「『自分は大丈夫だ』と思うこと」と「わかりやすい文書を書くこと」との関係

 「『自分は大丈夫だ』と思うこと」と「わかりやすい文書を書くこと」には関係があります。そこで、“一方的な思い込み”という切り口でこの関係を解説します。
 

1. 振り込め詐欺事件

 数年前、私の叔母が、振り込め詐欺の被害に遭いそうになりました。
 
 振り込め詐欺のグループからの電話を信じた叔母は、現金を持って受け渡し場所までタクシーで行き、その場所で受け子に現金を渡してしまいました。しかし、タクシーの運転手と受け渡し場所の近くに偶然にいた警察官の助けがあり、受け子が逮捕されるとともに現金も戻ってきました。
 
 その事件があったあと叔母が私に話してくれたことが印象に残っています。
 
 「振り込め詐欺のニュースを見るたびに、『自分は大丈夫だ。振り込め詐欺の被害などに絶対に遭わない』と思っていた」
 
 「でも、孫の名前を名乗った犯人から、『女性問題で金が必要になった。どうしても今すぐにお金が必要だ』と聞いた瞬間に頭が真っ白になってしまった。今になってみれば孫の声と違ったように思うが、あの時はパニック状態に陥り、孫の声かどうかの判断ができなかった」
 
  
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 「もしかしたら、振り込め詐欺かもしれないとも一瞬思った。でも、『もし電話の話が本当だったらどうしようか』と思ってしまった。『孫を助けたい』との気持ちが強かったのだろう。また、そのとき、自分のそばに誰かいたらこの電話のことを相談していたと思う。しかし、電話があったとき自分のそばに誰もいなかったので現金を渡すことを自分で判断してしまった」
 
 これらの叔母の話からわかることは「自分は大丈夫だ」と思っていても、振り込め詐欺からの電話で一瞬にして判断能力を失いそのグループに現金を渡してしまうことがあるということです。
 

2. 運転免許証の返納

 私の友人のお父さんは85歳を過ぎても車を運転していました。家族が心配して「運転免許証を返納した方がよい」と言っていましたが、「自分は大丈夫だ。事故など絶対に起こさない」と言い張り運転免許証を返納しませんでした。
 
 しかし、友人のお父さんは、T字路で他の車との接触事故を起こしました。友人のお父さんの判断ミスが事故の原因でした。幸い、けが人はなく、両方の車が少し傷ついた程度の事故でした。
 
 このような事故を起こしたため友人のお父さんは運転免許証を返納したそうです。「自分は大丈夫だ」と思っていましたが、運転能力や判断能力の低下を実感したそうです。
 

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3. 一方的な思い込み

 「自分は大丈夫だ」と思っていても、これらの2つの出来事では、どちらの場合も「自分は大丈夫だ」は成立しませんでした。私の叔母や友人のお父さんは「自分は大丈夫だ」と思っていましたが、実は、「自分は大丈夫だ」は、「私の叔母や友人のお父さんの一方的な思い込み」だったからです。
 
 
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 この「一方的な思い込み」は文書を書く場合にもあります。すなわち、文書を書く場合にも「書き手の一方的な思い込みがある」ということです。
 
 例えば、以下のようなことを考えながら業務報告書を書く人はほとんどいないと思います。
 
“この書き方で読み手に内容が明確に伝わるか?”
“この書き方で読み手は内容が理解できるか?”
 
 ほとんどの人がこれらのことを考えないで業務報告書を書いていると思います。なぜならば、業務報告書を書く人(書き手)は、以下のことが当たり前だと思って業務報告書を書いているからです。
 
 “読み手は、私が書いた業務報告書を理解できるだろう(理解しているだろう)”
 
 「理解できるだろう(理解しているだろう)」と思うことは、まさに、書き手の一方的な思い込みです。このような書き手の一方的な思い込みで文書を書くと、「結局、ここでは何が言いたいのだろう?」などと言われてしまうことがあります。書き手の一方的な思い込みによってわかりにくい文書を書いてしまうからです。
 
 このような「書き手の一方的な思い込み」は、私の叔母や友人のお父さんのように、「自分は大丈夫だ」と一方的に思うことと共通した心理です。
 
 「書き手と読み手の違いを認識して、読み手の立場に立って文書を書くこと」を認識するとともに、以下のことを認識することでわかりやすい文書を書くことができます。
 
 “「読み手は、私が書いた文書を理解できるだろう(理解しているだろう)」という書き手の一方的な思い込みを捨てること”
 
 すなわち、「この書き方で読み手に内容が明確に伝わるか?」、「この書き方で読み手は内容が理解できるか?」と常に考えて文書を書いてください。
 

この記事の著者

森谷 仁

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