー効果の影響を排除するのは難しく、最近やっていた業務や精神的に大変だった業務に時間を使っていたと考えがちです。したがって、客観的なデータを提供することは自分行動を振り返るための非常によい機会を与えることになりますし、それによって、自分の振る舞いに対する気づきを促すことにつながると考えます。

 次回、その3も引き続きこのテーマの解説を進めます。

   続きを読むには・・・


この記事の著者

石橋 良造

組織のしくみと個人の意識を同時に改革・改善することで、パフォーマンス・エクセレンスを追求し、実現する開発組織に変えます!

組織のしくみと個人の意識を同時に改革・改善することで、パフォーマンス・エクセレンスを追求し、実現する開発組織に変えます!


「技術マネジメント総合」の他のキーワード解説記事

もっと見る
クレーム率シングルppmをゼロに(2) 【快年童子の豆鉄砲】(その57)

  1.「連関図法」による不具合発生体質の把握 1)スタッフワークレベルの連関図法の使い方 採取した言語データ91を連関図法で解析する...

  1.「連関図法」による不具合発生体質の把握 1)スタッフワークレベルの連関図法の使い方 採取した言語データ91を連関図法で解析する...


重要性と変遷 オープンイノベーションとは(その1)

            【オープンイノベーションとは 連載目次】 1. オー...

            【オープンイノベーションとは 連載目次】 1. オー...


聴覚その有用性 普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その158)

      前回から、五感の最後の感覚である聴覚について解説しています。今回も引き続きこの聴覚について考えてみたいと思います。 ...

      前回から、五感の最後の感覚である聴覚について解説しています。今回も引き続きこの聴覚について考えてみたいと思います。 ...


「技術マネジメント総合」の活用事例

もっと見る
技術者の創造性とモチベーションを引き出すマネジメントとは

◆ 技術者の創造性とモチベーションを引き出すマネジメントとは 失われた20年の間に日本はグローバルな競争力を著しく低下させてしまいました.日本の賃金...

◆ 技術者の創造性とモチベーションを引き出すマネジメントとは 失われた20年の間に日本はグローバルな競争力を著しく低下させてしまいました.日本の賃金...


システム設計4 プロジェクト管理の仕組み (その36)

 前回はシステム設計を、開発工程上はシステムエンジニアリングと、ハードやソフトなどのサブシステムのエンジニアリングの両方と定義しました。ここで、システムエ...

 前回はシステム設計を、開発工程上はシステムエンジニアリングと、ハードやソフトなどのサブシステムのエンジニアリングの両方と定義しました。ここで、システムエ...


プリウスの開発事例から学ぶ画期的挑戦

トヨタ・プリウスが1997年に世界初の量産ハイブリッド車として市場に出た時は大きな衝撃を社会にもたらしました。2009年に20万8876台を売り上げ、...

トヨタ・プリウスが1997年に世界初の量産ハイブリッド車として市場に出た時は大きな衝撃を社会にもたらしました。2009年に20万8876台を売り上げ、...