ものづくり原価低減の進め方(その3)

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 前回のその2に続いて解説します。トヨタ生産方式を導入して、利益を上げたいと思っている中小企業の経営者は多いと思いますが、人材、資金など経営資源に限りある中小企業にとって、トヨタ生産方式を導入するには工夫が必要です。利益の出る「原価低減ものづくり改革」の具体的な導入、実施プランを立てる前に最初にトヨタ生産方式の狙いについて、整理して解説します。

【ものづくり原価低減の進め方 連載目次】

 

1.利益を出す

 
 トヨタ生産利益を出すということは、一体どういうことか、利益とは、「売価-原価=利益」で表します。利益を上げるには、売価を上げるか、原価を下げるか、どちらかしか方法はありません。競争の激しい業界では、売価を上げることは、事実上不可能です。売上高を右肩上がりに伸ばすことも現在では難しいでしょう。
 
 従って、原価をできるだけ下げる努力をして利益を確保することが、将来にわたって、その業界で生き残っていく唯一の手段なのです。原価を下げていくには、生産に関わる行為で、お金を生まない(付加価値のない)諸要素、つまり、ありとあらゆる「ムダ」を徹底的に排除していく必要があります。このことから、トヨタでは、日々徹底した無駄の摘出を「カイゼン」活動として行われています。
 
 トヨタでは、7つのムダの内「作り過ぎのムダ」をなくすことが、原価を下げるために、最優先で取り組むべき項目だ、としています。
 

2.改善力ある人づくり

 
 トヨタ生産方式における利益確保(生産性向上)は、このように徹底したムダ取りによって実現されています。そこでトヨタでは、管理者、監督者にカイゼン力をつけさせることを第一に考えており、工場の中で一番カイゼン力のある人が工場長なのです。工場長にカイゼン力が無ければ、部下に指導はできないし、工場の生産性は上がりません。このカイゼン力をどうやってつけるのか、つまり「人づくり」をどうやって行うのかが重要なポイントになります。
 
 トップが、いくら利益を上げるために、「ムダ」の排除を指示したところで、肝心の現場がうまく動かなかったら、途中で挫折してしまいます。「トヨタ生産方式」の導入を途中で挫折してしまう企業が多いのは、まさに、この「人づくり」の仕組みのまずさが原因と考えられます。利益を出すためには、まず人づくりからと言われる所以がここにあるのです。
 

3.トップダウンの活動

 
 トヨタ生産方式導入の準備ステップとして、経営者の強いリーダシップのもとに社内改善組織(プロジェクト組織)の立ち上げて、社内改善を進めるための各制度を充実することです。つまり、これから導入しようとする「トヨタ生産方式」は、トップが強い決意を持って行うトップダウンの改善活動なのです。ボトムアップだけでは、高いカイゼン効果は望めないのです。社長は、最初にトップダウンで方向性を示し、それに従って現場のカイゼン力(ボトムアップ活動)によって進めていきます。
 

4.目標管理

 
 この活動は、単なる在庫削減や、カンバンの導入と言った「個別技術」の導入が目的ではありません。あくまでも、利益を出すためにはどうするか、具体的な「生産性」の数値目標を掲げて、期限を設け、その目標に向かって、科学的に、現場の作業改善を主体に、PDCAを回す活動、つまり「マネジメント」を導入することです。そして、部分的な改善(部分最適)を進めるのではなく、全体最適を考えながら進めていかなければなりません。
 

5.発想の転換

 
 改善を行っていく中で、「トヨタ生産方式」...
 前回のその2に続いて解説します。トヨタ生産方式を導入して、利益を上げたいと思っている中小企業の経営者は多いと思いますが、人材、資金など経営資源に限りある中小企業にとって、トヨタ生産方式を導入するには工夫が必要です。利益の出る「原価低減ものづくり改革」の具体的な導入、実施プランを立てる前に最初にトヨタ生産方式の狙いについて、整理して解説します。

【ものづくり原価低減の進め方 連載目次】

 

1.利益を出す

 
 トヨタ生産利益を出すということは、一体どういうことか、利益とは、「売価-原価=利益」で表します。利益を上げるには、売価を上げるか、原価を下げるか、どちらかしか方法はありません。競争の激しい業界では、売価を上げることは、事実上不可能です。売上高を右肩上がりに伸ばすことも現在では難しいでしょう。
 
 従って、原価をできるだけ下げる努力をして利益を確保することが、将来にわたって、その業界で生き残っていく唯一の手段なのです。原価を下げていくには、生産に関わる行為で、お金を生まない(付加価値のない)諸要素、つまり、ありとあらゆる「ムダ」を徹底的に排除していく必要があります。このことから、トヨタでは、日々徹底した無駄の摘出を「カイゼン」活動として行われています。
 
 トヨタでは、7つのムダの内「作り過ぎのムダ」をなくすことが、原価を下げるために、最優先で取り組むべき項目だ、としています。
 

2.改善力ある人づくり

 
 トヨタ生産方式における利益確保(生産性向上)は、このように徹底したムダ取りによって実現されています。そこでトヨタでは、管理者、監督者にカイゼン力をつけさせることを第一に考えており、工場の中で一番カイゼン力のある人が工場長なのです。工場長にカイゼン力が無ければ、部下に指導はできないし、工場の生産性は上がりません。このカイゼン力をどうやってつけるのか、つまり「人づくり」をどうやって行うのかが重要なポイントになります。
 
 トップが、いくら利益を上げるために、「ムダ」の排除を指示したところで、肝心の現場がうまく動かなかったら、途中で挫折してしまいます。「トヨタ生産方式」の導入を途中で挫折してしまう企業が多いのは、まさに、この「人づくり」の仕組みのまずさが原因と考えられます。利益を出すためには、まず人づくりからと言われる所以がここにあるのです。
 

3.トップダウンの活動

 
 トヨタ生産方式導入の準備ステップとして、経営者の強いリーダシップのもとに社内改善組織(プロジェクト組織)の立ち上げて、社内改善を進めるための各制度を充実することです。つまり、これから導入しようとする「トヨタ生産方式」は、トップが強い決意を持って行うトップダウンの改善活動なのです。ボトムアップだけでは、高いカイゼン効果は望めないのです。社長は、最初にトップダウンで方向性を示し、それに従って現場のカイゼン力(ボトムアップ活動)によって進めていきます。
 

4.目標管理

 
 この活動は、単なる在庫削減や、カンバンの導入と言った「個別技術」の導入が目的ではありません。あくまでも、利益を出すためにはどうするか、具体的な「生産性」の数値目標を掲げて、期限を設け、その目標に向かって、科学的に、現場の作業改善を主体に、PDCAを回す活動、つまり「マネジメント」を導入することです。そして、部分的な改善(部分最適)を進めるのではなく、全体最適を考えながら進めていかなければなりません。
 

5.発想の転換

 
 改善を行っていく中で、「トヨタ生産方式」の考え方では、大きいロットで作るのではなく、ロットをできるだけ小さくする、ラインを一時止めて作りだめをしない、仕掛在庫は持たず、一個流しを行う、など従来の考え方を180度変えなければならないことが起こってきます。この考えに納得できず、現場の管理者、監督者の中には、抵抗する人もいるのです。そこを乗り越えていかなければ、目標を達成することはできません。ですから、準備段階では関係者に十分に、利益の出る「原価低減ものづくり改革」
の思想を理解させる必要があるのです。何事もネックになっている部分から一つ一つ確実に対策していかなければなりません。
 
 次回は、トヨタ生産方式を導入する上で最も基本となる項目について、Q&A形式で解説します。
 
 

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この記事の著者

濱田 金男

製造業に従事して50年、新製品開発設計から製造技術、品質管理、海外生産まで、あらゆる業務に従事した経験を基に、現場目線で業務改革・経営改革・意識改革支援に取り組んでいます。

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