人的資源マネジメント:形骸化している目標管理(その2)

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【形骸化している目標管理 連載目次】

 
 「方針管理」「目標管理」は、多くの開発現場で重要視しているにもかかわらず、形骸化されうまく機能していないことがあります。そこで今回は良く使われるKPIなどのキーワード解説も含めて、目標管理の仕組みについて考えます。前回のその1に続いて解説します。
 

2. KPI による実践的マネジメント

 
 それでは、実際にKPIを使ってどのようなマネジメントを行うのかを解説しましょう。指標間のロジックを明確にすることが適切な運用の大前提です。
 
 ある事業所のトップが、生産におけるリードタイム(以下、LT)短縮が最優先課題であり、同時に間接費用削減も進める必要があると判断し、LT 30% 削減、間接工数 30% 削減を経営目標に設定したとしましょう。この場合、この2つの指標が KGI となります。そして、LTと間接工数に影響している事柄を調査、分析した結果、次のようなことがわかりました。
 
・顧客の納期要求に答えるために、先行手配、先行生産を行っているのだが、実績とのギャップがあり仕掛かり在庫となって滞留している。
・保守のため加工機が停止している時間が必要というが、停止時間の実態は把握できず妥当性も判断できない。
・多くの工程で欠品があって作業を開始できないという声が上がっているが、その実態や影響は把握できていない。
・トラブル発生時の作業分析や工数分析は行っているが、通常作業の総合的な分析は行っていないため、適切な人員配置かどうかを判断できない。
 
 このように、LTと間接工数に関係がありそうな要因がわかったので、それを指標化します。これが KPI(正しくはKPI候補)となります。この場合であれば、生産予実差、直間工数比率、欠品率、装置停止時間などが考えられます。
 
 最初の段階で目標(KGI)に関係する主要要因(CSF)を明確にするのは難しいため、このように、まずはKPI候補をリストアップして実際にデータをとり、その上で適切なKPIを選別するのが現実的です。
 
人的資源マネジメント図160. 指標間の関係の明確化
 
 次にやることは、KPIを算出するために必要となるデータや、KPIの値を左右する要因のリストアップです。たとえば、直間工数比率を算出するには、各生産工程における作業を直接作業と間接作業に分類した上で、それぞれの作業時間が必要になります。装置停止時間であれば詳細な稼働記録が必要になります。これらは、生産工程や装置によってデータが違う可能性があるので、個別に特定する必要があります。
 
 また、欠品率は生産工程によって違いがあるのはもちろんですが、部品(品種)や製品によっても違う傾向がある可能性がありますし、先行手配のやり方にも影響を受けます。このように、影響を及ぼす可能性がある要因(データ)も洗い出します。
 
 KPIを算出するために必要な要因(データ)や影響を及ぼす要因(データ)をドライバーとよびます。KPIの実践で重要なのは、KGI, KPI,ドライバーの相互の関係を明確にするということです。これが、KPI実践のポイントである指標間のロジックを明確にするということです。目標管理を形骸化させないためめの大前提は、指標間のロジックが明確で、関係者で共有できていることなのです。
 

3. KPIによるマネジメントの実際

 
 それでは前述の例を使って、KPI を使ってどのようなマネジメントを行うのかを紹介したいと思います。KGIは LT30%削減ですから、まずは LTがどうなっているのかを把握できるようになっている必要があります。
 
人的資源マネジメント図161. 製番ごとの各生産工程の作業完了日
 
 これはある生産ラインで、製番ごとに実際に各生産工程が完了した日をプロットしたものです。この生産ラインは多品種少量生産であるもの、生産開始から出荷までの LTは3週間として計画されています。計画通りであれば、それぞれの完了日は平行線上になるはずですが、実際にはかなりばらついています。Aのように最初の工程の作業完了が遅れてしまったことで、その後のすべての工程が通常よりもかなり短期間で作業することになっていたり、Bのように計画よりも早く生産開始しているにもかかわらず出荷は計画よりも遅くなっており余分な滞留を生じたりしていることがわかります。
 
 さらにこれらのバラツキの原因のひとつは機械加工の着手遅れや納期遅れであることがわかります。機械加工は複数台の加工機を使った部品製作工程であり、LTに影響する要因には、加工機の稼働状況、材料欠品、品番(部品種)、内外製などがあります。さらにこの現場では、短納期要求に答えてユニット組立などの後工程に間に合わせるために先行生産を行っていることも LTに影響する要因となっています。これらの要因を指標化したものが機械加工における KPI候補となるわけですが、現場ヒアリングにより影響が大きなものは加工機の稼働率と部品の在庫時間であり、これらを KPIとしました。
 
 故障やトラブルにより加工機が止まることはもっとも LTへの影響が大きいため、加工機の稼働率は KPIとして外せません。また、先行生産の予測が外れると、先行生産のために本当に必要な部品加工が後回しになるだけでなく、加工した部品はすぐには使われることなく倉庫に保管されたままになり倉庫の稼働率(在庫回転率)を下げることになります。つまり、部品の在庫時間は先行生産の影響を把握するための指標であり、KPIに設定しました。
 
人的資源マネジメント図162.加工機の稼働率推移
 
 それでは、機械加工の KPIがどのようになっているのかを紹介しましょう。図は3種類ある加工機の稼働率です。このグラフを見ると、加工機による稼働率の違いがあることに加えて、3種類とも日によって同じようにバラツキがあることがわかります。したがって、LTの KGIを達成するためには、稼働率が低い加工機の原因と、日によるバラツキの原因を解明して対処する必要があります。
 
 このように KPIを把握、分析して必要なアクションをとることが、KPIによるマネジメントの基本です。ちなみに、この場合、3〜4日周期で稼働率が落ちており原因を調査したところ、稼働率を上げるために工具交換なしで加工できる部品を前倒しで加工しており、工具交換が3〜4日ごとになっていることがわかりました。加工機の稼働率を上げるための現場なりの判断なのですが、これが必要部品の完成を遅らせたり、部品在庫を増やして後工程の作業着手に悪影響を与えてしまっているのでした。
 
人的資源マネジメント図163. 機械加工工程における品番ごとの平均在庫時間
 
 機械加工工程の KPIとして、機械加工工程における品番ごとの平均在庫時間を追加しました。図はある月における平均在庫時間ごとの品番の度数分布です。これを見ると、全体の20%の品番が100時間以上200時間未満の在庫時間となっている...

【形骸化している目標管理 連載目次】

 
 「方針管理」「目標管理」は、多くの開発現場で重要視しているにもかかわらず、形骸化されうまく機能していないことがあります。そこで今回は良く使われるKPIなどのキーワード解説も含めて、目標管理の仕組みについて考えます。前回のその1に続いて解説します。
 

2. KPI による実践的マネジメント

 
 それでは、実際にKPIを使ってどのようなマネジメントを行うのかを解説しましょう。指標間のロジックを明確にすることが適切な運用の大前提です。
 
 ある事業所のトップが、生産におけるリードタイム(以下、LT)短縮が最優先課題であり、同時に間接費用削減も進める必要があると判断し、LT 30% 削減、間接工数 30% 削減を経営目標に設定したとしましょう。この場合、この2つの指標が KGI となります。そして、LTと間接工数に影響している事柄を調査、分析した結果、次のようなことがわかりました。
 
・顧客の納期要求に答えるために、先行手配、先行生産を行っているのだが、実績とのギャップがあり仕掛かり在庫となって滞留している。
・保守のため加工機が停止している時間が必要というが、停止時間の実態は把握できず妥当性も判断できない。
・多くの工程で欠品があって作業を開始できないという声が上がっているが、その実態や影響は把握できていない。
・トラブル発生時の作業分析や工数分析は行っているが、通常作業の総合的な分析は行っていないため、適切な人員配置かどうかを判断できない。
 
 このように、LTと間接工数に関係がありそうな要因がわかったので、それを指標化します。これが KPI(正しくはKPI候補)となります。この場合であれば、生産予実差、直間工数比率、欠品率、装置停止時間などが考えられます。
 
 最初の段階で目標(KGI)に関係する主要要因(CSF)を明確にするのは難しいため、このように、まずはKPI候補をリストアップして実際にデータをとり、その上で適切なKPIを選別するのが現実的です。
 
人的資源マネジメント図160. 指標間の関係の明確化
 
 次にやることは、KPIを算出するために必要となるデータや、KPIの値を左右する要因のリストアップです。たとえば、直間工数比率を算出するには、各生産工程における作業を直接作業と間接作業に分類した上で、それぞれの作業時間が必要になります。装置停止時間であれば詳細な稼働記録が必要になります。これらは、生産工程や装置によってデータが違う可能性があるので、個別に特定する必要があります。
 
 また、欠品率は生産工程によって違いがあるのはもちろんですが、部品(品種)や製品によっても違う傾向がある可能性がありますし、先行手配のやり方にも影響を受けます。このように、影響を及ぼす可能性がある要因(データ)も洗い出します。
 
 KPIを算出するために必要な要因(データ)や影響を及ぼす要因(データ)をドライバーとよびます。KPIの実践で重要なのは、KGI, KPI,ドライバーの相互の関係を明確にするということです。これが、KPI実践のポイントである指標間のロジックを明確にするということです。目標管理を形骸化させないためめの大前提は、指標間のロジックが明確で、関係者で共有できていることなのです。
 

3. KPIによるマネジメントの実際

 
 それでは前述の例を使って、KPI を使ってどのようなマネジメントを行うのかを紹介したいと思います。KGIは LT30%削減ですから、まずは LTがどうなっているのかを把握できるようになっている必要があります。
 
人的資源マネジメント図161. 製番ごとの各生産工程の作業完了日
 
 これはある生産ラインで、製番ごとに実際に各生産工程が完了した日をプロットしたものです。この生産ラインは多品種少量生産であるもの、生産開始から出荷までの LTは3週間として計画されています。計画通りであれば、それぞれの完了日は平行線上になるはずですが、実際にはかなりばらついています。Aのように最初の工程の作業完了が遅れてしまったことで、その後のすべての工程が通常よりもかなり短期間で作業することになっていたり、Bのように計画よりも早く生産開始しているにもかかわらず出荷は計画よりも遅くなっており余分な滞留を生じたりしていることがわかります。
 
 さらにこれらのバラツキの原因のひとつは機械加工の着手遅れや納期遅れであることがわかります。機械加工は複数台の加工機を使った部品製作工程であり、LTに影響する要因には、加工機の稼働状況、材料欠品、品番(部品種)、内外製などがあります。さらにこの現場では、短納期要求に答えてユニット組立などの後工程に間に合わせるために先行生産を行っていることも LTに影響する要因となっています。これらの要因を指標化したものが機械加工における KPI候補となるわけですが、現場ヒアリングにより影響が大きなものは加工機の稼働率と部品の在庫時間であり、これらを KPIとしました。
 
 故障やトラブルにより加工機が止まることはもっとも LTへの影響が大きいため、加工機の稼働率は KPIとして外せません。また、先行生産の予測が外れると、先行生産のために本当に必要な部品加工が後回しになるだけでなく、加工した部品はすぐには使われることなく倉庫に保管されたままになり倉庫の稼働率(在庫回転率)を下げることになります。つまり、部品の在庫時間は先行生産の影響を把握するための指標であり、KPIに設定しました。
 
人的資源マネジメント図162.加工機の稼働率推移
 
 それでは、機械加工の KPIがどのようになっているのかを紹介しましょう。図は3種類ある加工機の稼働率です。このグラフを見ると、加工機による稼働率の違いがあることに加えて、3種類とも日によって同じようにバラツキがあることがわかります。したがって、LTの KGIを達成するためには、稼働率が低い加工機の原因と、日によるバラツキの原因を解明して対処する必要があります。
 
 このように KPIを把握、分析して必要なアクションをとることが、KPIによるマネジメントの基本です。ちなみに、この場合、3〜4日周期で稼働率が落ちており原因を調査したところ、稼働率を上げるために工具交換なしで加工できる部品を前倒しで加工しており、工具交換が3〜4日ごとになっていることがわかりました。加工機の稼働率を上げるための現場なりの判断なのですが、これが必要部品の完成を遅らせたり、部品在庫を増やして後工程の作業着手に悪影響を与えてしまっているのでした。
 
人的資源マネジメント図163. 機械加工工程における品番ごとの平均在庫時間
 
 機械加工工程の KPIとして、機械加工工程における品番ごとの平均在庫時間を追加しました。図はある月における平均在庫時間ごとの品番の度数分布です。これを見ると、全体の20%の品番が100時間以上200時間未満の在庫時間となっていることがわかります。4〜8日間保管されているわけです。さらに、500時間(20日)以上保管されている品番は40%以上あり、2000時間(85日)以上のものも5%程度あります。
 
 稼働率を上げるための先行生産なのですが、その予測精度が低いということです。予測精度を上げる仕組みを整備することが本質ですが簡単ではないため、まずは、KPIとして稼働率と在庫時間との両方に注目しながら先行生産をコントロールすることにしました。
 
 このように、KPIは KGIとの関係が明確になっていることと、KPIに影響する要因を洗い出して、制約条件や負の相関にも注意を払う必要があります。そうしないと、KPIとして設定した指標を満足できる値にすることが目的になってしまい、KGIへの影響を考慮しないことになりますし、単純に特定の KPIの数字のつじつま合わせに終始して、現場で起きていることが見えなくなってしまう可能性があります。
 
 少々長くなってしまいましたが、いかがだったでしょうか? KPIという言葉を使っていなくても、どこの組織でも管理指標を決めて目標達成に向けた進捗管理を行っていると思います。ただ、当たり前だからこそ習慣となってしまい、問題の本質を把握し考えることを忘れていたり、現場で起きていることに注視していなかったりしているかもしれません。この機会にぜひ振り返ってみてほしいと思います。
 
  

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この記事の著者

石橋 良造

組織のしくみと個人の意識を同時に改革・改善することで、パフォーマンス・エクセレンスを追求し、実現する開発組織に変えます!

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